核兵器入門 (星海社新書)

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  • 星海社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065309506

作品紹介・あらすじ

核兵器の脅威が現実化したウクライナ戦争後、核とは何かを改めて物理学的・軍事的・政治的に徹底解説。小泉悠氏・村野将氏との特別鼎談収録!

感想・レビュー・書評

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  • 「持たず、作らず、持ち込ませず」、この非核三原則に「語らせず」「考えさせず」などを付け加えて、評論家たちが揶揄する。タブー視するのは良いが、専門知を否定すれば、この重要課題が印象論だけで愚民化させられてしまう。

    「都心に核爆弾が落とされたら」
    多田将氏は素晴らしい。考えるべき、タブーからスタートする。専門的だが、分かりやすい。

    核兵器によるダメージは、火球、熱線、爆風、放射線、放射化物に分類される。北朝鮮の地下核実験ではマグニチュード6.1の地震を引き起こした事から、核出力が160キロトンと推定される。核出力はTNT火薬換算で何トンの爆発力に相当するかで示される。ちなみに、広島は15キロトン、長崎は21キロトン。160キロトンの場合、火球は半径580メートル。放射線は半径2.1キロメートル。熱線は半径5.8キロメートル。この範囲が致死線。

    核融合を起こすには、まず核分裂の反応が必要。従い、核融合兵器(水爆)は必ず核分裂兵器を搭載している。プライマリーの核分裂で超高温・超高圧状態を作り出し、セカンダリーの核融合兵器を起爆させる。160キロトンの核出力は、核融合兵器にしか不可能なレベル。ああ、北朝鮮は水爆か。このように、理解が進む。

    避難するには地下がベスト。ウクライナのキーウにあるアルセナーリナ駅が世界一深い地下鉄駅。日本では、TX秋葉原駅。集えし秋葉原へ。

    ドイツも日本も核兵器の原理はわかっていて、開発に取り組んでいたが、最も困難なウラン濃縮やプルトニウム製造を実現できなかった。アメリカはプルトニウム製造を実現し、ハンフォードサイトと言う本格的な生産炉によりプルトニウム239の6割が生産された。プルトニウム239とウラン235と言う核燃料が用意できれば、爆弾の構造は比較的簡単。しかし1つだけ簡単ではない構造があり、それが爆縮レンズ。これを設計したのがジョンフォンノイマン。

    自然界に存在する大部分はウラン238。天然ウランの中にウラン235は0.7%しか存在しない。そのためブラン235を物理的な方法で取り出すウラン濃縮が必要となる。濃縮ウランを取り出す過程で、ウラン235の割合が低くなった部分を劣化ウランと言う。これを使った砲弾が劣化ウラン弾。爆発時に細かい粉末になり、これを人間が吸い込むと内部被曝を起こす。そのため倫理的な問題がある。しかも放射性物質を撒き散らすことになるので、国内で戦うことが前提の日本やドイツでは用いられない。日本やドイツは、タングステン合金弾を使っている。

    ちなみに、原子力発電所の濃縮ウランは、ウラン235の割合が数%程度。核兵器に用いる濃度は100%だが、それだと非常にコストが高い。しかも兵器転用できないようにと言う理由もあり、原子力発電所の濃縮割合は低い。ちなみに、艦艇用原子炉では本体の寿命の間に燃料交換しなくて済むように100%に近い高濃縮の核燃料を使う場合が多い。

    核爆弾ではないが、放射性物質を撒き散らすためだけに作られた「ダーティボム」がある。殺傷能力は高くないものの、放射性物質が流れた地域や国を混乱させることができる。

    電磁パルスは、電子回路に瞬間的に大きな誘導器電力(サージ電圧)を発生させる。電子機器アイラナ耐えられる電圧が決まっているので、これを超えた電圧がかかると壊されてしまう。パソコンなら120ボルト程度が限界。核兵器を大気圏外で爆発させて電池パルスを発生させるという攻撃の仕方もある。

    領域を巡る自由競争社会の到達点は、最強の兵器という皮肉。最高の頭脳、最強の兵器、最大の支配範囲、最大資本を頂点としてユートピアが構築される。その頂上を目指す自由競争下の刹那的な均衡状態が平和ならば。インプリンティングされた競争本能は、既に邪魔である。

  • 多田将さんが核兵器の原理、放射線が人体に及ぼす影響、核兵器の開発の歴史をとても分かり易く説明している。
    多田さんは物理学者なので、これで1冊の本にしても十分に成り立つ内容なのだが、
    加えて、小泉悠さんと村野将さんとの対談で、軍事的・政治的側面をふまえた核兵器をめぐる最新の国際情勢を聞き出している。
    広島・長崎で核兵器が使われてから80年、核兵器は使われていない。
    その理由は、エスカレートすると戦争の勝ち負けに留まらず人類が滅びてしまうから。
    ロシアがウクライナ戦争で核兵器を使っていない理由や、中国・北朝鮮・インド・パキスタンの核保有の危うさなども知ることができた。

    本書では、まず最初に序章で核兵器の恐ろしさを示している。

    北朝鮮が最後に行った核実験で使用したレベルの核兵器が東京都文京区に落とされたという想定。
    これは広島に落とされた原子爆弾の11倍の威力を持っている。
    50%が亡くなる致死範囲は爆心地から半径5.7kmで、赤羽-中野-渋谷-新橋-北千住と都心部がほぼ全部入る大きさとなる。
    一瞬で東京の都市機能は麻痺してしまう。
    この範囲には爆発後の放射化物による被害範囲は含まれていない。
    気象条件などにより範囲の特定ができないためだ。
    「きのこ雲」と一緒に巻き上げられた放射性物質は地球規模で広まり、何十年も降り注ぐことになる。

    核兵器はとてつもなく恐ろしく、人類破滅に繋がるから使えないでいた。
    だが、現在は人類破滅には至らないと考える輩がいる、だから核を使う国が出てくるかもしれないという危険がある。
    威力の弱い核兵器を"使える核"として開発もしている。

    原子力発電所の事故は「フクシマ」が最後であって欲しいと願うように、
    核の歴史も長崎が「最後の」被爆地ということであり続けて欲しい。

  • 分かりやすい。
    核抑止の現代では平和を保つためにも核兵器のことを知ること。核兵器のことを知らずに平和を訴えるのは無理が生じる。

  •  核兵器の仕組み、歴史、著者の他に村野と小泉を交えての米露を中心とした核戦略の鼎談、とバランスが良い。一見難解な題材を比較的分かりやすく解説。完全に消化できたわけではないが、日々の報道に出る程度の内容には理解が深まったと思う。
     通常戦力で劣る側が核兵器に頼るとの前提で、アジア太平洋ではまず北朝鮮だが、台湾有事では日米の側との指摘は新鮮。現在は、冷戦期と異なり、ウクライナ戦争を含め「核の影」がチラつく状況下での通常戦争の時代だという。
     他、INF条約が失効しても、米戦略コミュニティ内では核搭載の地上配備型中距離ミサイルの議論はないという。また、米の拡大抑止が効いている中での日本の核共有論には否定的。

  • ロシア、中国、北朝鮮…日本を取り巻く核兵器の脅威は増しており、まさに「核はよく分からないが平和を唱えておこう」では抑止力にならない状況。もっと核の脅威に対する議論が世界的に展開される必要がある。本書に関連してリチャード・ローズの「原子爆弾の誕生」も大著だがオススメ。
    核爆発の熱線は目に見えないのに一瞬で焼け死ぬようなエネルギーを持っているとは…被害の状況を想像すると恐ろしい。核開発の歴史や原理の要約もうまくまとめられていて分かりやすい。最終章の核兵器と政治についてのテーマも興味深く、運用部隊の現場にいる人の精神的な負担について忘れがち。反核運動と結びつくキリスト教に対して、ロシア正教はソ連崩壊後の核産業と核部隊に手を差し伸べた経緯もあって対照的。原潜に聖人の名前がつくとはいかにも宗教的な印象

  • 最近の核兵器の威力とか使用方法とか使用されたときにどんなことが生じるのかとても興味深く読む事が出来た。多田先生の本は読み終わった時に充実感があるし繰り返し読み返す事が多い。対談のところは特に難しかったけれど世の中の話題に触れることができてこれはこれで嬉しかった。

  • 多田さんの本はどれも読みやすい。技術と政治的な話が、新書の分量で整理されて読めるなんて素晴らしい。

  • 軍事的なモノの見方である、最終章から読むと面白い。

  • 東2法経図・6F開架:559A/Ta16k//K

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著者プロフィール

京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。著書に『すごい実験』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学』『ニュートリノ』(以上イースト・プレス)、『放射線について考えよう。』『核兵器』(以上明幸堂)がある。

「2020年 『弾道弾』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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