徳政令 中世の法と慣習 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065225622

作品紹介・あらすじ

 永仁の徳政令――日本史上、飛びぬけて有名なこの法の本質を「「もとへもどる」という現象」と喝破し、躍動する13世紀の社会を深く鮮やかに描き出した不朽の名著、待望の文庫化!
 日本人は「所有すること」をどのように捉えていたのか。サブスクリプション制やフリマアプリの登場によって、所有の概念がかつてないほど揺らいでいる今こそ読みたい、中世人の法と慣習を解き明かす一冊。(原本:岩波新書、1983年)

 「今国家の債務を消すために、その他一切の債権債務を破棄する、つまり天下一同の徳政を実行すれば、日本経済は収拾のつかない混乱におちいるかもしれないし、意外にも大したことなくすぎてしまうかもしれない。いずれにせよ、少なくとも現時点ではそれが「夢のような話」にすぎないことはいうまでもない。
 だが、中世社会ではそれは夢ではなかった。永仁徳政令B‐3条のように、あるいは室町幕府の徳政令がもっぱらそれを主張していたように、債権債務破棄の徳政令を発布するという現実的な道があったからである」(第一〇章「新しい中世法の誕生」より)。
 日本の歴史のなかでも、単行法としてずば抜けて有名な法「永仁の徳政令」。永仁五(1297)年に出されたこの法は、21世紀の日本のみならず、制定された13世紀当時から有名な法であった。現在からは想像もつかないが、法の実在さえ法廷でまじめに争われた時代にあって、ある法の存在を同時代の人々が短時日のうちに共有したということ自体が、極めて異例のことであった。実際に、永仁の徳政令の立法からわずか二週間後には、この法に基づいた訴訟が起こされて、土地が返却されている。その後も、この法に基づいて多くの土地が売り主のもとに戻ることになった。
 新幹線もSNSもない時代に、なぜこのようなことが可能だったのか。そしてなぜ徳政令は、現在もなお異色の有名法であり続けているのか。そもそも幕府自身は当初そう言っていなかったにもかかわらず、この法はなぜ「徳政」と呼ばれたのか。
 永仁の徳政令にまつわる数々の謎を解き明かし、売買や贈与から浮かび上がる所有に対する意識や、「天下の大法」と呼ばれる社会規範の存在、幻の政治改革「弘安徳政」、さらにその背後にある合理主義的な政治的思潮の登場に至るまで、この不思議な法を軸に中世社会の本質に迫る。著者のエッセンスがふんだんに盛り込まれた日本中世社会史の金字塔!

【主な内容】
一 無名の法、有名の法
二 徳政令の出現 
三 なぜ徳政なのか 
四 天下の大法
五 贈与と譲与
六 消された法令
七 前代未聞の御徳政
八 人の煩い、国の利
九 徳政の思想
一〇 新しい中世法の誕生
あとがき
解 説(小瀬玄士)

感想・レビュー・書評

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  •  本書が83年岩波新書黄版として刊行されたころは、網野氏を始めとする日本中世史に関する著作や論文が一般読者にも届き出していた頃だった。その一翼を担っていた笠松氏の著名な本書が学術文庫入りしたことは、感慨を覚える。

     一般読者向けの新書ということもあるのだろうが、改めて読んでみて、読書の関心を次から次へと引っ張っていく展開の妙に感心したし、何よりも文章が取っつき易い。もっとも、その一文一文の背後に相当の史料探索や関連領域研究の蓄積があることが窺われる。

     日本史上に有名な永仁の徳政令。なぜ「徳政」と呼ばれたのか、どうしてこれほど人口に膾炙したのか。
     鎌倉期の法令の在り方、土地を巡る争いと裁判の方式から始まり、あるべきところへ戻す徳政の本質、仏物・僧物・人物の区分と境界、「贈与」の特性、安達泰盛の改革と公家法の変革などなど、興味深い考察が次々に俎上に上る。 

     現代の人間の眼からは、どうしてこんな法制が実施されたのか不思議に思ってしまう徳政令について、考えるヒントをたくさん与えてくれる、名著と読んで相応しい一冊。

  • 徳政令の背景、思想について触れた一冊。難しい。

  • 1983年に刊行されたものの文庫版。永仁の徳政令を題材に、この法を人口に膾炙せしめた当時の社会情勢と法意識を描き出す一冊。中世法の基礎・法の根源となった社会慣習・前史にあたる弘安徳政など興味深い論点が多い。

  • 徳政令とは、幕府を維持するため、御家人を主体としたクーリングオフのようなものか。

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著者プロフィール

1931年、東京都生まれ。現在、東京大学名誉教授 ※2023年1月現在
【主要著書】『日本中世法史論』(東京大学出版会、1979年)『法と訴訟』(編著、吉川弘文館、1992年)

「2023年 『中世の裁判を読み解く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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