月と珊瑚 (文学の扉)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065162224

作品紹介・あらすじ

【対象:小学上級以上】「わたしは、六ねんせいになったので、べんきょうをがんばります。」ひらがなだらけの作文をばかにされたのをきっかけに日記をつけることにした沖縄の少女・珊瑚は、『ベルサイユのばら』の世界から抜け出したような月(るな)という転校生と仲良くなりたくてたまらない。珊瑚の日記を通じて、沖縄の子どもたちが感じていることのすべてが浮かび上がる。沖縄に移住した作者が贈る、新たな児童文学の可能性。


【対象:小学上級以上】
「わたしは、六ねんせいになったので、べんきょうをがんばります。」
ひらがなだらけの作文を、クラスメートに「あなた、ほんとに六年生?」ってばかにされた。私は、「勉強をしよう」って、本当にそう思った。まず、どうすればいい。そうだ、漢字を書けるようにしよう。日記だ。日記を書こう。これはちかいだ――。

勉強ができないことを恥ずかしいと感じ始めた少女・珊瑚のクラスに転校してきたのは、まるで『ベルサイユのばら』のオスカルのような、男の子か女の子かわからない月(るな)という子でした。
珊瑚の日記に描かれるのは、エイサーを舞う姿がかっこよかったり、ひいおばあちゃんが辺野古に座りこみに行ったり、耳をつんざくような戦闘機の轟音で機体の種類を当ててしまったり、その逆に轟音が聞こえると耳をふさいで動けなくなってしまったりする同級生たちの姿です。
珊瑚の「月と仲良くなりたいな」と思う日常を描いた、たどたどしい日記からは、沖縄の子どもたちが、いま、目にし、感じていることのすべてが浮かび上がってきます。
子どもの貧困、学力の差、沖縄文化の継承、そして米軍基地問題……。沖縄に移住した作者があたためてきたテーマが、いま花開きます。新たな児童文学の可能性がここにあります。

感想・レビュー・書評

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  • 読み初めて、「あれ?これって小学高学年課題図書じゃなかったっけ?」と疑問を抱くほど、ひらがなだらけの文体だった。
    それは、漢字が書けない、勉強ができない珊瑚の日記として書かれているからだ。
    珊瑚は、自分の作文とクラスメートのしおんの作文との差に愕然とし、転校生の月に好かれたくて漢字の勉強を頑張る。
    それは、4月に書いた作文「六年生の夢」と7月に書かれた作文「二十歳の夢」に大きな差となって現れる。
    その間、祖母のルリバーと二人の生活は貧しいのはなぜなのか。ルリバーの秘密から沖縄の過去に向き合う。本土から来た沖縄を知らないクラスメートと基地問題、騒音問題と話は広がり、珊瑚自身も沖縄を深く知っていく。
    珊瑚と一緒に読者も、沖縄が抱えてきたたくさんの問題を考えるきっかけになればいいな。

  • 月と珊瑚(読みもの) JBBY
    https://jbby.org/book/8531

    『月と珊瑚』 上條さなえ | こどもの本 on the Web
    http://www.kodomo.gr.jp/kodomonohon_article/17966/

    [彩職賢美]児童文学作家の上條さなえさん|書き続けることが私のメッセージ|fun okinawa~ほーむぷらざ~
    https://fun.okinawatimes.co.jp/columns/life/detail/9376

    Miho Tanaka | 田中海帆(@mihot0304) ? Instagram写真と動画
    https://www.instagram.com/mihot0304/?hl=ja

    『月と珊瑚』(上條 さなえ)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000322935

  • ★2020年度課題図書(小学校高学年の部)

    珊瑚は沖縄民謡を習う6年生の女の子。勉強が苦手で、漢字もろくに書けない。
    そのことを友達の詩音にバカにされて、自分を恥ずかしく思った珊瑚は、漢字の勉強をすることを決意する。そのために、毎日漢字を辞書で調べて日記を書くことを決めた。そんな珊瑚の日記形式で物語は進んでいく。

    序章の文章が強烈。珊瑚の漢字レベルに合わせて書かれているのだが、本当にひらがなしかないし、なんなら最初の珊瑚の作文は、設定年齢を見返すレベルだ。このままほとんどひらがなで文章が続いていくのかと思ったら読む気が失せたが、日記を書き始めてからの漢字の習得はめざましく、ホッと安堵して読み進めることができた。
    日本語における漢字の必要性を身に沁みて感じるとともに、ほぼひらがな→漢字混じりの日記形式に、『アルジャーノンに花束を』みを感じた。

    内容は盛り沢山だ。
    沖縄の歴史のこと、もちろん太平洋戦争時のこと。そして現在の辺野古基地など米軍基地の問題。抗議行動をする人。
    沖縄民謡で生計を立てているおばあに育てられている珊瑚。母親は本土で働いていること。勉強ができないこと。貧困であること。
    かつて沖縄にあったジュリという遊郭の存在。そこで働いていた人のこと。
    東京からの麗しい転校生とSNSにまつわる問題。
    そして友達の存在。

    珊瑚は東京から来たオスカルのような(ベルバラの)麗しい転校生の泉さん(女子)に憧れ、泉さんに話しかけられるとドキドキ、泉さんのことを考えてもドキドキしていて、ワンチャンラブロマンス的な展開になるのでは?と思ったが、友情で終わったのでLGBT的な主題はどうやらないようだ。(別にあってもよかった)(さすがに詰め込みすぎ?)

    太平洋戦争の爪痕や、米軍基地などの沖縄の痛みを、珊瑚の目を通して描いているので、押し付けがましい感じではなく受け止められる。沖縄のことは、内地の人間にとっては、なんとなく耳が痛くスルーしがちな問題でもあるような気がするが、若い世代の子がこんなふうに作品に触れることで知り、情報と、人々の痛みを受け取っていくことは必要なことだと思った。

    ジュリという言葉は初めて聞く言葉で、沖縄にも吉原のような遊郭があったのだと初めて知った。というか、沖縄だけではなく、日本の各所にあったのだろう。
    遊郭というものに対しての意識は考えも及ばないのだが、ルリばあの生き方を変えるほどの痛みが、そこにはあるのだろう。
    今の、母親がキャバ嬢だった、というようなこととは全然違うのだろうな。

    戦争、米軍基地、遊郭、貧困…
    沖縄を外から見た感じとはまた違う印象を受ける珊瑚の素直な考えに、そこに住む人の感覚を感じたが、なるほど作者が沖縄在住だそうだ。内側から見た沖縄の姿に言及してくれているように思う。

    戦争のことばかりではなく、子どもらしい友だちとの関係の話も織り込まれる。
    詩音も元は転校生なのだが、頭がいいのを鼻にかけるような発言をしたり、沖縄を下目に見るような発言をしてしまい、クラスメイトたちに煙たがられるシーンがある。
    そこでドロドロした展開にならずに済むのは、ひとえに主人公である珊瑚のカラッとした性格のおかげだ。詩音の嫌味な発言にも、ショックを受けても、そうだなぁと納得したり、詩音は勉強ができてすごいなぁと感心したりと、とても素直でおおらかな性格で好感が持てた。
    泉さんも、詩音のマイナス発言をプラス発言で真っ向から切る姿に凛とした強さを感じた。そして詩音も詩音で憎めないというか、カラッとした珊瑚の反応のおかげで、嫌いにならずに済むという感じ。
     
    この本のタイトルは『月と珊瑚』なのだが、月は「つき」ではなく「るな」と読む。
    月(るな)は泉さんの名前だ。泉月。森英恵の孫にいそうな名前だ。
    そして、タイトルが『月と珊瑚』な割に、群像劇めいて、さほど月に焦点が当てられていなかったような気もするが。

    装丁はきれいで、中学生女子が好きそうな感じ。
    表紙やイラストに出てくる、沖縄民謡を歌うために切らずに伸ばしている珊瑚のおさげ頭もよい。なんとなく沖縄のことが知れたような気になる作品。

  • 2020年度小学校高学年、課題図書

    沖縄に住む六年生の珊瑚
    自分の名前も漢字で書けなかった少女の成長物語
    ラストの作文でそれが読者にもはっきりと分かる

    横軸に沖縄の現実を織り交ぜながら
    家族や友人の中で珊瑚は成長していく

    読んでいて胸が痛くなるけれど
    子どもたちにも知ってほしいことだ

    ずっと切り捨て続けているのだから

    この著者の作品をもっと読みたいと思う

    ≪ 沖縄の サンゴ礁には 血と涙 ≫

  • 2020高学年課題図書。沖縄に住む民謡歌手の祖母と暮らす6年の珊瑚は、漢字もろくに書けないおっとりした子で、東京から来たしおりにバカにされ、日記を書きながら勉強も頑張り始める。戦争、沖縄の歴史、基地問題、貧困、考え方の違い、将来の夢…いろいろ詰め込みました、という感じがしないでもない(笑)。珊瑚が少しづつしっかりしてくるし、しおりの変化、賢や亮の個性、月の過去、くるみの優しさも伝わるが「感想文書きましょう」感がハンパないような気もする。

  • とてもわかりやすく、沖縄の現在と過去を教えてくれている。
    子供目線で沖縄を伝えてくれるのはとてもとても感情移入しやすかった。
    突然、そして不条理にたくさん大変な思いをしなければならなかった沖縄…
    もっと、せめて日本に住んでる人全員がきちんと歴史を学んで考えていかないといけない。
    子供から大人まで読むべき本やった。

  • 珊瑚の日記から、成長して行く過程がわかります。
    決して難しい文体で書かれているのではありませんが、沖縄の歴史、現在の課題を考えるきっかけになりそうです。沖縄だけの課題ではないことを読み手も感じさせられます。途中挿入されている歌を聞きながら読んだりもしました。

    欲を言えば、珊瑚と月のやりとりというか、絡みというかがもう少しほしかったかな。


    「勉強はな、すぐには役に立たん。けどな、じわじわあとになってきいてくるんや。人間のふかみとかになって、あらわれるやでー。」 ルリバーのことばより

  • 沖縄民謡の歌手をしている祖母と那覇に暮らす6年生の珊瑚(さんご)
    貧しく、勉強もできず、バカ三人組と言われている

    5年生の秋に東京から来た学級委員の詩音(しおん)のことばに奮起し、勉強しよう、漢字で日記を書こうと決意する

    新学期、東京からの転校生 月(るな)を目にした珊瑚は、オスカルのようなかっこいい月と仲良くなりたいと思うが、超セレブのマンションに住んでいると知り気後れしてしまう

    少女の目に映る貧困と格差、戦争と基地、女性の置かれた状況など沖縄の「いま」を日記というかたちで描き出す

    《みんなで、成人式で会うことが、私の夢です。》

    第66回(2020年)青少年読書感想文全国コンクールの課題図書(高学年の部)に選定され、平積み展開中

  • 第66回(2020年度)青少年読書感想文課題図書
    小学校高学年の部

    内容:
    「主人公の名前は珊瑚。「沖縄はな、戦後、血と涙とさんごしょうの上にできた島といってもいいくらい、ひさんな戦争を経験したからよ。県民の四人に一人が死んでな。だから、『さんご』は、ぴったりと思ったんや。」祖母の言葉である。沖縄に暮らす子どもたちが、沖縄の悲しい歴史を知り、米軍基地と共に生活している現状に気づいて成長する様子が、珊瑚の日記の形で語られる。転校生の月へのあこがれ、自分の課題や未来への希望も素直な言葉で書かれている。」

  • 沖縄に住む6年生の珊瑚は勉強は苦手。
    一緒に住んでいるルリバーは沖縄民謡歌手で、珊瑚も小さい頃から民謡を教えてもらっている。

    お母さんは九州で働いて、お父さんはいなくて、
    ときどき恥ずかしい気持ちで子ども食堂でご飯を食べさせてもらっていて、珊瑚の家は正直貧しい。

    同級生の詩音にひらがなばかりの作文をバカにされ、珊瑚は漢字の勉強を始める。
    そんな頃に、本土から転校してきた月(るな)のミステリアスな雰囲気に、珊瑚の心は釘付けとなる。

    月のボーイッシュな姿とさりげない優しさ。
    詩音のちょっぴり偉そうだけど相手を思う気持ち。
    くるみの貧困に関係なく付き合ってくれる友情。

    日常の上空を飛ぶ戦闘機の音、辺野古に米軍基地建設の話、
    悲惨な沖縄で起きた戦争、貧しくてジュリとなった珊瑚のひいおばあの話
    6月23日の沖縄で慰霊の日に向けて、沖縄で暮らす子どもたちのそれぞれの思い。

    沖縄が抱えている問題がぎゅっと詰まっていながらも
    重くない感じで優しさに包まれている一冊。
    色んな人がいて良い。戦争や平和について。
    2020年高学年むけ課題図書。

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著者プロフィール

『さんまマーチ』でデビュー以来『さんまラプソディー』(国土社)『コロッケ天使』(学研)『ぼくのおじいちゃん、ぼくの沖縄』(汐文社)『わすれたって、いいんだよ』(光村教育図書)、ホームレス同然の暮らしをした体験をつづった『10歳の放浪記』や、『月と珊瑚』(講談社)などたくさんの作品がある。作家活動と並行して児童館の館長を務めたほか、埼玉県教育委員会の教育委員、同委員長も務めた。現在、沖縄在住。

「2021年 『シェフでいこうぜ!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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