夜明けの花園

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065331392

感想・レビュー・書評

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  • あなたは10代の頃、友だちの名前を苗字で読んでいたでしょうか?それとも下の名前で呼んでいたでしょうか?

    昨今、学校における友だちの呼び方も大きく変化してきているようです。このレビューを読んでくださっている方の中には、あだ名というものが一般的だった時代を過ごされた方もいらっしゃるでしょう。下の名前で呼び合う時代を過ごされた方もいらっしゃるかもしれません。そして、今は男女問わず、苗字+”さん”という呼び方が推奨されてもいるようです。時代の大きな変化を感じます。

    しかし、そこにはそんな呼び方をさせる理由が当然あるはずです。あだ名はいじめに繋がり、男女異なる呼称は多様性に反する…。さまざまな理由は今の時代を表してもいます。であれば将来そんな呼び方がどう変わっていくのか。私の予想はいずれ本名は隠し、誰もが学校では通称を用いるそんな時代がくるのではないか?勝手にそんなことを想像したりもします。

    さてここに、『皆、名前だけで呼ばれる』という『学園』を舞台にした物語があります。『それぞれの素性が分からないように、苗字は伏せている』と、お互いを名前で呼び合う生徒たちが登場するこの作品。『湿原の中』、『陸の孤島』とも呼ばれる『学園』に退屈な毎日を生きる生徒たちを描くこの作品。そしてそれは、『ここから出ることはできない』『美しい檻』という『学園』の日常を描く物語です。

    『ここは優雅な檻。中で腐るかどうかは、本人の心がけに掛かっている』という『湿原の中』、『陸の孤島』のような学校で『いかんともしがたい』退屈な日々を過ごすのは主人公のヨハン。『彼の重要なパートナーである少女はこの早春、一足先に学校を去ってしまった』と思うヨハンは、『校長のお茶会に呼ばれ』『ぶらぶらと校内を歩』きます。そんな時、名前を呼ばれて振り返ると、そこには『この三月に転校してきてファミリーに加わったジェイ』の姿がありました。『ヨハンの二つ下』で、『やや繊細さと内向性が目立つものの、ヨハンに劣らぬ美しい少年』という『ジェイは長い距離を駆けてきたらしく、頬を激しく紅潮させてい』ます。『おい、走って大丈夫なのか』と訊くヨハンに『平気』と返すジェイ。『喘息持ち』というジェイの発作を気にかけるヨハンは、『どうした。誰かに追いかけられたのか?』と気づかいます。それに『なんでもない。最近、おかしなゲームが流行ってるんだよ』と話すジェイは『知ってる?「笑いカワセミ」って』と続けます。
    場面は変わり、校長の『お茶会』の場に呼ばれたヨハンとジェイ。そんな場で『笑いカワセミ』について説明するジェイ。『多分、ストローの包み紙を折って作ってる…皿やカップの下に、こっそり白い人形みたいなものを、そのお皿の持ち主に気付かれないように挟んでおく…持ち上げてその人形に気付いた瞬間、みんなで叫ぶんですよ、「笑いカワセミが来るぞ!」って』。そんな説明に『いつ頃から始まったの』と訊くヨハンに『さあ。最近だと思いますけど』と返すジェイ。そのあと、『みんなが一斉に「来るぞ、来るぞ、おまえを殺しに来るぞ」って囃すんです』と続けるジェイに『おまえを殺しに来る?そいつは穏やかじゃないな』と『校長は眉を顰め』ます。そんな時、『ひょっとして、あのせいじゃないですか?』と『三人の会話など知らぬ素振りだった聖(ひじり)が口を挟』みます。『一年の生徒がボールを捜しに草むらに入ったら、罠が仕掛けてあって、お腹に石が当たった』と続ける聖。それを聞いて『シーソーのように、板の片方を踏むともう片方が持ち上がって、籠のようになった針金の中から石が飛び出してくるように仕掛けがしてあった』という一件を思い出すヨハン。『彼はその時に笑い声を聞いたって言うんだ』と補足する聖。『その時、突然ジリリリとけたたましい電話のベルが鳴』り、『校長がサッと立ち上がって黒い受話器を取』りました。『で?意識は?取り戻した?命に別状はないんだな?』と話す校長を見て『何かが起きた』と思う面々。『引き続き様子を見てくれ。すぐに行く』と受話器を置くと『壁に掛けてあったジャケットを手に取る』校長。『何かあったんですか』と問う聖に、『また「笑いカワセミ」が出たらしい』と『校長は無表情に少年たちを見回し』ます。『学園に流れる噂話』の先に衝撃的な事件が巻き起こるこのシリーズらしさに満ち溢れた好編でした。

    “2024年1月31日に刊行された恩田陸さんの最新作でもあるこの作品。”発売日に新作を一気読みして長文レビューを書こう!キャンペーン”を勝手に展開している私は、2023年10月に原田ひ香さん「喫茶おじさん」、翌11月に小川糸さん「椿ノ恋文」、一穂ミチさん「ツミデミック」…と、私に深い感動を与えてくださる作家さんの新作を発売日に一気読みするということを積極的に行ってきました。そんな中に、私が”読書&レビュー”の日々を始めるきっかけとなった「蜜蜂と遠雷」の作者である恩田さんの新作が出ることを知り、これは読まねば!と発売日早々この作品を手にしました。

    そんなこの作品は、内容紹介にこんな風にうたわれています。

     “「ゆりかご」か「養成所」か、はたまた「墓場」か。累計100万部突破!「理瀬」シリーズ初短編集 ゴシック・ミステリの金字塔”

    “「理瀬」シリーズ”という言葉に恩田さんのファンである読者の方はすぐにピン!とくるはずです。そうです。この作品は恩田さんの数多ある作品の中で『理瀬』という女性を中心とした作品群の新作となる一冊なのです。と言ってもすぐにピンと来られない方もいらっしゃるかもしれません。小説には続編でシリーズ化されているものがあります。その一方で続編という形ではないものの一つの繋がりを持つ場合があります。恐らく最も有名なのは辻村深月さんの”辻村ワールドすごろく”と呼ばれる作品群だと思います。辻村さんの作品ではある作品の登場人物を別の作品にも登場させることで違う作品なのに同じ一つの世界観の中で物語を展開することによって奥行きを深めることに成功されています。それに対して恩田さんの場合はもう少し作品毎の世界観を統一した上で同じ登場人物を複数の作品に登場させます。それこそが『水野理瀬』という女性です。この『理瀬』がそれぞれの作品に登場することもあって、一連の作品は”「理瀬」シリーズ”と呼ばれています。では、今までに刊行された”「理瀬」シリーズ”をここにまとめてみましょう。

    ● 恩田陸さん”「理瀬」シリーズ” ※ 刊行順

     (1)「三月は深き紅の淵を」(1997年7月刊)(準必読)
       ※ 連作短編集ですが、第四編目〈回転木馬〉に列車に乗った『理瀬』が登場。

     (2)「麦の上に沈む果実」(2000年7月刊)(必読)
       ※ 湿原の中の全寮制の学園での生活が描かれる。『理瀬』、ヨハン、黎二、憂理等が登場。

     (3)「黒と茶の幻想」(2001年12月刊)(上下巻)
       ※ 『理瀬』の同級生・憂理が学園を出た後の日々を描く
         → 実は積読中(苦笑)

     (4)「図書室の海」(2002年2月刊)
       ※ 短編集。〈睡蓮〉の中で幼き時代の『理瀬』が登場します。
       ※ 本作収録の短編〈睡蓮〉の底本

     (5)「黄昏の百合の骨」(2004年3月刊)(準必読)
       ※ 学園を去った『理瀬』が百合の匂いのする洋館で遭遇する出来事を描く

     (6)「朝日のようにさわやかに」(2007年3月刊)
       ※ 短編集。〈水晶の夜、翡翠の朝〉に『理瀬』の同級生・ヨハンが登場します。
       ※ 本作収録の短編〈水晶の夜、翡翠の朝〉の底本

     (7)「薔薇のなかの蛇」(2021年5月刊)
       ※ 英国へ留学中の『リセ・ミズノ』が”祭壇殺人事件”が起こった現場近くの館を訪れます。

    純粋に恩田さんの作品として刊行されているものは以上の7冊です。この他にアンソロジーとして刊行されているものもあるので、恩田さんが如何にこの”「理瀬」シリーズ”に入れ込まれていらっしゃるかがよくわかります。いずれにしてもこの作品はそんな”「理瀬」シリーズ”の8冊目という言い方ができるかと思います。そして、この作品をこれから読まれたいという方にどうしてもお伝えしたいことがあります。それは、上記で”(必読)”または”(準必読)”と書かせていただいた3冊、最低でも”(必読)”の「麦の海に沈む果実」は必ず先に読んでいただきたいということです。正直なところ、「麦の海に沈む果実」を飛ばしてこの作品を読むことに意味はありません。まあ、時間の無駄とまでは言いませんが、恐らく全くもって意味不明な読書の時間、本来の魅力の10分の1も感じられない不幸な読書の時間になると思います。それだけこの作品は、”「理瀬」シリーズ”を知っていて当たり前の土台の上に書かれているとも言えるのです。

    さて、そんな”「理瀬」シリーズ”というと『湿原に浮かぶ檻、と密かに呼ばれていた全寮制の学校』の独特な雰囲気感に包まれた『学園』の描写が欠かせません。この作品は”「理瀬」シリーズ”の要の作品である「麦の海に沈む果実」に直結した物語とも言え、この『学園』の描写は欠かせません。それでは、建物を描写した表現から見てみましょう。

     ・『北の原野の湿原に浮かぶ、岩山に貼り付いた古く美しい建物』

     ・『麦の海に浮かぶ城』

     ・『ただでさえ妄想を培養しそうなゴシック風の古めかしい建物』

    そんな風に描写される『学園』は、学校というよりはヨーロッパの古城を思い起こさせます。そして、そんな『学園』自体についての紹介は読者に緊張感を煽ります。

     ・『この学校の存在は、一般的には知られていない。しかし、その特殊な環境と特徴とで、実は内外の特定の富裕層には広く知られている』

     ・『三月以外は入学させないという方針』

     ・『ここでは、苗字はない。皆、名前だけで呼ばれる。それぞれの素性が分からないように、苗字は伏せている』

    さらに、そんな『学園』には三つのタイプの生徒が入学してくると噂されています。

     ・『ゆりかご』: 『超過保護で世間の荒波に当てたくない生徒』

     ・『養成所』: 『芸術やスポーツなど特殊なカリキュラムを必要とする生徒』

     ・『墓場』: 『文字通りここから出てこないで欲しい生徒』

    物語はこのなんとも奇妙な『学園』の中で共同生活を送る生徒たちの日常が描かれていきます。そこではさまざまな事件が起こります。それは、おおよそとても『学園』の中とは思えない血生臭いものばかりです。しかし、この『学園』最大の特徴こそが読者に緊張感をさらに強います。

     『ここは贅沢な檻だ。そして、美しい檻。ここから出ることはできない』

    ひぇーっ!という声が聞こえてきそうです。恩田さんは多方面に渡る作品を執筆されていらっしゃる方です。この作品ではミステリー、ファンタジー、学園もの、そしてちょっとだけホラーといった要素が入り混じった独特な物語が展開していくのです。

    さて、ここまで読んでくださった方はこの作品に興味津々、すぐにでも読みたくなられたのではないでしょうか。でも、ちょっと待った!です。再度書かせていただきますが、上記もした通り、まずは「麦の海に沈む果実」、この作品だけは必ず先に読んでください。そうでないと、この作品の魅力は消えてしまいます。

    では、六つの短編から構成されたこの作品について、私が特に気に入った三つの短編をご紹介しましょう。

     ・〈水晶の夜、翡翠の朝〉: 『将来の準備は着々と進んでいる』、『この学校にいるのもあと一年くらい』と思うのは主人公のヨハン。しかし、そんなヨハンは『いかんともしがたいのはこの退屈さだ』という学園生活を過ごしています。そんな時、転校してきたばかりのジェイから最近流行っている『笑いカワセミ』というゲームについて話を聞きます。そんな中、学園の螺旋階段から一人の少女が転落する事故が起きました。『笑いカワセミ』の仕業と不安がる少女…。

     ・〈麦の海に浮かぶ檻〉: 『今年は、ファミリーができる』と期待するのは要と鼎。そんな二人の元に『タマラだ。今日から、君たちと一緒のファミリーに入る。仲良くしてやってくれ』と『ほっそりとした少女』を二人に引き合わせる校長。早速二人が近づくもタマラは『表情を強張らせ、あとずさ』ります。そんな二人に『タマラは、人と接触するのがダメなんだ。接触恐怖症とでもいうのかな ー そこのところ、理解してほしい』と続ける校長。『何か嫌な予感がする』と思う要は…。

     ・〈絵のない絵本〉: 『全く、ついてない』と『サンダルからはみ出ている爪先』を見るのは主人公の『水野理瀬』。『ガラスの破片でやられた』と思う『理瀬』は『また、砲撃か爆撃があったようだ』と『薄暗い廊下を覗きこ』みます。『外務省の』『危険情報』では『レベルI(十分に注意)だったはず』も自身が置かれた『今の状況が本当にヤバイのかどうか分からない』という『理瀬』。『リタ・カスパートソン』という偽名でこのホテルにやってきた『理瀬』を待ち受けるものは…。

    三つの短編をご紹介しましたが、それぞれヨハン、要、そして『理瀬』という三人が主人公で登場します。彼らは「麦の海に沈む果実」にも登場したお馴染みの面々でもあります。まず、ヨハンと要が主人公となる物語は、「麦の海に沈む果実」の舞台となったまさしくその『学園』であり、特にヨハンが主人公の短編では、読者を一気にあの物語世界に連れて行ってくれます。一気に雰囲気感を形作る恩田さんの凄さにも酔うこの短編二つは、元々アンソロジーとして刊行されていたものです。一方で、『理瀬』が登場する短編は、舞台こそ違いますがこちらは”「理瀬」シリーズ”の主役でもある『理瀬』の存在感を楽しむ物語だと思います。『理瀬』の赴くところには何かしら血生臭い事件が起こります。これは『理瀬』に定められた運命のようなものなのだと思います。読者は今度は何が起こるのか?と楽しみな読書ではありますが、そんな面倒な事件に巻き込まれる運命を背負った本人としては冗談じゃないとは思います。しかし、『理瀬』はそんな運命を教訓として生きています。

     ・『生き延びろ。そのために何ができるか考えろ』。

     ・『結果に意味を求めるな。ただし、経験からは必ず何かを得て教訓とせよ』。

    幼き日々に祖母から言われた言葉を思い返す『理瀬』。そんな『理瀬』を襲うまさかの出来事。作品の最後を飾る短編にはやはり『理瀬』が似合う。このシリーズには『理瀬』しかいない、改めてそう感じながら、”「理瀬」シリーズ”の世界から現実に戻って本を置きました。

     『陸の孤島。優雅な檻。この学園から出ることはとても難しい』。

    『麦の海に浮かぶ城』とも比喩される全寮制の『学園』を舞台にした雰囲気感豊かな〈水晶の夜、翡翠の朝〉など6つの短編が収められたこの作品。そこには、”「理瀬」シリーズ”どっぷりな世界が描かれていました。恩田さんのさまざまな側面に魅せられるこの作品。そんな作品の最後に登場する『理瀬』の存在感の大きさを改めて感じるこの作品。

    今度は、”「理瀬」シリーズ”の長編を読んでみたい!そんな思いが沸々と込み上げてくる短編集でした。

  •  私の大好きな「理瀬シリーズ」の最新刊!よくやく手にすることができました♪まずこの本のサイズ感、いいですよねぇ~ハードカバーの単行本だけれど、ちょっと小さめに作られているんです。そして、この理瀬シリーズならではの、表紙、挿画の北見隆さんの絵も素晴らしいです。

     内容としては6編の短編集…。読んでいて、あれ??読んだことある…と、ちょっと懐かしい思いにも浸ることができました。私はこの理瀬シリーズの世界観好きなんです。この作品を読むことで、ちょこっと復習もできたので、次作は長編がいいです!!

  • 美しい装丁と手にしっくりとくるサイズ感!がとても良い。
    「理瀬」シリーズ・六編の短編集。

    全寮制の学園は、訳ありの生徒が出入りしている。
    「ゆりかご」、厳しい世間の荒波に当てぬよう、温室で守りたい者。
    「養成所」、特殊技能や才能があって、それに特化した生活を送る者。
    「墓場」、世間に知られたくない者、世間から隠したい者、あるいはいなかったことにしてほしい者。

    水晶の夜、翡翠の朝からその世界へ誘われていく。
    途轍もなく幻想的であり、妖しく…それが怪しくなり亡き者となる。
    このなんとも言えない感覚に酔う。



  • 皆さんのレビューを読んで、シリーズものだと知った。(このパターンが本当に多い…)
    先に読んでおけばよかったなぁ。
    でも、不穏なのに美しい独特な世界観で、こちらから読んでもしっかり楽しめた。
    単行本だけど一回り小さいサイズ感も手に取りやすく、読みやすかった。

  • まず手にした瞬間、北見隆さんの美しい装丁・挿絵で「ああ、本当に理瀬シリーズが読めるんだ」と実感がわき、真っ黒な見返しと本扉の質感、さらに一般的な単行本より小ぶりなこのサイズ感ときたらもう、読み始める前から心が高鳴っていた。

    理瀬やヨハンだけでなく、『麦の海に沈む果実』の他の登場人物も主体となっているスピンオフ短編集。本作を読む前に『麦の海に沈む果実』(と出来れば『黄昏の百合の骨』)は必読。

    麦海の学園の設定やキャラクターには少女漫画の影響が強く投影されている、と恩田陸さんが何かのインタビューでお話しされていたが、少女漫画×ゴシックミステリ、ドストライクすぎて自分はまたこの恩田陸ワールドにのめり込んでしまう。

    恩田陸さんの作品は風景描写がとても美しく情景が頭に浮かんでくるので、日常を忘れて没入できるのも好きなところ。
    個人的に好きだった話は麦の海に浮かぶ檻と丘をゆく船。校長と黎二の過去の一部分を知ることができて解像度が上がったので、また麦海から読み直したい。

    麦海を初めて読んだのは中学生の頃。それから15年以上何度も読み返し布教し愛し続けてきた作品の世界にまた浸れることは本当に幸せなことだと思う。他の理瀬シリーズと合わせて今後も大切にしていきたい。

  • 酔いしれた一冊。

    このサイズ、装丁に先ず酔いしれ、六つのストーリーに酔いしれた。

    そして章タイトルにも。

    一話目「水晶の夜、翡翠の朝」からシリーズのあの独特の陰鬱な空気に包まれた。

    ゆりかごか養成所か墓場か…湿原に佇む学園という名の檻での出来事。
    改めて、残酷さを含みながらも魅了されずにいられない世界観がたまらない。

    ヨハン、憂理、校長のお茶会、懐かしい名前とワードがたまらなく心をくすぐり、記憶を薄っすらと呼び覚ます。

    これを読んだ上でまた前作を読み返すと、さらに理瀬沼にズブズブとハマれそう。

    危険な魅力が溢れる短編集。

  • 久しぶりの理瀬シリーズ。
    短編集なのに、ずっしりと重い長編小説を読んだみたいに感じた。

    特に『睡蓮』が良かった。美しい花は泥の中から生まれてくる。まさに理瀬は睡蓮の花。

    恩田さんはやはりゴシックミステリが素晴らしい。

  • 「理瀬」シリーズの初短編集。

    「薔薇のなかの蛇」を読後、あらためてこのシリーズを読んでみようと思いながら、「三月は深き紅の淵を」読んだだけでなにやら裏憶え。とはいえ、この世界観にひたりました。

    独特の幻想的な装画、宝石箱を思わせる装丁、特別な空間を醸しだす、よーこそ恩田陸ワールドへ
    という感じいっぱいですね。

  • 理瀬と聖の話以外は何度も読んだけど、理瀬の話が読めるだけで買ってしまう。
    ラストに理瀬の話が来るのも良かったし、「黄昏の百合の骨」の後のお話なのもいいし、アリスとの出会いがまたいい!
    ちょっと小ぶりの本の大きさがまた理瀬シリーズに合っていてテンションが上がる。
    大好きなシリーズだから本当に読めて良かった。

  • 『麦の海に沈む果実』の理瀬シリーズ、短編集。『麦の海に沈む果実』が書かれてずいぶん時が経つのに、物語に漂っている空気が全然変わらない。
    この世界観が、感覚がとても好きだったんだということを思い出して懐かしく読めた。
    何を書いても、現世界が舞台でもどこか懐かしくファンタジーで、ふわふわした読み心地がまさに恩田陸さんでした。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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