- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062919234
作品紹介・あらすじ
窮乏する農村と「モダン」な帝都という二重構造のなか、指導層と大衆は何を希求したか。「満蒙権益」を正当化し、日中戦争を「聖戦」とした陸軍中堅層、革新官僚、経済テクノクラートたちの論理と野望。挙国一致内閣、翼賛体制に至る「非常時」の政治・イデオロギー抗争…。帝国日本と日本人にとっての"戦争"とは。昭和戦前期の「歴史」を問い直す。
感想・レビュー・書評
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ファシズムについていろいろな本を読んでいるところ。
ナチズムには、掘っても掘っても分からない深さ、底知れない恐怖がある。一方、日本のファシズムは、掘っても、掘ってもなにもない、ある意味、玉ねぎの皮むき的な浅さがあって、これがまた違う意味で怖い。
これは、全体主義ではない。ファシズムでもないかも?という気すらしてくるバラバラな状態。
それぞれの組織が自分の主張を繰り返して、なんら合意に達することができない状態。
そうしたなかで、相対的に権力をもっていたと思われるのは、陸軍なのだが、その権力は、国民の人気、センティメントにあっていたからなのだ。たとえば、満州事変とか、国民は、溜飲が下がるという感じで、大フィーバーなのだ。つまり、日本は、上からのファシズムであるのだが、国民的支持があるわけで、ポピュリズム的なファシズムでもあるのだ。
なので、政治側がいろいろ陸軍に命令をしても、実行されない。その陸軍も内部では上層部もバラバラだし、上層部と現場もバラバラで現場をおさえることができない。
だれもアメリカと戦争したいわけではない。それを避けようとしてる。にもかかわらず、その時々で、それぞれの人が自分の思う最悪を避けるべく行動したり、問題先送りしているうちに、戦争になってしまう不思議。
アメリカとの開戦の是非を議論するなかで、東條は、なんと「臥薪嘗胆」派で、開戦を避けようとするところから、議論に入ったとのこと。
この辺のバラバラさは、日本のファシズムに関する他の本でも記載してあるところなのだが、この本は、「日本の歴史」シリーズのなかの1冊なので、満州事変の手前、政党政治の終わりごろ、つまり昭和の初めから話しが始まるので、大きな流れがつかみやすい。
また、この本の特徴として、いわゆる政治だけでなくて、当時の言説分析とか、モダニズム的な感性とか、そうした「ソフト」面での記述が充実していて、新しい視点を提供しているところがある。
今の価値観をもって昭和初期の議論をみると「ありえない」ことばかりなのだが、その当時の文脈や言説のなかに位置づけると当時の人にとっては、それが普通だったんだ〜と思えてくる。
その当時のニューノーマルとでもいうべき言説作り、ムードづくりに、モダニズム的なインテリやマルクスの影響を受けた左翼的な人々も積極的に貢献している。
タイトルにあるように、当時の日本は、「帝国」であったのだ。つまり、いわゆる日本本土だけに収まらない外地を支配するアジアの帝国だったのだ。それが、当時の常識なのだ。
そして、日常の生活に入り込んでくる戦争のディスコース。これはまさにフーコーの「生政治」だ。人口や健康状態の管理という「生権力」がかんたんに「死の権力」に転換するというフーコーの主張が、理論上の問題ではなくて、身にしみてくる。
こうしてみると、日本がアメリカとの開戦に踏み進んだのは、なんだか必然であったかのようにも思えてくる。
と同時に、きわめて、微妙な文脈とか、だれがそのときトップだったか、国際情勢の変化とか、いろいろな要素のなかで、「国策」の意思決定を先送りしているうちに、なぜか勝てないことがわかっている戦争に踏み込んでしまったというわけだから、実は日本は、日米戦争に突入しないまま第2次世界大戦期をやり過ごすという可能性もあったわけだ。
そして、こうしたプロセスは、今でも、「あるある」なんだと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/740637 -
「満蒙権益」を正当化し、日中戦争を「聖戦」とえうる論理とは?開戦・敗戦に至る政治抗争のはい家に何があったか?
昭和戦前期の日本を根底から問い直す!」
窮乏する農村と「モダン」な帝都という二重構造のなか、指導層と大衆は何を希求したか。「満蒙権益」を正当化し、二中戦争を「聖戦」とした陸軍中堅層、革新官僚、経済テクノクラートたちの倫理と野望、挙国一致内閣、翼賛体制に至る「非常時」の政治・イデオロギー抗争。。帝国日本と日本人にとっての<戦争>とは。昭和戦前期の「歴史」を問い直す。 -
戦前・戦中の日本の政府・軍部・知識人・国民の各々の実相が詳しく叙述されている。決して読みやすくはないが、近現代史に興味がある人には良書ではないでしょうか。
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この時代を取り扱った他の本に比べると、この本が特に目立って良いようにも思われない
農本主義や北一輝のあたりは多少良い出来 -
「日本の歴史」シリーズの一冊。護憲三派内閣成立から太平洋戦争まで。私的には、「西園寺総明説への誘導」という指摘が、今までの資(史)料を読んで感じていた違和感を言い表してくれてて納得。