リストカット―自傷行為をのりこえる (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
3.36
  • (6)
  • (13)
  • (36)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 161
感想 : 25
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062879125

作品紹介・あらすじ

人はなぜ自らの身体を傷つけようとするのか。近年、社会・学校に蔓延する自傷行為。そのメカニズムと対処法を最新の知見と医療現場の症例をもとに解説。自傷行為に苦しむ人々に回復への道筋を提示する一冊。(講談社現代新書)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ページ数も少ないけど内容もかなりあっさり目。「耐える」ことを対処法に挙げているのは初めて見たかも?。自傷者も含めたそれぞれの責任範囲を明確することは確かに大事であろう。

  • 彼女のほっそりとした前腕には、何十本もの傷がある。それは、彼女の中に棲んでいる右利きの少女と左利きの魔女が互いの利き腕を傷つけ合った結果だ。

    でもそれは彼女が「生きたい」と願う印でもあるということを、改めてこの本を読んで強く思わされた。少女は自分を貶めようとする魔女と戦おうとして、魔女は自分をいつまでも幼く未熟なままでいさせようという少女を消し去ろうとして、互いに傷をつけ合っているのだろう。

    彼女が純粋な他者への適切な依存を学び、十分に節度を持った人間関係を築けるようになった時、少女も魔女も彼女の中のあるべき場所で眠りにつくのだろうと思う。

    彼女は自分のその未熟な状況を、自分がそこから脱したいと思っていることを、うまく言葉にして私たちに伝えることができない。そしてそのことに誰よりも怒り、苛立っていることも。だから少女と魔女が代わりに傷をつける。それが私たちの目に見えるように。

    本書はそんなふうに、実際に自傷行為者に接している人たちが、相手の状況を少しでも理解することを、わかりやすく助けてくれる。もちろんそれが簡単かつ単純なことではないことも、しっかりと記されている。

    まず、相手を理解すること。そのために何が必要か、もう一段次のステップを考えるきっかけになる。とても良い入門書であります。

  • 表題は「リストカット」ですが、中身はリストカット含む自傷行為のみならず、過量服薬や自殺未遂との関係にも触れています。

    巷では自傷行為や過量服薬に及ぶ人を「メンヘラ」と呼んで避ける人がいたりしますが、メンヘラさん達も好きでメンヘラになったわけではないのでな。
    「なぜ」人は自傷行為に及ぶのか、「なぜ」あなたの励ましは逆効果なのか、「なぜ」メンヘラは面倒くさいと蔑まれるのか……さまざまな「なぜ」への解答が本書にはあります。

    ただし10年近く前のデータもあるので現在に活かすためにはさらに最新の精神医学の関連書籍を読む必要があります。

  • リストカットをはじめ自傷行為・自損行為について書かれた本。著者はリストカットは「他者へのアピールが濃い」という立場ですが、3つの症例とも隠れてリストカットをしており、家族にリストカットが発見されたときには今まで隠れて行ってきた数十もの傷があった等など、著者と症例(データ)に明らかに矛盾があると思う。当初の思い込みがあると、データを目にしてもほかの視点が入れないのだなぁという実例を目の当たりにした。

  •  自傷行為について知りたかったのと、南条あやさんについて書いてあるということで読んだ本。
     「リストカット」という題名ではあるが、内容はリストカットだけでなく自傷行為と過量服薬についてであった。自傷行為はそれ自体が問題として現れるというより、過度なストレスや抑うつ感といった問題から逃れるための手段として使われる。そのもととなる問題は一人ひとり異なるため、治療・援助はきわめて難しいと思った。
     リストカットを含む自傷行為は、思春期によく見られる行動である。初めは軽いものであってもどんどんエスカレートし、しまいには取り返しのつかないことになってしまう可能性もある。自傷行為を理解することは、思春期臨床において非常に大切なことだと思った。

  • どうしてこのような行動を取る事になってしまうのか。日々の生活の中で色んな経験から、生きやすい方向へと思考法を獲得して行くものだと思うけれど、何らかの原因でそれが出来ず逆の苦しむ方向へと思考が進み、抜け出せなくなる。

  • 新書だが、悩んでいる渦中の人には決してたやすい記述や分量ではないかもしれない。問題に直面している人は,著者が冒頭に書いているように7~9章のみで十分に役立つ。

    境界性パーソナリティ障害への対応と重なる部分が大きいのは、一つの現象を見る視点が違うからだろう。

    ・死の願望はかならずしみ危険なものと見る必要はない。その行為では自殺未遂の場合よりも自殺の意志が弱い。生きることを確認する試み、生きるための試みという意味が認められる。
    ・援助のスタンスは節度。
    ・援助者は「理想化」を意識すべき。
    ・弁証法的行動療法:患者は状況と戦うのではなく、受け入れる。その状況をもたらした硬直した思考や行動を放棄する。

  • 自傷行為は自傷者のメッセージが含まれる。言語化や適切に表現出来ないため自傷行為を行う。そういうもんかと思うが、そうだとしてもそのメッセージを見出すのは難しいだろうな。近くの人でさえ考えてることの真意なんて分からないから。もちろん気持ちを思いやった方がいいに決まってるが。

    自傷者は自分に相応しい行動が分からなくなって、よく検討せずに行動してしまうことが問題。その根本は病気とか環境とかなのだろう。自傷行為を完全に防ぐことではなく、その根本に当たることで状況が転換することもあるという点になるほど感。自分の行為の重大さを意識させることで抑えられることもあるというのもここか。そもそも自傷者が重大さに気づいていないのか。なるほど。

    脅かしの対応もなるほど感。従っても突っぱねてもダメだろう。自分はあんたが心配だと前提しつつ、自分の行為の責任を相手ではなく自分でとるように説明するとある。この自分の行為の責任は自分でとるって当たり前の自覚だな。自立とか自覚とか、自分で選択するとかここへきて全部関係していることを理解。

  • 何気なく手に取って読み始めたら、どんどん頭に入ってきたので、全部読みました。自傷者・援助者それぞれに向けられた内容や、自傷行為に対する様々なアプローチが紹介されており、非常に読み応えのある1冊でした。対処法は、自傷者一人でできる対処法・援助者と協力して行う対処法・医療機関を利用した対処法の3つに分類できました。自傷行為について理解を深めることのできる1冊だと思います。

  • 精神科医の立場から過去の有名人(ダイアナ妃、マリリン・モンンロー、南条あやなど)を例に、きっかけや回復過程や帰結を分析して、普遍的な部分を抽出して「自傷者」と「自傷者の回復を手伝う身近な人」、それぞれの立場や責任を明らかにして取り組もうという流れ。

    自傷者特有の「あなたが○○してくれないのならまた自傷する」という脅しに対しての「あなた(自傷者)の行動の責任を私(回復を手伝う人)に転嫁する論理はおかしい」という切り返し方はなかなか。

    あと、自傷行為は自傷者にとって「善い」(メリット)が生じているし、それ自体が問題を解消する一つの努力ととらえるという解釈は新鮮。

    メリットが生じているというのはまあ理解できるし、一般的に間違った方向であれ当人になんのメリットもないのなら意図した行為として発生しないわけだし。

    それが治すべきものなのか、主義とまでいかなくても利己主義的な考え方の一種として割り切って、最善ではないけれどというカッコつきの感じで自傷者本人が許容しているのなら周囲も問題とすべきではないのか。
    そういう考え方自体が病的なのか。
    私の中ではなかなか答えが出ない。

全25件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1986年生まれ。東京都江戸川区で生育。日本大学大学院文学研究科博士後期課程中途退学。2015年、博士(文学・日本大学)取得。2013年度から日本大学文理学部助手。共著に『日本のことばシリーズ14 神奈川県のことば』(明治書院、 2015年)がある。

「2017年 『首都圏東部域音調の研究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

林直樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
桜庭 一樹
角田 光代
吉本ばなな
ヴィクトール・E...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×