- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065138243
作品紹介・あらすじ
「なぜ―僕なんだ?」
「それはね、あなたがひとりぼっちだから」
不幸な交通事故により家族を失った青年・匂坂郁紀。奇跡的に一命を取り止めた彼には、目に映るものすべてが形を変え、醜く歪んでしまう不思議な後遺症だけが残った――
そんな郁紀の世界に突然現れたのは、うつくしい少女。「沙耶」と名乗る彼女の存在は、郁紀の汚穢に塗れた日常を美しい色に染めていく。彼にとって、それはただ一筋の光だった……。
発売から15年、今なお霞むことなく高い評価を受け続けてきた虚淵玄(Nitroplus)原作の伝説的ゲーム作品『沙耶の唄』を、ノベルゲーム界の先駆者・大槻涼樹×不変の担当イラストレーター・中央東口が甦らせた、初のノベライズ作品!
感想・レビュー・書評
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原作は20年前に書かれた、異類婚姻譚です
古典に値する恋愛モノ的位置づけで、タイトルは聞いたことがありますが、詳しい内容は知りませんでした
私が今まで見てきた美少女ヒロインの中で、1番戦闘力が高かったです
こんなに強いヒロインは初めて見ました
道理で格闘ゲームにも出てくるワケでした
昔にしてはよく書けてる程度だろうなと高を括って読み始めて、すごい作品だなと驚きました
交通事故遺児の大学生である主人公の下に現れる美少女と、ひとつ屋根の下で生活していきます
事故の後遺症でゴアな幻覚に支配されてしまった主人公と、それを慰撫するヒロインのやり取りは、幼児退行的であり本能的でした
2人きりの世界で家族になろうと頑張っている様子が伝わってきました
正体不明のヒロイン沙耶の詳細が明らかになるとともに、主人公と沙耶の世界が完成されていってしまいスケールが萎んでいくような印象を受けました
そこから真相を知る丹保女医が、話の風呂敷を広げていくので読み応えがありました
対象する惑星の知的生命体との交流を手掛かりに、繁殖活動を通して侵略する宇宙生命体であることが明かされると、虚淵玄ワールドに暗転するような感動でした
あまりにも端的に沙耶を説明したせいか、沙耶の思慕と興奮が、機械的な繁殖に解釈てぎるようになりました
幼さではなく、模倣し損ねたプログラムというか
例えるなら、美少女のガワを被った、虫の繁殖活動にしか見えなくなった感じです
事故がなければ、主人公と瑶は睦まじく結ばれていたことでしょう
だからこそ沙耶は妬んでいたと思います
瑶と沙耶を並べてしまえば、本質にある女性性は似ています
主人公に依存している乙女です
瑶が先に選ばれていれば、沙耶の唄は完成しなかったでしょう
瑶に向けて、沙耶に捧げられていた熱量の愛が注がれていたでしょうから
だからこそ耕司のがラストで沙耶を異物としか見ていなかったんだと思いました
主人公の交友関係を蹂躙する展開は、後半のガンアクションに重力持たせています
尊厳なき死を遂げていく学友の姿が、主人公と耕司の決闘に説得力を持たせます
納得のある憎悪が作り上げられていくので、アクションシーンに体温が宿っていく感じがしました
種族の隔たりを超えて家族になろうとする異類婚姻譚の美しさは確かにあり、後半を読み進めていると、気づけば沙耶が肉塊である消退を忘れていてしまいました
虚淵玄の書きたいものがちゃんと伝わってくるというか、書きたいものを掴んでいる感じがしました
世界を巻き込む大恋愛でしたが、2人だけの関係性はとても美しいものだと思いました
ターゲット層になっていそうな結婚適齢期の成人男性からすれば、沙耶のようなニコイチなパートナーは夢物語に映りそうな気がしました
沙耶に癒やされるほどの孤独を理解できるからです
そして正体が肉塊であったとしても、何かを愛していたいんだと思いました
核にあるのはピュアな恋愛小説でした詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
面白かったけどやっぱり原作の方がいいかな。
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大槻涼樹/虚淵玄『沙耶の唄』読了。
一部でカルト的な人気を博した虚淵玄脚本の裏代表作とも言えるゲームのノベライズ版。2003年のゲームなので多少古臭くなるかとも思ったが、これは大槻氏の手腕なのかほぼ気にならない、もともとテーマや設定は廃れないものなので、今読んでも違和感はない。
基本的にテキストも原作の色を損なうほどに改変していないので、ゲーム版の雰囲気はそのまま楽しめるだろうと思う。
本来は選択肢で分岐する物語だが、ノベライズに合わせて一本化されている。しかし、作中には面白い演出があり、ifの物語も想像させる。
クトゥルフを知っている人は、随所にネタが仕込まれているのでついにやりとしてしまうだろう。はっきりと言及しないところもまた良い。
そして何よりこの設定は素晴らしい。人は物の見え方や感じ方で完全に理解し合うことができなくなるし、逆に異常と狂気に飲まれた者は、その孤独を癒やしてくれる存在に絶対の愛を感じる。歪だが、やはり純愛といえるのかもしれない。 -
得体の知れない恐ろしさがありながら、単なるホラーではなくて、ある対象に対する感情や印象が、どこまで相対的に捉え得るのか考えさせられる。
高校の同級生から話を聞いていつか読みたいと思ってから、10年じゃきかない年月が経ってた。
10年前に読んでいればまた違う生き方をしていたかもしれない。
読んだのが今だから星三つになった。
201213 -
人ならぬ異形の生物の純愛。狂気の果てに行き着く先でも、切なく悲しく心に響いた。
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手塚治虫の火の鳥の中に脳の手術によって、ロボットが人間に見えて、人間が無機物に見える話があったが、それを思い出した。