風神雷神 (上) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065221860

作品紹介・あらすじ

扇屋の絵師から法橋にまで登り詰めた鬼才、俵屋宗達。生没年不詳の男の一生を、同じ時代を生きた天才らとの出会いから紐解く、波瀾万丈、一気呵成の歴史エンタテインメント。


評判の扇屋「俵屋」の後継ぎとして大旦那の養子となった伊年は、秀吉が開催した醍醐の花見で見た屏風絵や、出雲阿国の舞台、また南蛮貿易で輸入された数々の品から意匠を貪る。
彼が絵付けをする「俵屋」の扇は日に日に評判を増していた。伊年が平家納経の修繕を頼まれ描いた表紙絵は、書の天才、本阿弥光悦の興味を惹く出来となる。
伊年は嵯峨野で出版・印刷事業を始めた幼馴染みの角倉与一より、光悦が版下文字を書く日本語書物の下絵を描かないかと持ちかけられる。その料紙を手配するのは、これまた幼馴染みの紙屋宗二。かくして本朝の美と叡智の粋を結集した「嵯峨本」が完成した。
次に、伊年が下絵を描き、光悦が書をしたためた「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」が完成。京の知識人はもちろん、伊年自身もその出来に驚嘆し、涙を流す。
その後光悦に鷹峯へ共に移住しないか問われた伊年は、嘗て観た阿国の舞台や来し方を脳裏に浮かべ、誘いを断り、俵屋を継ぐ決意をした。

感想・レビュー・書評

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  • まだ上巻ですが、歴史小説としてめちゃめちゃ面白い、俵屋宗達の物語です。江戸と戦国時代の間、慶長という時代の中を歩いてる気分になります。それは、俵屋宗達の扇から、出雲阿国のかぶきをどりから、本阿弥光悦の書から時代の空気感や人々の暮らしや思いが再現されているからです。あぁ、こんな時代なんだなとつくづく歴史の面白さや醍醐味を味わえました。柳さんの短くリズムある文章は傑作ミステリーの「ジョーカーゲーム」からさらに冴えに冴えわたっています。宗達は、絵のこととなると寝食をわすれて「過集中」します。また、平家納経の絵巻を見た際に絵から音を感じる「共感覚」という特異な感覚をもっています。宗達という人物の天才性と発達の特性という部分まで書き込んでいることに驚きました。ミステリー由来の緻密さが随所に生きていることは見逃せません。
    また、現代的な感覚から慶長年間の様相を捉えていています。「出雲阿国は時代のファッションリーダー」「慶長年間の京はバブル景気」分析も端的で正鵠を射ています。こうやってよい本と出会えると本当に嬉しくなります。

  • 物語は、秀吉治世の末期、醍醐の花見の場面から始まる。扇屋「俵屋」の養子伊年は、絵の才能は秀でているものの、どこか間の抜けた、芒洋とした若者だった。そんな伊年だったが、絵職人として頭角を現し、出雲阿国から刺激を受け、厳島神社奉納品の修理修繕を手掛け、本阿弥光悦に見出だされると、国書活字印刷本の版下下絵を皮切りに、嵯峨本(角倉本、光悦本)や絵巻の下絵を手掛け、着々とその才能を開花させていった。

    上巻は、本阿弥光悦が鷹峯に移り住むことになったのを契機に、芸術から商いへと軸足を移すところまで。劇的なエピソードなどはなく、幼馴染みの紙師宗二や光悦ら、当時一流の芸術家たちとの交流を中心に、伊年(宗達)の日常が淡々と描かれている。

    ネットで見たら、確かに、嵯峨本や「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」「四季草花下絵古今集和歌巻」など、いずれも素晴らしい作品だった。

    光悦流の文字の特徴を「時代を飛び越えて二十世紀のジャズに隣接するJ・S・バッハの音楽を思わせる」、「四季草花下絵古今集和歌巻」を「まるで、目でジャズを見ているようだ」と表現したりしていて、著者のユニークな感性も楽しめた。

  • ぼけーっとした表情で佇む男。名は伊年。扇屋「俵屋」の後継なのだがなんとも頼りない...。この男が後の俵屋宗達になるのだから驚き。

    歳と共に才能を光らせていく伊年。本阿弥光悦、烏丸光広との運命的な出会いもあり、読者は伊年の目を通して感性が毛穴からブワッと広がっていく様、才能が研ぎ澄まされ、開花していく様を体験できることと思う。そしてそれぞれの作品の描写が音楽的に表現されており、そこも見どころの一つ。「絵屋」と「絵師」の違いとかも今作で初めて知り、へぇー、なるほどね!と知識欲も満たされる。

    先日たまたま建仁寺で風神雷神図を見てからの本屋でこの作品をみたので「あっ」と思った時にはもう手にして買っていた。

    芸術に携わるもの、芸術を愛するものに興奮、感動、情熱を注いでくれるような作品。とてもよかったです。

  • 太閤秀吉の時代から徳川の世へ。
    その時代を生きた天才絵師俵屋伊年(宗達)。
    天才とは言えど、やはり友だったり、京の文化人、本阿弥光悦の存在だったり。恵まれた環境だったのも確か。
    伊年が扇屋の「ぼんくら」って呼ばれてたのはいいね。親しみが沸く。
    晩年の秀吉が狂気的だったのは、不老不死を求め「水銀」を摂取していたのが原因。という説に少し納得してしまった。当然「腐らない」と「死ななない」はイコールではなく、毒でしかないのだが。下巻も楽しみ。

  • 原田マハさんの風神雷神に続いて、ようやく柳さんの風神雷神も読み始めました。

    ※風神雷神 Juppiter,Aeolus(上)
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4569843875#comment

    ※風神雷神 Juppiter,Aeolus(下)
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4569843883#comment

    どちらも史実をもとにしつつも、大部分がフィクションというストーリーっぽいので、
    お互いの個性が出てきていて、読み比べるだけでも面白いです。
    (といっても、二人の作品をそんなにたくさん読んでいないので、
    それぞれの作家の個性を自分がちゃんと理解している訳ではないですが。)

    原田マハさんのストーリーはかなりぶっ飛んでいて、
    空想って感じのストーリーだったので、
    柳さんのストーリーの方がより現実っぽい気分にさせてくれます。

    下巻を読むのも楽しみで仕方ありません。

    ※風神雷神 (下)
    https://booklog.jp/item/1/4065221870

  • 舞台も登場人物も華やかで艶やか‼️
    才能の開花にはこれくらいの数奇な出会いが必然として訪れるものなのか、と。

  • 原田マハ版を先に読んでいるのだけど、柳広司も魅力的すぎると思い、購入(笑)

    商売人としては「ぼんくら」の、俵屋宗達。
    そしてその類稀なる芸術的才覚。
    上巻では、出雲阿国や本阿弥光悦と出会う様子が書かれている。

    語り手を現代人にしたのが良いのかどうなのか、時々、現代風の言葉が挿入されることで、ストーリーがプツリと切れるような感覚もあるのだけど。

    しかし、本阿弥光悦と紙屋宗二とのコラボレーション作品「鶴図下絵和歌巻」を完成させる所の盛り上がりは、鳥肌モノです!!
    検索かけて、おおぉっ、コレかぁー!と感動してしまった。

    このテンションで下巻に進むー。

  • 文章の読み易い作家の印象はあった。
    この作家が書く俵屋宗達はどの様な物かと読んだが、期待通りの面白さだった。
    上巻が気になる所で終わったので下巻が益々気になる。

  • ――

     良質な古美術エンタメ。


     不必要に時代がからない軽妙な筆も、京都らしい(良い意味のほう)洒脱なキャラクターとよくマッチしていて非常に読みやすかった。落とし所も含めて、その分軽薄だとも云えるけれど、自分は古美術入門程度なので素直に面白かったです。
     タイトルにもなっている風神雷神図屏風を、宗達の絶筆とする構成にも賛否諸説はあろうが、物語的にはとても良い重心だと感じる。風神雷神図屏風の持つ、圧倒するような恐ろしさと何故か感じる滑稽さ、愉快さ…そんなものに、しっくりとくる説明が付いたようで気持ちよかった。

     また作者の美術的な目線、あるいは美学的な目線にも驚かされる。ひとりの人生を追い掛ける中に、現代へと続く美術感、美的センス、と云ったものの源流があるように見えてぎくりとした。特異点、なのだろうか。彼に至るまでの美しさの混沌が、彼の中で収斂してそこからまた解き放たれるような。そのセンスに、いつまでも流されているようなものだ。次の特異点を待ちながら。

     ☆3.4。

  • 俵屋宗達の一生の様な小説。
    序盤から引き込まれかなり面白い。
    まだ下巻は読んでいませんが、上巻だけでもかなりの高評価です。
    宗達の幼なじみや出雲阿国、本阿弥光悦との出会いなど微笑ましくもあり、艶もあり感動もありと素晴らしい。
    柳広司さんの作品は初めてでしたが、期待以上。
    下巻もかなり楽しみです。

    阿国が言ったあんたの顔はこうやみたいなセリフは伏線なのか、そうでもないのか気になるところ。

    俵屋宗達や風神雷神図屏風、本阿弥光悦などに興味がある方にはおすすめです。

    2022/1

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著者プロフィール

一九六七年生まれ。二〇〇一年『贋作『坊っちゃん』殺人事件』で第十二回朝日新人文学賞受賞。〇八年に刊行した『ジョーカー・ゲーム』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。他の著書に『象は忘れない』『風神雷神』『二度読んだ本を三度読む』『太平洋食堂』『アンブレイカブル』などがある。

「2022年 『はじまりの島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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