倭国 古代国家への道 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065257913

作品紹介・あらすじ

「万世一系」の天皇を頂くとされる「日本」の起源はどこに求めるべきなのか。複数の王統が大王位を目指し競合していた時代が終わり、唯一の系統が大王の地位を独占するに至るプロセスを、これまであまり注目されていなかった史料から読み解く、スリリングな「倭国形成史」。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は、倭と呼ばれ、また自称もした列島社会における国家の形成過程を、5、6世紀を中心に検討し、明らかにしようとするものである。
     倭の五王から継体天皇即位に至る時代の歴史については、中国の史書や記紀の記述、鉄剣に刻まれた文字、あるいは前方後円墳の位置や様式を史料に、様々な見解が示されてきた。
     本書もまたそうした一書であるが、記紀や風土記などの記述内容を単純に事実か虚構かの二者択一で捉えるのではなく、それらを素材として、相互に比較することで、より整合性の高い推論の提示を目指すものであると、その方法論を示している。
     そして、重要な手がかりとするのが、王宮のあり方である。なぜなら、王族の名前には、彼らの居した地名、王宮の所在地が含まれていることが少なくないが、王宮は政治拠点として権力の特徴が色濃く現れる場である一方、史書の造作とは無関係と考えられるからであるとする。
     以下、具体的な分析が述べられていく。

     当時の王宮は丘陵や谷の中の狭い場所に造られているが、これは軍事的機能が重視されたためであり、それは様々な反逆伝承に現れているとする。
     著者は、倭王の一族とは帰属を異にする王族が存在していたとし、彼らを周縁王族と呼ぶ。

     そしてこの時代、農具や武器・武具類の量産のために朝鮮からの鉄の調達が極めて重要であったこと、それには外洋航海術を有する海人集団の掌握が必要であり、古代豪族として著名な葛城勢力、吉備勢力、紀伊勢力との関係が深かったことが示される。

     また、第四章、第五章においては、中国・朝鮮とのルートである当時の先進地域としての瀬戸内海沿岸地域を取り上げ、『播磨国風土記』を読み込んで、中央の支配が地域社会に及んでいく実相を明らかにしていく。この辺りは、一つの仮説として大変面白い。

     仁徳系、允恭系の対立から継体へと移行する過程が解明されていくのだが、これらの背景には、5世紀後半の百済の一時的滅亡という国際環境の変化が大きかったのではないかと、著者は言う。
     
     史料上の制約もあり、史実が明らかにすることが難しい古代史であるが、本書は著者の立論の過程も丁寧に示されており、結論に賛成するか否かにかかわらず、非常にワクワクしながら読むことができた。

  • 古事記・日本書紀の伝承的記述を読み解き、謎が多いとされていた5、6世紀の列島の王権や地域社会の実像に迫った労作。これまで記紀の記述は後世の創作で信用できないとされ、もっぱら考古学的遺物の検証に重点が置かれていたが、本書を読むと記紀・風土記の世界に示される地名・人名などをたどることで権力の移行や支配体制確立の実態が浮かび上がってくる。

  • 5-6世紀の古墳時代の歴史を資料の分析から読み解いた本。允恭天皇系と仁徳天皇系が血を血で争う抗争を続ける中で、葛城・紀・吉備が海人と連携し、渡来人を招聘し、海外交易を独占する形でそれに対峙する構造を読み解いた。それが雄略天皇時代に征伐され、朝鮮半島での危機と相まって継体天皇時代に中央集権化が強まったとしている。倭の五王の比定がどうなるのか、倭がどうして日本になるのかなど不明点は多いが、一定の説明にはなっていると思った。但し、新書にしては専門的すぎる部分もあり、読み進めるのに苦労した。邪馬台国から倭国への空白もだれか読み解いてほしい。

  • 記紀や風土記の記述や地名、一族分布などを複層的に組み合わせることで継体朝以前の我が国の政治形態というか皇室の実態を掘り下げようとする筆者の試みには同感できる。

    古代史の専門家はわからないが、背景が全く白紙の読者からすると決めつけのように取れる箇所も散見され、必ずしも説得力があるようにも思えない。

  • はっきりした史実が分からない4,5世紀の日本(今日の領域とは異なるが)での、各王の立ち位置や勢力争いの推移が視覚化されており、推測ベースとはいえ新鮮さがあった。海人との結びつきの要素などは、造船に不可欠の木材を産する紀伊勢力の隆盛も含め、島国ならではの事情は太古も不変だったよう。古代史の探求は、発掘による新発見が不可欠の状態で、文献の分析と解釈の限界も感じた。

  • 明らかにするのが難しい5世紀をなんとかあぶり出していこうという新たな試み。
    細部では、それ6世紀以降を反映しているのではと思われる点もあるが、方向・方法論としては正しい。

  • 学校では、縄文時代を習って、弥生時代を通過するとすぐに聖徳太子が登場するのですが、個人的には弥生時代と聖徳太子の登場までの期間に何が起きていたのかがきになっています。
    本書ははっきり言って、「古事記」や「日本書紀」などの基礎知識が必要なので、読みにくい本ですが、福岡や瀬戸内海の地域でも、社会が構成されていたことがわかる『目からウロコ』の1冊です。

  • 倭国の成立と大和朝廷の確立について、古代史料(書物資料と史跡資料)を分析している。本書によれば、王権は地方豪族(吉備、葛城)に影響を受けており、豪族らと連合関係・敵対関にありながら発展してきたことを明らかにしている。

  • 古代日本における倭国の国家形成過程を検討し、その特徴を明らかにする事を目指す内容。王名を起点とした王宮の分布と特徴の考察、王族の存在形態と権力構造の分析、五世紀後半を画期とした国家体制の変容といった論証が興味深い。

  • 初学者には難しい!と思いつつ、文献や地理的条件などを紐解きながら解説していくところがエキサイティングでした。ただ毎回歴史の本では思うのがこれが「トンデモ」なのかどうか、見極められないという怖さがある、というところ。ちゃんとした学者さんっぽいし、有名な新書だから大丈夫なのか、と思いつつですが、ちゃんと基礎教養を身に着けておきたいと思います。

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    倭=日本列島社会における国家がどう形成されていったのか、5・6世紀を中心に検討する。
    起源1世紀ころは100あまりの小国に分立。
    3世紀前半ごろには30ほどの国に統合(魏志倭人伝)
    地域勢力の連合体としての倭国、代表者としての倭王は二世紀初頭には成立していた。
    卑弥呼はその代表的なもの。卑弥呼は倭王として国際的承認は得ていたが、列島では紛争の裁定者として国々から委任されてた程度。それはその後に混乱が続いたことでも明らか。

    倭王がいわば共和的性格を脱して、統治者として専制的性格を獲得する段階はいつか。
    従来の学説では、4世紀末~5世紀。前方後円墳のさらなる巨大化や武器・武具の大量服装。応神天皇陵や仁徳天皇陵などに代表される。
    これらがその権威を表しているのは事実だが、時期や地域で変動がある。
    5世紀には倭王の王統はいまだ一つにまとまってもいない。とりわけ仁徳・履中と続く仁徳系の王統と、允恭天皇にはじまる允恭系での対立が集中している。不安定で流動していたとも言える。
    また、倭王を出す王族とは拠点と系統を異にする王族(周辺王族)=葛城・吉備・紀伊の豪族も存在した。まだまだ王族と豪族との境界は曖昧だったと言える。

    後に「万世一系」と表せられるような倭王位の世襲化が実現するのは、5世紀末から6世紀諸島に登場する継体天皇を待つ必要がある。
    継体天皇は応神天皇5世の子孫とされるが、信頼性は乏しく、近江から北陸を勢力範囲とする事実上の地域勢力だったと考えられる。
    即位前から大和にも拠点を持っており、彼の母の拠点は海部郷もあり、そこには周辺王族の指示勢力が集中していた。
    継体天皇が倭王まで上り詰めることが出来たのは、それまでの倭王とは異なる広範な地域勢力との間に同盟関係を結んだことが影響している。継体の死後即位する、安閑・宣化の二人は尾張出自の女性を母とする。王族や大和豪族以外の地域の女性を母とする倭王は前代未聞らしい。また仁徳系王統の最後の倭王、武烈天皇の同母姉(手白香皇女)を后妃に迎えることで、権威も手に入れた。その間に生まれたのが欽明天皇。欽明天皇こそ、父(継体)が拡大した権力基盤と、母の持つ前代以来の権威、双方を備えた新しいタイプの倭王といえる。
    ※序章の要約。
     細かい史料検討は難しい!

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著者プロフィール

古市 晃(ふるいち あきら)
1970年生まれ。岡山大学文学部卒業。大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程退学。現在、神戸大学大学院人文学研究科教授。
著書に『日本古代王権の支配論理』、『国家形成期の王宮と地域社会』(ともに塙書房)がある。

「2021年 『倭国 古代国家への道』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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