歪んだ波紋

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065123515

作品紹介・あらすじ

記者は取材中に一度は未知の扉を開けるものだ。

「黒い依頼」 ――誤報と虚報
「共犯者」  ――誤報と時効
「ゼロの影」 ――誤報と沈黙
「Dの微笑」 ――誤報と娯楽
「歪んだ波紋」――誤報と権力

「面白かったからや。ギラギラして、貪欲にネタを欲しがる様がたくましく思えてな。最近おらんやろ。新聞社にそんな人間」

新聞、テレビ、週刊誌、ネットメディア――情報のプリズムは、武器にもなり、人間を狂わす。
そして、「革命」を企む、“わるいやつら”が、いる。

ベストセラー『罪の声』の“社会派”塩田武士が挑む、5つのリアルフィクション。

誤報の後に、真実がある。

感想・レビュー・書評

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  • 大手紙の大日新聞と地方紙の近畿日報に働く記者が物語の担い手の5篇から成る短編連作。
    一見それぞれの話がつながっていない風に進展しているけれど、最終章に集約されて行く緊迫感がなかなかよかった。
    時代の流れに乗れず旧弊なままの体質でジリ貧を余儀なくされていく新聞社の悲哀と焦りに物申す作品かと思えば、けっこうとんでもない世界が潜んでいるラストになっておりました笑
    S N S全盛の現代では顔も名前も不明な輩が無責任に傍若無人に好き勝手に他者を傷つけている怖い現実がたしかに存在する現代ですが、それに対する警鐘を鳴らしつつも更に盛ったストーリーになっている。
    塩田さんを初読みしたあのグリコ森永事件もちゃんと出てきたので得心いたしました笑
    誤報虚報のもたらす悲劇や悲嘆は他人事ではない現代ではありますねえ。そこは以って瞑すべしですね!

  • 「罪の声」以降、何冊かこの作者の本を手に取ったものの、今一つピンと来なかった。
    今回はかなり骨太な内容で、
    次から次へと出てくる人物を頭の中で整理するのに苦労したものの、内容はおもしろかった。

    世間に蔓延る様々な情報。
    そのうちの一体どれだけが真実なんだろう、と
    改めて疑問に思った。そうは言いつつ、自分も日々ネットニュースをチェックし、ほんとかうそかわからない、読む必要があるのかわからない記事に一喜一憂してる人間のひとり。
    “先進国の中で日本人が最も軟派記事を好む”
    という一文にも日本人として恥ずかしさを覚えた。

    限られた自分の時間、しっかり必要と不必要を見極めないとね。
    本を読む時間は必要。
    でもおもしろくない、と感じたら、
    途中でやめる選択も必要かな。

  • 近畿日報と大日新聞という二つの新聞社をめぐる誤報と虚報。その記事を書いた記者や記事により被害を受けた人々、その記事を追う記者たち。
    4つの短編の関係者たちが、最後の一編に関わっていく。地方紙、大手それぞれの新聞社の置かれた立場、フェイクニュースを指南するサイト、ネットニュースに活路を見出そうとする元新聞記者など様々な思惑が交差するが、やはり誤報により被害を受けた人たちが辛い。しかもそれがスクープを求めるが故の根拠のない情報によるのであれば、尚更ひどい話である。
    グリコ森永事件担当から外れた記者の話であったり、福知山線の事故をイメージした事件の話があったりと、現実に話題になったものをネタにしているものも見られる。テレビ番組の話は、ネットニュースなどで話題になったりするネタでもあり、実際の話を意識したものになっている。
    現実にも誤報はあり、訂正されないことも多いかもと思うと、ネットの風聞だけでなく、新聞などのメディアでも十分怖い。小説であり、倫理観やプライドを持った記者を出すことで、バランスもとっている。
    現実にどうなのかと、実際の調査報道についての問題を扱っている本を読みたくなった。

  • 「存在のすべてを」がとてもよかったのでこちらも読んでみた。
    短編集のようでつながっているんだけど、登場人物の多さと難解な言い回しでちょっと難しく感じた。

  • 「誤報」をテーマにした連作短編集。
    昨今、いろいろな情報が溢れている時代。
    フェイクニュースなど、当たり前に耳にするし、情報のスピードだけを重視し、誤字だらけのネットニュース、同じ内容を1日に何度も放送するテレビ…
    その情報、それほど重要なの?
    その情報、ニュースにするほどの内容?
    と、常々疑問に思っていたことが描かれていた作品。
    作品の中に出て来る出来事は、特定はしていないが、この事件を扱っているんだろうな、と思うものがほとんど。
    本来、ちゃんとした報道番組であろう番組でも、「視聴者提供」が多く、緻密な裏取りなどしていないのであろうなぁ、と思うこの頃。
    「新聞記者」などの矜持はどこに行ってしまったのだろう?
    これだけ情報が溢れているのに、本当に知りたいことを知ることが出来ない世の中。こんな世の中だからこそ、こういう本をいろんな人に読んで欲しい。

  •  連作短編中。どの主人公も新聞記者・元記者。全国区の大日新聞と、地方紙の近畿新報。

    ・黒い依頼…近畿新報では、一大プロジェクトチームがあり、デスクと記者でスクープを立て続けに出していた。しかし、それはネット上でのフェイクニュースを利用したものだった。

    ・共犯者…大日を定年退職した相賀。同僚が自殺したと聞き、遺品を整理する。昔の資料でヤミ金にからむ誤報があったことに気づく。

    ・ゼロの影…大日で職場結婚し、退職した美沙。パート先の語学学校で起きた盗撮犯人を数日後こどもの保育園で見かける。あっさり保釈された上、警察からも、新聞からも報道がなかった。犯人の父親が大物弁護士だったのだ。

    ・Dの微笑…近畿のデスク、吾妻。元上司に頼まれ、安大成なる人物を調べようとする。きっかけは深夜の情報バライティー番組だ。しかし、安の放送も、別のタレントセクハラ事件も、番組の放送作家がねつ造したものであった。

    ・歪んだ波紋…元大日で、いまはネットニュース編集長の三反園。安大成のインタビュー記事を独占で報道できて喜ぶ。しかし、それは全くのねつ造であった。これまでの連作に出てきた記者が、既成のマスコミを壊すため、デマを社会に広め、信用を失墜させようと企んでいた様子。

    どれも面白かったー。短編の中で状況がめまぐるしく変わっていくのは、新聞社というスピードが求められる職場が舞台になっているからだろう。連作なので、前の作品の登場人物が関わっていたりする。結局、本人は一度も出てこないが、バブル期の経済界大物安大成がちらちら関係する。どの記者も花形ではないけど、それぞれ誇りを持って働く様子は、「罪の声」でも見られていて、今回はお仕事小説の真面目版としても楽しめる。定年退職した相賀がかっこよかったなー。今でも地道に取材して、真実を追いかける様子が。

  • 面白かった!
    記事の誤報ではなく虚報。
    バラバラの短編集だと思って読み進めると深く絡まっていた。
    簡単にニュースを作れてしまう昨今。私たちは何を信じたらいいのだろう。
    ど素人の私は、ニュースを読んで安易に回れ右をしないこと、同調圧力の一旦を担がないこと…くらいかな。

  • 「罪の声」を書いた作家さんだと、後から気付きました
    普段から疑問に思っていた、報道の誤報に関する小説です

    アメリカドラマ「ニュースルーム」をみたとき、調査報道の難しさを感じ、日本はどうなのかと思っていました

    表現の自由を盾にされることが多いと感じますが、誤報への対応は十分なのだろうかと思うことも多いです
    そこへ切り込んだ話です

    ラストはちょっとどうなのかなと思いましたが、現代的なテーマで共感できる内容も多かったです

  • 2019年9月5日読了。

    「罪の声」の塩田武士の新作。

    「誤報」にまつわる5つの短編だが、その短編がきちんと伏線となり本作に書き下ろした最終話「歪んだ波紋」に帰結する。

    罪の声の印象があると、本作は短編なので「もう少し続きも読みたい」という感があり、星を3つとした。

  • ・何が本当かわからない。ただフェイクをする人の中にはにはある種の信念があることがよくわかった。

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著者プロフィール

1979年、兵庫県生まれ。神戸新聞社在職中の2011年、『盤上のアルファ』でデビュー。2016年『罪の声』で第7回山田風太郎賞を受賞し、“「週刊文春」ミステリーベスト10 2016”国内部門第1位、2017年本屋大賞3位に輝く。2018年には俳優・大泉洋をあてがきした小説『騙し絵の牙』が話題となり、本屋大賞6位と2年連続本屋大賞ランクイン。2019年、『歪んだ波紋』で第40回吉川英治文学新人賞受賞。2020年、21年には『罪の声』『騙し絵の牙』がそれぞれ映画化された。

「2022年 『朱色の化身』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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