「カッコいい」とは何か (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 795
感想 : 69
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065170489

作品紹介・あらすじ

本書は、「カッコいい」男、「カッコいい」女になるための具体的な指南書ではない。そうではなく、「カッコいい」という概念は、そもそも何なのかを知ることを目的としている。

「カッコいい」は、民主主義と資本主義とが組み合わされた世界で、動員と消費に巨大な力を発揮してきた。端的に言って、「カッコいい」とは何かがわからなければ、私たちは、20世紀後半の文化現象を理解することが出来ないのである。

誰もが、「カッコいい」とはどういうことなのかを、自明なほどによく知っている。
ところが、複数の人間で、それじゃあ何が、また誰が「カッコいい」のかと議論し出すと、容易には合意に至らず、時にはケンカにさえなってしまう。

一体、「カッコいい」とは、何なのか?

私は子供の頃から、いつ誰に教えられたというわけでもなく、「カッコいい」存在に憧れてきたし、その体験は、私の人格形成に多大な影響を及ぼしている。にも拘らず、このそもそもの問いに真正面から答えてくれる本には、残念ながら、これまで出会ったことがない。

そのことが、「私とは何か?」というアイデンティティを巡る問いに、一つの大きな穴を空けている。

更に、自分の問題として気になるというだけでなく、21世紀を迎えた私たちの社会は、この「カッコいい」という20世紀後半を支配した価値を明確に言語化できておらず、その可能性と問題が見極められていないが故に、一種の混乱と停滞に陥っているように見えるのである。

そんなわけで、私は、一見単純で、わかりきったことのようでありながら、極めて複雑なこの概念のために、本書を執筆することにした。これは、現代という時代を生きる人間を考える上でも、不可避の仕事と思われた。なぜなら、凡そ、「カッコいい」という価値観と無関係に生きている人間は、今日、一人もいないからである。

「カッコいい」について考えることは、即ち、いかに生きるべきかを考えることである。

――「はじめに」より

【目次】
第1章 「カッコいい」という日本語
第2章 趣味は人それぞれか?
第3章 「しびれる」という体感
第4章 「カッコ悪い」ことの不安
第5章 表面的か、実質的か?
第6章 アトランティック・クロッシング!
第7章 ダンディズム
第8章 「キリストに倣いて」以降
第9章 それは「男の美学」なのか?
第10章 「カッコいい」のこれから

感想・レビュー・書評

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  • この軽薄そうなタイトルに対してこのボリューム。
    新書というのは‘掲げたテーマを簡潔に読者に語る’というのをそのスタイルとしたのだと思っていたのに…。だからこの本を手に取った時は『何考えてんだ?』と呟いてしまった。
     著者の平野啓一郎氏も悪いと思ったのか「第10章にはまず目を通し、肝となる第3章、4章を読んでもらえれば…」と多方面の歴史をひもときながら解説するうちに、参考文献の量が多くなったことを詫びている。
     でも、この本の厚さに負けて、第10章だけを読んだ人は、全く面白さがわからなかったことだろうし、その後に肝となる第3章、4章を読んでもやっぱり、平野氏の「カッコいい」に対する熱量は伝わらなかったのではないだろうか。まるで、教科書を読んで、その後にかなり詳しい参考書を読んだくらいの感覚だろう。
     
     私は平野氏のように多趣味ではないので、こんなに多方面から「カッコいい」を見つめることはできない。だから、知らない音楽やファッション、エンタメなどのカタカナをググりながら、彼の連れて行く多方面の「カッコいい」が紹介されている477ページに付き合った。
     そして、こんなにもの分量の言葉を積み重ねないと、しっくりと「カッコいい」が伝えられたと感じられなかっのか。という思いにもなった。
     それは平野氏の言っている『「カッコいい」は体感で「しびれ」をともなうもの』で、言葉で説明べきるものではないということの証でもあることを語ってもいる。

     今日のお昼、DVD で『ボヘミアンラプソディ』を観たのだけど、昔、フレディ・マーキュリーの歌を初めて聴いたときにまさに『しびれ』が体を走ったのを思い出した。

     まさに「カッコいい」とはこういうことなんだと、当時一緒にレコードを聴いていた友人に、言葉も無しに伝えられた気がした。

     そう、人は少なからずこの「カッコいい」によって人生の幾つかの選択肢を選んできているのだ。
    言葉の重量は感じないが、電光石火、人に瞬間にして決意と行動を、もしかしたら転向を促すかもしれないものすごい力を生み出す「雄叫び」だったのだ。

  • カッコよさと政治がいかに密接に結びついてるかなんて、今まで考えたことがなかった。
    生きる指針や活力になって、ダイナミックに人を動かすパワーをもつ概念だから、その分怖さや危うさも孕んでる。
    ナチスについての章が印象的だった。

  • 平野啓一郎さんの本で小説以外は初読。
    最後は主観でしかないはずの「カッコいい」についてトコトン考察する本。

    最後の方で、クールジャパンといって、国がカッコよさを煽る姿勢自体が「カッコ悪い」とぶった斬る。

    ビートルマニアの自分としては、『アトランティック•クロッシング』(大西洋横断)の章が一番おもしろかった。

  • 家族が飛行機のデザインを見て「カッコ悪い」と言うのを聞いてちょっとびっくりした。どこに善し悪しがあるのかよくわからなかったからだ。
    小さな男の子に「可愛い」と言うと、「カッコいいと言って!」と言われたことがある。
    それぞれのツボが知りたくて読んでみた。
    なかなか面白かった。
    カッコいいはしびれるような感覚を伴うそうだけど、そこは今一つピンとこなかったかも。
    自分でも考えてみた。
    カッコいいは縦方向の美意識かな?
    可愛いは横方向の共感、愛情かな?
    「カッコいい」は外見の形的な事に言いがちだけど、最近はどちらかというと考え方や振る舞いに感じることが多くなった。
    本当は「カッコいい」とか余り気にしてないのがカッコいいかも。

  • 映画、ファッション、音楽などなど著者の知識の広さを再確認し、ますますファンになりました。

  • 20210110

    哲学的というか論文っぽいというか。
    もしも、何もすることが無い膨大な時間が得られたら、再チャレンジするかな…


    自分自身のカッコいいとは。
    男として、大人として、親として、
    カッコ悪い事をしない。言わない。って事。




  • いやあ、平野啓一郎の洞察は深いなあ。そして難しいテーマも簡潔に整理されていて、それでいて何度でも読み直したい。まさにクール。この新書自体が「カッコいい」な。印象に残ったのは、カッコいい人は、カッコいい名言を残しているということ。しびれるような経験を言語化することができて初めて物語に内包されて体感されるということ。カッコいいを語るにも知性が必要なんだなあ。

  • 文化を本格的に分析する本って、あまり読めていませんでした。
    この本はとても面白かった。
    丁寧で、論理的で、読み応え、納得感がとてもあります。

    「かっこいい」っていう感覚って、常に大切にしたいと思うんですけど、
    そのかっこよさって、いったい何なのか。
    それを考える基盤を与えてくださったかなと思います。

  • 「かっこいい」とは何かを書いた本である。500ページ近い論文と思った方が良いであろう。内容は多彩で芸術、音楽、文学、言葉の語源の追求、服装などなど、ありとあらゆる「カッコイイ」に言及し、その奥を探っていく。その博学さ、その議論の面白さ。夢中になって読みました。これは平野さんの代表作と言っても過言ではないと思う。「かっこいい」の影響力の解説と政治利用。「かっこいい」には力がある。イメージとしてはメディアに似ていると思った。だから、それをナチスは取り込んで支持者を増やしたという話しがおもしろかった。

  • 今を生きてて、これを読まないなんて勿体ない。
    カッコいいが生む「しびれ/体感価値」による凄まじい魅力とその危険性について。
    音楽、ファッション、マーケティング、政治、美術史、欧米史…etc.議論は縦横無尽にジャンルを駆け巡る。「暇と退屈の倫理学」に並ぶ、現代社会を解剖する新しい視座をくれる大作。

    ビジネスパーソンとして、一人の日本人として、本書をキッカケに、「カッコいい論」もとい「カッコいい学」が深まることを期待。
    というか、経営戦略・マーケ戦略視点で、「カッコいい」を深堀りしたい。

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著者プロフィール

平野啓一郎
1975年愛知県生まれ、北九州市で育つ。小説家。京都大学法学部卒。1999年、在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により芥川賞を受賞。以後、2002年の長編『葬送』をはじめ、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。著書に『滴り落ちる時計たちの波紋』『決壊』(芸術選奨文部科学大臣新人賞)、『ドーン』(ドゥマゴ文学賞)、『かたちだけの愛』『透明な迷宮』『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞)、『ある男』(読売文学賞)、エッセイ・対談集に『私とは何か』『生命力の行方』『自由のこれから』『考える葦』などがある。

「2022年 『理想の国へ 歴史の転換期をめぐって』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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