ダーウィンの呪い (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065336915

作品紹介・あらすじ

ダーウィンを祖とする進化学は、ゲノム科学の進歩と相まって、生物とその進化の理解に多大な貢献した。一方で、ダーウィンが提唱した「進化論」は自然科学に革命を起こすにとどまらず、政治・経済・文化・社会・思想に多大な影響をもたらした。そして、悲劇的なことに、進化論を曲解した彼の後継者たちが「優生思想」という怪物を生み出した。〈一流の進化学者〉たちによって権威づけられた優生学は、欧米の科学者や文化人、政治家を魅了し、ついにはナチスの反ユダヤ思想とつながり「ホロコースト」という悲劇を生み出すことになる。第一線の進化学者の進化学の歴史に詳しい著者は、ダーウィンが独創した進化論は、期せずして3つの「呪い」を生み出したと分析する。「進歩せよ」を意味する〈進化せよ〉、「生き残りたければ、努力して闘いに勝て」を意味する〈生存闘争と適者生存〉、そして「この規範は人間社会も支配する自然の法則だから、不満を言ったり逆らったりしても無駄だ」を意味する、〈ダーウィンもそう言っている〉である。順に、「進化の呪い」「闘争の呪い」「ダーウィンの呪い」である。本来、方向性がなく、中立的な進化が、なぜひたすら「進歩」が続くと信じられるようになったのか。ダーウィンとその理解者、そしてその志を継いだ後継者たちが、いかにして3つの呪いにかけられていったのか。稀代の書き手として注目される著者が、進化論が生み出した「迷宮」の謎に挑む。第一章 進化と進歩第二章 美しい推論と醜い第三章 灰色人第四章 強い者ではなく助け合う者第五章 実験の進化学第六章 われても末に第七章 人類の輝かしい進歩第八章 人間改良第九章 やさしい科学第十章 悪魔の目覚め第十一章 自由と正義のパラドクス第十二章 無限の姿

感想・レビュー・書評

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  • 人類が神という存在を発明したのと同じように進化論は発明だと感じると思います。
    進化の意味には退化も内包することを噛み砕くために、HGウェルズの『タイムマシン』を引用するくだりは最高です。
    進化の意味合いがいつの間にか拡大解釈され、進化と進歩が同一視されていってしまう過程。進化論がやがて優生学と結びついていく社会現象。
    納得感のある歴史の流れを紹介しながら、最後に導びく“呪い”の説明は人間がもつ道徳と感情でした。
    この帰結が気になり調べたら不思議な関連を発見。
    アダムスミス『道徳感情論』1759年出版
    ダーウィン『種の起源』1859年出版
    呪いをとくには『種の起源』と『道徳感情論』を読まねばならいかもしれません...
    オカルトっぽい『ダーウィンの呪い』というキャッチーなタイトルでしたが流石の新書本でした。

  •  題名に惹かれて、夢中で読んでみた。ダーウィンの言葉として「最も強いものが生き残るのではない。最も賢いものが生き残るのでもない。唯一生き残るのは変化できるものである」が有名であるが、「種の起源」にこのようなことは一言も書いてないと言うのは驚きである。
     反対にダーウィンは「進化の普遍法則とは、最も強いものを生き残らせ、最も弱い者を死なせることだ」と言っていると言うのだから驚きだ。
     「適者」という言葉が、出生率と生存率が高いという生物学的意味ではなく、弱い者が排除され強いものが生き残るという日常用語的に解釈されてしまうことからダーウィンの言葉は不正確に伝えられてしまうのだ。
     世界がそのように理解され、人間社会の発展も進化論的に解釈されてしまうのだが…

    一度目を通しておいた方がよろしい本ではあるが、期待したほど…でした。

  • めちゃくちゃ面白い!
    「進化」を「進歩」と捉えたり,「最も強い者が生き残るのではない。最も賢いものが生き残るのでもない。唯一生き残るのは進化できる者である」という現代人が陥りやすい罠についての解説から始まる。
    多くのページを割いているのは,ダーウィニズムから優生思想へとつながる過程と,その時代に生きる科学者の主張,また社会に漂う価値観。このあたりがとてもよく分かる。
    特に,ヒトラーによる独裁政権下での暴虐が批判されることは,誰が見ても明らかであるが,「暴虐へと至る過程も分析しなければならないだろう」という姿勢はとても大切だなと思った。
    「理由は何であれ、これだけははっきりしている。自由と正義に反する非人道的かつ差別的、強権的な制度は、強権国家でなくても、自由と平等を重んじる人々の手で、正義の名のもとに、民主的に実現しうるのである。」という筆者の警告は,胸に刻まなければならない。

    そして,本書の結びにあるように,
    「しかし同時に,善悪,正邪,矛盾入り乱れ,人それぞれに異なる心の混沌も,私には魅力的に映る。世界から悪が消えたら胸のすくようなヒーローの物語は二度と楽しめなくなるだろう。大切なのはむしろ,人それぞれに夢を持てること。それからもし置いたレンガの場所が誤りだったなら,その失敗を修正できることではないか。」という筆者の生命観、倫理観にとても好感がもてた。

    一方で,遺伝的浮動,遺伝子プールなどの用語に対して注釈がないため,高校で生物を学んでいない方や,ベースとなる知識に不安がある人からすると,特に前半の内容は読みづらいかもしれない。
    個人的には理系の高校生や大学生に強く薦めたい書籍であると感じた。

  • ダーウィンの提唱した「進化論」。
    種の起源を紐解いたその意味と、現在利用される際の意味との違いを歴史の変遷や後世の学者の理論等を解説しながら説明している本。

    生物学的な「進化」の意味:一定方向への変化を意味しない。つまり、発展・進歩・退化、すべてが「進化」である。

    しかし、ダーウィンは生物学者としては進化を「方向性のないもの」として、社会哲学者としては「進歩」として説明した。このダーウィン自身が「進化」の用語の利用時に揺らぎがあったことが後世の進化論の理解をゆがめることとなった。

  • h10-図書館ー2024/03/27 期限4/10 読了4/7 返却4/8

  • 「ダーウインが○×と言っていた」。著者の言うとおり、中身がなくてもなぜか納得してしまう。実は危険な言葉なんだ。しかも「最も強い者が生き残るのではない、変化できるものだけが生き残る」という有名な言葉はダーウインが言ったのですらないと知って驚いたが、それでも人口に膾炙する。
    それはきっと、単純過ぎる自然選択の考えが自分たちの見たい物だからだろう。おどろおどろしい優生学的な考えは自分には無縁に思えるが、どこの社会にも誰の心にも素地があって簡単に表に出てくるという。
    著者からのヒントは「である・べき」を区別すること。自然選択で弱者が淘汰されるのであっても、弱者が淘汰されるべきとはならない。人は協力するように進化してきたが、協力すべきとはならない。過剰な道徳心は容易に行きすぎてしまう。
    簡単に思えた新書版だが、段落を少し遡って読み見直したり、立ち止まって考えを巡らせたり、読み通すのに少し骨がおれた。著者からの大切なメッセは覚えておきたい。

  • 進化の呪い、闘争の呪い、ダーウィンの呪い。進化論(学)、そして優生学についての過去と現在。今も優生学は陰に隠れているのかもしれない。

  • 「進歩せよ」を意味する「進化せよ」。
    「生き残りたければ、努力して闘いに勝て」を意味する「生存競争と適者生存」。
    んで、「これは自然の事実から導かれた人間社会をも支配する規範だから文句言うても無駄」を意味する「ダーウィンが言うとるさかい」。
    この三つの呪い。

    ダーウィン、言うてへんねんけどと。

    そもそも、ダーウィンが言うてても、それが真実かどうかは別の話やし、実際、ダーウィン自体もちょっぴし揺らいでるところもあったみたいやのに、「優生学」的なものを取り巻く社会の要請に、「科学」からお墨付きを与えると言う、正直トンデモ科学的なお札にされたみたい。
    当時は、DNAも発見されてなかったし、獲得形質が受け継がれるような認識もあったらしいし。
    なんというか、オカルトのベースにユングが使われるようなところもあったわけか。

    本の大半は、ダーウィンを枕に、社会と優生学の関わり合いの歴史を綴っている。
    実のところナチスのやってることを理想と賛美してた方々と、その結果でこれはあかんねやとやっと気がついた人々。

    科学的事実を、価値や倫理に置き換えてはダメ。

    だが、社会はそれを道具にすることができる。
    その通りやなあ。

    じゃあこの先どうするかって話になってから途端に描きっぷりがウザくなってくる。道徳とか価値とか語ってるわけだ。

    余計。

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著者プロフィール

1968年、神奈川県生まれ。高校教諭。
1998年、第41回短歌研究新人賞受賞。歌集に『飛び跳ねる教室』『今日の放課後、短歌部へ!』『短歌は最強アイテム』『グラウンドを駆けるモーツァルト』、小説に『90秒の別世界』、共編著に『短歌タイムカプセル』、編著に『短歌研究ジュニア はじめて出会う短歌100』などがある。歌人集団「かばん」会員。國學院大學、日本女子大学の兼任講師。

「2021年 『微熱体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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