アポロンの嘲笑 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087456615

作品紹介・あらすじ

東日本大震災直後に起きた殺人事件。容疑者として逮捕された男は、余震の混乱に乗じて逃走し、ある場所へと向かうのだった……。このミス大賞受賞作家が贈る壮絶な社会派サスペンス。(解説/村上貴史)

感想・レビュー・書評

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  • 原発に対するメッセージ性が強い物語
    東野圭吾の「天空の蜂」を思い出します

    東日本大震災と原発事故を下敷きとした社会派サスペンス
    東日本大震災の5日後に発生した殺人事件。しかし、加害者の邦彦は被害者の淳一とともに、原発で働いていた人物。家族ぐるみの付き合いをしていたにもかからわらず、なぜ邦彦は淳一を殺害したのか?
    そして、邦彦は一度逮捕されながらも、逃走
    その逃走先は?
    サバイバルのように、邦彦が向かう先は?
    あまりの展開にちょっとやりすぎ感を感じます。邦彦は不死身ですか?(笑)

    一方で、徐々に明らかにになる邦彦の半生、原発の作業実態、淳一の過去
    これ、ちょっと重い

    とはいえ、このベタなストーリ展開は好き

    お勧めです。

  • 加害者として拘束された犯人が移送車両から脱走、という展開に何故だろうと読み進めて行く。
    途中から公安が顔を出してきたり、犯人も高放射線量の中心に向かうというヒントもあり、早めに落ち着き先の想像が付いてしまった。
    社会派サスペンスとして原発危機に対する東京電力や政府の対応に付いて相当厳しい内容だが、確かにそう思うが、かと言って現実を見ると・・
    残念な国、ニッポン。

  • さあてミステリーと言えるのかどうか。東日本大震災のときの東電のあまりにもひどい自分勝手な有様と政府のふがいなさを訴えたいのであろうか。途中で出てきたある男の正体がすぐ想像がついて、そうなると主人公の加瀬邦彦(仁科刑事もそうかな)の行動も先が読めてしまう。結末も。ちょっとミステリーとしては弱いかな。うーんサスペンスか。

  • 東日本大震災と原発事故を題材とした社会派サスペンス。

    とても重苦しい作品でした。
    殺人事件の被疑者の逃亡劇で、壮絶な半生が明らかになっていきます。
    震災直後の福島の町の様子の描写が凄まじく、臭気まで伝わってくるようで、当時見た映像などを思い出して身震いしました。

    原発事故について背景など詳細に語られ、この問題も根深く、改めて難しい課題を突き付けられた思いがしました。
    物語としては壮大で、某映画のようなラストが私にはイマイチでした…
    ★3.5

  • 東日本大震災によって引き起こされた福島第一原発のメルトダウン。その混乱に乗じた原発テロを巡るサスペンス。

    本作のキーワードは、原発行政の闇、命を削る原発保守作業員の悲哀、偏狭なムラ社会、虐めに虐待、そして自己犠牲、かな。

    タイトルのアポロン(太陽神)=原子力。「太陽神アポロンは同時に弓矢の神でもあった。その矢は自分を軽蔑し侮辱する傲岸不遜な相手に死をもたらしたという」

    本作の主人公、加瀬邦彦は、阪神淡路大震災罹災(両親が犠牲に)を皮切りに、学校での虐めに家庭での虐待、そして失業に次ぐ失業。これでもかというくらい災難続きで社会の底辺に。こんな理不尽な人生あっていいのだろうか。著者の意図は分かるけど、邦彦の生い立ちをここまで悲惨なものにしなくていいのに。

    そして、次々襲いかかる身の危険を必死に潜り抜ける邦彦の逃亡サバイバル。「魔女は甦る」でも感じたことだが、これまた極端に悲惨な展開にうんざり。やりすぎ!

    311当時の、原発事故のパニックを思い出した。もうすぐ11年経つんだな。

  • 中山七里『アポロンの嘲笑』集英社文庫。

    予測不能の展開の社会派ミステリー。

    人間の運命というのは不思議なものだ。苦難の末に幸せを手に入れる者も居れば、順風満帆の人生から一転、地獄を味わう者も居る。しかし、運命は自分の力で少しばかりは切り開くことが出来る。そんな小さな望みを教えてくれた作品だった。

    東日本大震災から5日後に福島県石川郡平田村で発生した殺人事件。殺害されたのは31歳の金城純一。被疑者の加瀬邦彦は駆け付けた駐在所の巡査により早々に確保される。

    震災の影響で大混乱の中、石川警察署刑事課の仁科忠臣は城田と共に現場に赴く。程なく、被疑者の加瀬は原発作業者で、純一とは同僚であったこと、純一の妹の裕未の恋人であったことが判明する。仁科が加瀬を署に連行しようとパトカーに乗せた時、大きな余震が発生し、あろうことか加瀬は混乱に乗じてパトカーから逃走する。

    巨大な地震と津波により全電源を喪失し、相次いで爆発した福島第一原発。アメリカは原発周辺80キロからの退避を指示したのに、地域住民に正しい情報を提供せず、まともな指示も出せずに右往左往するだけの日本政府。

    必死で逃走する加瀬が向かったのは何故か危機的状況にある福島第一原発であった……

    事件の周辺にちらつく公安の影。仁科は自らの失態を挽回するために形振り構わず公安に接触するが……

    福島第一原発事故の時の東京電力の本店や原子力保安院の対応は本書に描かれているような本当に酷いものだった。原発の安全性を喧伝し、いざ事故が起きれば、危険な対応は自衛隊や消防、下請けや孫請け、玄孫請けに任せ、責任も取らずに自分たちだけ安全な場所に避難したのだ。

    本体価格700円(古本100円)
    ★★★★★

  • 弓矢の神でもある太陽神アポロンは、傲岸不遜な相手に死をもたらすという。太陽の力に変わる原子力は、太陽神に侮辱をもたらしたのだろうか。
    福島第一原発の事故は、起こるべくして起きた。この小説は、そんな発想から生まれたようである。
    東日本大震災をエンタメの題材にすることに、批判的な見方もあるようだ。しかし、具体的事件で記述しなければ、やはり説得力を欠いてしまう。
    この小説は、社会派サスペンスとして読むべき一冊だと思うし、警察小説に冒険小説を加味した稀有な傑作と言っていい。
    著者の代名詞たる「どんでん返しの帝王」は、この作品では息をひそめているようだ。
    絶望的な状況の中で、主人公は親友から託された使命を果たすため、「ダイハード」的、あるいはそれ以上の行動を示す。そこまでするかと、劇画的あるいは現実離れしているのではないかとの懸念もあるが、彼の幼少期を詳述することによって、その行動は説得力を持ってくる。
    彼が辿る避難地区、それに原発作業員の実態も描かれており、原発問題を考える一助となる作品ではないか。

  • 東日本大震災、そして福島の原発事故を題材にしたミステリー。描かれている状況がリアルで、ぞっとするお話です。原発に関しては1~3号機の廃炉に目が行ってしまいますが、こう書かれると実際に最も危機が迫っていたのは4号機なのかもしれませんね。

  • 中山七里さんの小説が読みたくて買った一冊。

    本の裏表紙にも書いてあるが、社会派サスペンスの話だった。

    殺人を犯した加害者が、あまりにも不運な男だった。
    子供の頃から大人になるまで、大人になって働くようになって、逃亡している最中も不運
    自分だったら途中で人生を投げ出しているかも

    ちょっと気になったのは、殺人で捕まり地震のおかげで逃亡する事ができたが、地震がなかったらどうしたのか?
    なにかしら隙をみて逃亡したのかもしれないけど

    年月が経ちだんだん薄れていく原発や放射線、あと津波、地震の恐怖が改めてわかった小説でした。


  • 全貌が明らかになるにつれて押し潰されそうな緊張感でした。

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著者プロフィール

1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲(ルビ:ソナタ)』が各誌紙で話題になる。本作は『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』『追憶の夜想曲(ノクターン)』『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』『悪徳の輪舞曲(ロンド)』から続く「御子柴弁護士」シリーズの第5作目。本シリーズは「悪魔の弁護人・御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲~(ソナタ)」としてドラマ化。他著に『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『能面検事の奮迅』『鑑定人 氏家京太郎』『人面島』『棘の家』『ヒポクラテスの悔恨』『嗤う淑女二人』『作家刑事毒島の嘲笑』『護られなかった者たちへ』など多数ある。


「2023年 『復讐の協奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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