- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065182055
作品紹介・あらすじ
歴史を彩る「英雄」は、どのように語り継がれ、創作され、人々の記憶と歴史認識のなかに定着してきたのだろうか。特に、政争や戦乱の敗者が伝説を介し、復活し、再生する過程を、中世から近世、近代への長いスパンでたどっていく。その「蘇り方」は決して直線的ではなく、多くの屈折と虚像を伴うが、その道筋を追うことが、新しい歴史学の楽しみとなる。
たとえば、安倍晴明のライバル蘆屋道満や、酒呑童子退治の坂田金時ら、実在の疑わしい英雄は、歴史のなかでどのようにリアリティーを吹き込まれていったのだろうか。
そして、平将門や菅原道真らの怨念への畏怖が語らせる「敗者の復活」。坂上田村麻呂や藤原利仁、源頼光に託された、「武威の来歴」の物語。鎮西八郎為朝や源義経が、西国や東北、さらに大陸へと伝説を拡大させた「異域の射程」。本書はこれらを三つの柱とし、伝説のなかに中世史の再発見を試みる。江戸の浄瑠璃や歌舞伎、往来物から、近代の国定教科書まで、伝説の変貌の過程から「歴史の語られ方」を豊かに汲み上げる。〔原本:『蘇る中世の英雄たち――「武威の来歴」を問う』中公新書、1998年〕
感想・レビュー・書評
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様々な形で語り継がれてきた日本の英雄伝説、その変容の諸相を解説した書。中世、近世、そして近代と様々な形でリフレインされてきた英雄伝説を通して、それが反映してきた時代の様相と歴史認識(歴史観)を読み解く。
本書は、1998年発行の『蘇る中世の英雄たち―「武威の来歴」を問う』(中央公論社)の文庫版である。中世に盛んに生み出され、近世、近代と伝わってきた英雄の伝説は、中世という時代の価値観や事象を反映すると共に、後世の時代の価値観や歴史観を踏まえてさまざまに変化していった。著者の目的はそういった伝説が時代の何を示しているのか、そして伝説の変容に何が託されているのかを示すことにある。そのため本書は、伝説を題材とする物語が数多く生み出された近世江戸期をスタートとして、菅原道真らの怨霊譚が謳う「敗者の復活」、坂上田村麻呂らの征伐譚が示す「武威の来歴」、鎮西太郎為朝らの冒険譚に見える「異域の射程」の三つを取り上げる。
個々の伝説を詳細にみていくというよりかは伝説の変遷を追っていくものであるので、具体的に伝説を知りたいと思われる読者からはボリューム不足に感じられると思われる。ただ、伝説の変遷史を概説的に知れるという点では面白い書と言えるだろう。また本書の巻末には『平家物語』等の軍記物に見える武人伝説の一覧表がつけられているので、ちょっとした調べものの参考になる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
中世の伝説を軸に考える、というスタンスが一貫していて、かつ歴史不勉強な身でも読みやすかった。
教科書や試験ではマイナーな扱いだった人物が、なぜ芸術の分野ではとてもメジャーなのか納得でき、この伝説をもっと知りたいと思える親しみやすさもあると感じた。 -
歴史的人物が伝説となって、人々に語り継がれ変容を遂げる、その時代背景や認識の在り方を解き明かした書。具体的に英雄を紹介していく各章においては、伝説を作り出して行くモチーフとして著者が考えているものが、「敗者の復活」、「武威の来歴」、「異域の射程」という副題に表されている。
戦前までだったら一般民衆の常識だったかもしれないが、頼光や為朝の伝説など、今ではあまり知られていないのではないだろうか。それらを知ることができたのも、一つの収穫だった。