22世紀を見る君たちへ これからを生きるための「練習問題」 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
3.81
  • (15)
  • (16)
  • (18)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 314
感想 : 35
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065190982

作品紹介・あらすじ

これから大切な能力って何?

いまの子どもたちの文章読解能力は
本当に「危機的」?

未来の大学入試とは? 英語教育は必要?

そもそも日本人の大多数が、
ネイティブと同じ発音をする必要がどこにあるの?

・・・

祖父母から孫へ、親から子へ――。

世代を超えて伝えたい、教育の「本質」を探る。

・・・

教育とは、わからない未来を予想して、
あるいは来るべき未来社会を予想して、
「子どもたちに生きるための能力を授ける」という、
いささか無謀な行為である。

それでも20世紀前半くらいまでは、その予想は、
ある程度可能だったかもしれない。

たとえば自分の息子が、自分のあとを継いで漁師になることが
確実にわかっていれば、その子には、船の動かし方、釣り具や網の整備の仕方、
天候の予測のための知識、万が一の時の泳ぎ方といったことを教えておけばよかった。

しかし、いま私たちが直面し知ているのは、おおよそ以下のような問題である。

■まず、その子が、どんな職業に就くかまったく予想できない。

■たとえ親が子どもを漁師にしたいと考えても、そもそも22世紀に漁師という仕事が
あるかどうかがわからない。

■さらに、たとえ漁師という仕事が生き残ったとしても、そこで必要とされる
能力について予想がつかない。

■それは、漁業ロボットを操作する能力かもしれない。漁から販売までを一元化し、
六次産業化していくコーディネート力かもしれない。あるいは、養殖の技術や
遺伝子組み換えについての研究こそが、漁師の本分となるかもしれない。

■私が暮らす兵庫県豊岡市の隣町、カニ漁で有名な香美町では、多くのインドネシア人が
漁業実習生として漁に携わっている。もしかすると、これからの漁師に必要な能力は
インドネシア語の習得や、イスラムの習慣への習熟かもしれない。

・・・

本書の中で、私は「教育」について考えていきたいと思う。

2020年の大学入試改革など、教育の大きな転換期を前に、私のこれまでの考えを、
ひとつにまとめて記しておくのも、本書の狙いの一つである。

・・・

巻末に高校・大学の授業や、新入社員研修などにも活用可能な、付録「22世紀ための問題集」つき!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 学校教育は今後どうなっていくのだろうか。
    自分は何を目指して授業を進めていけばよいのか。
    このままではあんま良くないような気がしつつも、
    これまでと大差ない授業に終始してしまう。。。

    豊岡市おもしろそうやな。

  • 平田オリザさんについては、演劇関係者という認識しかなかったが、大学で教鞭を取られていることもあって、かなり詳しい。
    データに基づいてというよりは、ご自分の信念と経験に基づいて、論を展開されているのだが、とても分かりやすい。
    教育の専門家ではないが、かなり調べたり実践されたりしている中で得られた知見は、私が普段考えているような見方とは違って、いろいろな見方で大学入試について、子どもたちのことについて考える必要があると感じた。
    今の大学入試制度改革のどこが問題か、どのようなものを目指すべきなのか、納得させられることも多かった。

  • 正直言って、平田オリザさんの著書は読んだことがなかったし、芝居も観たことがない。(けっこうたくさん芝居は見てきたのだけれど。)城崎あたりで何か面白そうなことをされているなあ、ということくらいしか知識はなかった。本書は、たまたま書店で見て、ちょっと気になって手に取って、パラパラと立ち読みをして、最近気になっている大学入試のことなど、興味のある内容が多そうなので、他の本と一緒に購入した。そして、先に読んでしまった。これは、正直買って正解でした。いやあ、おもしろい。四国学院大学の入試問題や、奈義町、豊岡市の採用試験問題などなど。演劇を使った手法。それと面接。予備校などでは対策のしようがない。(いや、何か考えるだろうけれど。)これはもう、小学校からのアクティブ・ラーニングによるのだろう。そして、豊岡市での取り組み、新しくできる大学など、興味は尽きない。私ももう少し若ければ移住して、そこで子育てをしてもよかったかも知れない。それから、新井先生の本に対する批判?これもなかなかおもしろい。RSTについては、自分でも何となく違和感があったのだけれど、なんとも言うことができなかった。それを、きちんと原典にあたって解説されていて、なるほどと納得がいった。そして、非認知スキルだったり、身体的文化資本だったり、いわゆる教養とか地頭とか言えるようなもの。こういうものが、今後特に必要になってくるのは間違いないだろう。私も常々、公立中高一貫校などを受検希望される保護者の方々には、お子さんを子ども扱いせず、大人の会話に入れてあげてくださいと言っている。4年生までに、科学館とか、博物館とか、いろいろ連れて行ってあげてくださいとも言っている。これって、結局、文化資本を身につけるっていうことだったのだなあと思う。そのことには、自分の子育て段階でも気付いていて、意識してきたつもりだけれど、さてさてその結果はと言うと・・・、まだ結論を出すのは早いか。なかなか子育てというのは思うようにいかないもの(森毅いわく)。私より少し年長の著者にまだ小さなお子さんがいるということ。事情はともかく、まあかわいいことだろうなあ。だって、孫と言ってもいいくらいだもの。

  • 大学入試改革の本質、問題点や将来像について
    知識や技能に加え
    思考力、判断力、表現力を問う問題例をあげている

    アクティブラーニングの重要性、潜在的学習能力つまり伸びしろ力が問われる

    そして著者は専門である演劇について教育が諸外国に比べて低いことをのべ
    非認知能力のひとつとして演劇や芸術教育が今後の教育に役立つともいう

  • タイトルから自分の子供達に読まれせる本と思っていたが、全然違った。保護者や教育に関わる人が読むべき本。
    個人的にあまり教育に関心が無いのか、かなりの部分を読み飛ばしてしまった。
    今後の日本の先行きを考えるために最も教育について真剣に考えなければいけないと認識できただけでも良しとしたい。

  •  表紙は、正直、苦笑。
     内容は、論じる対象の方が、どんどん腰砕けになってしまったから。
     AI新井本に関する部分の的確さは必読。共通テストへの論も。
     その他の部分は、「分かり合えない」や「下り坂」とかなり重なってくる。それはけっして悪いことではないが。

  • 題名からすると若い人たちに読んで欲しい本と思われがちだが、これは大人が特に子供を持つ親、教育に携わる人、教育改革をする人、またそれに関心のある人向きの本である。
    大学入試改革がいわれ、2021年1月から実施される予定である。(ただ今現在は2020年のコロナ禍で、どのようになるのか流動的だろうか。)しかし、大学入試が変わることは確かだ。その前提として日本の教育が変革の時を迎えており、ある部分ではそれがすでに実行されている。
    急速な世界の変貌と進歩(?)でこの先、どのような未来が待ち受けているのか、どのような教育をすることが、子供たちにとってよいことなのか断定できない。
    そのような中、柔軟な思考と行動ができ、また人との協働ができる人材が必要なのではないかとは誰しも思う。
    大学入試にしても今までのような知識の確認だけでは済まされない。世界の名だたる大学ではすでにそのような入試を実施しているという。ではどのような入試でそのような伸びのあると思われる優秀な学生を獲得していくか。著者がそのため有効だと思う入試を紹介しながら、これからの教育を論じていく。
    今までのような雛形に固めていく人材を作っていくわけにはいかないことがわかる。しかしその新しい教育はまず、それを行う優秀な大人たちが膨大なエネルギーを費やして構築していかなくてはならないのだろう。日本の子供たちのため、日本のために。

  • だからこそそこ(ハーバード、MIT)では、「何を学ぶか?」よりも「誰と学ぶか?」が重要になる。それは学生の質の問題だけではない。教職員も含めて、どのような「学びの共同体」を創るかが、大学側に問われているのだ。
    実際、日本でも、表面上とはいえ、かつての大教室での一方的な授業はいっそうされつつある。形だけでも質問表を配ったり、グループディスカッションの時間をとったりして、授業をアクティブ化する試みを各教員が行っている。(p.70)

    文化資本(ピエール・ブルデュー)(pp.88-89)
    ・「客体化された形態の文化資本」(蔵書、絵画や骨董品のコレクションなどの客体化した形で存在する文化資産)
    ・「制度化された形態の文化資本」(学歴、資格、免許等、精度が保証した形態の文化資本)
    ・「身体化された形態の文化資本」(礼儀作法、慣習、言語遣い、センス、美的性向など)

    「対話」は「dialogue」、「会話」は「conversation」。英語ではこの二つの単語は大きく意味が異なるのだが、日本語ではこの区別が曖昧だ。というよりも、日本語では、「対話」という概念が薄い。だから辞書を引くと、「対話=向かい合って話し合うこと。また、その話」などとなってしまう。
    ・会話=親しい人同士のおしゃべり
    ・対話=異なる価値観や背景を持った人との価値観のすりあわせや情報の交換。あるいは知っている人同士でも価値観が異なるときに起こるやりとり。(pp.134-135)

     私はよく、小学校の先生方には「声の小さい子は、無理して大きな声を出させなくていいですよ」と指導する。声の小さい子は「声の小さい子」という役をやらせれば一番うまいからだ。このように、どんな子どもにでも居場所を作り役割を分担できることが、演劇教育の最大の利点だと私は考えてきた。(p.184)

    「相対的貧困」は表面化しにくい。小学生位では、その格差が子ども動詞では理解できない。中学生になって、友だち同士で「おい、日曜日にスケート行こうぜ」となったときに、「いや、俺ちょっとやめとくわ」という子が周囲にいて、初めて貧困、格差は実感できる。
     こうしたことを一度も経験しないで多くの子どもたちが、大学生そして社会人になっていく。もちろん大多数の若者は、アルバイトなどの社会経験の中で少しずつ現実に直面するのだろう。しかし、バイト先の選択にさえ格差が見え隠れするのが現状だ。(pp.215-216)

    <おやおやとおどろけ。なぜ?と不思議がれ。わかるまで調べろ。こうかもしれないぞと考えろ。こうしたらどうなるだろうかと考えてやってみろ。いつでもどこでもそうかと、たしかめてみろ>(東井先生、p.233)

  •  著者の教育論は他にも読んだことがあるがそれらには一貫したものがある。現状におもねることなく、しかも実現可能であることを重視する考え方であるが
     現代の教育論が個性重視といいながら、結果的に環境要因を無視した不平等な現実を容認するものだという考え方は概ね首肯できるものだ。自己責任論が平等の皮を被った階級主義であるのと同様に子供の個性を定量化して評価の対象にする教育の方法には根本的な誤りがある。
     この中で何度か出てくるディスカッションドラマを作らせる演劇的手法は多様化する現代のあり方を他者の視点を通して考えるために設計されている。他人の痛みを知るリーダーを育成するためには使える方法だと考えた。
     演劇的な手法を実現するためには指導者の誘導が大きく影響する。演出家ならでは考え方であるとも考えられる。ただ学校の教員が試してみる価値はありそうだ。

  • 新井紀子さんの本を読んだ時に感じた違和感のようなものの正体がわかった気がする。いくら論理的な思考や表現力などを身に付けたとしても、相手に伝わらなければ意味がないし、相手の気持ちを理解しようとすることを忘れてしまっていたら意味がない。
    そもそも、人はよく誤読をする生き物なのだというのが大前提。それでも、先行きが不透明な未来を生きていくために、きっと大事なのは、さまざまな文化的背景が違う人たちと話しをし、相手の言っていることを理解しようとすること、そして、自分の言いたいことも伝えようとすること。そして、どちらかがいいとかどちらかを選ぶののではなく、それぞれの主張をすり合わせて新しい結論を見出すことができるようになること。
    そんな力を身に付けるのに、有効なのが演劇教育。演劇教育を通して、身体的文化資本を一人一人に身につけさせられるようにすること。

    面白い取り組みをしている大学の大学入試が本当に面白いし、中学生高校生にも取り入れられる視点がたくさんあったように思う。また、平田さんが学長に就任予定の専門職大学もある兵庫県豊岡市の取り組みが本当にユニークでとても興味深い。東京に住んでいるくせに、こういう地方・地域が元気だとワクワクするし、とてもとても興味がある!

全35件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1962年、東京都生まれ。劇作家・演出家。芸術文化観光専門職大学学長。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」結成。戯曲と演出を担当。戯曲の代表作に『東京ノート』(岸田國士戯曲賞受賞)、『その河をこえて、五月』(朝日舞台芸術賞グランプリ受賞)、『日本文学盛衰史』(鶴屋南北戯曲賞受賞)。『22世紀を見る君たちへ』(講談社現代新書)など著書多数。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

平田オリザの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
リンダ グラット...
アンデシュ・ハン...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×