アフリカ 人類の未来を握る大陸 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087211542

作品紹介・あらすじ

2050年、アフリカ大陸の人口は25億人に迫り、世界の4人に1人が「アフリカの人」になると言われている。
人口激増は食糧問題や経済発展、環境破壊に大きな影響を及ぼす。
つまり、人類全体の未来は、アフリカを抜きには語れないということだ。
そのアフリカは、経済発展している一方で、砂漠化、飢餓、貧困、紛争など、グローバル資本主義の矛盾も多く抱えている。
アフリカはこの先どうなっていくのか?
その現状と未来を、現役NHK特派員が現地からレポート!


【著者プロフィール】
別府正一郎(べっぷ しょういちろう)
1970年、大阪府生まれ。京都大学卒業後NHK入局。
イラク戦争、シリア内戦やIS取材、国際放送局キャスター、解説委員を経て、2018年からヨハネスブルク支局長としてアフリカ全域を取材している。
2007年、ボーン・上田記念国際記者賞(中東・アフリカの紛争取材)などを受賞。
著書に『ルポ・終わらない戦争 イラク戦争後の中東』(岩波書店・2014年)
共著に『ルポ・過激派組織IS』(NHK出版・2015年)がある。

感想・レビュー・書評

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  • NHK現役記者の取材に基づく2020年代の今のアフリカの姿をエピソード形式でその課題と可能性を探った著作。

  • アフリカの人が世界の人口の4分の1を占める時代がやってくる。しかも、今からたった30年後に。

    そう予測されているという。しかし、わたしがイメージするアフリカは「経済的に貧しい国」。
    本書は、その古い価値観をアップデートしてくれる。

    各国の首都には高層ビルが立ち並ぶ。中国資本が入り込み、競技場や美術館、ホテル、マンションなどが次々と建てられている。
    アフリカでは、一部の人間が富を独占している一方、栄養失調や失業などの問題を抱えている国民も多い。
    アフリカは、世界最大の格差社会ともいわれる。

    国内での紛争が絶えず隣国に逃げて難民になる人も多く、性的暴行や少年兵、児童婚などの問題も抱えている。
    ISの資金源になっている違法な金の採掘や密売も横行している。

    なんといっても、アフリカは、世界で最少の温室効果ガス排出地域なのに、気候変動の実害を最も深刻に受けている。
    気候変動が原因で職を失う人がいるというのに、先進国-特に日本-では、いまだに環境問題への理解は進んでいない。自分たちの暮らしが誰かの犠牲の上に成り立っているということを考え、エシカルな生活を実践している人がどのくらいいるだろうか(わたしもその点を反省した)。

    アフリカに希望を見出し、進出する企業は後を絶たない。今後もその流れは続くだろう。しかし、現地の雇用を増やし、経済格差を減らさなければアフリカのためにはならない。巨大な中国資本があっという間にアフリカを飲み込んでしまい、富める者と貧しき者との差がさらに広がるだろう。

    アフリカの現状をもっと広めたいと強く思った。

    p4
    国連の統計では、アフリカ大陸の人口は、1990年には6億人あまりだったが、今ではその2倍以上の13億人あまりになっている。そして、今後も増え続け、2050年までには、さらにほぼ倍増して25億人近くになると予測されている。その時、世界全体の人口は100億人近くになると予測されているので、地球上の人間の実に4人に1人がアフリカの人になると見られているのだ。
    ナイジェリアは、すでに2億人を超えているが2050年には4億人を超え、エチオピアも今の1億人あまりから2億人を超えると予測されている。急増する人口の背景にあるのが高い出生率で、サハラ砂漠以南のアフリカの国々では合計特殊出生率の平均が4.7となっている。中にはニジェールのように7.0と世界一高い国もある。

    p6
    国連によると、アフリカの人口の平均年齢は19.7歳だ。日本は同じ統計で48.4歳である。

    若者人口の増加が経済成長を押し上げている国も少なく、世界銀行のデータでは、2019年のGDP(国内総生産)の伸び率は、ルワンダで9.4%、エチオピアで8.3%、ガーナでは6.5%と非常に高い。
    もともとアフリカは天然資源の宝庫だ。国連によると、アフリカ大陸には世界の金の40%が、プラチナの90%がある。ダイヤモンドやコバルトの埋蔵量も世界で最も多く、まさに「宝の山」だ。しかし、こうした資源頼みではない、若者人口の急増に押されて、いわゆる「人口ボーナス」の恩恵を受けた形での経済成長が起きているのだ。

    p8
    イギリスやフランスといった植民地時代の宗主国は、言語や文化を通した影響力を維持している。

    そこに国を挙げて押し寄せているのが中国だ。巨額の融資とインフラ整備で存在感を見せつけ、中国人も続々とやってきている。南アフリカやアンゴラにはそれぞれ20万人以上が暮らし、大陸全体で100万人以上を超えたと言われている。さらに、トルコやインドもアフリカ諸国での大使館の設置を増やしていて、存在感を高めようとしている。
    こうした中、日本は、政府が主導してTICAD(アフリカ開発会議)を開催し、日本企業によるアフリカ投資を増やそうとしている。ただ、出遅れも指摘されている。滞在する日本人の数は中国の100万人に遠くおよばず1万人にも満たない。

    p9
    経済成長が続く一方で貧富の格差も広がっている。特に南アフリカは深刻で、ヨーロッパと植民地支配と人種差別の体制を乗り越えたものの、人種間の経済格差は根強く残っている。また、アフリカは、地球の気候変動をもたらす温室効果ガスの排出率量が世界で最も少ないにもかかわらず、その悪影響が最も激しく現われている。サハラ砂漠南側のサヘル地域の国々では、拡大する砂漠と頻発する干ばつで食糧生産が打撃を受け、多くの人が飢えと乾きに直面する中、IS(イスラミックステート)のようなイスラム過激派組織が台頭し、テロと暴力の新たな主戦場にもなっている。 さらに、多くの国で紛争も続いている。豊富な天然資源を誇るアフリカだが、コンゴ民主共和国やカメルーンではその利権争いを背景にした武力衝突に歯止めがかかっていない。

    p20
    実は、南アフリカでは、ラグビーは長年、「白人のスポーツ 」と見なされてきた。その名残で、今も黒人の間ではラグビーに対する興味が白人ほどはない。世界ナンバーワンになるだけの実力があるのだから、さぞかしラグビーは国民的人気があるスポーツだろうと想像されるだろうが、そうではないのだ。

    今から400年近く前の1652年に入植したオランダ人によって、アフリカ大陸のほぼ最南端にケープタウンが建設され、アジア諸国と交易していたオランダ人のための水や食糧を補給する港町となった。その後も、オランダ人たちはアフリカの地元の人々から土地を奪い、植民地を拡大させた。そうしたオランダ人の末裔たちは、オランダ語から派生したアフリカーンス語を話すアフリカーナーとなり、そこに暮らしていた黒人を支配した。
    しかし、豊かな資源に恵まれたこの地を、帝国主義の権化であるイギリスが欲しがらないはずはなかった。19世紀に入るとケープタウンを奪ったのに続き、ダイヤモンドと金が発見されるとさらに欲望をむき出しにし、アフリカーナーたちと戦争をして植民地を併合、1910年にイギリスの自治領として南アフリカ連邦を発足させた。
    こうした歴史もあって、今でもアフリカーナーの間で、イギリスに対する複雑な感情があるといわれている。

    p21
    しかし、南アフリカ国内では、アフリカーナーもイギリス人もともに白人の支配層として君臨していた。彼らが奪い合いをした土地にしても、ダイヤモンドや金にしても、そもそもはアフリカの人たちのものだ。そうした中で作り出されたのが人種隔離政策のアパルトヘイトだ。
    「アパルトヘイト」とは、アフリカーンス語で「分離」を意味し、文字通り、政治、経済、社会のあらゆる場面で黒人を差別して排除した。黒人はタウンシップと呼ばれた居住区に押し込められ、参政権は認められず、教育や医療を受ける機会も制限された。アメリカで1960年代まで南部を中心に続いた黒人差別と同じように、公共の乗り物や公衆トイレ、それに水飲み場までもが「白人用」と「それ以外の人種用」に分けられた。黒人の解放運動に参加すれば容赦なく逮捕され、
    数多くの活動家が刑務所で白人警官の拷問によって殺された。本人の人間性や能力とは全く無関係に、あらゆることが肌の色で規定されるという愚かな人種差別が堂々とまかり通ったのである。

    p23
    しかし、東西冷戦の崩壊で状況は変わった。白人政権は、ネルソン・マンデラ氏が率いていた黒人解放組織のANC(アフリカ民族会議)を共産勢力の手先と決めつけていたが、もはやそんな理屈すら通用しなくなった。1990年、マンデラ氏は27年間におよぶ獄中生活を終えて、ようやく釈放された。
    1994年にすべての人種が参加する初めての民主的な選挙が行われた。政党になったANCが圧勝し、マンデラ氏が新生南アフリカの初代大統領に選出された。オランダ人が今のケープタウンに入植して以降およそ350年を経て、黒人が初めて自分たちの土地の政治的な主役になった世界史的な瞬間だった。

    p26
    しかし、新生南アフリカでも人種間の格差はなかなか解消していかない。地元メディアでもしばしば指摘されているのが、経済的には、主に白人が占める10%の富裕層が、およそ70%の富を独占したままだということだ。また、失業率にしても、2017年では黒人は30%を超えていたが、白人は7%イカと大きな開きがある。さらに平均収入で比べても、白人は黒人のおよそ4.5倍もあるという。

    p39
    南アフリカの失業率はおよそ30%だが、15歳から24歳の若年層にいたっては50%を超えている。

    p59
    人々は、「ウイルス対策ではしっかり手を洗うことが必要だということは十分知っている。しかし、手を洗おうにもそもそも水がない」と訴えた。ユニセフ(国連児童基金)によると、南アフリカの都市人口の半分にあたるおよそ1800万人が自宅で手を洗う設備を持たない。

    p74
    非人道的な奴隷貿易の時代を経て、19世紀の後半になると、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど工業化を進めるヨーロッパ諸国は、アフリカを原料の供給地と工業製品の市場として利用するために進出を加速させ、1884年から開かれたベルリン会議では、アフリカ分割の原則を一方的に決めてしまった。そして、20世紀のはじめまでには、エチオピアなどいくつかの例外を除いて、アフリカ大陸のほとんどが列強によって植民地化され、剥奪された。
    これに対して、アフリカ側は粘り強く抵抗を続け、時には激しい独立戦争を戦った。1957年にイギリス領のガーナがサハラ砂漠以南のアフリカで初めて独立を勝ち取ったのに続き、「アフリカの年」と呼ばれる1960年には多数の国が独立を果たした。

    p76
    今でもアフリカ各国や地域の公用語のほとんどがヨーロッパの言葉だ。南アフリカでは道路標識や国営放送では英語が使われていて、毎日の生活や仕事は英語が中心になる。しかし、セネガルに行くとこれがフランス語になる。コンゴ民主共和国でもフランス語ができないと、街で人々の声を聞くためにインタビューしようにもなかなかうまくいかない。ただ、コンゴではフランス語といっても、ベルギーの植民地だったから一部の数字の言い方はベルギー風になる。これがアンゴラになると、ポルトガル語が話せないとレストランでの注文にも困る。

    p77
    カメルーンでは、旧宗主国の言葉はひとつではなく、ふたつの言葉が公用語として話されている。その理由は、ほぼ100年前に終結した第1次世界大戦にまでさかのぼる。もともと一帯はドイツの植民地だったが、ドイツが大戦で敗れると戦勝国のフランスとイギリスが分割して支配するようになり、そして、それぞれの支配地域でそれぞれの言葉や習慣を押しつけた。1960年にまずは東部のフランス領が独立し、翌年には西武のイギリス領だった地域の一部と一緒になって今のカメルーンが誕生した。人口はおよそ2600万人、面積は日本の1.3倍近くある。
    しかし、「統一の塔」のメッセージにもかかわらず、現実には双方の分断は解消されてこなかった。人口や国土のおよそ80%を占める多数派のフランス語圏が主導して国作りが進められ、残る20%の英語圏では、「少数派の自分たちは2級市民扱いされている」という不満がくすぶってきた。

    p89
    国連は、2020年3月、カメルーンの英語圏の68万人が家を追われて国内避難民になったほか、5万人以上が隣国のナイジェリアに難民として逃れたと発表した。また、世界各国の紛争地について調査している「インターナショナル・クライシス・グループ」は戦闘などによって3000人以上が死亡したとしている。さらに、グループでは、混乱が続く中で80万人の子どもが学校に通えなくなっていると伝える。
    しかし、国際社会の関心は低い。国連は戦闘で家を追われた避難民の支援活動のための資金の拠出を各国に呼びかけているが、2018年だけでも必要な額の半分も集まっていない。

    p90
    イギリスとフランスの植民地支配によって埋め込まれた分断が、100年の時を経て、まるで時限爆弾のように炸裂しているカメルーンの混乱。外部勢力によって翻弄されてきたアフリカの姿をまざまざと見せつけている。

    p99
    中国のアフリカでの融資の実態について公式な統計は発表されていないが、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究グループは、2000年から2018年にかけて、中国政府や政府系の金融機関がアフリカ各国に対してあわせて1480億ドル、日本円でおよそ15兆6000億円を融資したとする調査結果をまとめている。
    中でも借金の状況が深刻なのが南西部のアンゴラだ。ジョンズ・ホプキンス大学の調査では、アンゴラは、アフリカで最も多く中国からの融資を受けてきた国で、その額は432億ドル、日本円で4兆6000億円を超えている。

    p100
    アンゴラはアフリカ有数の産油国で、石油の輸出に支えられ、経済成長率は2000年代には多くの年で年率10%を超え、中には15%を超えた年もあった。

    p103
    しかし、こうしたインフラ建設はタダではない。かかった資金はあくまで借金で、新都市の総事業費の35億ドル、日本円で3800億円あまりにしても、アンゴラ政府は中国に返済していく義務がある。

    p104
    ロザド教授によると、アンゴラの対外債務のおよそ60%が中国から借りたものだが、中国は多くの場合、担保として原油を押さえているという。アンゴラの石油資源は内戦で政府軍と反政府勢力が奪い合い、2000年代の経済成長を支えてきた。輸出額のおよそ95%を原油が占め、逆に言えば、原油以外は輸出できるものがないような国だ。この唯一ともいえる資産で借金の返済を保証させているという。しかも、多額の融資によってインフラ整備が進められるが、その工事を請け負うのは多くの場合、地元の業者ではなく中国の企業だ。
    多額の債務を抱えたアンゴラ側は、原油を売り、捻出した外貨を債務の返済にあてることになる。そして、その原油を多く買っているのも中国なのだ。中国にしてみれば、融資した資金は戻ってくる上に、自国の企業にも還元され、さらに原油も手に入るという仕組みだ。

    p115
    アフリカにとって、気候変動ほど不公平な問題がほかにあるだろうか。
    グローバルな資本主義の発展によって、人類全体としてはより多くの豊かさを享受できるようになっているが、それは温室効果ガスの排出による地球環境の破壊をもたらしている。しかし、アフリカは世界で最少の温室効果ガス排出地域で、物質的な豊かさは先進国ほど享受していないのに、すでに気候変動の実害を最も深刻に受けているのだ。この現状について、国連のグテーレス事務総長は、2019年8月、「アフリカは、気候変動をもたらす最小限の原因しか作っていないのに、その壊滅的な結末がもたらす影響の最前線に立たされている」と表現した。

    p202
    「困惑してしまう現実なのだが、金、コルタン、コバルト、そのほかの戦略上重要な鉱物といった天然資源が豊富にあることが、戦争、過激な暴力、そして極貧の根本原因になっている。
    誰だって、素敵な車や宝石それにガジェット(小型電子機器)が大好きだ。私自身もスマートフォンを持っている。しかし、これらの商品はコンゴで採れる鉱物を含んでいる。
    あなたが電動自動車を運転する時、スマートフォンを使う時、宝石にうっとりする時、これらの商品を製造する際の人々の苦しみに思いをはせてください。これらの商品が人間の尊厳を尊重して製造されたのかどうか、消費者として少なくとも気にかけることはできるはずです」

    p209
    これまでの経済発展の常識からすれば、まずは道路網を整備して陸上の輸送ネットワークを構築し、その上でドローンの活用を考えていくというのが順番だっただろう。しかし、道路網の整備がなかなか進まない中で、ドローンという最新技術の活用を始めようというのだ。こうしたことは、アフリカで目立って増えている。

    p210
    このように先進国がこれまでに経験したプロセスを飛び越えて、一気に最新の技術を普及させる動きは「リープフロッグ」、つまり「カエル跳び」と呼ばれている。

    p211
    マラリアは、蚊が媒介する感染症のひとつで、世界の熱帯地域で流行し、毎年40万人以上が死亡している。この死者のうち90%以上がサハラ砂漠以南を中心にしたアフリカの国々に集中して、患者は高熱でうなされるなど深刻な病気だ。

  • 同じ地球なのに、同じ人類なのに、
    想像を絶する環境。

  • アフリカ大陸は世界の5分の1の広大な土地で、そこには54の国が存在する。先進国が軒並み出生率低下により人口減少と超高齢社会へ真っしぐらに突き進んでいるのに対して、依然として5〜7%を維持する国が多数あるなど、人口増加、未来の世界を担う若年層が占める割合は高い。だからアフリカは人類の未来を担うとまで言われる。経済の成長率を見てもGDP伸び率が3%台がようやくの先進国とは比較にならない程、大きな成長を続けている。ただしそれは現状が貧困にあり、それだけの成長を続けながらも一人当たりの生活費が先進国に比べ著しく低く、1日あたり100円にも満たない金額で生活する人が多い。特に国によっては内戦で国土が荒れ果て、生まれてくる子供に十分な栄養を与える事ができず、病院のベットで虚な目をした子供達に栄養剤を注入する様な状況も多く見られる。
    本書はそうしたアフリカの現状を現地特派員の目で観察し、人類の未来になり得る世界の真の状況を露わにしている。確かにそこには未開発の世界と圧倒的な人口増加で消費経済の爆発的な拡大の素地があるのは間違いない。だがしかしそれを実現するにはあまりに政治体制が未熟であったり、汚職に塗れていたり、民族間・部族間の争いがあったりと前途多難である。
    ラグビー強国として知られる南アフリカは言わずと知れたアパルトヘイト(人種隔離政策)が存在した国だ。表向きそうした制度を排除し、多様性を重視する「虹の国」を目指して久しいが、ネルソン・マンデラの望んだ世界には未だ遠い。依然として黒人と白人の間に塞ぎきれない溝があるばかりか、近年は異常な殺人発生率で身の危険を感じた白人層が、郊外に白人のみの村を作って閉じこもるなど、逆行する動きが見られる。
    サッカー強国で名を馳せたカメルーンは旧宗主国であるフランスやイギリスの影響が色濃く残り、そのまま資源を巡る対立構造を露わにしている。多数派のフランス勢力に対して、少数派イギリス勢力が武器で存在感を示そうとし、一般市民が殺害されることもしばしば発生する。
    ケニアやセネガルやアンゴラ、ザンビアと聞いて感の良い方は気づくだろうが、中国資本が際限なく流入し、所謂債務の罠に嵌まった状況も見られる。確かにインフラ整備は中国の手により進んでいるが、自然環境を無視した道路建設や、現地住民の手ではなく大量の中国人がやってきて、作業を担う構造だから、現地の人々への恩恵は少なく、増え続ける中国人に危機感や嫌悪感を抱くケースもある。
    近年地球温暖化は猛スピードで環境破壊を進めているが、その影響は二酸化炭素排出量が最も少ないアフリカ大陸にも甚大な被害を齎らしている。美しいビーチの砂浜が侵食されたり、水温変化で養殖業に大きなダメージを与えている。地球温暖化はその収入だけを頼りに生きている弱い立場の人々を容赦なく襲う。
    12〜13歳での結婚もよくある話で、若くして子供を産み身体を傷めてしまう女子や、前述の様な内戦下で性被害にあう女性も多い。ノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師の話からは、社会の歪みがそのまま弱い立場の人から様々な未来を奪い去り、深い傷を残すという負の構造が見えてくる。武器による攻撃以上に精神を崩壊させるレイプの恐ろしさ。
    一方でアフリカ大陸には豊富な地下資源が手付かずで眠り、未来への期待も大きいのも確かだ。世界各国がその資源を狙い、アフリカを目指しているのが現状ではあるが中国・韓国に比べると日本の関わり合いかたはまだまだ規模は遠く及ばない。今後国家として如何に取り組んでいくか重要な課題ではあるが、スピード感ある中国の動きには到底及ばない。その様な巨大な資本が流入するから、上手く政治が回る国は成長のスピードも途轍もなく、カエル飛びと呼ばれる、通常なら機械化が先に進んでその後にITが発展するところを、いきなりIT分野から伸びていく国もある。様々な負の経験から多様性重視で女性の社会進出をクォータ制度なども用いて強制的に進める国もあり、国会議員の10%しか女性議員がいない日本と比べると、50%を超えるルワンダなどは政治の面での成功が国の発展を後押しする構造が確立されつつある。
    こうした書籍からアフリカへの未来を期待するか、課題山積で様子見もしくは時間がかかると見るかは読者次第だが、地球温暖化の問題はアフリカだけで解決するものではないし、その責任は先進国が多くを担っている。先進国に生まれた読者自身が考えなければならないと改めて感じさせられる一冊だ。

  • 気候変動や、テロ、少女での結婚など、アフリカ各国のさまざまな問題を取り上げた本。この本も、部族という言葉を使っていない。部族という言葉は、ヨーロッパの少数民族には使われていない。そういう点でも目配りがきいている。

  • 「アフリカ」とひとくくりにするにはあまりにも多くの国があり、この本で触れられている国だけでも、それぞれが違いすぎる。この先、各国がどう発展していくのか、目が離せないのは確か。

  • 南アフリカに旅行に行くにあたり図書館で借りた本。
    2050年には世界の1/4の人口がアフリカに集中することになる。
    これからの経済発展が期待されるとともに、政治汚職、貧困格差、国内紛争、目を覆いたくなる実情が書かれていた。

    ジャーナリストとしての著者の働きは素晴らしい。

  • コロナ中のアフリカ事情をキャッチするのにちょうど良かった

    中国勢に勝てる企業はあるのか?と改めて感じさせられる。

  • 希望と絶望。
    これからの伸び代とは裏腹に、絶望的にズタボロにされた過去がある。この本はマイナス面が強くて、いい所だけじゃないアフリカを勉強できて良かった。
    やはり欧州諸国による植民地支配の傷跡が大きい。
    ルワンダの大虐殺、汚職、独裁者による超長期政権、児童婚によるフィスチュラという病気、レイプが住民を屈服させるための、安価で残酷な戦場の武器になっている。
    中国の債務の罠にはまり、乗っ取られつつある国々…セネガル、ケニア、アンゴラ。
    欧州の次は中国の植民地になってしまうのか。

    一方で、交通網の整備がなかなか進まないから、一気にドローンにしてしまおうというリープフロッグが目立って増えているのもアフリカ。
    電話線張れないからスマホ、銀行もないし通貨も流通しないからスマホ決済とか。やっぱり伸び代は無限大?

    良かったのは「何か問題があるのかい?」と聞くと、アフリカの友人はいつも「問題はない。解決策しか存在しない」と豪快に笑う。

    そんな風にしてないと、やってけないんだろうな。私もそんな風にやっていきたいもんです。



  • 有り S302/ヘ/20 棚:

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