- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087445091
作品紹介・あらすじ
【第6回渡辺淳一文学賞受賞作】
香りは、永遠に記憶される。きみの命が終わるまで。
元・書店員の一香がはじめた新しいアルバイトは、古い洋館の家事手伝い。
その洋館では、調香師の小川朔が、オーダーメイドで客の望む「香り」を作る仕事をしていた。人並み外れた嗅覚を持つ朔のもとには、誰にも言えない秘密を抱えた女性や、失踪した娘の手がかりを求める親など、事情を抱えた依頼人が次々訪れる。一香は朔の近くにいるうちに、彼の天才であるがゆえの「孤独」に気づきはじめていた――。
「香り」にまつわる新たな知覚の扉が開く、ドラマティックな長編小説。
【著者略歴】
千早 茜(ちはや・あかね)
1979年北海道生まれ。幼少期をアフリカで過ごす。立命館大学文学部卒業。2008年『魚神』で第21 回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。翌年、同作にて第37 回泉鏡花文学賞を受賞。13年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で第6回渡辺淳一文学賞、23年『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞。著書に、『男ともだち』『わるい食べもの』『神様の暇つぶし』『ひきなみ』など多数。
感想・レビュー・書評
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仕事が忙しくて本を読む時間も取れず、読み終えても感想を書く暇もなく、興味深い本だったのにその面白さが薄れていく…。
森の奥の古い洋館に住み客の望むどんな香りでも作り出す調香師の朔と、そこで家事手伝いのアルバイトを始めることになった一香。
とても不思議な雰囲気の物語で、人並み外れた嗅覚で相手の行動パターンや健康状態や心の内を一瞬にして嗅ぎ分け、怜悧で直截的な言葉を放つ朔に、最初のほうはかなり引く。
が、読み進めれば、朔のもとに香りを求めてくる客が秘める謎と彼らに対する朔の対応が一話ごとに語られるとともに、全体を通じては朔と一香の過去が少しずつ明らかになっていく展開に、どんどん惹き込まれた。
館での話は静謐な狂気を孕み、描かれる風変りな依頼やそれに応える香りが導く結末の闇は深く、中でも5話目、失踪した女性を捜した先に行き着いた美容師とそれに対峙した朔との、ともに異常な世界に身を置く者の間の会話にはゾクゾクする。
そうした世界に身を置かざるを得なくなった朔と一香の孤独な秘密が明かされていく終盤は、“愛着”と“執着”の間で揺れる朔と、それに接して自らの心の闇を解き放っていく一香の、それぞれの心情に切なさが溢れる。こちらの“友人”のほうが、先に読んだ同じ作者さんの「男ともだち」の男女よりも、恋愛感情を超えた関係としてよほどしっくりときた。
先天性の病気の息子に悩む刑事の姿を描いた6話目には、ダメな父親として身をつまされた。 -
日常の様々な光や色彩、匂いや香り‥、そこに私たち読み手の想像が加わり、独自の雰囲気をもつ物語でした。
千早茜さんの見事な筆力で、文字だけの本から多彩な色が浮かび上がり、様々な香りが漂ってくるのを感じられる作品で、色覚と嗅覚が刺激されるような不思議な心境に至りました。
実際に、食品などを調香するフレーバリスト、香水などを調香するパフューマーと呼ばれる「調香師」の方々は、資質・能力を高めるべく日々研鑽を積まれているんでしょうね。
私もひとつチャレンジして‥って、無理、無理! だいたい自分自身が嘘臭いし、加齢臭いし(ヤダー気持ち悪ぅ、やめて〜!)、華麗な香りや百歩譲ってスパイスの効いたカレーの香りだとまだいいんですが‥。(本作の品性を著しく低下させるギャグ!)
どんな香りも創れるとか、人の内面や生活状況まで見透かされるなんて、ちょっとカンベン(これは登場するさつきちゃん感覚)です。
しかし千早さんは、特異な能力を安易に連作短編で事件解決に向かわせるような、安っぽい展開にしないのが素晴らしい点だと感じました。
「記憶にまつわる匂い」或いは「匂いにまつわる記憶」は、実感として確かにあると思います。遠く仕舞われ忘れていた記憶が呼び起こされるような、とても奥深い物語でした。 -
実は随分前から"香り"というより"匂い"に関する本を読みたいと思っていた。
"匂い"は、過去のとある場所にタイムワープしてしまうほど強く記憶されていたりする。
逆に、過去の思い出には"匂い"の記憶まで蘇ってくるものもある。
五感は全てセットで記憶されていると思う。
もう1つ、第六感と言っていいのか分からないが(その時の)"気持ち"も記憶されている。
よく覚えているのは、"香り"とは呼べない、バスの排気ガスの"臭い"。
小学生の頃、嗅ぐと何故か気持ち良くてフワーっとなる感じが好きだったのだ。
工作で使ったニスやシンナーの匂いも…… おっと、危ない、危ない┌(・。・)┘♪└(・。・)┐
さて、この"香り"の物語だが、「嘘の匂い」これは本当にありそうだ。
何か特殊な化学物質が出ていそう。
「嘘の匂い」を実際に嗅ぎ分けられる人はいないだろうが、嗅覚がいい人って普段の生活が大変そうだ。
嗅覚がいい人と一緒に生活している人も気を使って大変だと思う。
潔癖症の人や何かにこだわりが強すぎる人と同等の生きづらさを感じる物語だった。
「ストレスの匂い」「欲情した匂い」「喜怒哀楽の匂い」、きっと世間は不快な匂いに溢れている。
そんな匂いを感じ取る能力があったら、自分自身が発する「嫌悪感の匂い」にやられてしまいそうだ。
私はたぶん匂いには鈍感な方だが、最近無印良品でエッセンシャルオイルを買った。
いろんな種類があって、好きな匂いと嫌いな匂いがあることがわかった。
選んだのは「おやすみブレンド」。
成分は知らないが、この香と心地よかった記憶が結び付いているのだろう。
寝る前に使っているわけではないが、リラックスできる感じはする。
続編も出てるようだがその前に、
香りが人体に与える影響を(科学的な見地から)勉強できそうな本を読んでみようと思う。 -
「香り」が放つ、神秘的で、ある意味怖く、とても美しい世界観に引き込まれました。
調香師であり、人並外れた嗅覚をもつ朔による謎解きが面白かったです。
新城や源さんのキャラもいい! -
千早作品二冊目です。
最後の解説にも書かれていたが
文字の中?文書構成の中?から本当に漂ってくるような
微かな嗅いだことが無いが臭覚が刺激される香りに稀有な
体験を覚えました。
文書のリズム感が、凄く私には合っているようで読んでいて
凄く心地よかったです。
1章にてクリムゾンスカイの薔薇に始まり、最後に言う
「また、新しい薔薇が咲いたよ」
これからの新たな生活が始まる予感を感じました。
続編が有れば楽しみな作品です。
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初、千早茜さん
どんな世界なのか興味があって、休日に落ち着いて一気読み
文章が美しく丁寧で、心理描写と情景描写が繊細
空気の澄んだ静寂な森の湖に映っている満月の様だった˚✧₊
香りを依頼人のオーダーに合わせて制作する調香師の小川朔(さく)は、人並み外れた嗅覚を持ち、相手の行動パターンや健康状態を一瞬にして嗅ぎ分ける天才
森の中の洋館でひっそりと香りのサロンを開いている彼のもとに、人には言えない暗い過去を持つ一香(いちか)が家事手伝いのバイトとしてやってくる
一香を苦しめて来た人には言えない過去とは___
いいな、このバイト!
だって体調管理してくれるし、身体に良いハーブや花の匂いや食材にいつも囲まれているんだよ
色々なレシピ覚えられるし、食べられるし
ちょっと神経質な世界かもしれないけれど
あと印象的だったのは、いつも朔の声を『紺色の声』と色に例えて表現している所
『黄色い声』は聞くけれど
日頃から人の臭覚って神秘的だと思っているし、鼻が利く方なので題材に興味がある
『香りは脳の海馬に直接届いて、永遠に記憶される』と作中にある
調べてみた
五巻の視覚、聴覚、触覚、味覚は理性、本能の順に処理される
嗅覚は本能のみで処理される
「香りが記憶に残りやすい」と言われるのはこのためで、嗅覚はさまざまな情報に惑わされない感覚であり、匂い、臭いはリアルな感情を伴った追体験を想起させるきっかけとなる
花の匂いを嗅ぐとあの頃を思い出すっていうのもそれだと思う
あと、子供の頃なついていた娘から思春期になったら毛嫌いされるようになった、臭いと言われるようになった、という父親の話がよくある
これは臭いによって遺伝子の近い異性を近づけないようにしているから
遺伝子が近いもの同士が生殖を行うと、種の多様性が保たれなくなり弱くなるといわれるから、だそう
ただ臭いと言われているだけじゃなくて、ちゃんと理由があって良かったよねー、世の中のお父さん(ToT)
因みに私は、夜の空気の匂いが好きデス
続編の『赤い月の香り』も読んでみよう -
香りは永遠に記憶される、きみの命が終わるまで。
帯にあったこの文章に惹かれて手に取った作品。
各章が香りの種類を表現する香調の名前になっており、
各章に寄り添った香りになっているのかなと思いました。
物語は静かに進んでいきますが、最後まで飽きることはなく
繊細で丁寧な文章と、気づけば登場人物たちのキャラクターに惹かれておりました。
静かに進んでいきながらも人間の感情や欲望が強く香ったり、優しく香ったり・・・
もちろん実際に香りは感じませんが、物語と共に香りを楽しむ。(想像する)
という、また新しい読書体験をすることができました。
香りによって呼び戻される記憶は楽しいことや幸せなことばかりではありませんが、
それも含めて自分にとって大切な記憶なのだと感じます。
続編もあるとのことなので引き続きこの物語の香りに浸っていきたいと思います。 -
香りについて深く考えてみたことはなかった。
確かに周りには色々な香りがあふれているのに。
嘘をついている人の香りがわかる、という発想には驚かされました。作品全体に流れる、重く暗い空気感はちょっと苦手だったかな…。 -
私はこの世界観がすごく好きでした。
なんていうんだろ。
儚い、薄い、繊細、綺麗。
そんな印象の小説でした。
自分も鼻が良いのですが、到底及ばない。
知りたくないことまで知ってしまうのはしんどい。
朔と一香の関係性も美しい。
この二人の続きが読みたいけど、続編では違う人が働くようで。
それもまた新しくて良いかな。-
あじょ子さん!こんにちは♪
この本、私は好きです!
続編はしっかり繋がっています!余り人のレビューを読まずにいた方が良いですよ。
でも、お...あじょ子さん!こんにちは♪
この本、私は好きです!
続編はしっかり繋がっています!余り人のレビューを読まずにいた方が良いですよ。
でも、お薦めします!
(^o^)/~~~2023/10/16 -
アールグレイさん
コメントありがとうございます!
良いですよね、この世界観!
ふむふむ、続編も是非読まないと駄目ですね♪
楽しみです!!アールグレイさん
コメントありがとうございます!
良いですよね、この世界観!
ふむふむ、続編も是非読まないと駄目ですね♪
楽しみです!!2023/10/16
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小説を読んでて、これまでに香りというものにあまり気にすることは無かったが、本作を読んで
様々な香りの種類があることに気付いた。
実際にそんな香りがあるのかと、思ったのが嘘の香りです。嘘をつく人に纏う匂いとは、どんなものか、現実では、感じれない匂いが、文章を通じて鼻に残るような気持ちになりました。天才的な
嗅覚を持つ調香師の小川朔とある過去に取り憑かれて、なかなか前に進めずいる一香の香りを通した不思議な関係性に虜にされました。嘘の匂いを
嗅いでみたいなと、改めて感じました。
いいですよね、この小説。
表紙も内容も香りたつパフュームのようです。
続きが読みたくて仕方ないけれど、...
いいですよね、この小説。
表紙も内容も香りたつパフュームのようです。
続きが読みたくて仕方ないけれど、文庫になるのをじーっと待っています 笑
お久しぶりです。こんばんは。
先に読んだ「男ともだち」があまり楽しめず、この本も序盤はちょっと引いたところがあって、...
お久しぶりです。こんばんは。
先に読んだ「男ともだち」があまり楽しめず、この本も序盤はちょっと引いたところがあって、この作者さんとは合わないのかもと思ったりもしたのですが、どうしてどうして。この、ある種異様な世界に嵌りました。
「赤い月の香り」も皆さんの評判いいですね。楽しみですが、私も文庫になるまで気長に待つ派です。それまでは同じ作者さんの既に文庫になった話で繋ぎます。