献灯使 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.28
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本棚登録 : 1956
感想 : 164
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062937283

作品紹介・あらすじ

大災厄に見舞われ、外来語も自動車もインターネットもなくなり鎖国状態の日本。老人は百歳を過ぎても健康だが子どもは学校に通う体力もない。義郎は身体が弱い曾孫の無名が心配でならない。無名は「献灯使」として日本から旅立つ運命に。
大きな反響を呼んだ表題作のほか、震災後文学の頂点とも言える全5編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 東日本大震災を契機に描かれたデストピア小説。
    現在は作者の描いたような姿にはなっていないが、近づいているように感じる。コロナ禍を経て大きな自然災害がやってくればこんな未来が待っているのではないか。
    献灯使以外の作品も心に残る作品で考えさせられた。
    とんでもない設定の世界観が安部公房を彷彿させた一冊でした。

  • この小説は多和田葉子さんが2013年に放射性物質に汚染されて人の住めなくなった地区(福島県)を車で回った時に見た風景から感じたことを元に書かれた作品です。
    2011年の大災害の数年後に関東近海で太平洋大地震が発生し、東京および関東一帯が津波に直撃されます。
    さらに再稼働した富士山近くの原発へ爆弾を積んだ戦闘機が墜落し関東・東海地方を中心に日本は広範囲に渡り放射能被害に見舞われます。

    「献灯使」はそんな滅びゆく姿に変貌した都市東京の西域で生きる近未来の人達の物語です。
    想像を絶する劣悪な環境で生きていることは伝わってきますが、人間も街の様子もボヤーっとしか語られないので頭の中でうまく映像化できません。
    元気な老人が極端なまでに貧弱で病弱な若者を介護する社会になっており、未来への希望はなく絶望的な生き様しか見えない不気味な世界です。
    生活不適地域として不動産価値が無くなった東京での生活は苦しく、地方への移住も受け入れてもらえず、生き延びる手段は日本から難民として脱出することのみとなる。

    このような話は苦手ですが、直面している問題や、はっきりと見えてきている近未来の問題に正面から立ち向かわない現在の日本を強烈に風刺しており考えさせられる点は多かった。

  • 長編の「献灯使」+短編4作。

    献灯使 評価3
    不気味な近未来を描くディストピア小説。
    読み進めるのがなかなかしんどかった。どうしてこのような世界が生まれたかについては輪郭がぼんやりとしたまま淡々とした描写が続くが、かなりエグい。

    放射能に汚染された国土。安定しない気候。鎖国され、外来語は禁止され、政府は民営化されている。車もインターネットもない。高齢者は死ねなくなり、若輩者はやたら身体が弱い。人間以外の動物は犬と猫以外ほとんどいない。
    極端な世界だが、なぜか笑えない。実際に起こり得るのでは、と不安を感じさせるような不穏さがこの小説にはある。

    なんとかたどり着いた結末に、僕は結構ショックを受けた。

    韋駄天どこまでも 評価5
    漢字が飛び跳ねて暴れまくっている印象の、不思議な読中感。一子と十子の絡みがとてもエロチック。

    不死の島 評価3
    「献灯使」の前章。

    彼岸 評価3
    動物たちのバベル 評価3

    • やまさん
      こんばんは。
      プロフィール欄に、令和元(2019)年11月1日に読み終った本から下記の4項目に分けて文字の大きさを表示しています。なお、レ...
      こんばんは。
      プロフィール欄に、令和元(2019)年11月1日に読み終った本から下記の4項目に分けて文字の大きさを表示しています。なお、レビューの中にも文字の大きさを書くようにしています。
      ① 文字が大きい……大変読みやすい、感謝です。
        若旦那隠密、
      ② 字の大きさは、中……まあまあ読める。
        居酒屋お夏、蘭方医・宇津木新吾、
      ③ 字の大きさは、小……何とか読めるが目が疲れる。
        インカ、引っ越し大名三千里、
      ④ 字が小さくて読めない。
        忍び音、婿殿開眼、シリア、
      2019/11/10
    • たけさん
      やまさん、こんばんは。
      確かに、字の大きさは重要なポイントですね。
      やまさん、こんばんは。
      確かに、字の大きさは重要なポイントですね。
      2019/11/10
  • 大災厄(原発事故)後、鎖国状態の日本。
    老人は健康で子供達は虚弱、介護が必要。主人公の老人は曾孫無名の面倒をみている。無名は献灯使に選ばれたが…救いのない展開が気分を悪くする。

  • 「このところ、ずっと地球の裏側の日本国の未来の夢を見る。試しに、毎日30分微睡むと決めてその間に見たものや会話を起きて2時間かけてメモしていったら、こんな小説になってしまった。」

    という、作者のエッセイを「想像」してしまった。ドイツ在住の作者が書いた、日本の不思議な近未来小説。例えば、こんな一節を読んだからだ。

    「オレンジは沖縄でとれるんでしょ」と一口飲んでから無名が訊く。
    「そうだよ。」
    「沖縄より南でもとれる?」
    義郎は唾を呑んだ。
    「さあ、どうだろうね。知らない。」
    「どうして知らないの?」
    「鎖国しているからだ。」
    「どうして?」
    「どの国も大変な問題を抱えているんで、一つの問題が世界中に広がらないように、それぞれの国がそれぞれの問題を自分の内部で解決することに決まったんだ。前に昭和平成資料館に連れて行ってやったことがあっただろう。部屋が一つづつ鉄の扉で仕切られていて、たとえある部屋が燃えても、隣の部屋は燃えないようになっていただろう。」
    「その方がいいの?」
    「いいかどうかはわからない。でも鎖国していれば、少なくとも、日本の企業が他の国の貧しさを利用して儲ける危険は減るだろう。それから外国の企業が日本の危機を利用して儲ける危険も減ると思う。」
    無名は分かったような、分からなかったような顔をしていた。義郎は自分が鎖国政策に賛成していないことを曾孫にははっきり言わないようにしていた。(53p)

    私は何時か義郎になっていて、いるはずのない曾孫に、何時かこのように微妙に嘘をつくようになっていた「夢」を見たことがあったのでは無いか?という気がして来る。

    ここに出て来る、様々な時々鮮明に浮かび上がる「日本」は、よく考えれば矛盾もたくさんある。こんな鎖国政策、現実に可能とは思えない。でも‥

    こんなお正月番組を見た。2018年の現代の若者が1970年代の小学生の名札に保護者の住所や電話番号まで書いていたの見てを「ウソ!あり得ない!」と驚くのである。個人情報丸わかりで大いに危険だというのだ。えっ?貴方もそう感じるのか?迷子になったら近所の人が送ってくれたり連絡してくれることを期待して、名札には出来るだけ詳しいことを書くのが当たり前じゃないか。そうではないかね。いやはや。あれから30年以上も経ったんだねえ。と私などは思ってしまう。同じようなことが、これからの30年後に起こらないとは、誰も言えない。

    義郎という、我々の世代を代表するような名前のヲトコは、今や百八歳になった時に、無名がいない時に、やっと独り政府に悪態をついたらしい。そんなことも、私は知っている。もしかしたら、予知夢だったのかもしれない。

    2019年1月読了

    追記。この短編集は、全米翻訳文学部門で図書賞を貰ったらしい。読んだ人は同感してくれると確信するけど、この日本語の言葉遊びのような文学が、どのように英語に翻訳出来るのか?これだけは、夢でも想像(創造)できそうにない。

  • 多和田さんの書く『その後』の話。災害後荒廃し鎖国状態の日本。子供達に蔓延する健康被害とそれを支え生き続ける老人達の苦悩と、駄洒落ネーミングや新商売等の笑いの要素とのバランスがいい。おかしくてかなしい話。

  • 多和田さんの描く震災後文学は一味違う。
    大災厄に見舞われた後「鎖国」状態になった日本。
    世界から孤立してしまった島国・日本は外来語もネットも自動車もなくなり、まるで時代が後退してしまったかのよう。
    老人は「死」を奪われ意思に反して生き続けねばならず、一方の若者は病気と死の恐怖に怯え老人に介護してもらう始末。
    長寿社会と少子化が進む現代の日本の未来を予感させる内容に怖くなった。

    「野原でピクニックしたいって、曾孫はいつも言っていたんだよ。そんなささやかな夢さえ叶えてやれないのは、誰のせいだ、何のせいだ、汚染されているんだよ、野の草は」
    自分は死にたくても死ねず、のびのびと元気に長生きさせたい曾孫の死に怯える老人の悲痛な叫びが聴こえてくる。

    多和田さん特有の言葉遊びが沢山出て来てとにかく面白いし、物語の内容も我々の未来を予想するかのようなものでのめり込む。
    今回は漢字を巧みに遣った言葉遊びが多く、これを英訳するのは相当難しいだろう。
    どんな英訳なのか、またアメリカ人がどのような感想を持ったのか、言葉遊びの意味がどこまで伝わったのか、とても興味深い。

  • 「原発事故」後の日本を描いたディストピア小説として、自分が読んだ中では今の所、一番おぞましい……。

    曾祖父は100歳を超えても死ねず、小学生の曾孫、無名の「介護」に勤しむ。
    「介護」としたのは、トーストを食べるだけで口内を血に染めたり、オレンジジュース飲むだけで必死だったり、乳歯がボロボロと欠けていく無名を何とか生かしたいと思うおじいちゃん心を、孫の世話、と軽い言葉で置くのもなんだかな、と思って。

    都心部には最早住む者もなくなり、果ては日本自体が鎖国をし、外来語も変容した日本。
    その中に在って、学校でも、子供たちが怪我のないようゆっくりとじゃれ合う様子や、男女共同トイレなんかを目の当たりにすると、鳥肌が立つ。
    彼らは本当に「人間」なんだろうか。
    こういう問いはタブーだろうけど、自分と重ね合わせることがどうにも出来なくて、気味が悪かった。

    どんな形でも生きてくれさえすれば、というのは、問いになる台詞だと思う。
    原発事故だけでなく、様々な事件や事故に触れて、この台詞は問われ、考えられてきた。

    ただただ、苦しい。

  • 大震災&原発事故後の日本を暗示する、表題作の中編を含む5編。ユーモアや風刺がこめられた言葉遊びと、詩的な表現がすごく独特な世界観。それぞれ独立した話かと思いきや連作のような構成で、最後は人類滅亡の寓話。衝撃という言葉だけでは足りない、手ごわいディストピア小説、人を選ぶ作品だと思った。全米図書賞受賞作ということだが、英語版が一体どんな翻訳になっているのか、とても気になった。

  • 新聞の随筆で文章に魅せられていました作家、この度全米図書賞翻訳文学部門受賞。読みました。

    外来語も自動車もインターネットも携帯電話も無くなり、鎖国状態の未来日本。老人は百歳を超えてなお元気、孫子はひ弱で生きる力が薄い。だから曾祖父がひ孫を育てることに。

    なぜそうなったかは、ぼかされている、そこのところがこの物語は怖い。

    『献灯使』のめぐるような表現にクラクラする雰囲気、これは何かに似ている・・・そうだ、宇野千代『色ざんげ』とか『みれん』の文章。はじめがなくて終わらない。でも、宇野さんのはリアルっぽいが。

    デストピア文学と申しますが、この書き方は昔の物語の運び、例えば源氏物語などのあいまいさに似ているようです。もちろん内容は進化(?)したものです。

    そして、続く短編『不死の島』と『彼岸』『動物たちのバベル』を読み進めると、文章と言い、ストーリー展開と言い、千年後の未来に読んでいるのかもしれない幻想を抱きました。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。小説家、詩人、戯曲家。1982年よりドイツ在住。日本語とドイツ語で作品を発表。91年『かかとを失くして』で「群像新人文学賞」、93年『犬婿入り』で「芥川賞」を受賞する。ドイツでゲーテ・メダルや、日本人初となるクライスト賞を受賞する。主な著書に、『容疑者の夜行列車』『雪の練習生』『献灯使』『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』等がある。

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