真・慶安太平記

著者 :
  • 講談社
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065249987

作品紹介・あらすじ

慶安太平記に新説あり。我々は又、正雪に魅了される。ーー神田伯山(講談師)

徳川の治世。戦世は遠くなり、政は将軍の意をくむ老中たちの掌中。度重なる改易によって主家を失い、幕府に恨みを抱く牢人があふれる江戸市中に一人の兵法者が現れる。名は由比正雪。その恐るべき企みとは。

夥しい血を流して平らげられた世を、命がけで守り抜こうとした男たち、女たち。
由比正雪の乱として知られる「慶安の変」の裏で、何があったのか。綿密な取材と大胆な仮説を元に歴史の脈動をあますところなく描ききった、書き下ろし大河歴史小説。

「慶安太平記」
慶安の変(由比正雪の乱)の実録本。のちに講談、歌舞伎の演目に脚色された。圧倒的な存在感を放つ乱の首魁・由比正雪が幕府へのクーデターを企て、天才的な人心掌握術を用いて人集めと金集めを着々と進め、計画を実行に移していく様を描く。異能の登場人物たちの躍動、壮絶なラストシーンが名高い。

〈目次〉
序章
第一章
 将軍と弟/大御所の病/保科家相続/暗闘の果て
幕間
第二章
 我が世の春/天地の違い/徳川の末
幕間の二
第三章
 将軍の死/疑わしき男/変の真実
終章
後記

感想・レビュー・書評

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  • なぜ幕府は、一介の町家の兵法者の企てを、事前に察知することができたのか。
    由比正雪の乱(慶安の変)の背景を、独自の切り口で描いた時代小説。

    実父・秀忠のお目見えが叶わず、微妙な立場の、保科正之。
    兄・家光に目を付けられ、自らを抑えて生きる、松平忠長。

    たった1度の邂逅だが、異母兄弟の交流がさわやかで、印象に残る。

    不遇の時代を堪え、家光による引き立てがあっても、決して思い上がらない。
    腹黒い人間が多い中、謙虚な姿勢の正之に、好感が持てる。

    由比正雪の乱にそこまで詳しくなかったので、新説と言われても、あまり感慨がなかった。
    もっと詳しいと、驚きがあるのかも。

  • 元和偃武というものの、市中には牢人があふれて世情は騒然。江戸城も狂気の家光のもと、出世と生き残りをかけ水面下の陰湿な戦いが繰り広げられます。手のつけられない家光の恐ろしさ、そして、才あれど徳なしといわれた知恵伊豆の冷酷非情さ。謙虚で聡明な保科正之を加えて、三者がみせる緊迫感は、やがて、由井正雪の動向と共にクライマックスを迎えます。虚実皮膜。これぞ歴史小説の醍醐味。ほんとひさびさに面白くて一気に読み切りました。

  • 江戸時代初期、家康、秀忠に続く三代将軍、家光が亡くなり、幼い嫡男家綱による将軍宣下の直前に起こった慶安の変。市中の兵法者、由比正雪による謀反とされるが、この由比正雪、実は秀忠の三男(異母兄弟)忠長であったという解釈が、この「真・慶安太平記」。
    秀忠の四男にあたる保科正之が軸となって、家綱の世でも磐石な権力を固持したい老中、松平信綱との心理戦のように話が進む。
    歴史は、時の権力者が伝えたいように、語り継がれていく。ただ、残った史料が時を経て語り始め、作家の目に止まり新解釈も成り立つというのが面白い。
    事実がどうであったかは、分からない。ただ、忠長の無念、正之の辛い選択に思いを馳せるのみ。立場は人を変えるけれど、やはり自分の信念こそが自らの行動を決める。
    おなあの、水鏡の例えが心に響いた。水は平らでないと、鏡の役目をはたさない。すべてを受け止め、ありのままにお返しするのみ。

  • 由比正雪が誰なのか、何をした人物なのか知らず読むがストーリーは分かりやすく、保科正之目線で話は進む。
    保科の性格、藩主としての威厳がないのがもどかしく肩入れしてしまう書き方やくどくない説明にあっという間に読み終え、江戸期の知識も増えいい時を過ごした。

  • 由比正雪というと、星新一の著に何度も出てきて、傾倒してたのだろうと感じたのが真っ先に出てくるくらい、史実に関しては無学。
    そのせいもあってかどーにも難しく呑み込めなかった。
    [図書館·初読·1月31日読了]

  •  真保裕一さんの作品を読む機会は減ってしまったが、本作は時代物ということで手に取った。自分は真保裕一さんの時代物の一ファンである。個人的には、飯嶋和一さんに匹敵する時代物の名手だと思っている。

     戦国の世は終わり、三代将軍家光の治世となった江戸。一般的には、家康・秀忠・家光の三代によって徳川の支配は盤石になったとされているが、幕府内では権力争いという「戦」はまだ続いていた。日本史の教科書では軽く流されている。知名度が高い家光だが、実は謎多き人物だ。

     家光の弟であるが故に数奇な運命を辿った、保科肥後守正之。不遇にも一切不平を漏らさず、憤る家臣を諌める。兄・忠長の言葉を胸に刻み、自らを厳しく律する正之が何よりも優先するのは、再び戦乱を起こさないこと。

     そんな正之の評判が諸大名の間で高まるにつれ、松平伊豆守信綱は露骨な対抗心を隠さない。信綱には、家光の幼少時より仕えてきた自負がある。あくまで無欲な正之だが、家光にも認められ、やがて側近にも名を連ねる。なぜなのか。ただ将軍家光の弟というだけで。

     この時期の出来事としては、島原の乱が有名だろう。信綱は島原の乱の鎮圧にも尽力したとされるが、作中での記述は少ない。本作の題材となっている慶安の変、いわゆる由比正雪の乱は、未遂に終わったせいもあり、さほど知られていない。

     主に正之、信綱の視点で描かれ、鍵を握るはずの由比正雪の登場シーンは少ない。それもそのはず、すべては大胆な新解釈のため。正之の心は大きく揺れ動く。それでも正之は、幕府側の人間として、市中を火の海にしてはならない。

     慶安の変を事前察知できた理由については諸説あるようだが、作中で信綱が自らの手柄にしているのは史実と同じか。最大の功労者たる正之の気持ちは複雑だろう。本来情に厚い人物であるが、忠長に甘さも指摘された正之。必要とあらば非情に徹する。

     庶民を顧みない幕府に、現代の政治の有様を重ねる意図も感じるが、本作は、幕府側と反体制側、それぞれの信念で動いた人間たちの生き様を楽しみたい。これほど濃密な物語を、手頃な長さに収めているのも高く評価したい。

  • 長いし登場人物が多すぎるし名前が分かりにくい

  • 真保裕一さん 由比正雪の乱、新解釈で
    2021/11/8付日本経済新聞 夕刊
    1991年、厚生省(現厚生労働省)の元食品衛生監視員を主人公とするミステリー「連鎖」で江戸川乱歩賞を受賞して、30歳で作家デビュー。以来、山岳冒険小説「ホワイトアウト」(吉川英治文学新人賞)、明智光秀を主人公とする歴史小説「覇王の番人」など幅広い作風の小説を発表してきた。


    作家生活30年記念の書き下ろし長編「真・慶安太平記」(講談社)は、1651年(慶安4年)に発覚した由比正雪の幕府転覆計画(慶安の変)を大胆な新解釈で描く。「(首謀者の)正雪は何者だったのか。そして最期に駿河(現静岡県)の久能山へ向かうが、その狙いは何だったのか、といった点に興味を抱いた」

    もっとも、物語の主人公は徳川3代将軍家光の異母弟で会津藩藩主となる保科正之だ。「会津の名君として名高い正之の実像に少しでも迫りたかった」。対抗する存在は「知恵伊豆」と呼ばれ、島原の乱制圧でも知られる老中の松平信綱。「正之にはあまり出しゃばってほしくないと信綱は考えていたと思われるので、その時には裏の顔を現していたはず」

    慶安の変は、関ケ原の戦いや大坂の陣の後、幕府が多くの大名を改易・減封した結果、浪人が多数発生したことが要因とされる。「権力の使い方を間違えると世の中が乱れるのは、いつの時代も同じ。それを伝えたくて、慶安の変に至る経緯にページを割いた」

    歴史・時代小説は史料の渉猟が欠かせないが、「もともと調べ物や取材は好きなので、現代ものと(苦労は)あまり変わらない」とあっさり。「粘り強く取り組まないと面白い小説は生まれない」と信じて、31年目も書き続けていく。(しんぽ・ゆういち=作家)

  • 徳川家光、春日局、保科正之、由井正雪、丸橋忠弥江戸時代初期の立役者が勢揃い、将軍の跡継ぎ、慶安事件など読みどころ満載のエンターティンメント時代小説あなたもぜひ堪能してください。

  • 松平会津藩初代藩主保科正之と由井正雪の乱を題材にした物語。父に認知されず育った正之は用心深く、知恵深く、それでいて慈しみ深い心を持つ青年に育ち、家光亡き後の徳川家を支えていく。由井正雪の正体は、、、

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著者プロフィール

真保裕一(しんぽ・ゆういち)
1961年東京都生まれ。91年に『連鎖』で江戸川乱歩賞を受賞。96年に『ホワイトアウト』で吉川英治文学新人賞、97年に『奪取』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞長編部門、2006年『灰色の北壁』で新田次郎賞を受賞。他の書著に『アマルフィ』『天使の報酬』『アンダルシア』の「外交官シリーズ」や『デパートへ行こう!』『ローカル線で行こう!』『遊園地に行こう!』『オリンピックへ行こう!』の「行こう!シリーズ」、『ダーク・ブルー』『シークレット・エクスプレス』『真・慶安太平記』などがある。


「2022年 『暗闇のアリア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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