- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065338230
作品紹介・あらすじ
コロナ禍直前の2020年初頭に刊行され、各紙誌書評で絶賛された著者の“会社員”小説史上最高傑作ともいえる『御社のチャラ男』が、ついに文庫化!チャラ男って本当にどこにでもいるんです。一定の確率で必ず。すべての働くひとに贈る、新世紀最高“会社員”小説社内でひそかにチャラ男と呼ばれる三芳部長。彼のまわりの人びとが彼を語ることで見えてくる、この世界と私たちの「現実(いま)」。チャラ男はなぜ、あまねく存在するのか? 憎らしく、愛おしいのか?
感想・レビュー・書評
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ある地方都市の食品会社で「チャラ男」であると自他ともに認める中年男性を、さまざまな人の目を通して描く連作短編集。
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ジョルジュ食品の営業を担当する岡野繁夫(32)は今日も各取引先を回っていた。
岡野は要領の悪い人間だが、営業という仕事は気に入っている。どこから弾が飛んでくるかわからない社内で気を張り詰めているよりも、外へ出て自分のペースでノルマをこなす方が性に合っていると思うからだ。
その日、外回りを終えた岡野が事務所に戻ると、同僚の山田さんが逮捕されたと耳にした。以前からあった窃盗癖が顔を出したらしい。
警察での事情聴取に社長が直々に出向くことになったのは、直属の上司である三芳部長がとっくに帰ってしまっていたからだという。
まあ、あの人ならそうだろうなとチャラチャラした三芳部長を思い浮かべた岡野繁夫は、自分もさっさと帰ることにした。 ( 第1話「当社のチャラ男 ― 岡野繁夫 ( 32歳 ) による」) 全16話。
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「チャラ男」。そう言えば思い当たる人がどこにでもいました。自分はこれまで親しくならないようにしていたのですが、それでも「チャラ男」の特徴をいくつか挙げることができます。
・見栄っ張りである。だからおしゃれに気を遣い、目立つことを好むし、マウントを取ることも好きで、話の流れを自分の自慢話へと誘導するのがうまい。
・頭の回転が速くて口も立つため、その場しのぎがうまい。だから常に自分が損をしないよう巧妙に立ち回り、矢面に立つことも責任を取ることも免れるところに身を置いている。
・話術が巧みで人を惹き付けるが、よく聞いていると豊富な話題はすべて受け売りであるという、底の浅い人間だったりする。
といったところでしょうか。
このチャラ男、長期的に見ると損をしているようにも思うのですが、反省したり改めたりすることがありません。
理由としては、目先の欲望が満足すればそれでよしとしていることと、一般的には人気があることが自己肯定感に繋がっているからだと思われます。
本作で語られる三芳道造(44歳)もそんなタイプの、紛れもない「チャラ男」です。
社長のツテで営業統括部長として迎えられた「逸材」であるはずですが、周囲の人間が語る「三芳」像からは社運を背負って立つ優れた重役の姿は窺えません。
むしろ、器量の小さい小利口なだけの男というところで、衆目は一致しています。
みんな本当はわかっているのです。「チャラ男」と親しくなってもなんの得にもならないないことを。恐らく社長も気づいていると思います。
なのに見限れない。三芳の妻、眞矢子などはそれでよしと達観しているようです。
堪えきれずに三芳を罵倒した、不倫相手だった一色素子も、すぐ矛を収めてしまいました。三芳の安泰は続きます。
先述したとおり、三芳は尊敬に値するような優れた人物ではありません。なのに、常に安全なところに身を置き、甘い汁を吸っている。驚くべき嗅覚です。
会社の不祥事が発覚した上に三芳の横領まで取りざたされる物語終盤。三芳もここまでか。天誅が下ったかと思われたのですが……。
三芳の持つ生命力というか、したたかさにはそら恐ろしくさえ感じます。
「自分、不器用ですから」の実直な健さんタイプが好きな私には、第5話「愛すべきラクダちゃんたちへの福音 ― 三芳道造(44)による」および最終話「その後のチャラ男」で披露される、三芳の身勝手さを正当化するような述懐から受ける違和感にモヤモヤするしかありませんでした。( ああ疲れた……。)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
複数の人物による、ひとりのチャラ男を軸に据えたお話。これはちょびちょび楽しむべきだったかな、とおもったけれど、一気に読みました。会社が崩壊する場面、なんだか日本の未来を見るようで、背筋が寒くなりました。「それがどうした?」って、仕事で使ってみたいなあ?ちょっと強めなので、「それがどうかしましたか?」くらいかな。
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これはお仕事小説じゃなく会社員小説というのが納得!
お仕事小説は読むと自分も頑張ろうと思えるが
これはそうではない。
この小説は出てくる人達が特徴的で
妙にリアルに読めるからちょっと苦しくもなる。 -
「会社員」小説史上最高傑作の帯に惹かれ、つい買ってしまった・・・
「チャラ男」と呼ばれる三芳部長の周囲の人物の視点から描かれる作品。
三芳自体、確かに好かれる性格ではないのは理解出来るのだが、登場人物全員がどこか鼻につく。
9割が自己愛が強く、そんな人物が人を悪く言うのを延々と読んでいるのは、ただただ疲れる。
まぁ、こんな会社員の集まりの会社なんて、結果そうなるよなぁ、と思いつつ、最後まで読んだけど、間違いなく「最高傑作」ではないと思う。
コロナ直前に書評で大絶賛されたとのことだが、正直文庫化されるまで全く存在を知らなかった。
唯一心を病んでしまう女性社員の病むまでの過程だけが共感できたかも。 -
御社のチャラ男 これもタイトル買い。
御社のチャラ男て(笑)
チャラ男の定義が少し自分が思ってるものと違ったけど、どこにでも居るらしい。
初読み作家さんだったけど刺さる言葉がけっこうあったな。 -
群像劇……とひとことでいってしまうのも野暮なくらい、巧い小説。
章と章が緊密に構築されているのに、息苦しくない。
キーパーソンが時々程よいところに挟まることで、宝石を別角度から覗いたときのように見え方が変わる。
そのため単なるあるある小説ではなくなっている。
チャラ男はいるし、誰しもある程度チャラ男の部分があるし、ジェネレーションギャップもジェンダーギャップも織り込まれた有象無象……会社員。
それがどうした。
は使っていきたい。 -
うーむ
もっと笑える小説かと思っていた。
チャラ男さんも、
想像していたより年上。
そして、この程度と思ってしまう。
また、チャラ男さんに絡めて、
それぞれの登場人物の生き様(?)を描き、
どや、どれかに当てはまるやろ
と上から言われているようで、
あまり好きではない。
連載時期がもう少し遅ければ、
「御社のくさたお」は、
全然違う話になったかもね。 -
お仕事小説ではない。ギャグ満載の軽い小説でもない。組織に集うさまざまな個人の心理と相互関係を描いて、面に敷き並べたという感じを受けた。それぞれに過去や、生傷や、妄想や、漠然とした憧れを持って生きる普通の人間であり、彼らが企業や社会を動かしている。
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面白かった。叙述トリックのような終盤が特に良いです。
恐らく自身の欠点・短所を客観的に認識できているのは"チャラ男"三芳部長、"窃盗癖"山田さん。しかし、周囲から二人の言われようときたら散々。
自分のことを"正しく"認識できているからと言って、それが社会的・人格的その他にとって"正しく"機能し反映されるかと言うと、そんなことはないんだよなあ…と、身につまされました。
そして、誰かから見れば評価は低かったり悪かったり、高かったり良かったり。また誰かから見れば違う評価や印象になる。
なんて恐ろしくも可笑しいんだろう。
人間ってどうしようもなく、関係性の中で生きているのだなあ。
では個人の本性とはどこにあるのか、ないのか。
まあ、ないのかもしれないですね。
皆まやかしの「本性」に囚われ生きているのかな。そんなもの知るかと生きていたチャラ男も、遂には囚われてしまったことだし。
主観と客観、認知の差異を探偵のように詳らかにしていく絲山さんの表現が凄かったです。
社内の人びとの相関図の描き方、展開の仕方とか。
こんなふうに書けるのか〜!と思いました。 -
ある会社のチャラ男(部長)の周辺の人々のことをその人たちの視点から変わるがわる描いた作品。
タイトルで読みたい!と思った作品だが、思っていたのと違った。全体的にうーん、という感じでした。