花の下にて春死なむ 香菜里屋シリーズ1〈新装版〉 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065208090

作品紹介・あらすじ

年老いた俳人・片岡草魚が、自分の部屋でひっそりと死んだ。その窓辺に咲いた季節はずれの桜が、さらなる事件の真相を語る表題作をはじめ、気の利いたビアバー「香菜里屋」のマスター・工藤が、謎と人生の悲哀を解き明かす全六編の連作ミステリー。第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • オススメのビアバーを見つけた。
    三軒茶屋の外れにひっそりと佇む「香菜里屋」という小さな店である。
    常時4種類のアルコール度数の違うビールがおいてあり、その日の気分でビールの味わいが楽しめるのでビール好きにはたまらない。
    その上マスター手作りの、ビールにぴったりの旬の美味しい料理が、実にタイミングよく出されるのだから、料理目当てに訪れる客も多いはずだ。
    このマスター、料理上手なだけでなく聞き上手でもあり、お客の抱える心の重石にさりげ無く気を配り、いつの間にかお客の懐にするりと入りこみ重石を軽くしてくれる不思議な魅力も秘めている。
    夜の一時を楽しみ癒やされるため、そして店全体に醸し出される居心地の良さに、何度もリピートする客が後を断たない。

    常連客たちが賑わう一夜、客により持ち込まれる謎。
    客とマスター、そこに読み手も加わり繰り広げられる数々の謎解きには、必ずしも明確な答えが出る訳ではない。
    時になんの根拠もない推測で終わるものもある。
    けれどその曖昧さがとても心地よい余韻をもたらすのだから不思議だ。
    大人たちによる切なく、ビールのような苦味がほんのり効いた連作短篇集。
    無性にビールが呑みたくなった。

    シリーズ続編で再び「香菜里屋」を訪れることが今からほんと楽しみ。

  • マスターとある引っ掛かりを解いて行く様子や合間に提供する料理とビール、いいですね、シリーズが気になります。

  • ビアバー「香菜里屋」のマスターがお客が持ち込む謎を解く連作短篇小説。
    波があるわけでなくずっと平坦なイメージ。
    あまり入り込めなかったのはなんでだろ。

  • あら、美味しい小説でした( ^ω^ )
    ミステリー作家の北森鴻さん初読みだったのですが、工藤マスターの作る料理描写もドンピシャに美味しそうなビールの描写もたまらんですね。
    物腰柔らかく素敵なマスターと、美味しい料理とビールと、、完璧に揃った空間での謎解き。
    シチュエーションが最高すぎる。
    タイトルの美しさに惹かれて手に取りましたが、中身はなかなか渋めなミステリーでした。壮年の俳人、片岡草魚の正体を探る序章から、間に数話挟んで最後も草魚さんの謎でした。
    全て謎が解けてもあまりハッピーエンドでない話が多かったですね。でも不思議とスッキリしてるので暗澹とせずに楽しく読み終わりました。
    終の住処は、グッとくる感じですね。違う角度で見れば、必ずしも良い話ではないのですが。
    もぅ、追作が読めないことが惜しいです。

  • 名前は知っていたけどミステリー作家とのことで未読だった作家さん。2010年死去。版元のリツイートから"北森鴻を忘れない"のタグとその経緯を知り、とても愛読している人がいるんだな、と心うごかされて手に取った。新装版は華やかな装画が目を引く。

    ビアバーのマスターが客の話を聞いて謎解きをする。"推測"で終わってしまうパターンも多く、事実を確かめたり、犯人が自白をするようなシーンがない。登場してしゃべるのは基本的に常連客だけで、だから第三者である犯人が語る場がないのだ。ちょっと変わった作り。100%明らかにならない、そんなミステリーもありなんだなと・・・。
    どんでん返し、というのは大げさかもだけど、「そうだったのか」と思った直後にもう一度「えっ」と思わされることがある。やりすぎるとしつこく感じる手法だけど、楽しめた。
    マスターの工藤は、時に生死に関わる謎を前にしても常に一定で揺れない感じがする。いつも笑顔、とか穏やか、というのはずっと見ていると仮面のように思えそう。彼の内側にある感情を探してみたくなる。

  • 目次
    ・花の下にて春死なむ
    ・家族写真
    ・終の棲み家
    ・殺人者の赤い手
    ・七皿は多すぎる
    ・魚の交わり

    ‪以前、シリーズの最終巻を読んでしまったので、最初から通読することに。
    連作短編のミステリなので、短編一作を読んでも話は分かるが、店の常連やマスターとの会話でゆるく話が繋がってもいるので、やはりこれは順に読むべき作品と思った。

    舞台は、今でこそ珍しくはないビアバーの香菜里屋。
    それぞれアルコール度数の違う4種のビールを置き、客の様子を見ながら絶品の料理を提供してくれる。
    そして、客の持ち込むちょっとした謎をマスターの工藤が解き明かしてくれる、というもの。
    アシモフの『黒後家蜘蛛の会』を彷彿させるつくり。

    殺人事件がないわけでもないが、それは直接かかわるものではないので、毒はそれほど強くない。
    ただ、工藤のような人が身近にいたら、ちょっとしんどいかなあ。
    全てを見透かされそうで。
    いや、工藤の方がしんどいんだろうなあ。
    面に出さないだけで。

    年のせいか『花の下にて春死なむ』と『終の棲み家』が、ことによかった。
    ひとり、寒いアパートで震えながら死んでいくというのは嫌だけど、その枕元に季節外れに咲く桜があってよかったと思った。
    若者の生真面目な正義感から起こした行動が、一生ふるさとに帰ることのできない放浪生活を彼に強いたのだとしても、思った未来とは違う人生になってしまったけれども、決して不幸ばかりの人生ではなかったのだと思いたい。

    謎のすべてを明らかにするわけではないからこそ残る余韻。
    それは工藤の、作者の優しさなのだと思う。

  • 毎回、工藤が作る食べ物の描写が秀逸!
    すごい美味しそうに感じた。
    連作短編という作りになっており、その中でとりわけ好みの内容だったのは「終の棲み家」。そして全体的に馴染みのある場所やら駅名が出てくるので、読んでいて楽しかった。ミステリー小説だけれど切り口がよくあるミステリーと少し異なってる?ような気がしてなかなか面白いと思った。

  • 短編の名手!一つひとつの完成度が高く、それぞれがうまくリンクする。それとやはり、料理の描写か。もう新作が読めないのか残念でならない。

  • 北森鴻(個人的なポリシーとしてご存命でない作家は敬称略です)は、蓮丈那智フィールドファイルシリーズを読んだだけ(しかもシリーズ全巻でなくご本人で書き終えられた3冊のみ)ですが、いずれもお気に入りだったので、今回の新装版刊行を機に、この香菜里屋シリーズにも手を出しました。

    三軒茶屋の駅近くの袋小路にある小さなビヤバー「香菜里屋」を舞台に、客が持ち込む謎をマスターの工藤哲也が解く。
    こう聞くと、有栖川有栖さんの「山伏地蔵坊の放浪」や、近藤史恵さんの「タルト・タタンの夢」に始まる〈ビストロ・パ・マル〉シリーズの様なイメージを思い浮かべていました。

    そのイメージは、香菜里屋が行ってみたくなる店であること、マスターの工藤さんの謎めいた、でも親しみやすそうなキャラと彼の提供する美味いビールや料理が魅力的という点に関しては当たっていました。
    いや、ほんと近くにこんな店ほしいです。
    そう頻繁にはいけそうもないけど。

    イメージと異なっていたのは、持ち込まれる謎とその背景にある物語が、存外、生々しく時になまめかしく「生」を感じさせるものが多かったことです。そのせいか、謎が解けた爽快感は低めです。
    そもそも謎解きというより推測にしか過ぎない漠然とした終わり方のものもありますしね。
    最初の一編で、それに一瞬抵抗感を持ったのですが、工藤さんのキャラと料理込みでの香菜里屋という魅力的なスペースが、ざわつく心を癒やしてくれたのも事実です。
    なので、☆5つとはいかなかったものの、もう少し香菜里屋には足を運びたいと思います。

  • #北森鴻を忘れない―。著者没後10年の昨年を機に、旧作が幾つか復刊されている。この<香菜里屋シリーズ>もその内のひとつ。三軒茶屋の路地裏にひっそり佇むビアバーのマスター・工藤が常連客の持ち込む様々な謎に名推理を光らせる、所謂【安楽椅子探偵】もの。孤独死を遂げた老俳人の過去を追う表題作は昭和史ミステリーとトラベルミステリー、双方の趣を兼ね備えた秀作で、今作の中で頭ひとつ以上抜きん出ている。それ故に、他の収録作品はどうしても見劣りしてしまう。後日談となる「魚の交わり」は少々蛇足的だが、トリッキーさが一際光る。

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著者プロフィール

1961年山口県生まれ。駒澤大学文学部歴史学科卒業。’95 年『狂乱廿四孝』で第6回鮎川 哲也賞を受賞しデビュー。’99 年『花の下にて春死なむ』(本書)で第 52 回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門を受賞した。他の著書に、本書と『花の下にて春死なむ』『桜宵』『螢坂』の〈香菜里屋〉シリーズ、骨董を舞台にした〈旗師・冬狐堂〉シリーズ 、民俗学をテーマとした〈蓮丈那智フィールドファイル〉シリーズなど多数。2010 年 1月逝去。

「2021年 『香菜里屋を知っていますか 香菜里屋シリーズ4〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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