未完の敗戦 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087212167

作品紹介・あらすじ

コロナ対策に長時間労働、低賃金。なぜ日本の組織は人を粗末に扱うのか。
その原因を戦中の歴史に求め、そこからの脱却の道を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 2022/7/9 「なぜこの国は、人を粗末に扱うのか」「未完の敗戦」集英社 発刊記念イベント  企画No.287 - 隆祥館書店
    https://bit.ly/3NevtuP

    青春と読書
    http://seidoku.shueisha.co.jp/2206/read03.html

    未完の敗戦/山崎 雅弘 | 集英社 ― SHUEISHA ―
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-721216-7

  • 「大日本帝国型の精神文化」の温存化がやまないどころか、復興しつつあるのではないかと思ってしまう今の日本。もう破滅するしかないのかな。

  • サブタイトルは「この国は、なぜ人を粗末に扱うのか?」。本書の主張は「大日本帝国」的な、国・会社・集団の都合を第一に考えて、個人を尊重しない考え方が、長時間・低賃金労働などの現代の日本の悪状況を作り出している、ということ。会社のために低賃金・長時間で働く過労死は「特攻」となんら変わらない。

    その根本原因は今でも残る「大日本帝国」的な精神。ドイツがナチスを完全悪として消し去ろうとしていることと対象的に、現代でも「特攻」を軍指導部の狂った作戦と同調圧力による犠牲ではなく、国を守る英雄的な行為と考える人が一定数いる。大日本帝国の信奉者だ。まさしく敗戦が完結していない、ということだろう。次は本書からの引用だが、現代でもよく見られる。

    目的を達成できるか否かという「可能性」が、その目的を達成するための「努力」にすり替わり、目的を達成する「努力の尊さ」が「その努力において自分を犠牲にすることの尊さ」にすり替わる。

    それらの大日本帝国的な精神論・考え方は単なるイデオロギーにとどまらず、批判的な考え方の欠如・権威への盲目的追従となり、現実的に、日本の発展の妨げとなり競争力・国力を削ぎ続け、失われた30年(もっと続く?)となっている。 大日本帝国時代(1889-1945)の57年よりも日本国時代(1947-2022)の76年ほうが、はるかに長い。いいかげんに現代に適応しないといけない。

    憲法が「日本国憲法」から「大日本帝国憲法」に変わろうとしている、今こそ読んでおくべきかもしれない。

  • 子どもにとっては脅迫に近い情緒的「平和教育」のせいで日本近代戦争史に関わると祟られるようで恐ろしく、エンタメにしても読み物にしても全般的に避け気味だったので、目から鱗の情報ばかりで面白かった。

    まさか朝鮮戦争によるアメリカの圧力で戦後日本の民主主義形成が阻害されたとは。あれが1950年だから、つまり、たったの5年間しか「大日本帝国」の支配層が表舞台から追いやられていなかったわけか。これはショック。てっきり昭和天皇のラジオ放送のあと日本人全員で反省してすべて刷新したのだとばかり思っていた。

    戦時中の徹底した人命軽視の方針も、「日本古来の考え方」でも「サムライ魂」でもなく、軍国主義国家をうまく回すために1930年代に新たにでっちあげた教義だった。そして、天皇を守るために死んだ楠木正成を過剰に祭り上げたり、それまで忘れられていた『葉隠』を都合よくトリミングしたりして、「お上のために命を積極的に犠牲にするカッコいい武士」のイメージがいつのまにかできあった。まるで歴史ファンタジー創作か新興宗教の教義ようだ。

    なのに、漫画『シグルイ』など読んでいると、かつての武士はみんなマゾヒストだったのかと思ってしまう。あれこそ被虐趣味のファンタジーであるのに、どこかで本当であったような気がしてしまう。これもまた今の日本人の意識に大日本帝国型の精神文化が温存されている証拠だろう。

    靖国神社があれほど問題視される理由も理解できた。単なる神社ではなかった。「敵を倒したら英雄」を「死んでこそ英雄」にすり替えるための装置として戦時中利用されていた。つまり、非人道的滅私奉公の象徴なのだなと。そりゃ問題視しないと危ない。

    「死んでこそ英雄」がまかり通れば、いくら死人を出してもトップは責任を問われないで済む。責任逃れに全力を尽くして本末転倒になってしまう日本人トップらしい方法だ。税金を使って育てた前途有望な若者たちをどんどん使い潰して廃人を量産するブラック企業と同じ無責任さと独善性を感じる。

    敵国人捕虜およびアジア人労務者の扱いも同様にむごい。ジャングルの鉄道建設のためにたったの1年3ヶ月間で 9万8千人も死者を出している。満足な通訳も食事もなく、1日あたり215人死亡するジャングルの工事現場とはどんなだったろう。そこら中死体だらけか。戦時中で神経が麻痺してるとは言え想像すると気が遠くなる。

    こういう、金も権力もない人たちの命が物のように扱われる点で、大日本帝国型の精神文化と新自由主義は真逆なようでいて、実は親和性が高いのではないか。定期的に死人を出して隠蔽するアマゾン倉庫を思い出す。

    国内(既得権益の保持および増強)と国外(多国籍企業および海外資本家への市場の開放)の思惑が一致しているからこそ、自民党の議員が靖国神社を参拝するのでは?命など惜しむな、人権意識も捨てて命ぜられるまま働けと。もちろん、美しい日本を守るやら大日本帝国の栄光云々なんていうのは信者向けのファンタジーでしかない。そもそも、戦時中と違ってこのご時世では非現実的かつ空疎に響く。

    現代の自称「保守」が全然保守主義ではなく、薩長藩士から続く「革新」路線を受け継いでるとか、日本会議が日本国憲法を目の敵にしている理由なども、色々と分かりやすく説明してあり面白かった。

    ただ、日本人が論理よりも情緒や空気を優先しがちなのをすべて教育のせいにするのは違うのでは。むしろ日本独自の社会構造によるものが大きいと思う。確かにGHQの占領下で作られた文部省の『新教育指針』による民主主義教育がそのまま継続されていれば、今よりは多少マシな民主主義社会ができていたかもしれないが、多国籍企業が国家を越える権力を持つような時代では、単純に民主主義を各自で標榜するだけでは弱いのでは。何かもっと有効な方法はないものか、いやもう遅いのか、とまたしても最後には頭を抱える読書だった。

  • 最初から最期まで、政治家批判とマスメディア批判。飲み屋でテレビに向かって文句言ってる人の隣に座った気持ちになった。

  • 言いたいことはよくわかるが、処方箋はない。物事には表と裏があり、右にも左にも正義があり、良い面悪い面がある。これは一つの意見に過ぎない。勿論人間を大事にしない世の中に住みたいとは思わないが、民主主義社会が結局行き過ぎた資本主義を生み出し、グローバル企業帝国主義になったことを思えば、色々な側面から物事を考えていくことが大事であるとしか言えない。正解はない。

  • 安定の普通の切り口で安心して読めたけど,僕にとっては目新しくなく刺さる事もなかったな.
    でも,最近の統一協会の問題とかであれあれ⁈と気づき始めた人が手に取ってくれると,とても良い気づきにつながるのでは?

  • 今の自民党が大日本帝国であるというシンプルで簡潔な主張で(実際にもそうなのだが)、現代を大変分かりやすく表している。

    日本人にとって、敗戦をキッカケに、急に民主主義や女性参政権が降ってきたため、まだ江戸時代の百姓なんだということがよくわかる。
    日本本当の民主主義が根付くには、もう一つ歴史的に大きな事件が起きなければいけない気すらしてくる。


    最後に、情報批判的に捉えようとする筆者であるのに、新型コロナについては、無批判に危険なものとして扱う態度には、違和感を覚えた。

  • 有り S302/ヤ/22 棚:13

  • 東2法経図・6F開架:302.1A/Y48m//K

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著者プロフィール

山崎雅弘(やまざき・まさひろ) 1967年生まれ。戦史・紛争史研究家。

「2020年 『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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