ベーシックインカムの祈り (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087444452

作品紹介・あらすじ

遺伝子操作、AI、人間強化、VR、ベーシックインカム。
未来の技術・制度が実現したとき、人々の胸に宿るのは希望か絶望か。
美しい謎を織り込みながら、来たるべき未来を描いたSF本格ミステリ短編集。


日本語を学ぶため、幼稚園で働くエレナ。暴力をふるう男の子の、ある“言葉"が気になって――(「言の葉の子ら」 第70回推理作家協会賞短編部門ノミネート作)

豪雪地帯に取り残された家族。春が来て救出されるが、父親だけが奇妙な遺体となっていた。(「存在しないゼロ」)

妻が突然失踪した。夫は理由を探るため、妻がハマっていたVRの怪談の世界に飛び込む。(「もう一度、君と」)

視覚障害を持つ娘が、人工視覚手術の被験者に選ばれた。紫外線まで見えるようになった彼女が知る「真実」とは……(「目に見えない愛情」)

全国民に最低限の生活ができるお金を支給する政策・ベーシックインカム。お金目的の犯罪は減ると主張する教授の金庫から現金が盗まれて――(「ベーシックインカムの祈り」)


【著者略歴】
井上真偽(いのうえ・まぎ)
神奈川県出身。東京大学卒業。
『恋と禁忌の述語論理』で第51回メフィスト賞を受賞してデビュー。
第2作『その可能性はすでに考えた』が、2016年度第16回本格ミステリ大賞の候補に選ばれる。
その続編『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』は、「2017本格ミステリ・ベスト10」の第1位となる。さらに「ミステリが読みたい!2017年版」『このミステリーがすごい! 2017年版』「週刊文春ミステリーベスト10 2016年」にもランクイン。2017年度第17回本格ミステリ大賞候補、「読者に勧める黄金の本格ミステリー」にも選ばれる。
同年、本作に収録されている「言の葉の子ら」が第70回日本推理作家協会賞短編部門の候補に。
2018年には『探偵が早すぎる』が滝藤賢一、広瀬アリス、水野美紀出演でドラマ化され話題となる。

感想・レビュー・書評

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  • 図書館本

    何気なく借りたのに、最近読んだ本の中で一番!
    短編集。SFにして推理小説。全ては未来が舞台。
    探偵が早すぎる、の作家さん。

    言の葉の子ら  カズオイシグロのクララとおひさまみたいだと思ってたら、解説もそのようだった。好きだな、こういう空気。

    存在しないゼロ  昆虫。遺伝子操作は是が非か。そこの差別なんて、未来はそうなってるかもね。

    目に見えない愛情  愛情の深さは、子の思いのさらに先を読んで注がれる。

    ベーシックインカムの祈り  これは本当に素敵。心情に配慮した←配慮という言葉は適切ではないけど他に浮かばない、トリックが秀逸。

    解説より
    三体の劉滋欣は、ありうべき未来をフィクションのかたちで描き、人間の心に準備をさせるのがSFの役割のひとつだと述べている。

    うーん、そうだな。そうなんだな。

  • 以下はただの私見ですが。

    SFが重要な要素となる1~4話はいわば最後の章の「前振り」なのかなと。
    最終話で作家である「私」が書いた作品が入れ子式に登場してくる。しかしその内容はAIやVRといった題材こそ同じものの、内容は大きく異なり、かなり絶望的な内容であったよう。わが身に降りかかった不幸、そして追い打ちをかけるように直面した恩師の「裏切り」。それらが「私」にそのような本を書かせた。
    しかし教授が自ら呼んだ警察に連行される時に云った言葉で「私」は悟ることになる。教授は何も変わっていなかったと。
    そして進化する技術が人間をより豊かにする世界を祈った。

    おそらく1~4話はその後の世界を描いたフィクションなのだろうと感じた。それは祈りの先の世界ほど明るくはないが、「私」の想定ほど絶望的でもない。とても「現実的」なものにも感じられた。

    ここからは余談。

    参考文献にルドガー・ブレグマン著の「隷属なき道」が紹介されていた。
    のちに「Humankaind 希望の歴史」を書く人とは知らず読んだベーシックインカムについて書かれた本だ。
    ベーシックインカムについては左右いろんな人が言及している。ブレグマンから小池百合子、果ては竹中平蔵まで。
    日本では弱者に冷たく労働者をシバキあげる系の人たちがベーシックインカム導入を云っている印象がある。確かに人の善意を前提に制度を設計してしまうと早晩破綻してしまうのだろうけど、不正を働いても「割に合わないという、人の経済合理性」(p265)が機能すれば、それこそ現実的な選択肢の一つではないかなとは思っている。

  • 単行本では読んでいて再読。
    どれもミステリーとして面白い。
    特に目に見えない愛情の話が好き。また読もう。

  • 「もう一度、君と」から私の好きな映画である『インセプション』と同じ匂いがしました。

  • 薦める相手は選んでしまうが、この著者の思考、発想は唯一無二。

  • 1話1話が全く別のものと思わせて、最終話で「こんな繋がりがあったのか」と読者に思わせるだけでもはっとさせられるが、その繋がりが誤りであったと実感させられて一転。悪と思っていたものがそうではない真相で二転。被害者や正義側と思いこんでいたものがそうではなく三転。二転三転として結末後には、「もしかしたら明るい未来が訪れた彼女が未来に書いた1話1話なのかもしれない」という読後感が残る。
    どんでん返しと呼ぶに相応しい一冊であっただけでなく、AIなどの無機質なものを題材としていながらも、人の温かさや熱を帯びた期待が描かれた、祈りの一冊でした。

  • 未来の技術が根付きつつある社会を描いた短編集。
    SFでよく見かけるガジェットたちだけど微かに切り口が斬新だったかも。特にVRの話に出てくる不安の中身とか。
    新しい技術に触れて人は考える。
    この技術が物心ついた頃から当たり前にある次の世代の子らのこと。

    次世代に託すような着地が多い印象だったけど、最後の表題作ではその理由がもれなく描かれる。
    祈りは救済を乞うことと似てる。
    助けてって言われてから助ける方が感謝が生まれるけど、本当は助けてって言われない仕組みの方が尊い。ベーシックインカムもきっとそういうもの。

  • 多様性や社会的包摂について未来の科学技術を踏まえた議論を進めるためには、このような物語を横におきながら議論することが重要な視点だと思える作品。

  • 急にAI要素が入ってきて戸惑った部分があった。
    個人的な感想(本の内容とは逸れるかもしれないが)は、ベーシックインカムを導入すると所得に関わらず一律に金が配られるため、労働意欲は削がれるのではないか?そしてその資金をどこから調達するのか?
    「消費税0」などと同じで非現実的な感じがした。

  • 近未来の世海を題材にした小説。
    言の葉の子らは、AI
    存在しないゼロでは、遺伝子組み換え
    もう一度、君とでは、AR
    見に見えない愛情では、エンハンスメント
    ベーシックインカムへの祈りは、ベーシックインカム
    を題材として、ミステリーを絡めて展開していく。

    個人的なお気に入りは、もう一度君と。二重のARで、ありがちな結果でしたが、楽しめました。

    未来は、決して楽園でないと思わずにいられないのは、過去の歴史が物語ってきたからでしょうか。
    技術の進歩は常に人の倫理観が伴うと思うと、ベーシックインカムの導入もまた考えてしまいます。

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著者プロフィール

神奈川県出身。東京大学卒業。『恋と禁忌の述語論理』で第51回メフィスト賞を受賞。
第2作『その可能性はすでに考えた』は、恩田陸氏、麻耶雄嵩氏、辻真先氏、評論家諸氏などから大絶賛を受ける。同作は、2016年度第16回本格ミステリ大賞候補に選ばれた他、各ミステリ・ランキングを席捲。
続編『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』でも「2017本格ミステリ・ベスト10」第1位を獲得した他、「ミステリが読みたい!2017年版」『このミステリーがすごい!  2017年版』「週刊文春ミステリーベスト10 2016年」にランクイン。さらに2017年度第17回本格ミステリ大賞候補と「読者に勧める黄金の本格ミステリー」に選ばれる。
また同年「言の葉の子ら」が第70回日本推理作家協会賞短編部門の候補作に。
他の著書に『探偵が早すぎる』(講談社タイガ)がある。

「2018年 『恋と禁忌の述語論理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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