太陽諸島

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 355
感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065291856

作品紹介・あらすじ

世界文学の旗手が紡ぐ、初の連作長篇三部作、完結!
響きあう言葉とともに地球を旅する仲間たちの行方は――。国境を越えて人と人をつなぐ、新しい時代の神話

ヨーロッパで移民として生きるため、自家製の言語「パンスカ」をつくり出したHirukoは、消えてしまった故郷の島国を探して、仲間たちと共に船の旅に出る。一行を乗せた船はコペンハーゲンからバルト海を東へ進むが、沿岸の港町では次々と謎めいた人物が乗り込んできて――。

言葉で結びついた仲間たちの、時空を超えた出会いと冒険を描く、多和田葉子の新たな代表作。
『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』に続くサーガ、ついに完結!

感想・レビュー・書評

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  • 今週の本棚:持田叙子・評 『太陽諸島』=多和田葉子・著 | 毎日新聞(有料記事)
    https://mainichi.jp/articles/20230107/ddm/015/070/027000c

    多和田葉子さん「太陽諸島」インタビュー 長編3部作完結、6人の船旅に託した「国家とは何か?」|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14770213

    『太陽諸島』(多和田 葉子)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000369071

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      小説家・多和田葉子が考える、パンデミックを経て完結したサーガが内包するもの【VOICES INTERVIEW】|ハーパーズ バザー(Harp...
      小説家・多和田葉子が考える、パンデミックを経て完結したサーガが内包するもの【VOICES INTERVIEW】|ハーパーズ バザー(Harper's BAZAAR)公式
      https://www.harpersbazaar.com/jp/lifestyle/social-issue/a42743030/behind-the-epic-trilogy-saga-230202-hbr/
      2023/02/06
  • とても楽しかった前2作の、そのおもいでのまま読了した。この物語に確かに魅了されたのに、どこがどう素晴らしいのかは言い表せない。何々みたい、と例えることができない無二の軽やかさに引き込まれたのは確か。じぶんが賢くないことにコンプレックスを持っている、それでも「読みたい」とおもう気持ち。それをいたずらっ子のような表情を見せながら歓迎してくれたこの作品は、文学に対するハードルも下げたかもしれない。おもしろいかはわからない。変わりに残りの頁数がどんどん減っていく楽しさがあった。神話であるから、なにも不思議はない。

  • 『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』の続編。hirukoの失われた故郷を探して船旅をすることになった一行。今回は1冊まるまるずっと船の上。寄港地で観光したり、船上で他のグループと交流したりしつつ、章ごとに6人の登場人物のそれぞれの視点で物語は進行していく。

    人間関係上の大きな変化としてはhirukoとクヌートがついに一線を越えちゃったことでしょうか。クヌートに好意を抱いてる風だったアカッシュは失恋。前回で性格悪くなっちゃったナヌークに、相変わらず執着しているノラ。そして謎の多かったsusanooにもちょっと人間味が出てきた。彼は船上で出会ったクシナダヒメ(と彼とhirukoが名付けただけで日本人ではない)に求婚する。

    大きなテーマとしては言語と故郷の話だと思っていたけれど、ここへきてhirukoが、国(故郷)が無くなったとしても自分自身が「家」になると言い出すにあたり、大きな転換期が来たのかもしれない。生まれた国も母国語も大切なアイデンティティではあるけれど、究極最後に残るのは自分という個人しかない。自分自身が家であり舟である。

    ところで途中で突然『ブリキの太鼓』のオスカーが出てきた。なにを象徴していたのだろう。そして物語はまだまだ続いていきそう。

  • ーーあまりにも長い旅に出るとそのうち旅をすること自体が目的地になってくる。(p.18)

    ヨーロッパで移民として生きる多和田葉子さん自身の声が聴こえてくる作品だと感じた。
    H irukoとS usaooの表記だけがどうしてローマ字なのかずっと引っかかっていたけれど、日本人にとってヨーロッパ移民になることは母語の表記を失うことを意味するからなんだろうかと思った。もちろん、神話の神々そのものから距離を取るという意味もあったろうけれど。

    Hirukoたちの乗り込む船は、食堂を中心に、地球会議の様相を呈する。
    過去の戦争の話、震災の話、そして今起こっている戦争の話、不平等の話。
    それらが絡み合いながら、私たちは決して降りることのできない一つの船に乗り合わせているのだということがじんわりと伝わってくる。
    H irukoたち乗員は、分かり合えることはないのかもしれない。でも、ときどきにお互いの心に響く何かを放ちあいながら、近くに、遠くに、その存在を感じあいながらこれからも生きていくんだろう。

    この船旅の中で、H irukoも少しずつ変化を遂げていく。
    脳の中に冠詞がないことを嘆いたり、かと思えば方言でSusanooと罵り合ったりしながら、やがて地球に文法も人称もないことの可能性に触れ、最後は「消えた家、探すのやめる、わたしが家」と言い切ってみせるようになる。
    でも、一方では、そんな単純なビルドゥングロマンスとしてこの作品を読んでしまうことは、もしかしたらとてもつまらないものかもしれないとも思う。

    ーー消化できないものが一番長く記憶に残る。(p.216)

    記憶の中にいつまでも漂わせながら、この作品を味わってみたい。

    追記:なぜ主人公がhirukoとsusanooなのか、ようやく腑に落ちた!日本最古の流民だからか!!
    ということと、「留学中に国が消滅した」という状況は、ヨーロッパ(特に東欧)では当たり前のことだからなんだなと納得。国境線は人間の意志でいかようにも引き直せる、という肌感覚があるからこその、ロシアのウクライナ侵攻だと多和田さんは考えていて、だから最終巻ではロシアの存在が強く描きこまれているんだろうな。
    それから、「消えてしまった故郷の情報がヨーロッパにいると手に入らない」という状況。これも多分、ヨーロッパに住む日本からの移民としての実感なんじゃないかと思う。極東の島国の細々した情報なんて、きっとネットや日本人ネットワークの中でしかやり取りされてなくて、オフィシャルな場では、それこそ皆無と言っていいくらい出てこないんじゃないだろうか?それこそ、出島が幻の島だなんて曲解されるくらいのレベルで、島国・日本のヨーロッパにおける存在感は薄いんだろう。だからこそ今現に日本に暮らしている人にとっては「日本の情報が手に入らない」という状況がフィクションとして受け止められて、この小説を一種のファンタジーめいた雰囲気に仕立てているんじゃないだろうか。でも、それはヨーロッパにいけばファンタジーどころか生々しい現実に裏返るんだろう。
    あぁ、改めて、読んでよかった。

  • Hirukoの失われたかもしれない故郷を目指して6人がバルト海を旅する。
    言語学の遊びのような会話、6人の関係性の変化、ソビエトロシアにまつわる考察や神話お伽話の世界が入り混じってこの旅の行く先はどこにたどり着くのだろう。
    そして日本らしき国はゴミの島へ蒸発したのか、何も確実なことのないままに終わった。次巻は出るのかなあ。

  • 祖国(恐らく日本という設定)が消失してしまい欧州に残されたHirukoが、出会う人たちと共に東へ向かう物語。各登場人物の視点からの話が入れ替わりながら綴られていくが、それが流れを途切れさせているような気がして読みにくかった。そのためか、所々で重要な示唆があるものの、全体的に何を言わんとしているのかわからなかった。

  • 国、故郷、言語、母語、民族、旅、人種、国旗、国際交流、戦争、児童労働、仲間、、、
    多和田葉子さんはドイツ語で書いて、日本語翻訳したのかしら?
    日本人の顔が時々のぞくのが面白い。
    『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』と三部作。

  • 三部作最終巻。
    Hirukoたち6人の旅はどこに辿り着くのか。
    船に乗り込み港港を巡る。
    読んでいるあいだ、国、国境、言語、アイデンティティについて思考が巡る。
    それが楽しい。

  • 民族の多様性を受け入れる、広義にダイバーシティとか唱えられるけど、この島のいち地方で生涯を終えんとする我が身には虚構の世界だ。ただ、仕事で国内津々浦々から集う移住者の支援をしているから、規模は違えどその視点は興味深い。ときに呉越同舟に導かなきゃいけないし。さておき、Hirukoは極東の消えたらしき母国を探る船旅で、バルト海を東進するってどうなのよ?サンクトペテルブルクからだとロシアの西端から東端だよ。そのルート想定する?おまけにビザなしであっけなく断念とは。おそらくこのメンバーはこの先もたどり着けないわ。

  • ふだんは評価自体をつけないことにしているけれど、この三部作はもう、今年の私のベスト本なので、つける。私はHirukoがとても好き。Hirukoは真剣に真剣に自分の言葉を紡ぐ。そうすることが、明日の見えない旅をひたむきに生きる彼女を支えている。私にはHirukoがまぶしいし、勇気ももらった。私も私のパンスカを紡ぎたいとずっと思ってきた。

    言葉以外の角度からもいろんなことを感じられる作品だと思うが、私の感想は、やっぱりこれになる。

    言葉のままならなさ、難しさに打ちひしがれても、言葉を慈しみたいと願い、自分にフィットする言葉を探しながら生きている人は、ぜひ読んでみてください。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。小説家、詩人、戯曲家。1982年よりドイツ在住。日本語とドイツ語で作品を発表。91年『かかとを失くして』で「群像新人文学賞」、93年『犬婿入り』で「芥川賞」を受賞する。ドイツでゲーテ・メダルや、日本人初となるクライスト賞を受賞する。主な著書に、『容疑者の夜行列車』『雪の練習生』『献灯使』『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』等がある。

多和田葉子の作品

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