本物の読書家 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065285954

作品紹介・あらすじ

書物への耽溺、言葉の探求、読むことへの畏怖。

群像新人文学賞受賞作『十七八より』で瞠目のデビューを遂げた、
新鋭にして究極の「読書家作家」乗代雄介による懇親の中編集、ついに文庫化。

表題作のほかに「未熟な同感者」を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 【本物の読書家】
    老人ホームへ向かう大叔父を送るため付き添う"わたし"、電車に居合わせた謎の男によって心を掻き乱されていく。大叔父の秘密を巡る攻防。
    話の合間に挟まれる知識が少し鬱陶しい…煙にまかれる。
    この本を読んでいる時。目の前の書棚に「詐欺とペテンの大百科」があったためとても奇妙な気持になった。

    【未熟な同感者】
    訳がわからず途中で挫折するかも、と思っていた。ブクログにて
    「書く、読むについての話」
    と、書かれた感想を読んだ途端に見え方が変わり面白く感じるようになった。

    のだが…やはり理解ができないため読みづらく感じて、その読みづらさはサリンジャーを模しているのでは?とも思った(サリンジャーは未読の為、そうなのかどうかは不明)
    論文が書きたいのか物語が書きたいのかがよくわからない。

  • 非常に理論的に組み込まれたストーリーで、作中に
    他の作家たちの、文献や、作品が組み込まれいて
    本作は、小説と呼べるのかと感じてしまいました。
    評論の世界に入った印象でした。でも、乗代さんの
    特徴である、実在の人物のある隠された秘密、今回でしたら、川端康成の「片腕」をめぐる、間氷と大叔父上の話で、そこに怪しい関西弁を話す田上が絡まっていく群像劇で、実際にはそんな秘密があるのか知らないが、その秘密までもが、信憑性を持った、読者に信じ込みやすいストーリーにさせるところがすごいと感じました。川端康成、カフカ、サリンジャー様々な文豪の作品が、作中に使われていて、文豪たちの思いとか、作品に触れることが出来て、もっと深く読んで知りたいと感じました。

  • 乗代雄介『本物の読書家』講談社文庫。

    表題作と『未熟な同感者』を収録した純文学中編小説集。古今東西の文学からの引用の数珠つなぎと知識の洪水。表題作は辛うじてストーリーを辿ることが出来るのだが、『未熟な同感者』はギブアップせざるを得ない。

    『本物の読書家』。古今東西の作家や文学に関する豊富な知識の渦とその中に隠された川端康成からの手紙を巡るミステリーという面白さ。川端康成からの手紙を後生大事に持っていると言われる大叔父上を老人ホームに送り届ける役目を任された主人公。高萩に向かう常磐線の車内で関西弁で話し掛けて来た奇妙な男と遭遇する。読書家を自認する主人公と読書に関する様々な知識をひけらかす関西弁の男の知と知の激闘の行方は……★★★★

    『未熟な同感者』。こちらも古今東西の文学が数珠つなぎに描かれるが、大学を舞台にしたストーリーが今一つ掴めない。宮沢賢治に二葉亭四迷、サリンジャー、夏目漱石、カフカ、ナボコフ……名だたる作家の作品の引用と知識の洪水。ある意味、読者を煙に巻いたような作品。頭の悪い自分には理解不能。★★

    定価748円
    ★★★

  • 本書は、2015年にデビューした新鋭による2冊目の書物である。2018年本作「本物の読書家」で野間文芸新人賞受賞。2019年、2021年芥川賞候補。

    表題作「本物の読書家」では、語り手の「わたし」が、独り身の大叔父を茨城県の高萩にある老人ホームに入居させるため、上野から電車で同行する。車中で二人はあやしげな大阪弁の男と出会う。この男が開陳する文学関連のマニアックな知識に反応する読書家の「わたし」と大叔父。やがて大叔父の口から、信じがたい秘密が告げられる。 

    川端康成の名作「片腕」を本当に書いたのは自分だ、という大叔父の主張を、小説外の事実として認める読者はいないだろう。文豪川端康成の伝説から実際に起こり得そうな設定で、川端作品「片腕」の虚構性と作品制作上の伝説と作者乗代雄介のこの小説「本物の読書家」の虚構が混ざって少し複雑な構造になっている。
    大阪弁の男が冒頭から千原ジュニアが話しているような錯覚に陥る。文学があり、文学知識があり、お笑いがありで楽しい。

    後半の作品「未熟な同感者」も文学論を戦わせる。しかしながら、作家のサリンジャーを中心に展開される文学論がわかりづらい。中心となる文学論と並行してサブストーリーとして大学三年生のゼミでの人間模様が描かれる。主人公の阿佐美、超美人の間村季那、男の野津田慎吾、野津田のことが好きな道中あかり、変態かもしれないと描かれるゼミの准教授が登場する。主人公が女性だと判明した瞬間意表を突かれた。また間村のビンタの描写も圧巻。

    小説のジャンルではエンタメ小説ではなく純文学になるけれども、純文学ではこういう楽しみ方があるよということを示してくれる本作品は貴重だと思う。有名な文豪の引用が出てくる本書は本好きな人には好まれるのではないか。乗代雄介の他の作品を読んでみたくなった。

  • 「本物の読書家」と「未熟な同感者」の二篇収録。

    相変わらず難解。でも個人的には「読んでて分からないけれど楽しい」作家さんでもあります。話として面白かったのは「本物の読書家」で好きなのは「未熟な同感者」でした。「未熟な同感者」は少し百合ですね。

    「本物の読書家」
    老人ホームに入る大叔父上に最寄り駅まで同行する主人公は大阪弁の読書家と相席になる。川端康成の『片腕』が出てきます。既読で良かった…。
    主人公の自意識過剰っぷりに「ちょっと落ち着いて」と言いたくなりました(笑)

    『ロリータ』を2月に読む予定なので楽しみです。

    「未熟な同感者」
    こちらは頻繁に引用されるサリンジャーをまったく読んでいないので内容理解は今ひとつどころではなかったです(汗)大学生4人の仲いいんだか良くないんだかあやふやな関係性が良かったです。

    書くことと読むこと、書き手と読み手の在り方が書かれている部分が難解ながらも面白かった。

    著者の『皆のあらばしり』と今回の「本物の読書家」に出てくるコテコテの大阪弁口調のおっさんというのが私はどうにも苦手で…。関西に生まれ育ち、50年近く生きていてここまでコテコテの関西弁を使う人に出会ったのは2回だけ。呼びかけに「あんさん」を使う人には出会ったことがないです。漫才っぽく聞こえてしまいます(;´∀`)

  • 「皆のあらばしり」で今年気になる作家NO.1になった乗代雄介。次は「旅する練習」を開こうと思いつつ目の前に文庫が次々現れてたどり着けません。前回は「十七八より」。今回は「本物の読書家」。今度の文庫は「本物の読書家」と「未熟な同感者」の二編が収録されていました。単行本の時も同じ構成かな?先ずは「本物の読書家」。登場人物の関西弁の饒舌な男、これ「皆のあらばしり」のあの男の再登場?とびっくり!いや「本物の読書家」の方が先に書かれているので「皆のあらばしり」の方が再登場か…さらには「未熟な同感者」の一人称の女子も「十七八より」の高校生が大学生になった感じ。アセチレン・ランプ、スカンク草井などのような手塚治虫スターシステムをこの作家は小説にも援用しているのでは、と思いました。そして扱うテーマも「本物の読書家」の偽書とか、「未熟な同感者」の読むことと書くことの一体化とかだったり、前に読んだ主題を繰り返しているよう。物語を読むってこと物語を書くってことの不思議な関係にこだわりまくっているのが乗代雄介なのかな、と3冊目でうっすら感じました。そういう意味では「本物の読書家」「未熟な同感者」って小説のタイトルというより作者の2大アンセムなのでは?他の誰からも得られない読書体験を得ています。

  • ぜんぜん刺さらず。
    しかし気になる作家なので引き続き他の作品も読むと思う。

  •  Kindleのセールで買って積んであったのを読んだ。これまで著者の作品を何冊か読んでいるが、その中でも最も読むことが難しい一冊だった。タイトルにあるように「本物の読書家なのか?」と試されているのかもしれない。キャリア2作目ということで、その後のスタイルの萌芽を目撃できるという点では読んでよかった。

     「本物の読書家」「未熟な同感者」の2つの中編が収録されている。タイトル作である前者は読み終わった今となっては後者に比べてかなり読みやすく、そしてエンタメ性があった。叔父に付き添って電車で老人ホームまで向かう電車の道中で起こる文学与太話。隣の席に座る見ず知らずの文学おじさん、叔父、主人公がお互いの腹を探り合う様は探偵ものを読んでいるような感覚だった。特に見ず知らずのおじさんが関西弁で真相を突き詰めようと迫ってくる様は名探偵コナンの服部を彷彿とさせ懐かしい気持ちになった。川端康成のゴーストライターが叔父だったのでは?というのが大きなテーマなのだが、そこに至るまでの良い意味でのまわりくどさは著者の特徴と言える。エンタメとして最適化するときに切り落とされる日常、生活の空気のようなものが拾い救われているのを読むと心がフッと軽くなる。合わせて文学論も語られているのだがナボコフの以下引用がグッときた。

    *文学は、狼がきた、狼がきたと叫びながら、少年がすぐうしろを一匹の大きな灰色の狼に追われて、ネアンデルタールの谷間から飛び出してきた日に生まれたのではない。文学は、狼がきた、狼がきたと叫びながら、少年が走ってきたが、そのうしろには狼なんかいなかったという、その日に生まれたのである。その哀れな少年が、あまりしばしば噓をつくので、とうとう本物の獣に喰われてしまったというのは、まったくの偶然にすぎない。しかし、ここに大切なことがあるのだ。途轍もなく丈高い草の蔭にいる狼と、途轍もないホラ話に出てくる狼とのあいだには、ちらちらと光ゆらめく仲介者がいるのだ。この仲介者、このプリズムこそ、文学芸術にほかならない。*

     後者である「未熟な同感者」は大学の文学論のゼミの講義内容、サリンジャーの小説、そしてゼミに参加するメンバーの様子が入り乱れて描かれる複雑な小説で正直かなり読みにくかった。読み進めることはできるものの目が滑りまくって何を読んでいるのか分からなくなる瞬間が何度もあった。現実パートも著者のフェティッシュを感じさせる内容に今のスタイルと共通する点を見出しつつも荒削りのように感じた。こんな風に感じる私は未熟な同感者なのだろう。本物の読書家への道のりは険しいのであった…

  • よくわからない。私の好みではなかった。

  • 「本物の読書家」と「未熟な同感者」の二篇。どちらも多数の引用を以て構成され非常に読むのがめんどくさい小説。
    前者は1本の道筋を通るのでまだ読みやすい。うさんくさい関西弁を話す男が出てくるが態となのだろうか。
    後者は「十七八より」の続編としてその少女の大学時代を記したもの。大学の講義内容を著す部分が矢鱈多く特異な小説の印象。主眼はどこにあったのか。
    引用される作家は多少読んだこともあるのがあるがそこまで深く読み込んだことはないので何とも言えず。

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著者プロフィール

1986年北海道生まれ。法政大学社会学部メディア社会学科卒業。2015年『十七八より』で「群像新人賞」を受賞し、デビュー。18年『本物の読書家』で「野間文芸新人賞」を受賞する。23年『それは誠』が「芥川賞」候補作となる。その他著書に、『十七八より』『本物の読書家』『最高の任務』『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』等がある。

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