- Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087201680
作品紹介・あらすじ
発光生物は何のために光るのか。雄と雌はなぜあるのか。角や牙はどう進化したのか…。生物の不思議な特徴について、オランダの動物行動学者ニコ・ティンバーゲンは、四つの「なぜ」に答えなければならないと考えた。それがどのような仕組みであり(至近要因)、どんな機能をもっていて(究極要因)、生物の成長に従いどう獲得され(発達要因)、どんな進化を経てきたのか(系統進化要因)の四つの要因である。これらの問いに、それぞれ異なる解答を用意しなければならない。本書は、雌雄の別、鳥のさえずり、鳥の渡り、親による子の世話、生物発光、角や牙、ヒトの道徳という、生物の持つ不思議な特徴について、これら四つの要因から読み解くことを試みる。知的好奇心あふれる動物行動学入門。
感想・レビュー・書評
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非常に面白かった!
どうして生物には雄と雌の二つの性別を備えた種があるのか、どうして鳥はさえずるのか、どうして人間に道徳性はあるのか、etc...。
非常に広範かつ深遠で興味深いテーマをいくつか取り上げ、それらテーマに対して『4つの「なぜ」』即ち
①至近要因(その行動をなぜするのか)
②究極要因(その行動をするとなにがあるのか)
③発達要因(その行動はどのように完成されるのか)
④系統進化要因(その行動はどこからどういった経路を経て発達してきたのか)
というアプローチで生物の謎に切り込んだ新書。
こういう授業だったら高校生物に対してもっと関心を持てただろうな。
以下、箇条書き…
・性差のおおもとの原因は、Y染色体上のSRY遺伝子があるかないか(p20)
・テストステロンは、実は、女性ホルモンであるエストロゲンを作るための前段階の物質(p22)
→生物学的な性差のメカニズムは、化学物質による匙加減ひとつ
・性差は社会的に作られたものである(略)そういうものをジェンダーと呼んでいます。(p25)
・「ハンディキャップの原理」(p65)
→余計なエネルギーを使って余分な進化を遂げること、裏を返せば生物として余力があるから余分な進化をする事が出来る、優れた個体であるということ。
・フォツリス属のホタル(p104)
→ホータルこい、と歌っている場合ではない、権謀術数・出し抜き出し抜かれのホタルの世界がめちゃくちゃ面白い
・好ましい社会条件も子育てを誘発する大きな至近要因の一つ(略)子どもをもつことが楽しい社会、のびのびと子育てできる環境を作ることが重要(p146)
→ほんとこれ。育児が負担・ハンディキャップと取られやすい日本社会ではそりゃ積極的に子を持とうとは思い難い。政府・自治体・企業・ご近所さん・偶然電車に乗り合わせた人etc、みんなもっと子どもに寛容にならなければ。公園を潰している場合ではないと思う。
・〈道徳性とは何か?〉自分の欲することをめざす行動が、他者の欲求や利益を妨げるとき、どのようにして自己抑制するかということ(p195)
→昨今(という訳でもないけど)のいわゆる’バイトテロ’や’バカッター’、ないし考えられないような事件やトラブルのニュースに触れる度になんでこんな事のできる人がいるんだろう、と首を捻りたくなるが、この章を読むとメカニズムとして理解が出来たように感じた。結局のところ「道徳的な葛藤」「道徳感情」を働かせられるかどうかは「教育と経験」(いずれもp198)によるところが大きく、「利他行動」(p206)を取れるか否かも「自分が協力し、相手も協力してくれたときには、うれしい共感の気持ちが湧き、それが次回も協力しようという原動力になる」(p210)という想像を働かせられるか否かにかかっているように思う。現代のバーチャルが発達しすぎた社会ではこの「相手」の’リアルな存在感’が希薄だから、深く考えずに傷つけるような発言をしたり迷惑を省みない行動をしたりするのだろうな。「同じ社会の中でとどこおりなくいっしょに暮らしていくこと」(p213)という当たり前の感覚を失ったヒトは、生物学的にはもしかしたら’ヒトではない別の生物’へ進化しているのかもしれない。
8刷
2023.2.7詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
4つのなぜ,とは「それがどのような仕組みであり」,「どんな機能を持っていて」,「生物の成長に従いどう獲得され」,「どんな進化を経てきたのか」である.
以上の切り口で,雄と雌,鳥のさえずり,鳥の渡り,光る動物,親による子の世話,角と牙,人間の道徳性,をわかりやすく解説したのが本書である.
様々な生き物の実例を挙げて,これらがわかりやすく解説されており,生物学にさほど興味のない自分にとっても大変おもしろかった.
最後の道徳性の話は,ちょっと無理があるかな,と思ったけれども. -
生物が暗記科目的に扱われる理由には、まだよくわからない部分があること自体をちゃんと扱わないからなのかなという気づきを得た一冊。
なぜと思ったことを、構造、機能、学習、歴史の四つの観点で解明を試みて、そのつながりを見ることが生き物に対する興味を育んでくれる。その教育価値が重要。
合理性至上主義とは違う視点を持つきっかけにできそうです。 -
文句なしにおもしろい。生き物には知らないことが多すぎる。分からないことがいっぱいある。オスとメスがなぜできたのかについては同じ著者の「オスとメス 性の不思議」(講談社現代新書)で読んでだいたい知っていた。この本を読んだときも大変感動したことを覚えている。勢いで7年前、その内容を小学生にでも分かるように解題したものまで書いた。本書で新しく得た知見は、鳥のさえずりについて、それから渡りについてだ。さえずりはある程度遺伝で生まれて初めて鳴く鳥にもちゃんと備わっているものだそうだ。それでも上手にさえずるには周りの環境が影響する。テープで大人のオスのさえずりを聞かせる実験をしている人がいる。渡りについても遺伝的にどの方向に飛んでいくかはちゃんと知っているそうだ。ただし初めての渡りのときに飛行機で別の所に連れていくと、目的地にたどり着くことはできず、連れて行かれたところから単に方向と距離だけを考えて飛んでいくそうだ。ちなみに渡りの経験者(鳥)はちゃんと目的地に到着することができたのだそうだ。それにしてもよくそんな実験をするなあと思う。思いついたとしても実際にするには、相当な労力を使うと思うのだけど。人間の知りたいという思いが、そういう行動を起こさせるのだろうか。さてその渡りの実験が灘中学の理科の入試問題に登場する。入試問題作成の先生も、いろんな所から話題を探してくるのだなあ。最終章で人間の道徳について語られている。それ以前のいろいろな生き物の話題に比べると、少し精彩を欠いているような気もする。今後著者自身の考えがさらに発展されることを期待する。このテーマについては私自身も続けて考えていきたい。併行して「梅原猛の授業 道徳」(朝日新聞社)も読んでいる。こちらは宗教的、哲学的な議論についてはさすがに深いものがあるが、生物学的にはどうかなあと思える内容もある。あわせて読むとおもしろい。
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長谷川先生の本は読みやすくていいですね。
生物の進化における4つのなぜ、すなわち「至近要因」「究極要因」「発達要因」「系統要因」を意識しながら進化を考えることが大切であることを述べ、そして、具体的な進化の例を挙げて、この4つのなぜを適用した結果を述べた本です。
ある意味、生物の勉強の仕方がわかる本と言えます。 -
4つの要因から生き物を見ていくという内容。生物学の素養が無い人でもよみやすいです。
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【読書前メモ】
広くは生物学、具体的には動物行動学や進化生物学の本書。テーマは生物をめぐる4つの「なぜ」に焦点を当てる。
「なぜ」にはどのような「なぜ」があるのか。
①至近要因(その行動をなぜするのか)
②究極要因(その行動をするとなにがあるのか)
③発達要因(その行動はどのように完成されるのか)
④系統進化要因(その行動はどこからどういった経路を経て発達してきたのか) -
未解決問題四選のような本と思い手に取った新書。
内容としては、「なぜ」について考察するための4つの「どのように」というものだった。
進化論から来るアプローチで行う理由付けであり、観測から見た面白い事実ではなく、十分に納得しうる予想というものだった。アタリをつけるための発想であるが、それゆえ面白く、その生物に対するアプローチというよりむしろその周辺の環境への造詣の深さが形作るものであるため、専門家の腕の見せ所であり、楽しく読むことが出来た。
最終章に筆者の考察が書かれていたが、人によって賛否が別れるところだろう。
用語)至近要因、究極要因、発達要因、系統進化要因 -
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本書は、雌雄の別、鳥のさえずり、鳥の渡り、親による子の世話、生物発光、角や牙、ヒトの道徳という、生物の持つ不思議な特徴について、これら四つの要因から読み解くことを試みる。知的好奇心あふれる動物行動学入門。(出版社HPより)
★☆工学分館の所蔵はこちら→
https://opac.library.tohoku.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=TT21605155