インハンド 紐倉博士とまじめな右腕 (アフタヌーンKC)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784063881592

作品紹介・あらすじ

殺人ウイルスの感染拡大、人身売買事件、そして遺伝子診断会社の役員の事故死――。医療事件や扱いが難しい事件を調査する、内閣情報室の健康危機管理部門。アドバイザーを務める義手で天才、変わり者の寄生虫専門家・紐倉 哲が、事件解決のために奔走する!前作『ネメシスの杖』で、圧倒的な読み応えと緻密なミステリ・サスペンス描写が話題を呼んだ朱戸アオ最新作!

感想・レビュー・書評

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  • 変人だが天才の寄生虫博士・紐倉と、正義感が強い元医者・高家が事件に挑む医療ミステリ。感染症・老化・遺伝のテーマからなる3つの事件。医学の知識と哲学性を兼ね備えた読み応えある作品。

    「感染者は人に移したら加害者なのか」「個としての死の意味」「人は生まれ(遺伝子)なのか、育ち(環境)なのか」など視野が広がる一冊だった。個の死ではなく種という大局的な視点で医療や未来が語られるのが興味深い。自分の人生に目が行きがちだったので、この作品が読めてよかったと感じる。

    第1話 ディオニュソスの冠

    致死性の高い新型コロナウイルス・TARSの侵入経路を調べるため、紐倉と内調の牧野が動き出す。感染者の一人は元医者・高家のいとこだった。いとこの死を探るため、TARSを持ち込んだ患者ゼロを探し始めるが─。

    現在の社会問題になっている新型コロナウイルスを予見したような物語に驚かされる。
    「我々が戦うべき相手は感染症だ 感染者は救うべき仲間だろ」
    紐倉のセリフが胸に重くのしかかる。それなのに、感染者を差別したり、未知のウイルスに対して暗中模索する国の対応を批判したり、何かを責めずにはいられない人の弱さをコロナは容赦なくあぶり出す。そして、ウイルスは良い人間も悪い人間も関係なく、人々の命を平等に奪っていく。
    確かに今の犠牲は避けられないかもしれない。でも、紐倉の言う通り、今の研究が子孫たちの健康を支える礎になっていく。死は無駄なんかじゃない。

    第2話 ガニュメデスの杯

    人体売買を追う警察官の拉致事件。その先には不老不死を目指すガニメデ財団の名前があった。財団が隠す不老の鍵となる治療法とは?紐倉と高家は財団への潜入捜査へと乗り出す!

    牧野と高家のサプリや健康食品の論争の結果、「やっぱり適度な運動とバランスの良い食事ですかね」という話になったのが面白かった。
    1話に引き続いて死というキーワードが掘り下げられた物語に。長寿と少子化はトレードオフ。進化は死を必要としているという話は興味深かった。
    「自分の生存ばかり考えている奴はセクシーじゃないだろ」の一言もカッコよかった。

    第3話 モイラの島

    国内最大手の遺伝子診断会社・フューチャージーン。投資会社のキガシマから増資を受け、キガシマからその社長に就任した園川直継。しかし、彼は自宅マンションから飛び降り自殺をした。紐倉の過去も絡むファウンダープロジェクトを調査することになるが─。

    「人間は生まれなのか育ちなのか 遺伝子なのか環境なのか」
    古典的な問いながら、現代社会でも偏見として根付いている問題。鮮やかにこの問いを切り返す紐倉の論理。それに対して、直継の父・務が受け止めた「私は悪い環境だ」という言葉も深い。自身の努力で変えられるもの、変えられないもの。運命は残酷だ。でも、そこで何ができるか自分を信じ続けることしかぼくたちにはできない。最後の演出が粋で素敵だった。

  • 「メネシスの杖」の続編化と思って読み始めるが、私の印象はスピンオフ作品のような印象を持った。メネシスの杖では、主人公が二人、阿里医療事故調査員と紐倉博士の二人。本作、「インハンド」では紐倉博士が主人公となり物語をけん引する。
    どちらも、医療ものミステリーとして楽しめる作品でメネシスは1巻で一つの事件を描く壮大な物語で、インハンドは短編集のような趣。
    どちらの作品にも、最後に参考文献が記載されているので、より詳しく知りたくなったら、紹介されている本から研究の旅に出発できる。

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著者プロフィール

2010年、アフタヌーン四季賞冬のコンテストにて、準入選を受賞。
「アフタヌーン」にて2013年『ネメシスの杖』を、2016年『インハンド 紐倉博士とまじめな右腕』を連載。
医療サスペンスの新たな描き手として注目を集めている。


「2019年 『インハンド プロローグ2 ガニュメデスの杯、他』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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