硝子戸のうちそと

著者 :
  • 講談社
3.09
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065235515

作品紹介・あらすじ

 夜中にふと目が覚めた。そんなことはこの夜に限ったことではない。若いころなら枕に頭をつけた途端に寝入って朝まで目覚めないのが当り前のことだった。今はそうはいかない。何度寝返りを打っても廊れないときは眠れない。そういう日は手洗いに行き、睡眠薬を服用してから寝床に戻る。そうして何とか朝方まで寝入る。目覚めた時間が六時、七時だと起きてしまう日もあれば、それから九時、十時までぐっすり睡る日もある。
 今夜は私一人である。隣りで寝息をたてたり寝返りを打つ音がまるで聞こえてこない。私は臆病だから私を取り巻く静寂な闇が、私を抑えつけて胸を圧し潰したりしないか、とビクビクしている。
 でもその夜は一人きりのわりには、不思議なほどこわくなかった。もう老人だものなぁ。私がお化けになって人に恐がられる日も間近いのかもしれない。そんなことを考えた。
 夫は今朝入院して、今はいないのである。……
 夫が救急車で入院するのもおそらく珍しいことではなくなって、その回数も増えていくであろう。私がその都度うろたえないように、あわてないように、と神様が私に練習の機会を今日は与えて下さったのであろうか。
 八十七歳と八十二歳の夫婦には、やがては無に帰する日が来るのであるが、その日が来るまで長く生きていくのは、それほど容易なことではない。試練はまだこれからか。とにかく年を取るということは、避けることができないだけに、大変な大仕事なのである。

年を重ねると同じものが別のように見え、かぎりなく愛しくなってくる。一族の歴史、近所のよしなしごと、仲間たち、そして夫との別れ。漱石の孫である著者によるエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 半藤さんを追ううちに、奥さまにまで及んでしまった(笑)


    ラストの「夫を送る」を読みたくて買ったのですが、思いがけず がっつり漱石や、漱石家族の話もうかがえて、楽しく読めました。

    ときどき飛び出す男言葉が、面白くて小気味いい。

    漱石夫人・鏡子さんの本「漱石の思い出」もぜひ読みたい。

    「あなたにこんなことをさせるなんて…」
    と涙ながらに末利子さんに詫びたという半藤さん。

    最後まで奥さまを愛し、敬っていらしたんだなぁ…
    奥さまが羨ましい。

    タイトルの元ネタは漱石の「硝子戸の中(うち)」。
    読み比べしたいです。

  • 夏目漱石の孫である著者が『硝子戸のうちそと』なんて本を出したら、それは夏目漱石に関する思い出だと思うじゃない?

    確かに最初こそ漱石だったり、その妻の鏡子の思い出を書いてあるけれど、ほとんどは身辺雑記。
    ご近所さんとのやり取りなんかは、こんなに赤裸々に書いていいのだろうかと心配になるくらい。

    そして最後は夫である半藤一利の晩年の様子。
    こちらもまた赤裸々。
    キリっと切れ味のある文章は、彼女が江戸っ子だからなのでしょうか。

    酒好きの夫が入院に際して認知機能テストを受けた時のこと。
    ”「酒がいちばん好き」だの「酒がいまいちばん飲みたい」とホザくから、この男は罰が当たったのである。「いちばん好きなのは妻です」と言っておけばよかったのに。”
    としれっと書く潔さ。

    ”いずれ人口がどんどん減っていくのがわかっているのに、高級な商業施設を備えた巨大ビルをドカンといたるところに建てて、明日の日本はどうなっていくのだろう。”
    これ、数年前の渋谷について書いているのだけれど、私がいまの札幌を見て思っていることがそのまま書かれているかのようだ。

    半藤一利が亡くなる日の真夜中、突然「起きてる?」と声をかけてきた彼が続けた言葉。
    「日本人ってみなが悪いと思ってるだろ?日本人は悪くないんだよ。墨子を読みなさい。二千五百年前の中国の思想家だけど、あの時代に戦争をしてはいけない、と言ってるんだよ。えらいだろう」
    そう言って、また静かに眠りについて、朝起きてこなかったのである。
    本当に最後の言葉。

    ずっと戦争の愚かさを訴え続けた彼の最後の言葉で、涙がこぼれてしまった。

  • 漱石の孫とういことで有名?いや夫があの半藤一利氏で有名?いやいやそれを差し引いても面白く読みやすいエッセイで、著者の他の本もぜひ読みたい。
    漱石は今でいうDV夫だった時期があったらしい。
    いくら神経症を患ってイライラしていたとしても、女子どもに手を上げるとは文豪でも私も中では評価が下がるわ。
    次女の恒子さんは可哀そうだった。
    意に添わぬ人と結婚させられ、ひどく苦労し30代の若さで亡くなったとか。
    著者の母は漱石の長女で筆子さんは長寿だったらしい。
    住んでるところが山の手らしく、近隣は大学の教授や竹下景子夫妻など有名人もちらほら。
    それにしても、かの半藤一利氏をバカ男と明言するあたり、ほんとに可笑しい。
    でも、つくづくあの日酔っ払って転んで大腿骨さえ折らなければ、もう少し長生きできたかもしれないね。
    そのあとの顛末も不運続きで、憤懣やるかたないことこの上ない。
    遺言の「墨子を読みなさい」の言葉。
    徹子の部屋で徹子さんに、それで読んだんですか?と問われ笑いながら読んでません、といった著者が好印象だったわ。

  • あけすけでユーモアがありシビアに批判しながらも上品だ。ほとんどが夏目漱石夫人がらみの話。
    最後の夫との別れは案外にページ数が少ない。まだなくなってすぐのことだったのかもしれない。でも生きている時の楽しい思い出がたくさんあったのがうかがわれて良かったです。

  • 80歳を過ぎた女性が書いたと思えないほど、楽しくざっくばらんな文章だった。漱石の孫だった著者が祖母(漱石の妻)鏡子を女豪傑として様々なエピソードを書いているが、中々どうしてこの人も、豪傑としか思えない。あの半藤一利がまるで子どものように面白く描かれており、微笑ましい限りである。「付き合い切れないバカ男」大バカヤローのコンコンチキは一利氏の飲酒好きな面が面白おかしい。近所付き合いで竹下景子、80歳を過ぎた女性が書いたと思えないほど、楽しくざっくばらんな文章だった。漱石の孫だった著者が祖母(漱石の妻)鏡子を女豪傑として様々なエピソードを書いているが、中々どうしてこの人も、豪傑としか思えない。あの半藤一利がまるで子どものように面白く描かれており、微笑ましい限りである。「付き合い切れないバカ男」大バカヤローのコンコンチキは一利氏の飲酒好きな面が面白おかしい。近所付き合いで竹下景子、大河内桃子の家族が紹介されるところも興味深い。一利氏が亡くなった日の早朝の言葉、実質的な遺言が凄すぎる。「墨子を読みなさい。二五〇〇年前の中国の思想家だけど、あの時代に戦争をしてはいけない、と言っているんだよ。偉いだろう。」最後まで平和を考えていたということの証左だ。竹下景子、雨宮塔子、大河内桃子たちの家族が紹介されるところも興味深い。一利氏が亡くなった日の早朝の言葉、実質的な遺言が凄すぎる。「墨子を読みなさい。二五〇〇年前の中国の思想家だけど、あの時代に戦争をしてはいけない、と言っているんだよ。偉いだろう。」最後まで平和を考えていたということの証左だ。

  • 夏目漱石の住んでいた家で暮らした少女時代
    漱石の弟子たちとの交流
    それにしても、本当に半藤一利は著作が多い

  • ふむ

  • 夏目漱石の孫であり、半藤一利の妻である、半藤末利子のエッセイ。
    祖母、鏡子の豪快なエピソードや半藤一利の見取りまで、とても興味深く読んだ。

  • 新聞広告うっていたのですかさず読んでみたがここまで肩透かしとは。夏目漱石の孫というだけでなんだか上流気取り。それを堂々とひけらかすことに辟易し、内容も本当につまらない。
    後半のご主人の闘病記も人に対する当て擦りの多さに悲しくなった。今年一番のがっかり作品。

  • (借.新宿区立西落合図書館)
    最初はいつもの漱石関係、途中からは近隣など日常中心、その中でも病・老・死の話題が多くなっている。そして最後は夫である半藤一利氏の最期のみとりの話。やはり年取ってからの転倒はいろいろ危険なんだと思う。そしていろいろな老いの話は年寄りの入り口に立つ者にとっては少々きついものがある。それでも死に向かって生きていくしかないのだが。

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著者プロフィール

半藤末利子(はんどう・まりこ)
エッセイスト。1935(昭和10)年、作家の松岡譲と夏目漱石の長女筆子の四女として東京に生まれる。1944(昭和19)年、父の故郷である新潟県長岡市に疎開、高校卒業まで暮らす。早稲田大学芸術科、上智大学比較文化科卒業。夫は昭和史研究家の半藤一利。六十の手習いで文章を書きはじめる。夏目漱石生誕150年の2017(平成29)年に新宿区立漱石山房記念館名誉館長に就任。著書に『夏目家の糠みそ』『漱石夫人は占い好き』『夏目家の福猫』『漱石の長襦袢』『老後に乾杯! ズッコケ夫婦の奮闘努力』『老後に快走!』がある。


「2021年 『硝子戸のうちそと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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