- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065207895
作品紹介・あらすじ
定年の日、最後の出社の帰り途に通い慣れた地下鉄で倒れた男。集中治療室にいるはずの男の意識はいつの間にか自由にさまよいだし、不思議な女と出会うーー。涙なくして読めない感動のラスト。人生のすべてが詰まった浅田文学の新たなる金字塔。
感想・レビュー・書評
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生みの親も知らず小さい頃には、児童施設で育った竹脇正一。
エリート社員として、65歳の定年を迎え、送別会の帰り、地下鉄で意識を失い、そのまま、病院に担ぎ込まれた。
家族や友人達が、見舞いに訪れるが、竹脇の意識は、戻らない。
そんな中、竹脇は、不思議な人達に誘われ、パラレルワールドに迷い込む。
優雅で貴族のような「マダム・ネージュ」と名乗る、老女。
自分自身人生は、何一つ語ろうとしない、秘密主義者の「入江 静」と名付けた60歳ぐらいの女性。
35歳ぐらいの、かつては戦災孤児達のカリスマだった「峰子」
彼女達と話し、出かけるうちに、孤独な幼少期、初恋の人、幼くして亡くした長男、様々な記憶が呼び起こされていく。
そして、3人の女性の正体が、ようやく理解できた時、涙が溢れ出した。
竹脇は、生死の狭間を彷徨っている時に、愛娘の事を、天使と呼び「その天使がもう一人の天使を連れてきてくれた」と言った。
娘婿を天使と呼べる関係は、とても素敵だと思えた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
親を知らずに大きくなった竹脇正一、65歳。自力で生きのび、サラリーマンとし勤め上げた定年の送別会の帰り、地下鉄で倒れる。集中治療室のなか、瀕死状態において、体外離脱のようなパラレルワールドの中をさまよう。医学的には、異常をきたしている脳の幻覚作用が、仮想現実を作り出しているのか。
このようなことは実際あるのではないだろうか。
今まで生きた中で、思いが深いこと、心残り、ひっかかっていたこととか。過去を回想することは、生きた証を辿ること。気持ちを整理し、この先のヒントにも繋がると気づいた所、良かったです。
ナビゲーターとして現れた峰子は竹脇さんに問う。
「君の夢を聞かせて」
「僕の夢はふつうの人間になることだった。子供のころから、それだけを希(ねが)っていた。むろん僕が憧れるふつうの人間たちから見れば、そんな夢はまるで理解できないだろう・・」
大学を出てサラリーマンになって結婚をして家を建てて子供を育てること。
その夢、叶った竹脇さん。一生の中でふつうを成し遂げることがどれだけ尊いか、つくづく思い知った。
自分の甘さ。食べるものにも学業にも、なんの不足もなく育ててもらった親のありがたみを思った。
ラスト、竹脇さんは!泣ける、というよりとても元気(生きる力というか)をもらえた本でした。 -
おもかげ 浅田次郎著
0.おもかげ より抜粋
「僕の夢は、ふつうの人間になることだった。
子供の頃からそれだけを希っていた。
むろん僕が憧れるふつうの人間からみれば、
そんな夢は理解できないだろう。
ただのコンプレックスではない。
そう思われるのを怖れて努力した。
ふつうの人間になる努力、ふつうの人間に見える
努力を。」
1.購読動機
泣きたかったからです。
涙には、いくつか種類があります。
悲しみの涙、ほっとして安心して流す涙、やりきれなくて、悔しくて流す涙などです。
2.おもかげ を読み終えて
この小説では、最後のページを読み終えたとき、悲しみの涙が、少しだけ安心の涙に変化します。
僕は、そうでした。
3.おもかげ の物語
商社マン。勤め上げ65歳定年です。
送別会の帰りに脳梗塞で入院、手術不可となります。
物語は、彼と彼の家族や看護師が回想を重ね、そして今の気持ちを赤裸々に語る形で展開します。
彼の出自は、両親がいません。
その彼の最期の間際には、彼自身の母が彼に寄り添いながら、彼の生まれ、就職、結婚、そして家族旅行の思い出を巡ります。
そこで、彼は何を見るのか?
生前に会えなかった唯一の肉親の母に最期に会えた彼が感じたものは何なのか?
4.最後に
いつその日がやってくるかもしれません。
当たり前のことです。
だからこそ、当たり前に、ひたむきに向き合って生きるのだと考えています。
#読書好きな人と繋がりたい
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ぐっとくる物語
浅田ワールド全開のファンタジーストーリ
これまた、地下鉄がキーワードになっています。
ストーリとしては、
エリート会社員の竹脇は定年の送別会の帰り、地下鉄で倒れて意識不明の状態に。病院には家族、友達が見舞いに訪れますが、そこで徐々に明かされる竹脇の人間関係、生涯。
さらに、竹脇の心は幽体離脱のように、この世と幻想?の世界を彷徨います。
その世界で出会った様々な人たち。交わされる会話から、自身の幼少期から人生を振り返ることになります。
そして、語られる最終章はずるい!
今までの伏線がすべて回収され、エンディングに向けて昇華されます。
熱いものがこみ上げます。
これまた、切ないながらも暖かい!
とってもお勧め! -
「自分が最も幸せだった頃」っていつだろう。
まだまだ先にあるかもしれないと思いたいが、竹脇さんのようにある日突然、死に直面することがあるのだから、自分も今日そうなるかもしれない。
それだったら「自分が最も幸せだった頃」って今でもあるはずだ。でも「最も幸せだった」ということは、今はそのときよりも不幸せということになる。じゃあ「自分が最も幸せだった頃」が思い付かないということは、今が最も幸せだということかもしれない。
この本を読んでてこんなことを考えた。 -
瀕死の重体から見たファンタジーの世界だった。主人公含め周辺の人々の生い立ちも不幸というか、当時は当たり前というべきか。時空が行ったり来たりして読み進めが難しかった。最後まで来て全てがやっと繋がったのだが、不治の病から生き返ったようにも取れるし、そんなわけはないだろうし。一度読んだだけでは理解不能?
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主人公の正一は瀕死でありながら、幽体離脱のように行動し自分の出自や人生を顧みます。死が近づいてる人の事は誰もわからないが、こういう事があってもいいじゃないか。正一が別れた人や祝福した人たちがいた地下鉄に思うところがあるのが分かってくる。ラストに自分の出自が明らかになっていく様と亡くした息子の登場に感動した。
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定年まで勤めた主人公が、送別会の帰りに倒れ、意識不明のまま病院へ。
彼を見舞う家族や友人の視点で、あるいは彼自身の臨死体験のような話で、物語が進む。
過去に戻るかのような夢と現を漂うかの出来事は、ファンタジー小説を好む読者には興味があるかも。
姉妹編と言われる『地下鉄に乗って』のほうが好みかな。 -
主人公は戦争孤児。65歳定年直後に倒れてからの臨死体験。過去の自分に戻って、その時の感情を沸き起こさせてくれる。臨死体験のナビゲーターのキャラが特徴的なのかな?自分は面白くなかった。
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65歳で定年を迎え、多くの人に惜しまれ送られた会の帰りに長年乗り続けた地下鉄で倒れた正一。次々と見舞客が訪れそれぞれが語り手となったあとで、自身で身体を離れて漂っていく。魅力的な女性に出会うけど、やがてその女性が誰なのかにたどり着く。棄てられたことはお互いにとって唯一の最善の手立てだったと恨まない。幼くして亡くした最初の子とも出会うけど、、、、。
描かれはしないけど、戻ってきて良かった。