教養としてのエントロピーの法則 私たちの生き方、社会そして宇宙を支配する「別格」の法則

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065329672

作品紹介・あらすじ

この法則を知らずして、資本主義、地球温暖化問題、人類の未来を語ることなかれ。「世の中には、ある一方向にしか動かず、『絶対に』元に戻せないことがある」。たとえば、コーヒーにミルクを入れてかき混ぜると、コーヒーミルクができて、その後再びコーヒーとミルクに分かれることはない。たとえば、熱いコーヒーをそのままテーブルに置いておくと、冷めてしまう。たとえば、コーヒーを床にこぼしてしまうと、元のカップに戻すことはできず飲むこともできない。こうした一見「当たり前のこと」は、じつは「エントロピー増大の法則」という物理法則で説明することができる。この「エントロピー増大の法則」は、数多ある物理法則のなかでも、どんな時、どんな場所でも成り立つ「別格の」法則。私たちの生き方、社会、そして宇宙を支配する法則なのだ。なぜ、経済が成長すると格差が広がるのか?なぜ、SDGsはうまくいかないのか?なぜ、温暖化が大きな問題なのか?その答えは「エントロピー増大の法則」を知ればわかる。今日の情報科学の発展にも寄与した法則を理解するための最適の教科書。

感想・レビュー・書評

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  • エントロピー増大は宿命で、低エントロピーにする必要性はないのではと思った。環境・人間・経済はエントロピー増大の方向に進んでいるが、世界は改善されている(「FACTFULNESS」 参照)。著者はSDGsの提案者は文系人間だと断定し、やたらと文系批判が目立つ。著者の結論が、低エントロピーにするためには宗教・信仰が大事で結んでいるところも浅はか。宗教間の争いが絶えず起きている中、軽薄すぎる。対抗して言えば「理系能」で思考回路が止まっている。物理学者ロヴェッリの「世界は関係でできている」の名著ぶりを再認識した。ロヴェッリは文系批判などせず、また、数式も2つしか引用せず、量子力学を分かりやすく説明し、さらに、宗教(特に仏教の空即是色)まで発展させ、理系と文系の融合に一石を投じている。

  • ( オンラインコミュニティ「Book Bar for Leaders」内で紹介 https://www.bizmentor.jp/bookbar )

  • 請求記号 426.5/H 69

  • 熱力学の第二法則=エントロピーは必ず増大する、は別格に確からしさが確認されている法則。=自然の状態ではどちらの方向に向かうのか、を教えてくれる。
    情報エントロピー=取り得る状態の数。
    エネルギー保存の法則=熱力学の第一法則。エンタルピーは変わらない。=特定の系の総エネルギー。熱エネルギーと力学的エネルギーの和。
    エントロピーは、系の熱量を温度で割ったもの。
    第二法則は、不可逆的変化であり、様々に表現される。低温から高温に熱を移せない=一つの熱源から熱を吸収して仕事に変えることは不可能=トムソンの原理。
    赤インクを一滴水の中に入れると、赤インキ分子の取り得る場所は、水の中全体に広がる=場合の数が増える=エントロピーが増大する。

    エントロピーの増大なしには何の変化も起こらない。
    熱エネルギーが加えられると、個体から液体、気体へ変化する。金属原子は重いので、少しの熱では変化しない。液体、気体のほうが高いエントロピーにある。
    環境のエネルギーの増減を考えると、変化する場合は必ず全体のエントロピーは増大する。
    自然な状態では、各人の1円を集めることはできない=ばらまき政策が成功しない理由。
    エンタルピーから温度×エントロピーを引いた値はマイナスになる方向に動く=ギブスの自由エネルギーはマイナスになる。

    水素が燃える反応は、エントロピー的にはマイナスになること=自然には起こらない。エンタルピー的には、ギブス自由エネルギーはマイナスなので、変化が起きるはず。活性化エネルギーを乗り越える必要がある。触媒によって乗り越えられる。
    液体の水のほうが気体の水よりもエントロピーが低い。

    オキシドールからの酸素の発生は、傷口のカタラーゼという酵素が触媒となって、活性化エネルギーが下がる。

    太陽からのエネルギーは膨大でエントロピーはかなり低い。=変化が起こりやすい。地球での活動で使うとエントロピーは高くなる。それを宇宙空間に捨てる。温室効果ガスで捨てにくくなっている=地球のエントロピーが増大して地球の温暖化が起きる。

    動物は外界から食物を取り入れて、エネルギーを使って必要なエントロピーを減少させている。=グルコースの酸化で大きな自由エネルギーを得る。その反面、エントロピーは増加する。熱と二酸化炭素の形で排出する。
    病気の進行はエントロピーの増大と同期する。自由度が高い細胞は制御が効かずがん化することがある。

    進化の法則は熱力学の第2法則に比べれば確実性は段違い。

    自由と平等は両立しない理由。
    所得の分布はボルツマン分布に似ている。所得を決める要因がランダムではない=ランダムなら正規分布になるはず。場合の数が最も多い分布は、エントロピーが高い状態=ボルツマン分布になる。自由に所得をやりとりすると、エントロピーが高い状態=ボルツマン分布に近くなる。富が富を生む構造。
    マタイによる福音書に、「もてるものはより豊かに、もっていないものは取り上げられる」とある状態と同じ。マルコやルカの福音書にも同じ記述がある=聖書の時代からエントロピー増大の法則を多くの人が体験していた証拠。=自由と平等は両立しないことは、熱力学の第2法則が教えてくれている。
    マタイ効果=研究室の研究費、名声、地位など、豊かなものに集中する効果。=エントロピーの増大法則の副産物。
    自由度を増加させる=エネルギーを与える=規制緩和をする=格差が拡大する。エントロピー増大の法則からは自明のこと。
    古くからの規範や因習はそれを律する方法だったかもしれない。皆が平等なのは社会活動が低い状態でのみ実現可能。社会活動が高くなると平等は失われる。
    地球全体のエントロピーは増大している。空間移動が増えて文化の均質化が進む。=文化的にエントロピーが増大している=語彙が少なくなっている。赤、と朱、と紅、の違いがなくなる。ヤバい、のように定義があいまいな言葉が広範に使われるようになる。語彙の減少が進む=文化的なエントロピーが増大方向になる。
    情報の多さは我々の心理状態も撹乱し、情報エントロピーが増大している。

    旧約聖書の創世記のノアの方舟は、最大になったエントロピーを洪水でリセットしたもの。人間社会は放っておくとエントロピーは増大し、救世主を求める。仏教の諸行無常も同じ考え方。老子の小国寡民の思想も同じ。

    熱力学の第2法則は、文系研究者のシェークスピアと同じようなもの。
    部屋が散らかる、イヤホンコードが絡まる、は熱力学の第2法則から来ている。
    SDGSでは解決できない。これら17項目は権利の拡大を主張しているもの。エントロピー増大の法則に反している。
    江戸時代はエントロピーの収支のバランスが取れた社会だった可能性がある。閉鎖系の社会でときどき火事でリセットした。浄土思想から精神的なエントロピーが低い状態が続いた。
    命はエントロピーを下げる努力を続けている。

  • 数式を使って正確に、かつ論理的にエントロピーを解説している。が、正確がゆえにどうしても説明が長く感じてしまい、読み物の面白さとしてはイマイチだった。
    ただ、今まで何となくしか知らなかったエントロピーについての理解は進んだ。情報にもエントロピーがあり、確率が収束していくのもエントロピー増大というのが感覚と違って面白かった。

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著者プロフィール

1948年、茨城県生まれ。1974年、東京工業大学大学院修了。ロンドン大学博士研究員、協和発酵工業(株)東京研究所主任研究員、東海大学開発工学部教授、東海大学医学部教授、東海大学糖鎖科学研究所教授を経て、2016年より東海大学先進生命科学研究所教授。理学博士。現在のおもな研究課題は、コンピュータ科学を駆使した、より効果的で、より安全な医薬品の開発。さらに、人間のQOL向上につながる有用物質の探索・創製にも興味を持って研究活動を展開している。著書に『暗記しないで化学入門』『熱力学で理解する化学反応のしくみ』『「香り」の科学』『カラー図解 分子レベルで見た体のはたらき』『はじめての量子化学』(いずれも講談社ブルーバックス)など。

「2020年 『カラー図解 分子レベルで見た薬の働き なぜ効くのか? どのように病気を治すのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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