精読 アレント『人間の条件』 (講談社選書メチエ)

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  • 講談社
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065314289

作品紹介・あらすじ

ハンナ・アレント(1906-75年)の『人間の条件』(英語版1958年)は、「人間」とは何か、とどまるところを知らない科学と技術の進歩は人間をどう変化させるのか、といった課題を考える際に不可欠の書として多くの人によって手にされてきた。待望の新訳(講談社学術文庫)刊行に際し、その訳者を務めた第一人者が決定版となる解説書を完成。定評ある『精読 アレント『全体主義の起源』』(講談社選書メチエ)の姉妹篇。『人間の条件』全6章のエッセンス、その背景や可能性を徹底解説!

【本書の内容】
序 章 マルクスと西洋政治思想の伝統
1 古典的政治哲学の成立
2 ソクラテス
3 存在への問いとプラトン
4 近代の転換
5 自然と人間の物質代謝

第I章 観照的生活と活動的生活
1 アウグスティヌスと古代世界の没落
2 不死と永遠

第II章 公的なものと私的なもの
1 アテナイにおける古典的ポリスの成立
2 古代における公私の区分
3 社会的なるものの勃興
4 公的領域の光の喪失
5 私有財産の意味
6 公私の区分の意味

第III章 労 働
1 「労働」と「仕事」
2 「世界」と労働、仕事の位置
3 人間の生と労働の意味
4 労働と生産力
5 私有財産の源泉としての労働
6 労働の労苦からの解放は何をもたらすか
7 大衆消費社会という不幸

第IV章 仕事と制作
1 産業革命における「消費」の無限拡大
2 制作過程の変容
3 功利主義批判
4 工作人と交換市場
5 世界の永続性と芸術

第V章 行 為
1 第二の「出生」
2 行為と人間事象の脆さ
3 ギリシア人の解決としてのポリスと「権力」概念
4 ヘーゲルからマルクスへ
5 行為の代替としての制作
6 人間関係を修復する「奇蹟」としての「許し」
7 行為の「予測不能性」に対する救済としての「約束」
8 自然過程への「行為」の介入

第VI章 近代の開幕と活動力のヒエラルキーの転換
1 近代の起点
2 ガリレオによる望遠鏡の発明
3 近代数学と経験からの解放
4 デカルトの懐疑
5 デカルト的内省と共通感覚の喪失
6 観照と活動の伝統的なヒエラルキーの解体
7 制作から過程へ
8 「工作人」の敗北と功利主義の限界
9 労働と生命の勝利
10 展 望

感想・レビュー・書評

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  • 牧野 雅彦 Masahiko Makino | 現代新書
    https://gendai.media/list/author/masahikomakino

    精読 アレント『人間の条件』 | 学術文庫&選書メチエ | 講談社
    https://gendai.media/list/books/sensho-metier/9784065314289

    『精読 アレント『人間の条件』』(牧野 雅彦):講談社選書メチエ|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000375695

  • 原著訳本と並行して読んだ.
    この本の補足があったからこそ,原著訳本を読み進められた気がする…が,難しい!
    高校の時以来のアレントだったが,相変わらず…理解とは程遠かった気がする…

  • 「人間の条件」を新訳した訳者による丁寧な解説本。

    アレントの哲学的な主著であるが、アレントはなかなかに屈折の多い思想家なので、簡単には理解できない。単に難しいだけでなく、皮肉で言っているのか、本気なのかも分からないところもあって、分かったつもりでも逆の意味で理解していることもある。

    そんなアレントの「人間の条件」は、いろいろ解説書を読んだり、ドイツ語からの翻訳「活動的生」を読んだり、いろいろ読んで、なんだか初めて、分かった気になっている。

    複数性を大切にするアレントをある一つの方向で、ここまで分かってしまって、大丈夫だろうか、と思ってもしまうが、これまでいろいろ悩んできた点と点がやっとつながった感じというか、複層的なものとして理解が大きく進んだ感覚がある。

    理解が進んだのは、マルクスとの比較が視点としてはっきり打ち出されているためだと思われる。アレントは、「人間の条件」を書く前にマルクスをかなり研究しており、ある意味、その「誤読」を通じて、彼女の独創的な見解に到達したともいわれるところで、そのあたりがだいぶ見晴らしがよくなったと思う。

    そして、この本は、人工衛星の打ち上げから始まり、マルクス的な労働の疎外ではなく、世界疎外を打ち出すわけだが、その冒頭での主張は印象的ではあるものの、途中の労働、仕事、行為の3分類の説明を読んでいるうちに、もともとの問題意識がわからなくなってしまうところがあった。

    マルクスとの関連で、活動的生活の3分類が整理されたところで、20世紀においける科学技術の問題があらためて議論され、その関係において、世界疎外という話しにつながっていく、第Ⅵ章「活動的生と近代」の議論がようやく分かった気がした。

    ここには、極めて現代的な技術の問題、たとえばDXとか、AIとかに直結する議論がすでになされていたんだなとアレントの慧眼にあらためて驚いてしまった。

    あらためて、アレントの「人間の条件」を起点に政治的なさまざまな概念について思考を展開した「過去と未来の間」、当時のアメリカの政治状況へ展開した「暴力について」あたりを再読してみたい。

  • 精読とあるものの、アーレントの言葉をアーレントの言葉で解説している(つまり解説になってない)ところが多いように感じた。また、想定する読者像や執筆の経緯、著者と『人間の条件』(以下HC)との出会いといった、本書の立ち位置についての前置きがどこにもない。そのため、HCをこれから読む/すでに読んだ一般読者むけに噛み砕いて講義する入門書というより、著者自身のための読書ノートという印象を受けた。

    一方で、HCの引用時に牧野訳と志水訳の両方の参照ページを載せているのは親切。また、志水訳の誤りの指摘・修正も参考になった。

    【action をどう訳すか問題】

    ①志水訳 action「活動」; activity「活動力」
    ・これだと action と activity の区別があいまいになりかねない。

    ②牧野訳 action「行為」; activity「活動」
    ・行為と活動をはっきり訳し分けることで①は解決する。
    ・でも、これだと action「行為」と behavior「行動」が似ていてまぎらわしい。
    ・また文脈によって、action が「観照」と対比される意味での「活動」 を指す場合は「活動」と訳さざるを得ない場合がある。そのため、action「行為」(たまに「活動」)となって表記の揺れが生じてしまい、誤解を招きかねない。

    ☆個人的な思いつき action「ふるまい」; activity「活動」
    ・上記①②のいずれも解決する。
    ・さらに、action「ふるまい」ないし act「ふるまう」の語感は、公的空間における action の演技的な性格をもよく表せているのでは?
    (と素人なりに閃いたんだけど、アーレント学会では action の訳語をめぐってどういう議論が交わされているんだろう?)

    【目次】

    はじめに──地球からの脱出と「人間の条件」の変容

    序章 マルクスと西洋政治思想の伝統
    1 古典的政治哲学の成立
    2 ソクラテス──自己の内なる対話
    3 存在への問いとプラトン
    4 近代の転換──ヘーゲルからマルクスへ
    5 自然と人間の物質代謝

    第I章 観照的生活と活動的生活
    1 アウグスティヌスと古代世界の没落(第2節)
    2 不死と永遠(第3節)

    第II章 公的なものと私的なもの
    1 アテナイにおける古典的ポリスの成立(第4節)
    2 古代における公私の区分(第5節)
    3 社会的なるものの勃興(第6節)
    4 公的領域の光の喪失(第7節)
    5 私有財産の意味(第8~9節)
    6 公私の区分の意味(第10節)

    第III章 労働──自然と人間の物質代謝
    1 「労働」と「仕事」(第11節)
    2 「世界」と労働、仕事の位置(第12節)
    3 人間の生と労働の意味(第13節)
    4 労働と生産力(第14節)
    5 私有財産の源泉としての労働(第15節)
    6 労働の労苦からの解放は何をもたらすか(第16節)
    7 大衆消費社会という不幸(第17節)

    第IV章 仕事と制作
    1 産業革命における「消費」の無限拡大(第18節)
    2 制作過程の変容(第19~20節)
    3 功利主義批判(第21節)
    4 工作人と交換市場(第22節)
    5 世界の永続性と芸術(第23節)

    第V章 行為
    1 第二の「出生」(第24~25節)
    2 行為と人間事象の脆さ(第26節)
    3 ギリシア人の解決としてのポリスと「権力」概念(第27~28節)
    4 ヘーゲルからマルクスへ──「潜勢力」概念の継承と断絶
    5 行為の代替としての制作(第31節)
    6 人間関係を修復する「奇蹟」としての「許し」(第33節 その一)
    7 行為の「予測不能性」に対する救済としての「約束」(第34節)
    8 自然過程への「行為」の介入(第33節 その二)

    第VI章 近代の開幕と活動のヒエラルキーの転換
    1 近代の起点──三つの「出来事」(第35節)
    2 ガリレオによる望遠鏡の発明──アルキメデスの点の発見(第36節 その一)
    3 近代数学と経験からの解放(第36節 その二)
    4 デカルトの懐疑──内面世界への逃避(第38節)
    5 デカルト的内省と共通感覚の喪失(第39~40節)
    6 観照と活動の伝統的なヒエラルキーの解体(第41節)
    7 制作から過程へ(第42節)
    8 「工作人」の敗北と功利主義の限界(第43節)
    9 労働と生命の勝利──キリスト教と近代(第44節)
    10 展望──「労働する動物」の勝利と行為の行方(第45節)


    文献一覧
    あとがき

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著者プロフィール

広島大学法学部教授

「2020年 『不戦条約 戦後日本の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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