あの日からの建築 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
3.63
  • (10)
  • (28)
  • (19)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 265
感想 : 40
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087206616

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「みんなの家」というものをTVで知って読んでみました。
    さらっと読める新書ですが、易しい言葉で語られるのは建築(テクノロジー、アート)と社会の関係についての鋭い考察。
    その事については震災後さまざまな立場の人が考えたに違いないけれど、ここまで自分の事として引き受け、考え、実現するのはとてもすごいと思いました。

  • ・・・象徴物に力を求める資本主義と、建築技術の飛躍的向上により、フランクゲーリーやザハハディドの巨大彫刻のような建築が世界的ブームになっているが、
    伊東やSANAAは外部空間と建築と人間の壁を無くす日本的な空間建築で風穴をあけている。

    「みんなの家」
    あの日から、個としてのオリジナルな表現も都会的要素も無い場を地域の人々と心をひとつにしてつくることができた。

    近代主義は私と他者、内と外など物事を切り分ける思想だった。
    しかし日本では、日本語や伝統建築空間、あいまいな人間関係によって豊かさが保たれていた。

    機能と言う概念は人間の多彩で複雑な行動を単純に区分して抽象化したに過ぎない。
    だから利用者から見れば楽しくない。

    「せんだいメディアテーク」
    自然の快適さをモデルにした新しい空間の秩序が快適さにつながる。

    「TOD’S表参道ビル」
    建物の中にいても外部的な空間に変化する、木の枝のように枝分かれしたコンクリートの構造壁。

    「台中メトロポリタンオペラハウス」
    二組のチューブの連続体。内部のような外部のような構造体。
    自然の中にいるような自由な気持ちでいられる。

    「個を超えた個へ」
    現代建築での建築家は資本主義を目に見える空虚な形のアート作品にする道具になっている。
    建築の原初の姿は、共同で何かを作り上げ、集団として崇め、作ることが喜びであるという共同性のあらわれ。

  • 読後に静かな余韻が残るお薦めの新書。謙虚に、愚直に、建築の社会的意味を追求されている建築家・伊藤豊雄さんの姿勢にとても共感。建築は、建築家のエゴの表現ではなく、何か社会と共有できる原理を持つ存在でなければいけないと。例えば仙台メディアパークのような、「目的はないけれども何か安心出来る場所」、つまり社会にとって必要とされる場所。そういう、建築の内と外の関係性に注目すると、建築を見る目がガラッと変わってきますね。外見は豪華そうな建築が妙に薄っぺらく見えてくる。この本一冊を読むだけで、あらゆる建築物との接し方・向き合い方が見えてくるように思います。

  • ありのままの自然との関係を取り戻す。そのためにはもっと建築家が社会の内側に入ってポジティブな建築をつくらなければならない。建築は身体で考えるものであり、リアリティのない中で美しい図面を描いても豊かな空間にはならない。建築家として3.11以前から考えてこられたことを3.11をきっかけに静かに力強く訴えているように感じる。ハードよりもソフトから、土木よりも設計からを考える社会が求められている。

  • 3.11の震災後、著名な建築家がどのような想いでいるのか、ベネチアビエンナーレ金獅子賞の「みんなのいえ」ができる過程などが気になり、読んだ一冊。

    建築に携わるいろいろな人の講演で、震災後、建築家が求められていないことの虚しさともどかしさから活動を始めたという話を聴く機会があった。
    本著では、社会的背景や歴史などを踏まえて、なぜ建築家が求められていないのかという、著者の見解が語られている。
    なぜ海外で評価されている建築家が、日本で評価されていないのかなど、納得。

    読みやすい文章で、建築の知識がさほどなくても、理解できる。本著に登場するひとつひとつの建物について、詳細を知りたくなった。

  • 復興していく過程で「ミニ東京」にはしてほしくないなぁ、と作者に共感。
    被災地だからこそ発信できるものは、人との繋がりや自然と共存する上の豊かさ。これは東京にないものだなぁとつくづく。

  • 著者の名を知ったのは、数年前に放送していたテレビ番組http://www.nhk.or.jp/professional/2009/0407/index.htmlで。ふぅむ、建築家というのはこういうことを考えてこういうことをしている人々なのか、と思っていた。
    今回、本書を手に取ったのは、ヴェネツィア・ビエンナーレhttp://www.jpf.go.jp/venezia-biennale/arc/j/13/index.html
    金獅子賞受賞のニュース以来、気になっていたため。本当は、『ここに、建築は、可能か』(TOTO出版)を読みたかったのだが、図書館に入っていなかったので、とりあえずすぐ借りられたこちらを読んでみた。

    前半は、震災後、著者らが釜石に「みんなの家」を建てる前後の話。後半は、著者の道のりを語る自伝風。

    著者は仙台の<a href=“http://www.smt.jp/”>文化施設</a>の設計をした縁もあり、建築家として、アドバイザーのような立場で復興に関わっている。
    釜石で行われたワークショップでは、住民の意見を元に、斜面に立つ集合住宅や仮設市場などの提案をしている。中でも、大勢で集まれる集会所を備えた「みんなの家」は、設計や建設、利用にさまざまな人が関わり、大きな広がりを見せるプロジェクトとなっていく。

    著者は建築家として活動する中で、震災以前から、実社会と建築家との関わりについて問題意識を持っていた。
    空間を隔てた完結型の建築が本当によいものなのか。
    実社会から、建築の「コンセプト」が乖離しているのではないか。
    そうした中で震災を受け、瓦礫の中で実際にどうするのか、建築と社会の関わりについて考える中で生まれてきたのがこうしたプロジェクトとのことである。


    *いずれ『ここに、建築は、可能か』も読んでみたいと思います。

    *本書はインタビューを元に加筆・訂正したものとのこと。

  • 自己主張とエゴを押し通すのとは違う。それを、震災後のコミュニティづくりを通して実感し、建築が提供することのできる真の復興について筆者の取組とこれからの建築の考え方について共感した。

  •  せんだいメディアテークなどに携わった建築家伊東豊雄さんの、建築に対する考え方を記した本。震災をきっかけに、建築の求められているもの、伊東さん自身が建築にとって大事なものが変わっていった、その経過を克明に書き綴っている。真摯な姿勢でわかりやすく説いてくれており、好感が持てる。
     震災後2011年3月末に「帰心会」という震災について考え、行動する会を立ち上げた著者。その会で言った「批判をしないこと」という復興に対するスタンスにうなずけるものがあった。「批判は部外者だからできること。批判をしないとは(中略)自分自身が復興に関わる当事者であるという自覚を持ち続ける」ことだというのだ。すべての社会問題に当てはまる言葉に思えた。
     また釜石の復興プロジェクトに携わった際に、「元の仲間と一緒に暮らしたい」という声を聞き、仮設住宅の閉鎖的な状況を打破すべく、皆が集まれる場所「みんなのいえ」を作っていく。しかもそれを、「くまもとアートポリス」という熊本県の建築やデザインによる地域向上をめざす事業に話を持ちかけ、実現していくという、縦割りの枠を超えた手法で。被災地以外の県がこういう形で被災地を援助する新しい形に光が見える。
     今まで「建築が建築たる所以は自然の中に人間としての証を表現すること」だと著者は言う。建築の目的は外からの隔離で、それもグリッド(方眼)で仕切るような様式で行われてきたと。しかし、本来自然にはグリッドはない。著者は中と外との関係を考え直し、構造壁を木の枝のように枝分かれさせたり(TOD'S表参道ビル)、ゆらめくようなチューブと板とガラスで自然を表現する(せんだいメディアテーク)などの手法をとってきた。
     洗練された建物、立派な建物はそれだけで広告塔で、権力や財力を誇示できる。しかし、それはやはり自と他を分ける行為にほかならない。本来外と内、自と他を分けるはずの建物の壁を限りなく曖昧にする、そういう域に近付くのも建築の形なのだと気付かせてくれた本であった。
     余談であるが、この本を読む前、昨年の夏にせんだいメディアテークに行く機会があった。夫がそこで行う催し物を見に行くため偶然入ったのである。私はチケットがなく、カフェでお茶を飲んだり、ショップを見たりしていた。ホールをうろうろしたとき、チューブ状の柱を見て、何だろうと思ってはいた。惜しい、この本を読んでから見たかった。いや、きっとまた行く。伊東さん作の他の建物にもぜひ出会いたい。

  •  タイトルどおり、震災後の取り組みのドキュメンタリー的な内容。地元の人との対話を軸にしようとする姿勢には共感。
     そして、社会と建築家の距離感に身悶えする、震災後の建築家の苦悩がヒシヒシと。
     

全40件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

建築家。1941年生まれ。主な作品に「せんだいメディアテーク」「みんなの森 ぎふメディアコスモス」「台中国家歌劇院(台湾)」など。ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞、王立英国建築家協会(RIBA)ロイヤルゴールドメダル、プリツカー建築賞など受賞。2011年に私塾「伊東建築塾」を設立。児童対象の建築スクールや、地方の島のまちづくりなど、これからのまちや建築を考える建築教育の場としてさまざまな活動を行っている。

「2017年 『冒険する建築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

伊東豊雄の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×