幽霊のいる英国史 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087201963

感想・レビュー・書評

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  •  英国古代~中世における国王・異民族支配の容赦のなさの影に幽霊伝説が必ず生まれる。それを説いた本だ。
     「良い人」が絶対に得をしない、血を血で洗う政治と戦争のありさまが、幽霊(ゴースト)を通して民衆から語られる。日本の幽霊は「うらめしや~」と相手を無差別に呪い殺しに来る「穢れ」のような存在だしいつまでもその場所に常にいるのだが、英国の幽霊はゆかりの場所をある一定の期間だけうろうろしてすーっと消えていく、「お前はなんやねん、どこいくねん」みたいなものなのだ。
     そして、地元のコミュニティというか地域観光局の住民がものすごくその幽霊を大事にしているのだ。このイギリスの幽霊観をもし日本に当てはめていえば、例えば無念に敗れ去った聖徳太子が、天王寺をウロウロしているのを見かけるというものだ。「このまえ、聖徳太子みたぜ?」というのが普通の会話となる。だが、実際の聖徳太子は、神としてあがめられ、恐れられる存在であり、塔でもっていかに彼の怨霊を鎮めるか、また天王寺は夕暮れ時には絶対行くなと昔は言われたぐらい呪われたもので、谷町九丁目からあのあたりは小さな寺が無数にある半端ない穢れだ。もしこの谷町九丁目から天王寺がイギリスであるのならば、「一大観光地」になっていたかもしれない。
     そうした「幽霊観」が作られたのは、容赦なく残忍な王や異民族によってひどい目にあった庶民達が、敗れ去った貴族らを取り扱うことで、間接的に支配者に対して抵抗の意見を物申したいからであるというロジックが繰り返される。ゴーストとは、支配者に対して庶民が、その支配者によって敗れ去った者を幽霊にすることにより「それでいいのかよ」という抵抗の意見とするものなのだ。
     これが幽霊の正体……である。
     だが、この本の魅力は、とにかくイギリス人の歴史好きの謎の人物たちが多いことである。地元の観光センターに必ず、なんでも知っている地元歴史案内人がいたり、霧の中から歴史をなんでも知っている老人が自転車に乗って現れては去って行ったり、どこにでも歴史を語れる人がいる。その出会いのエピソードが退屈させない。日本からゴーストを探しに来たと言えば、イギリス人は大歓迎する。その歓迎されっぷりが、自分が実際に観光している気分になってしまうくらい楽しい。文章も軽妙で滅茶苦茶読みやすい。索引もあって、良い本だと思う。

  • すごく、面白い。
    そもそも「なんとかのどこどこ史」とかそういう内容の本はもともと大好きなのだ。

    この本はイギリスの幽霊伝説と史実との差を含めて紹介するというもの。イギリスの幽霊観は日本とはかなり違いがある。恨みなどではなく、憤死した人物の幸せな時間を幽霊が再現して出てくるなんて!すごい。
    そしてその「幽霊伝説」は、権力者への伝説に名前を借りた反抗だったと作者は語る。それ以上に歴史に登場する人物への愛情を感じたりして。
    系図や、年表もあるので、わたしのようなイギリス史に暗い人でも大丈夫ですー。編年体ではなく紀伝体なので歴史を一からというよりは興味のあるところから楽しめますよ。まー、だからこそ年表は必須ですけど。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「権力者への伝説に名前を借りた反抗」
      日本の怨霊に似ているような気もするなぁ、、、ホラーは読めないけど、これは大丈夫そうなので、読んでみます...
      「権力者への伝説に名前を借りた反抗」
      日本の怨霊に似ているような気もするなぁ、、、ホラーは読めないけど、これは大丈夫そうなので、読んでみます。。。
      2012/05/29
    • ブリジットさん
      コメントありがとうございます!

      幽霊の定義が日本とイギリスではまったく違うのがよくわかる本だと思います。作者が地元の人に幽霊のことを聞くと...
      コメントありがとうございます!

      幽霊の定義が日本とイギリスではまったく違うのがよくわかる本だと思います。作者が地元の人に幽霊のことを聞くとみんな丁寧に教えてくれたりする描写があります。幽霊を誇りに思ってるんだろうなという感じがまたいいです。軽い気持ちでどうぞ!
      2012/05/31
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「幽霊を誇りに思ってるんだろうな」
      なるほどねぇ~だからゴシック小説が盛んな訳ですね。
      「幽霊を誇りに思ってるんだろうな」
      なるほどねぇ~だからゴシック小説が盛んな訳ですね。
      2012/06/02
  • 歴史的に語られる人物評と民間伝承で
    異なる評価があって興味深い。
    人々の噂のほうが実は真実を
    表しているのかもしれないと考えさせられる。
    日本の偉人と呼ばれる人たちにも、
    同じようなことがあるのか気になる。

  • 日本と英国の幽霊に関する想いの違いを知る本。
    物言えぬ庶民の為政者に対する叫びの代わりが、
    幽霊伝説であり、為政者による正史に書かれていない
    史実もまた、幽霊伝説で語られる。
    目まぐるしく国自体や為政者が替わる国ならではの、
    市井の人々の想いにふれることができる。
    そのほんの一部ではありますが、
    興味深く読めました。

  • イギリスの人達のゴースト(幽霊)に対する考え方が日本と違って面白い。恐怖というよりもっと身近な存在?
    英国史とゴーストは切り離せないでしょ!と、妙にタイトルに納得して購入したけど大正解。
    過去に何が起きて現代までゴーストとして語り継がれているのか、一味違う英国史が楽しめます。

  • おもしろい!

  • [ 内容 ]
    「幽霊付き」「出る」となれば、その不動産の価値まで上がるという、怖いもの好き、古いもの好きの英国人。
    英雄、裏切り者入り乱れ、権謀、スキャンダル渦巻く長い英国史には、ところどころに目印のように幽霊が立っている。
    一見おどろおどろしいそれらは、しかしよく見れば、声をあげない民衆の目に映った、別の姿の歴史を指し示している。
    そうした伝承の歴史に目を凝らし、今も残るゴースト伝説の地を訪ね歩いた、ユニークな読物・英国史。

    [ 目次 ]
    第1章 民族の英雄となったゴーストたち(ローマに立ち向かった女傑、ボアディケア;英雄復活願望の産物、アーサー王;聖者伝説とゴースト伝説;最後のアングロ・サクソン王;魔法使いになった海賊船長)
    第2章 歴史を動かした女たち(愛されるゴーストとなったフランスの雌狼;ヴァージナルを奏でる流血のメアリー;処女王エリザベスの三つの顔;スコットランド女王、メアリーの死)
    第3章 ゴースト伝説が伝える権力者の素顔(赤顔王ルーファス;碩学王の美名のもとに;聖者となった荒法師、トマス・ア・ベケット;マグナ・カルタとブラマー城の悲劇;信仰の擁護者の素顔)
    第4章 華やかな歴史の陰に(エドワード四世の幼き後継者;最後のプランタジネット、マーガレット・ポール;野心の犠牲者;夫の不倫相手は女王陛下;いまだ戦いを続ける国王、チャールズ一世;議会政治の父から「国王弑逆者)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 面白かった。郷土史とか民間伝承のような雰囲気。(r)

  • 行った事ないんですが、英国、てこんなにもゴーストが身近なんでしょうか。

著者プロフィール

駒澤大学名誉教授 イギリス文学 日本ペンクラブ会員
主要著書:『ヘンリー五世――万人に愛された王か、冷酷な侵略者か』(明石書店、2019)、『悪王リチャード三世の素顔』(丸善プラネット、2013)、『幽霊のいる英国史』(集英社、2003)、『シェイクスピアと超自然』(南雲堂、1991)、『イギリス文学を旅する60章』(共編著、明石書店、2018)、『ロンドンを旅する60章』(共編著、明石書店、2012)、『イギリス文学の旅――作家の故郷をたずねて』(共編著、丸善、1995)、『イギリス文学の旅――作家の故郷をたずねてII』(共編著、丸善、1996)、『ミステリーの都ロンドン――ゴーストツアーへの誘い』(共編著、丸善ライブラリー、1999)、『イギリス田園物語――田舎を巡る旅の楽しみ』(共編著、丸善ライブラリー、2000)、『ロンドン歴史物語』(共編著、丸善ライブラリー、1994)、『ロンドン・パブ物語』(共編著、丸善ライブラリー、1997)、『イギリス大聖堂・歴史の旅』(共編著、丸善ブックス、2005)、『イギリスの四季――ケンブリッジの暮らしと想い出』(共編著、彩流社、2012)、『イギリス検定――あなたが知っている、知らないイギリスの四択・百問』(共編著、南雲堂フェニックス、2011)、『シェイクスピア喜劇の世界』(共訳、三修社、2001)、『ノースロップフライのシェイクスピア講義』(共訳、三修社、2009)、『煉獄の火輪――シェイクスピア悲劇の解釈』(共訳、オセアニア出版、1981)

「2023年 『食文化からイギリスを知るための55章』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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