今日のミトロジー (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065305928

作品紹介・あらすじ

羽生結弦に阿修羅を見出し、BTSに花郎(ファラン)との共通性をあぶり出す。オタマジャクシ型の楽器に、人間と自然の中間領域にある音楽の本質を見出し、ビル・ゲイツの離婚と資本主義精神の根源的な関係を解き明かす。宝塚歌劇団の大階段と巨大古墳に潜む「死と再生」の儀式とは何か? 人間の無意識にあって太古以来不変の動きをする神話的思考を現代の森羅万象に探る。47のエッセイが、この世界と人間の脳の未知の構造に触れる試みです。

【目次】
プロローグ


スケートボードのポエジー
ウルトラマンの正義
『野生の思考』を読むウルトラマン
オタマトーンの武勲
宇宙犬ライカ
ベイブvs.オリンピック
近代オリンピックの終焉
M氏の宇宙飛行
成長のミトロジー
惑星的マルクス

II
シティ・ポップの底力
氷上の阿修羅
神仙界の羽生結弦
音楽はどこからやってくるのか
花郎(ファラン)とBTS
古墳と宝塚歌劇団
聖なるポルノ
アンビエント
非人間性について
タトゥーの新時代

III
ミニチュアの哲学
乗り鉄の哲学
abc予想
低山歩き復活
第九と日本人
ウクライナの戦争
戦闘女子
『マトリックス』と仏教

IV
ポストヒューマンな天皇
フィリップ殿下
シャリヴァリの現在
家族の秘密
キラキラネームの孤独
愛のニルヴァーナ
「人食い(カンニバリズム)」の時代
『孤独のグルメ』の食べる瞑想
自利利他一元論


サスペンスと言う勿れ
怪談の夏
渋谷のハロウィン
鬼との戦い
丑年を開く
大穴持(オオナモチ)神の復活
気象予報士の時代
エコロジーの神話(1)
エコロジーの神話(2)
反抗的人間の現在

謝辞

感想・レビュー・書評

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  • 中沢新一アーカイヴ: 書籍『今日のミトロジー』中沢新一
    http://nakazawashinichi.blogspot.com/2022/12/blog-post_10.html

    今日のミトロジー 中沢 新一(著/文 | 写真) - 講談社 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784065305928

  • ウクライナの戦争

    大シスマ(東西分裂) 再び

    ロシアと西洋の対立の根は深い。
    一見すると両者は同じヨーロッパ人種のように見えるが、その精神と文化の内部に立ち入ってみると、大きな溝が両者を分け隔ててきた。その溝はベルリン の壁の崩壊以後、グローバリズムによって、いったんは埋められたかのように見えた。だがロシ アによるウクライナ侵攻が起こってからは、それは再び巨大クレバスに広がっていこうとしてい

    ロシアと西洋に、分裂の最初の兆候が見られたのは、中世のキリスト教におこった「フィリオ クェ論争」である。
    初期のキリスト教では「父である神」と「子であるイエス」と「聖なる霊」 とが、三位一体をなすという教義がつくられた。そこでは、この三者は異なるものでありながら も同格で一体をなすという神秘的な「三位一体論」こそが、正しい理解であるとされてきた。

    東方教会では、神と子と聖霊の個別性が重視された。表面的ななめらかなつながりよりも、深いところで内在的につながっているという、なんとなく凸凹した無骨な考えである。
    そこでは聖 なる霊は父である神から流れ出す、と考えられた。

    ところが西方教会がその無骨さに異を唱え始 めた。東方教会で「聖霊は父より発する」と唱えているのを、西方教会は「聖霊は父と子から発する」と言い換えてしまった。
    そうなるとたしかに三位一体はぐっとスマートになる。
    ところがたった一言「(父)と(子)」と付け加えたことで、東西が分裂する大問題に発展した。

    この「と」はラテン語で「フィリオクェ (Filioque)」という。

    東方教会が問題にしたのは、この「と」を加えてしまうと、父と子が同質な基礎材のようになって、そこから聖霊が流れ出てくるようなイメージになることである。

    これは神秘的な三位一体を合理的な理解につくりかえ、 キリスト教を安っぽい宗教にしてしまうと、猛反対した。

    西方教会にしてみれば、正しいけれども難しい教義などというものは、布教の妨げになるだけで、現実的にいいことなどちっともないから、合理的に改造すべきだと主張した。

    この問題はこじれにこじれて、ついにコンスタンチノープル、のちにはモスクワをも中心とする東の正教会

  • 「週刊現代」連載。時事ネタや現代の映画、音楽、テクノロジー、スポーツなど、さまざまな事象の背後に神話的構造、東洋思想、仏教思想を見出すというしつらえ。◆個人的に一番ヒットしたのは、「井之頭五郎とデカルトは似ている」から始まる「「孤独のグルメ」の食べる瞑想」。五郎が食を得る過程、シーンを「食べる瞑想」と描写し、それがデカルトとの比較、ユダヤ教の瞑想家カバリストから最後はイグナチオ・ロヨラにならった食べることによる「霊操」まで持ち出されて語られるスケールの大きさ。ミクロの一点にこれでもかと大きな話を持ち込む、面目躍如な一篇。読み終え、思わず、本棚から「孤独のグルメ」ひっぱりだしてきて再読しちゃいました。◆もう一つ興味深かったのは、いわゆる「四大文明」が興る頃から、人間の耳は聞こえづらくなってきた。「それまで人類の耳は、心の内面に語りかけてくる、繊細微妙な「声」を聞き取ることができた。この声は、意識の外から語りかけてきて、人生の重大事についての決定を人におこなわせる。」(p.58) 個人の意識なんてものよりも巨大な情報体(クラウド)から送られてくる情報に耳を傾けてれば、人生大きく踏み外すことはなかった、と。このへん記録があるとのことだが、どういう記録だったのか、可能ならあたってみたく思った。◆「ミトロジーの思考が、人間の知性の働きを、掛け算型の「レンマ」と足し算型の「ロゴス」とに分離して考えてきたからである。掛け算型のレンマ知性では、あらゆるものごとはたがいに「作用」しあい、相互につながりあっていて、そのつながあいは宇宙全体に及ぶ。ところが足し算型のロゴス的知性では、世界はブロックを積み重ねるようにして、論理的に構築されていく。」(p.112)

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著者プロフィール

1950年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。京都大学特任教授、秋田公立美術大学客員教授。人類学者。著書に『増補改訂 アースダイバー』(桑原武夫賞)、『カイエ・ソバージュ』(小林秀雄賞)、『チベットのモーツァルト』(サントリー学芸賞)、『森のバロック』(読売文学賞)、『哲学の東北』(斎藤緑雨賞)など多数。

「2023年 『岡潔の教育論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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