22世紀を見る君たちへ これからを生きるための「練習問題」 (講談社現代新書)
- 講談社 (2020年3月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065190982
作品紹介・あらすじ
これから大切な能力って何?
いまの子どもたちの文章読解能力は
本当に「危機的」?
未来の大学入試とは? 英語教育は必要?
そもそも日本人の大多数が、
ネイティブと同じ発音をする必要がどこにあるの?
・・・
祖父母から孫へ、親から子へ――。
世代を超えて伝えたい、教育の「本質」を探る。
・・・
教育とは、わからない未来を予想して、
あるいは来るべき未来社会を予想して、
「子どもたちに生きるための能力を授ける」という、
いささか無謀な行為である。
それでも20世紀前半くらいまでは、その予想は、
ある程度可能だったかもしれない。
たとえば自分の息子が、自分のあとを継いで漁師になることが
確実にわかっていれば、その子には、船の動かし方、釣り具や網の整備の仕方、
天候の予測のための知識、万が一の時の泳ぎ方といったことを教えておけばよかった。
しかし、いま私たちが直面し知ているのは、おおよそ以下のような問題である。
■まず、その子が、どんな職業に就くかまったく予想できない。
■たとえ親が子どもを漁師にしたいと考えても、そもそも22世紀に漁師という仕事が
あるかどうかがわからない。
■さらに、たとえ漁師という仕事が生き残ったとしても、そこで必要とされる
能力について予想がつかない。
■それは、漁業ロボットを操作する能力かもしれない。漁から販売までを一元化し、
六次産業化していくコーディネート力かもしれない。あるいは、養殖の技術や
遺伝子組み換えについての研究こそが、漁師の本分となるかもしれない。
■私が暮らす兵庫県豊岡市の隣町、カニ漁で有名な香美町では、多くのインドネシア人が
漁業実習生として漁に携わっている。もしかすると、これからの漁師に必要な能力は
インドネシア語の習得や、イスラムの習慣への習熟かもしれない。
・・・
本書の中で、私は「教育」について考えていきたいと思う。
2020年の大学入試改革など、教育の大きな転換期を前に、私のこれまでの考えを、
ひとつにまとめて記しておくのも、本書の狙いの一つである。
・・・
巻末に高校・大学の授業や、新入社員研修などにも活用可能な、付録「22世紀ための問題集」つき!
感想・レビュー・書評
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学校教育は今後どうなっていくのだろうか。
自分は何を目指して授業を進めていけばよいのか。
このままではあんま良くないような気がしつつも、
これまでと大差ない授業に終始してしまう。。。
豊岡市おもしろそうやな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
平田オリザさんについては、演劇関係者という認識しかなかったが、大学で教鞭を取られていることもあって、かなり詳しい。
データに基づいてというよりは、ご自分の信念と経験に基づいて、論を展開されているのだが、とても分かりやすい。
教育の専門家ではないが、かなり調べたり実践されたりしている中で得られた知見は、私が普段考えているような見方とは違って、いろいろな見方で大学入試について、子どもたちのことについて考える必要があると感じた。
今の大学入試制度改革のどこが問題か、どのようなものを目指すべきなのか、納得させられることも多かった。 -
正直言って、平田オリザさんの著書は読んだことがなかったし、芝居も観たことがない。(けっこうたくさん芝居は見てきたのだけれど。)城崎あたりで何か面白そうなことをされているなあ、ということくらいしか知識はなかった。本書は、たまたま書店で見て、ちょっと気になって手に取って、パラパラと立ち読みをして、最近気になっている大学入試のことなど、興味のある内容が多そうなので、他の本と一緒に購入した。そして、先に読んでしまった。これは、正直買って正解でした。いやあ、おもしろい。四国学院大学の入試問題や、奈義町、豊岡市の採用試験問題などなど。演劇を使った手法。それと面接。予備校などでは対策のしようがない。(いや、何か考えるだろうけれど。)これはもう、小学校からのアクティブ・ラーニングによるのだろう。そして、豊岡市での取り組み、新しくできる大学など、興味は尽きない。私ももう少し若ければ移住して、そこで子育てをしてもよかったかも知れない。それから、新井先生の本に対する批判?これもなかなかおもしろい。RSTについては、自分でも何となく違和感があったのだけれど、なんとも言うことができなかった。それを、きちんと原典にあたって解説されていて、なるほどと納得がいった。そして、非認知スキルだったり、身体的文化資本だったり、いわゆる教養とか地頭とか言えるようなもの。こういうものが、今後特に必要になってくるのは間違いないだろう。私も常々、公立中高一貫校などを受検希望される保護者の方々には、お子さんを子ども扱いせず、大人の会話に入れてあげてくださいと言っている。4年生までに、科学館とか、博物館とか、いろいろ連れて行ってあげてくださいとも言っている。これって、結局、文化資本を身につけるっていうことだったのだなあと思う。そのことには、自分の子育て段階でも気付いていて、意識してきたつもりだけれど、さてさてその結果はと言うと・・・、まだ結論を出すのは早いか。なかなか子育てというのは思うようにいかないもの(森毅いわく)。私より少し年長の著者にまだ小さなお子さんがいるということ。事情はともかく、まあかわいいことだろうなあ。だって、孫と言ってもいいくらいだもの。
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大学入試改革の本質、問題点や将来像について
知識や技能に加え
思考力、判断力、表現力を問う問題例をあげている
アクティブラーニングの重要性、潜在的学習能力つまり伸びしろ力が問われる
そして著者は専門である演劇について教育が諸外国に比べて低いことをのべ
非認知能力のひとつとして演劇や芸術教育が今後の教育に役立つともいう
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タイトルから自分の子供達に読まれせる本と思っていたが、全然違った。保護者や教育に関わる人が読むべき本。
個人的にあまり教育に関心が無いのか、かなりの部分を読み飛ばしてしまった。
今後の日本の先行きを考えるために最も教育について真剣に考えなければいけないと認識できただけでも良しとしたい。 -
著者の教育論は他にも読んだことがあるがそれらには一貫したものがある。現状におもねることなく、しかも実現可能であることを重視する考え方であるが
現代の教育論が個性重視といいながら、結果的に環境要因を無視した不平等な現実を容認するものだという考え方は概ね首肯できるものだ。自己責任論が平等の皮を被った階級主義であるのと同様に子供の個性を定量化して評価の対象にする教育の方法には根本的な誤りがある。
この中で何度か出てくるディスカッションドラマを作らせる演劇的手法は多様化する現代のあり方を他者の視点を通して考えるために設計されている。他人の痛みを知るリーダーを育成するためには使える方法だと考えた。
演劇的な手法を実現するためには指導者の誘導が大きく影響する。演出家ならでは考え方であるとも考えられる。ただ学校の教員が試してみる価値はありそうだ。 -
新井紀子さんの本を読んだ時に感じた違和感のようなものの正体がわかった気がする。いくら論理的な思考や表現力などを身に付けたとしても、相手に伝わらなければ意味がないし、相手の気持ちを理解しようとすることを忘れてしまっていたら意味がない。
そもそも、人はよく誤読をする生き物なのだというのが大前提。それでも、先行きが不透明な未来を生きていくために、きっと大事なのは、さまざまな文化的背景が違う人たちと話しをし、相手の言っていることを理解しようとすること、そして、自分の言いたいことも伝えようとすること。そして、どちらかがいいとかどちらかを選ぶののではなく、それぞれの主張をすり合わせて新しい結論を見出すことができるようになること。
そんな力を身に付けるのに、有効なのが演劇教育。演劇教育を通して、身体的文化資本を一人一人に身につけさせられるようにすること。
面白い取り組みをしている大学の大学入試が本当に面白いし、中学生高校生にも取り入れられる視点がたくさんあったように思う。また、平田さんが学長に就任予定の専門職大学もある兵庫県豊岡市の取り組みが本当にユニークでとても興味深い。東京に住んでいるくせに、こういう地方・地域が元気だとワクワクするし、とてもとても興味がある!