聖ヨハネ病院にて・大懺悔 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 101
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901048

作品紹介・あらすじ

文学への純粋な情熱を胸底に七十八年の生涯を私小説一筋に生きた上林暁。脳溢血で半身不随、言語障害を患った晩年も、左手と口述で一字一句、彫心鏤骨の作品を生みつづけた。川端康成に賞賛された出世作「薔薇盗人」、心を病む妻を看取った痛切な体験を曇りない目で描く「聖ヨハネ病院にて」、生と死のあわいを辿る幻想譚「白い屋形船」(読売文学賞)等、人生の苦悩の底から清冽な魂の言葉を響かせる珠玉短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 私小説と創作両方混ざっているので、区別が付きづらい。
    病床の人が多く出て来るので明るい話ばかりではない。
    描写が細やかでその場の風景が想像しやすい。
    「野」「白い屋形船」川端康成との交流を書いた「上野桜木町」が良い。

  • 三浦哲郎が太宰、井伏の次に読んだのが上林暁「聖ヨハネ病院にて」。
    一作目、「薔薇盗人」。
    冒頭一文目で掴まれた。この一文が私にとってはじめての上林暁の文章であったが、この作家は好きだとおもった。以下に。

    校門際のたった一株の痩せた薔薇--然もたった一輪咲いた紅い薔薇の花が、一夜のうちに盗まれてしまった。

    この文章から滲む物語の兆しにとても高揚させられた。

    つづいて。
    「美人画幻想」。「薔薇盗人」からこの作品までの5作を一文一文噛み締めることができず読んでいた。初めての作家だから慣れるまで仕方がないとはいえ、もどかしさを覚えつつ読み進めているときにこの作品のある文章のところで目を瞠ることになる。
    小父が70過ぎて女狂いになったことへの主人公の評言である。

    私はこの話を聞いたとき、人間の生涯の計り難さに怖気を振るった。

    こう小父への気持ちが文章でつづくのであるが、この作品のここまできて「私」のモラルを初めて見た気がして、なんとも意外だった。他の作品も含めここまで読んだ印象だと、70すぎの女狂いに対して面白がるか、賞賛するか、無関心かとおもっていたのである。意外ではあったのだけど、的外れというよりはぐっとひきこまれた。

    「上野桜木町」
    編集者時代の川端康成との思い出。とても可笑しく読めた。川端康成は読まなきゃとおもいつつ、古都で挫折していたのであるが、川端康成の人間的な面白さを上林暁のおかげで知ることができた。新感覚派の(本作で知ったが、川端康成は新感覚派というものらしい)作品は芸術的要素がおおいため、人間らしさを感じずあまり好きになれないと思っていたが川端がこんなに可笑しい人であると知った今、その文章を改めて味わいたくなっている。随筆でも読もうかしらとおもった。
    誰かを描くときに、こんなふうに読者がその人に興味や好感を持って終われるような文章は間違いなく良い作品である。

  • 単なる私小説作家ではありませんでした。ご自分の身近な人たちを題材にしながらもそこに人間の普遍性を冷静に分析しています。

    この短編集には
    「聖ヨハネ病院にて」 「大懺悔」 「薔薇盗人」 「野」 「姫鏡台」 「柳の葉よりも小さな町」 「美人画幻想」 「白い屋形船」 「上野桜木町」 「ブロンズの首」

    みんないい文章なのですが、その中でも「上野桜木町」は印象的。
    自殺した川端康成との交流を追想しているのですが、はじめは編集者としてお付き合いし、原稿取りに苦戦し、後に自身も作家となって敬愛する先輩となります。ノーベル賞作家となった川端康成の人間味のある姿が生き生きと描かれています。

  • 2018/2/16購入

  • 前半は貧乏や病気がテーマのド私小説。その手のテーマについてはやせ我慢した書き方のほうが好みなので、読んでいてあまり楽しくない。「私」が状況にあまりに正面から向き合ってしまっていて、お人よしすぎてつらい。

    最後の3編は良い。特に「白い屋形船」は、脳溢血で倒れて混濁した意識から生まれた幻想が独特で、読み応えがある。

    「上野桜木町」と「ブロンズの首」は、それぞれ長い付き合いのあった川端康成と久保孝雄との交流が、温かく懐かしく書かれている。

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