真実の原敬 維新を超えた宰相 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065206218

作品紹介・あらすじ

こんな総理が、今いたら!
藩閥政府の行き詰まりを打開し、昭和の戦後復興を支えたのは、この男のヴィジョンだった。

混乱の時代における政治家の役割とは何か。政治における優れたトップリーダーの資質とは何か。今まさに問われているこのテーマに、大きなヒントを与えてくれるのが、今年百回忌を迎えた「平民宰相」原敬である。厖大な史料を確かな眼で読み込み、伊藤博文や大隈重信、昭和天皇など近代日本をつくってきた人々の評伝を著して高い評価を得てきた著者は、原を「近代日本の最高のリーダーの一人」と断言する。
原は、朝敵・南部藩に生まれながら、明治新政府への恩讐を超え、維新の精神を受け継いでその完成を目指し、さらに世界大戦後のアメリカを中心とした世界秩序を予見して、日本政治の道筋を見すえていた。その広く深い人間像は、外交官、新聞記者、経営者と様々な経験と苦闘のなかで培われたものだった。志半ばで凶刃に倒れたことで、「失われた昭和史の可能性」とは何か。
著者にはすでに、選書メチエで上下巻930ページにおよぶ大著『原敬―外交と政治の理想』(2014年)があるが、その後の新史料と知見をふまえ、「今こそ改めて原の生涯と思想、真のリーダー像を知ってほしい」と書き下ろした新書版・原敬伝。

感想・レビュー・書評

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  • ①原敬の特徴として、幅広い知見、経験を挙げることができる。
    若い時にフランス、中国、朝鮮に駐在した豊かな海外経験、新聞社(含む経営)での勤務、古河鉱業への経営としての参画。今の政治家と比べても、特筆できる多面的なキャリアを持つ。
    特に民間企業での経験が活かされていることは、政治家になってからも公利の中にあっての民活を意識していたことからも分かるし、政策に実効性が伴っていたのだと思う。
    また、新聞社での勤務経験は、大正デモクラシーの中で政治家としても武器として使えたのであろう。(大隈重信の人気も早稲田閥を中心とした新聞社の力が大きかった)

    ②日本の近代化にあって、実力社会が活きていた。
    藩閥政治の中でも、非藩閥の原敬が首相にまでなれたのは、同じように実力でその地位を築いた陸奥宗光の背中を見てきたからだろう。原敬が陸奥を尊敬していたことの理由がよく分かる。なお、陸奥が外務大臣の時に原敬と組んで外交官になるための試験制度を作り、実力主義を徹底させたことは有名な話。当時、弱小な日本が外交面で秀でていた理由はここに原点がある。

    ③原敬(内閣)の外交政策はアメリカ重視。
    第一次世界大戦後、アメリカと日本の台頭が顕著となり、お互いに対立してくる。
    そのような環境の変化の中で、原はアメリカとの関係を第一にしていた。
    歴史にIFが許されるのであれば、原敬が暗殺されなければ、太平洋戦争も避けられたかもしれない。
    また、日中親善を考えていた。
    端的に言うと、世の中の大きな潮流を自らが確りと理解していた、ということ。
    (なお、原敬は政治活動の狭間で約6カ月の外遊を行っており、特にアメリカに注目し長く滞在した模様)
    最後に原内閣の特徴として、政党内閣が軍と宮中の統制を果たしていた、ということを挙げたい。
    言い換えると、彼の暗殺により、政党内閣のその可能性が失われ、暗黒の昭和時代に入ってしまう。

    以下抜粋~
    原は、立憲政治家としては一番格好のついた人のようにみえますね。
    外の人に比べてみれば、政治ということを除いて人生の意義に徹していた。言葉を換えて言えば、人生に対する一つの哲学を持っている。そこに徹底していた。
    政治は人生のすべてではないのだ。
    人生の中の一部のもので、かなり人間が興味を持つものである。
    だから人生によく徹底した眼で見て政治をやっているのだから、原敬の身体自身が政治ではない。だからあの人の政治はゆとりがある。人生に対する一つの哲学を持っている。それで政治をやっている。
    それで見方に依っては垢抜けをしている。

  • ・原は伊藤や大隈と違い、生年やバックボーンから「潜在的なイギリスへの脅威はそれほどなく、アメリカの台頭という変化を受け入れやすかった」という視点がとても勉強になりました
    ・賄征伐エピソードが掘り下げられてるのが面白い
    ・第一次護憲運動のとき、原は世論でなく輿論を尊重したため距離を取った、という解釈は、長年近現代史に向き合ってこられた方だからこその見地だなあと思ったり

  • ●東北出身の政治家、大正期に日本で初めて本格的な政党内閣を組織した人、爵位を持たないではじめての首相であったので「平民宰相」と呼ばれたこと。東京駅で暗殺された人。
    ●明治維新と近代国家形成を受け継ぎ、その究極の目的を実現すべく尽力した。
    イギリスのような、国王と国民が共治し、国民の才力を束縛せず、権利を抑制しない近代国家を作ること。
    ●第一次世界大戦中からアメリカの台頭を予測していた。
    ●影響を受けた人は、中江兆民、陸奥宗光、伊藤博文。
    ●山県有朋との確執

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/745768

  • 289.1||Ha

  • 日本で初めて本格的な政党内閣を組織し、「平民宰相」と呼ばれた原敬の「泥臭い利益誘導政治家」というイメージを払拭し、実証的にその実像を描こうとしている。
    著者には、既に『原敬―外交と政治の理想』という大部の評伝があるが、本書はそれを簡潔にまとめるというだけではなく、新たな視点も含めて論じられている。
    それは第一に、原が、木戸孝允・大久保利通・岩倉具視・伊藤博文・明治天皇らが協力して達成した明治維新と近代国家形成を受け継ぎ、「イギリス風の立憲国家をつくる」という、その究極の目的を実現すべく尽力したという点である。
    第二に、原が第一次世界大戦中から大戦終了後に形成される、アメリカの台頭による新しい国際秩序をほぼ正しく予測し、それに適応する構想を展開させ、原内閣で本格的に実施し始めるという点である。
    第三に、原が「公利」という現代の公共性につながる考えを、青年期に学んだことを踏まえ、原が障害にわたって国家と国民のあるべき関係をどうとらえていたか、という原の思想を系統的に考えるという点である。
    第四に、原の成長過程で、原の思想や行動に大きな影響を及ぼした母リツ、中江兆民、陸奥宗光、伊藤博文といった人との関わりと、その特色を、さらに明確に示すという点である。

    ところどころ原に対する好意的に過ぎると思えるような解釈も散見されたが、原が公共性に対する意識を強く持った、現実に立脚した長期的ビジョンをもった政治家であるということはよく理解できた。特に、普選運動に安易に同調せず、漸進的な改革を目指したところに、原のリアリズムを感じた。

  •  著者は若い頃の自身の苦労を原のそれと重ね合わせつつ、よくある原への評価に反論して不思議なほど原をベタ褒めしている。内政では、地方への利益誘導政治ではなく公共性を重視した事業。外政では、米の台頭を見抜く、的確な東アジア観、シベリア完全撤兵への枠組みを作る、など。
     ただ、一国の宰相が単なる立派な人というのも難しいだろう。著者が肯定的に評価する、理性的な輿論を重視し感情的な世論に一貫して批判的な原の国民観は、民主主義の観点からはどうか。5.4運動や3.1運動も世論の体現だと見て、後者には憲兵を増派。その結果の騒乱の責任は原ではなく山県系の軍人・官僚にあるとしている。膨大な政治資金を私物化しなかったことを原の清廉さとしているが、そもそも単に清廉な人間に膨大な政治資金が集まるものか。本書の原敬像には色々と留保が必要そうに感じた。

  • 東2法経図・6F開架:B1/2/2583/K

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著者プロフィール

1952年 福井県に生まれる
1981年 京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学
    名古屋大学文学部助教授、京都大学大学院法学研究科教授などを経て
現 在 京都大学名誉教授、博士(文学)

著 書
『大正デモクラシーと政党政治』(山川出版社、1987年)
『立憲国家の確立と伊藤博文』(吉川弘文館、1999年)
『政党政治と天皇』(講談社、2002年、講談社学術文庫、2010年)
『昭和天皇と立憲君主制の崩壊』(名古屋大学出版会、2005年)
『明治天皇』(ミネルヴァ書房、2006年)
『山県有朋』(文春新書、2009年)
『伊藤博文』(講談社、2009年、講談社学術文庫、2015年)
『昭和天皇伝』(文藝春秋、2011年、文春文庫、2014年、司馬遼太郎賞)
『原敬』上・下巻(講談社、2014年)
『元老』(中公新書、2016年)
『「大京都」の誕生』(ミネルヴァ書房、2018年)
『大隈重信』上・下巻(中公新書、2019年)
『最も期待された皇族東久邇宮』(千倉書房、2021年)
『東久邇宮の太平洋戦争と戦後』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2023年 『維新の政治と明治天皇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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