中国法 「依法治国」の公法と私法 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087211436

作品紹介・あらすじ

なぜ中国法は複雑なのか? 事例で読み解く中国の国家原理

中国法を理解することは、対中ビジネスを行ううえで不可欠なものである。
認識の不十分さが深刻な事態を招いた事例は枚挙にいとまがない。
そもそも中国法は、私法(物権法や契約法などの民法)と公法(憲法や刑事法など)とでまったく様相が異なる。
例えば、経済の円滑な遂行を保証する中国契約法は、国際的な契約立法を取り入れた先進的な法である一方、憲法は立憲主義憲法とはまったく類型を異にしており、市民の精神的、身体的自由に対する公権力の容赦なき弾圧と拷問による自白強要が普遍化している。
なぜ中国法はこのように複雑な相貌を有するのか。
具体的な裁判例に即して、その謎を解いていく。

【主な内容】
・中国にはまともな法律などあるはずがないという先入観
・法律認識のギャップがもたらした「尖閣諸島固有化問題」
・中国契約法は国際的な契約立法を取り入れている
・契約紛争案件に見える民衆と裁判所の距離の近さ
・中国では約定こそ原則
・日本企業の法務部の中国法分析の不十分さ
・先進的民法に生き続ける伝統的な法思想
・検察、法院に圧倒的優位に立つ公安権力
・市民の表現活動に“切り込んでいく"中国憲法
・拷問の禁止と中国法
・裏の法

【目次】
目次
はじめに
序 章 私法か公法か、法律認識のギャップがもたらした事態
―尖閣諸島国有化問題
【私法編】
第一章 “中国では法はあって無きが如し"か
第二章 悪魔の証明を強いられた日本企業
―三菱自動車株式会社損害賠償事件
第三章 対日損害賠償請求における法と政治
―「商船三井」船舶差押事件とその後
第四章 教室の学生の誰一人として賛成しなかった民事判決
―広東省五月花レストラン人身傷害賠償請求事件
【公法編】
第五章 二つの憲法
―沈涯夫・牟春霖誹謗事件
第六章 拷問による自白の強要
―殺されたはずの妻が舞い戻ってきた佘祥林事件と、憐れ刑場の露と消えた劉涌事件
第七章 中国の[法院]は裁判機関か
―莫兆軍職務懈怠罪事件
第八章 表の法と裏の法
―南剡鋒不法所得罪事件
おわりに

【著者プロフィール】
小口彦太(こぐち・ひこた)
1947年生まれ。法学博士。1969年早稲田大学第一法学部卒業、1974年早稲田大学大学院法学研究科博士課程満期退学。
早稲田大学法学部教授を経て、早稲田大学名誉教授、中国人民大学法学院名誉客座教授、ハーバードロースクール東アジア法研究プログラム訪問学者、江戸川大学学長。
『中国法入門』『唐令拾遺補』『現代中国の裁判と法』『現代中国法』『中国契約法の研究』『中国合同法研究 中日民事法学之対話』など著書多数。

感想・レビュー・書評

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  •  本書で読む中国法には、社会主義とともに前近代の香りも感じる。私法ではまだ必ずしもそうではない。むしろ中国契約法については、最近の国際的な契約立法を取り入れており、日本契約法より「進んだ」と著者は評価する。それでも、被告に過失がないのに「慈悲の心」で補償(損害賠償ではない)を命じる判決がある。これなどは社会主義というより前近代的ではないか。
     公法では、立憲主義とは言い難い中国の特性がより際立つ。憲法による規制の矛先は国家ではなく市民に向かう(本来の立憲主義では市民の表現の自由が規制されるのはごく限られた場合のみだろう)。拷問、政治(薄熙来!)による司法への介入。本書で扱われた案件の1つでは殺されたはずの被害者が生きて現れたことから拷問による冤罪が明白になったが、実際には明白にならないケースの方がずっと多いのだろう。そして裁判官の独立性がなく、裁判機関というより行政機関に近い法院。内部文書や、最高法院・検察院が出す司法解釈という「裏の法」に縛られる判決。
     また、序章の尖閣所有権移転に関する解説も興味深かった。日本では国が私人と同様の立場で民事上の所有権移転をしたとの立場だが、中国ではそもそも、国が国有財産の土地に対して有する権利は私権ではなく国家主権に由来する公権なのだという。

  • 東2法経図・6F開架:322.922A/Ko26c//K

  • 「党規国法」といって、中国共産党のルールが国の法律に優先する。

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著者プロフィール

早稲田大学名誉教授、江戸川大学学長

「2017年 『中国契約法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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