モーツァルトを「造った」男─ケッヘルと同時代のウィーン (講談社現代新書)
- 講談社 (2011年3月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062880961
作品紹介・あらすじ
クラシックファンならずとも、モーツァルトの全作品にはK.**とかKV**などという番号が振られており、それをケッヘル番号と称することはご存じでしょう(たとえば交響曲第41番『ジュピター』はK.551)。
誰から頼まれたわけでもないのに一作曲家の作品を調べ上げて分類し、番号を振る──。考えてみれば酔狂なことです。ケッヘルとはいったいどのような人物であり、どうしてこんな作業にとりかかったのでしょうか?
ルートヴィヒ・フォン・ケッヘルは1800年にオーストリア、ニーダーエスターライヒ州のシュタインという町で生まれました。彼はウィーンで法律を学び、やがてカール大公(オーストリア皇帝フランツ1世の弟)の4人の子どもたちの家庭教師となり、じゅうぶんな財政的な基盤を確立することができました。
ハプスブルク帝国はナポレオンに完膚なきまでに痛めつけられ、その後も人びとはメッテルニヒ体制の強権政治の下で生きることになります。軍事的に敗北した老大国の矜持はおのずと文化に向かいます。こうして「発見」されたのが、陋巷に窮死したといってもよいはずのモーツァルトだったのです。ザルツブルクに生まれ、ウィーンやプラハで活躍した彼を顕彰することは、オーストリアの文化的優越性を示すことにもなります。
しかし、モーツァルトの未亡人コンスタンツェや少数の友人たちが残された作品を分類はしてはいたものの、楽譜も散逸しており、どれが正真正銘のモーツァルトの作品であるかはハッキリしなくなっていました。
ケッヘルはこつこつとモーツァルトの真作を考証、626作品とし、それを時系列的に配列した作品リストを出版しました(K.626が彼の死によって未完に終わったレクイエム)。これこそがケッヘル目録と言われるものです。1862年のことでした。
なお、のちの研究によって作品の成立時期が見直されたり、作品が新しく発見されたりしています。どんなに批判にさらされようと、後世の私たちはこの人物の実に地味な作業が造り出した枠組みから逃れられることはできないのであり、その意味でケッヘルこそはモーツァルトを「造った」男と言っていいのです。
1877年に死んだケッヘルの人生を通じて大作曲家が「再発見」されていく風変わりなドラマと、ウィーン、ハプスブルク帝国の諸相を描きだします。
感想・レビュー・書評
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史上初のモーツァルト作品目録を完成させたケッヘルという「凡庸」の人を主人公に、ステレオタイプに陥りがちなモーツァルト像、ヨーロッパ近代などを紐解く。【「TRC MARC」の商品解説】
関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40144817詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
誰もが知る著名な作曲家・モーツァルトですが、彼の作品を今日の私たちが楽しむことができるのは、ルートヴィヒ・ケッヘルという人物のおかげかもしれません。
ケッヘルはモーツァルトによる全ての作品を整理・分類し、作品目録を作成した人物です。
モーツァルトの曲には必ず「K」や「KV」という記号が付いていますが、(例えば「きらきら星変奏曲」はK.265)、これをケッヘル番号といいます。
本書は、今は忘れられたケッヘルの功績を、伝記的にひも解く1冊です。
巻末には作品目録もついているので、1曲選んで聞いてみるのも楽しそうですね♪
↓貸出状況確認はこちら↓
https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00173036 -
Mozartに関して以上に、ケッヘルの生きた時代のハプスブルグ帝国などヨーロッパの歴史について書かれてあり非常に意味深い内容であった。生きていくことだけに必死な人間・お金と時間に恵まれ学問研究に人生を送れる人間、いつの時代・国にも共に存在するが平和と豊かさが文化を築いて行く。学校schoolの語源となったギリシャ語のscholeは閑暇を意味している。天文・測量など実用的学問は貧しさを豊かさへ導くが、実用的目的を離れ豊かさを確実なものにする哲学・芸術などはやはり生活の余裕がなければうまれないであろう。現代は「気晴らし」にうつつを抜かし忙しい日程とお金を費やすことに追われ、余計なことと片付けられる実は大切なことをじっくりと考えることを忘れているのではないだろうか。
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彼のこの凡庸がなければ、モーツアルトは....。
天才として、残っていたか?
凡庸な自分が励まされているような気がした。