《英雄》の世紀 ベートーヴェンと近代の創成者たち (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065220450

作品紹介・あらすじ

ベートーヴェンはナポレオン戴冠の知らせを聞いて作曲中の第三シンフォニーの楽譜を床にたたきつけたといいます。「ボナパルト」なるタイトルを持つはずだったこの交響曲は標題をあらため、英雄交響曲《シンフォニア・エロイカ》として発表されました。ナポレオンに落胆したものの、革命の時代に終止符をうつ「英雄」を待望していたのです。
ドイツ人作曲家ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770-1827年)の生きた18世紀から19世紀にかけてのヨーロッパは、革命の進行する激動の世紀でした。この時代の人々にとって、自前の代表者をもちえないドイツですら、「英雄」とは実在する観念でした。どのようにして英雄像はリアリティを持ったのでしょうか。
馬上のナポレオンを目撃したヘーゲル。皇帝となったナポレオンに謁見したゲーテ。
ナポレオンという「英雄」は幻想にすぎなかったのか。ベートーヴェンの生涯をたどりつつ同時代の偉人たちをとおして、「英雄の世紀」を臨場感あふれる筆致で描きます。
西洋史の泰斗が達意の文章でおくる近代創成のロマン!!

【本書の内容】
はじめに
第一章 英雄(エロイカ)の世紀
第二章 啓蒙の賢人から普遍の天才へ
第三章 啓蒙都市民の誕生
第四章 ヨーロッパ国際関係のなかのドイツ
第五章 ナポレオン革命
第六章 ナポレオン・ショック
第七章 市民と英雄
第八章 古典主義からロマン主義へ
第九章 静穏の一八二〇年代
主要参考文献
学術文庫版あとがき
略年表

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  • 神聖ローマ帝国三十年戦争は新旧キリスト教の覇権争いであったが、散発的戦闘が長期化し、なんら実りなく講和に至った。帝国の権威は大いに失墜し、代わりにオーストリアが台頭した。フリードリヒ大王の下国力を増やしたプロイセンは、オーストリアと王位継承戦と七年戦争を戦った。
    仏革命後、18世紀後半からのヨーロッパは英雄の時代である。古い貴族の支配を打ち壊し、個人の才覚で市民を解放する英雄である。その時代の目撃者、ゲーテ、ベートーベン、ヘーゲルもまた、個人の人格の発露を全面に押し出す創作を行なった。
    天才とは衆愚には思いも付かない価値を初めに発見するものである。ナポレオンは軍事的天才であった。
    皇帝即位後、民法典制定、初等教育の拡充、都市整備、国民軍の規律化等の成果を上げた。
    その頃、神聖ローマ帝国帝国は皇帝退位により消滅した。元々有名無実化しており、800年の帝国の歴史はあっけなく終わった。
    ナポレオンの軍下に落ちたプロイセンは絶対主義的国家を維持できず、民主主義、自由を基調とする改革を行わざるを得なかった。
    スペイン内乱鎮圧に苦戦しナポレオンの没落が始まった。ナポレオン戦争の後始末としてウィーン会議が開催、会議は踊るされも進まずと評される。各国は自国の既得権復活のみに執着し無為な舞踏会ばかりが行われた。仏革命以降の改革は旧態に戻された。
    しかし社会構造の変化は不可逆的に進んでいた。七月革命により再び市民革命がなされたように、ウィーン体制は綻びを見せていった。

  • 楽しく、高揚した気分で読めるような、大げさともとれる表現のつながりが、ベートーヴェンのシンフォニーにような効果をあげる・・・ことをねらった本だと思う。フランス革命から19世紀にいたる、ヨーロッパの歴史を堪能できる。

  • 近代化に向けた革命の時代の英雄達に関する本。ベートーベン、ナポレオン、ゲーテの時代。宝塚歌劇雪組公演fffの背景を理解したくて読み出した本。
    貴族の時代の終わりの始まり。揺れ動き、逆戻りすることもあっても社会が変化を始めた時。
    宝塚でのいろんな公演を観てきたおかげで、分かる名前が増えて興味をもって読みきれた!高校時代は世界史も文化史も苦手だったのに、おもしろいんだ!と思えたことが発見でした。
    雪組公演の"人間の時代"と歌っている場面が頭の中で流れてくる。

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著者プロフィール

 印刷博物館館長。東京大学名誉教授。専門は、西洋中世史(フランス中世史)、西洋文化史。
 1941年東京都生まれ。1965年東京大学文学部卒業、1968年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。1969年京都大学人文科学研究所助手。1976年東京大学助教授、1990年東京大学教授、2001年退官。この間、文学部長(1997年4月〜1999年3月)、史学会理事長(1999年6月〜2001年5月)を歴任。2001年国立西洋美術館館長を経て、2005年10月より現職。2005年紫綬褒章受章。
 東京大学在学中は、日本における西洋史学研究について、その文明史的な存在意義を主張して西洋中世史研究の「中興の祖」とされる堀米庸三の下でフランス中世史を学ぶ。12世紀中葉からの北フランスに勃興した大聖堂などの宗教建築様式で知られる「ゴシック」を生み出した中世思想をテーマとして研究者歴を刻む。次第にその後、研究領域を西洋文化史全般へと移行させていったことから、おのずと対象とする時代も拡張されて近世・近代にもおよぶ。風土や町、身体や美術、とりわけ絵画などを題材とすることにより、斬新な視点から西洋史の読み取りに挑戦していく。こうした新しい歴史記述の試みは、その平明な記述とあいまって、研究者だけでなく多くの一般読者にも支持されている。

「2015年 『ヨーロッパ近代文明の曙 描かれたオランダ黄金世紀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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