水を縫う (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087445213

作品紹介・あらすじ

【第 9 回河合隼雄物語賞受賞作品】

松岡清澄、高校一年生。一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている清澄は、かわいいものや華やかな場が苦手な姉のため、ウェディングドレスを手作りすると宣言するが――「みなも」
いつまでも父親になれない夫と離婚し、必死に生きてきたけれど、息子の清澄は扱いづらくなるばかり。そんな時、母が教えてくれた、子育てに大切な「失敗する権利」とは――「愛の泉」ほか全六章。
世の中の〈普通〉を踏み越えていく、清々しい家族小説。

【著者略歴】
寺地はるな(てらち・はるな)
1977 年佐賀県生まれ。大阪府在住。会社勤めと主婦業のかたわら小説を書き始め、2014 年『ビオレタ』でポプラ社新人賞を受賞しデビュー。20年咲くやこの花賞を、21年『水を縫う』で第9回河合隼雄物語賞を受賞。『大人は泣かないと思っていた』『ガラスの海を渡る舟』『タイムマシンに乗れないぼくたち』『カレーの時間』『川のほとりに立つ者は』『白ゆき紅ばら』など著書多数。

感想・レビュー・書評

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  • 月初は仕事がら忙しく、休み時間に読書が出来ない為、読書量が極端に減る。
    その上、ワンピースのアニメを魚人島からまた見始めた(笑)
    子供が小さい頃、魚人島の辺りまでは一緒にちょこちょこ見ていたのたが、その後すっかり遠のいていた。
    会社の人から、そこから色々伏線が回収されて面白くなるのに、見ないなんて勿体無いと言われ、今一生懸命時間が空くとアニメを見ている。一気に300話ほど(笑)


    というわけで久々の読書。
    リハビリには丁度良い柔らかさの本。

    松岡清澄は高校一年生になった。
    一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
    趣味は手芸。とくに刺繍が好きだ。
    学校では手芸好きなことををからかわれ、周囲から浮いており、中学までは友達も居なかった。
    姉の水青は、幼い頃の経験がトラウマになり、かわいいものや華やかな衣装が苦手だった。
    そんな姉が結構することになり、清澄がウェディングドレスを作ることを決意する。

    家族それぞれの立場からの短編連続小説。

    家族それぞれが、裡に秘めた思いがある。
    受け取り方は、読み手それぞれ違うだろうが、寺池さんの本は、男性だからとか、女性だからとか、性別によってこうでなくてはならない!みたいのが、そうじゃなくてもいいんだよ、好きなものは好きでいい。自分がやりたいと思うことを信じたらいいというようなメッセージが伝わってくる。

    私にはこの清澄の母親の真面目が故の生きにくさのようなものも、共感できる部分が多かった。

  • この作品を読みながら思い出したことがある。
    先日、髪を切って仕事に行ったら、子供たちに「髪、切ったね~」と言われた。ちょっぴり短く切り過ぎてしまった。
    そんな中に「男みたいだね」と言ってきた子供がいた。
    短い髪=男の人という考え。
    ある男の子が表紙の絵が可愛らしい本を読んでいたら、
    「なんで、そんな女が読むような本を読むん?」と言っていた上記の子供。
    かわいい=女の人という考え方。
    世の中の普通とされるものは、ときとして面倒くさいし、苦しくなることがある。
    男も女も髪が短いだろうが長いだろうが本人が良ければよいだろう?
    何を好むかも自由だろう?

    「女性らしさ」「男なのに」「親だから」という世の中の普通の価値観を押し付けられるよりも、目の前の、見て話して感じたその人を知るようになれると良いと思う。
    そして、この作品はこういうジェンダー絡みの「らしさ」ということを改めて考えさせられる物語でした。
    普通は難しい。
    また、普通に囚われたくない。普通で片付けられたくない。
    登場人物たちは自分軸を持って精一杯頑張っていました。
    私も強靭な自分軸をを持ちたいと思います。

  • んー素敵な本だった。

    家族っていうのはなんなのか。
    ジェンダーと立場の縛りを絡めながら、
    寺地さんの言葉が優しく見せてくれる。

    可愛い洋服が苦手な姉の水青。
    裁縫、刺繍が好きな弟の清澄。
    形容が難しいけれど、一生懸命な母のさつ子。
    女は◯◯の価値観で過ごさざるを得なかった祖母の文枝。
    父、父の仕事仲間の黒田さん。

    一人ひとりの目線で物語が進む。

    可愛いドレスが苦手な姉のために、「僕がドレスつくったる」と弟が言うことから物語が始まっていく。

    みんな必死で、だからこそ思いが伝わらない。

    おばあちゃんの気持ちもお母さんの気持ちも、
    全部じゃないけど、ところどころわかるから、
    きゅーっとなる。

    タイトルの意味がようやくわかり、とてもよかった。伝えるとことの大切さ、言葉を差し出すことの大切さ。
    そして、時に言葉以上に布や刺繍がこの本では思いを伝えてもいて。
    寺地さん2冊目もよかったー。

  • ☆4.5

    「女性らしい」とか「男なのに」といった言葉や価値観が私たちを型に押し込んでいる。(解説より)
    私の母親がそのような価値観や偏見を持っており、自分の考えを押し付けてくるような人なので…子供の頃から何度も傷付いたことを思い出しました。
    子供の頃に洋服やおもちゃを買いに行っても「それ、男の子っぽいから別のにしたら?」と言われたり、進路や就職を決める時にも自分の意見を押し通そうとしてきて言い合いになったことが何度もあったなぁと…。
    そんな母親は今でも実家に帰ると、私の息子に対しても「女の子みたいなことして」とか相変わらずの発言が多くて、孫にも言うのか…と呆れてしまいます。

    本作でも「あるべき姿」や「○○らしさ」に苦しむ登場人物たちが描かれており、共感出来る部分や心に響く言葉がたくさんありました。
    そして物語全体を通じて描かれている刺繍に、とても興味が湧きました❁⃘*.゚

  • バラバラだった家族の距離が清澄を通して少しずつ縮まっていく物語だった。
    それを温かく見守る黒田さん…。いい人すぎる。

    みんな一歩を踏み出すための葛藤が沢山あってやきもきしたけど、価値観や人目に左右されて世界を狭くするのはもったいない。それは現実も変わらないな。
    とりわけおばちゃんの話がとても感動した。

    最後にタイトルの意味がわかった。本当に物語通して水を縫うお話だった。

  • 本作は手芸が好きな主人公が近々結婚する姉のためにウェディングドレスを縫うことを決意し、悪戦苦闘する物語。構成としては連作短編で主人公とその家族が抱える思いが掘り下げられる形で物語が進みます。

    寺地はるなさんの作品で記憶に新しいものといえば、本屋大賞候補にノミネートされた「川のほとりに立つものは」などが浮かびますが、本作も多様な価値観を肯定するような優しい作品でございました。

    自分の好きなことを隠して、他人が好きなことに合わせる必要があるのか悩む主人公や、女性らしい服装が苦手で素直に自分の感情を表せない姉、子どもに苦労をかけたくないという思いが先行し、高圧的になってしまう母など、それぞれの登場人物が抱える悩みがとても、共感性の高い問題であるとともに、その悩みにそっと手を差し伸べるような展開で読んでて、心が洗われるようでした。

  • 寺地はるなさん2冊目。ひとつの家に暮らす家族が、それぞれ抱えるジェンダー差別に内から立ち向かっていく、心温まる物語でした。
    ほんとに、ありふれていそうでいて、とてもリアルで、その分たくさん共感できる1冊でした。
    特に、私は水青の私は怒っていいの一言に、とても共感。自分の生き方は自分でつかんでいくことを改めて教えて貰えました。

  • 終始温かい話。

    姉の結婚式のドレスを発端として、各章でそれぞれが周囲の固定観念から脱却していく。
    その中でも清澄の成長は目を見張るものがある。

    理解すること、受け入れることの大切がよくわかる話ではないでしょうか。
    自分にとっての善は他人にとっても善とは限らない、そう思うようにしようとなる一冊でした。

    「川のほとりに立つ者は」を先に読んで、正直あまりはまらなかったので、今回もどうかなと思った読んでしまいましたが、とても素敵な話でした。

  • 寺地さんの作品にはいつも心掴まれる。
    読んでいる間中、あたたかく柔らかい毛布にくるまれているような、後ろから優しく抱きしめてもらっているような、そんな気持ちにさせられる。
    特にこの作品には「自分らしく幸せに生きてほしい」という「祈り」がこめられている気がした。

    最近テーマとして扱われることの多い「ジェンダー」がこの作品にもキーワードとして出てきて、一瞬、またかぁ…と思ってしまったけど、全く気にならない位に自然で静かで、うるさくなかった。
    私もつい、女らしさとか母親らしさとか、役割を無意識に果たそうとしてしまっていたかも。
    「普通」とか「周囲」と比べず、自分の気持ちや感覚を大切にしたいと思った。
    そして、自分の「好き」を見つけたい!胸を張って好きなものを好きと言いたい!

    「愛の泉」の章は、自分も似た所があるなぁと反省した。
    子供から危ないものをなるべく遠ざけ、先回りして取り除いていた。「こうしないで」とか「こうしたほうがいいよ」と、子供が行動する前に口走っていることが多い。
    『失敗する権利』『雨に濡れる自由』
    心に残るフレーズにあふれた作品だったけど、この言葉が特に心に響いた。
    「傷つかないように色んな痛みから守ってあげる」のではなく、「泣いたり傷ついたり悔しい思いをしても進み続ける姿をただ見ていてあげる」、そんな存在になりたいと思った。

    ラストシーン、清澄が刺繍したウェディングドレスの描写がとても素敵で映像として浮かんでくるようだった。そこに込められた清澄の願い、姉の笑顔に涙が出た。

  • 本を開き、見返しの遊び紙のきれいな水色がまず目を惹いた。読み終えたあと、『水を縫う』というタイトルがすごくいいと思った。

    刺繍が好きな高校生の松岡清澄が、姉の水青(みお)のために、飾り気のないウェディングドレスを作ることになる。

    男子が刺繍が好きだということに対する偏見、水青が飾り気のないウェディングドレスじゃないと嫌だという理由、母親が普通であることを求めること、祖母が夫に年齢によって否定されたことなどは世の中でありがちなことだ。しかしこれからは、清澄が刺繍が好きだということに対して、純粋にすごいなという、宮多くんみたいな人が増えていくのだろうと思う。性別や年齢で分けることないように意識を変えはじめたのが、今の時代だと思う。2人の名前に込められた意味、流れる水であってほしいというのが、その事を表しているように思えた。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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