スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087458510

感想・レビュー・書評

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  • 阪神、近鉄で活躍したプロ野球の名スカウトの評伝。自由競争からドラフト、逆指名と制度が変わっても誠意溢れる態度でのスカウト活動。往年の名選手の入団に関する裏話が面白い。

    阪神で江夏、遠井、掛布、工藤一彦、山本和行。近鉄で大石大二郎、赤堀、野茂など。優勝の影に名スカウトあり。

    スカウトとして選手を見るポイント、入団を拒否する選手への対応など実に興味深い内容であった。

    個人的には後藤正治「スカウト」と共にこの手のテーマでは屈指の出来であった。

  • 人が人を惹きつける

  • 選手一人一人との関わりが、もっと書かれていると良かったのになぁ。

  • プロスポーツが好きな人で、有望選手がどのチームに入るかに興味の無い人はいないだろう。ひとりの名スカウトにスポットを当て、その仕事を追ったところに本書の魅力がある。現在は情報化とルール整備が飛躍的に進み、スカウトの業務も相当変化しているので、内容的には昭和時代のスカウト活動の記憶といった側面も強い。名選手の熾烈な獲得の舞台裏も読みどころ。あの選手がもしあの球団に行っていれば、選手や球団は勿論、プロ野球も随分違った様相だったかも知れない、そんな想像を掻き立てられ、進路の重要性に改めて気付かされもした。「ひと目で見抜く」「情熱で口説き落とす」といった職人技に、人間臭さとドラマを見る一冊。

  • 20190413

  •  スカウト本。でも、それ以上に、愛すべき人間の本。

  • 江夏豊、川藤幸三、掛布雅之、阿波野秀幸、野茂英雄、中村紀洋、福留孝介…今でも燦然と輝く記録と記憶を残した名選手たちを獲得した伝説のスカウトマン河西俊雄。最大の決め手は誠意。探し、交渉し、引退後も見守る。その粘り強い交渉術を見て、人は彼のことを「スッポンの河さん」と呼んだ。現代のビジネスマンにも通ずる、人を動かす極意がそこに。この男を抜きにしてプロ野球史は語れない。

    「ひとを見抜く」改題、文庫化。

  • 本書は、戦後グレートリング(南海)に入団、好守好打の選手として鳴らし、3年連続盗塁王を獲得。引退後の昭和33年から平成9年まで約40年にわたり、阪神・近鉄の2球団でスカウトとして辣腕を振るった「河西俊雄」の評伝。日本プロ野球史とともに生きた人であり、スカウトという裏方の目で見た野球史が描かれている。

    今日でもプロ野球界では、横綱級のスカウトと言えば、東の正横綱がカープの木庭教であり、西の正横綱が河西俊雄であると語られている。粘り強い交渉力からニックネームは「スッポンの河西」とも呼ばれ、阪神時代には、遠井・藤田平・山本和・中村勝・川藤・江夏・掛布・工藤らを、近鉄時代には、大石・金村・野茂・佐々木・赤堀・大塚・阿波野・吉井・高村・中村紀らの錚々たる選手を入団に導き、それぞれの優勝に貢献。「河西の行くところに優勝あり」と言ったのは東の正横綱である木庭教。今でこそパリーグも観客動員を伸ばし人気面でもその格差はなくなったが、昭和の頃は巨人が他を圧倒する言わずと知れた人気球団で、方や近鉄は不人気球団のひとつで。アゲンストの中で次々と有望株を入団させていった河西のスカウティング能力がいかに卓越していたかがうかがい知れる。

    河西は即決のスカウトの人であった。第一印象を重要視し、「一投げ一振り」で選手の資質を見抜いた。その理由について、河西は「見れば見るほど正直迷う。選手も日によって良い、悪いがある。たまたま打てた日もあれば打てなかった日もある。投手の球が速い時もあれば、疲れていて全然スピードがなく、制球が悪い場合もある。投手であれば『速い球を投げる』、野手であれば『遠くに飛ばせる』かどうかの資質、内野手であれば併殺プレーの際の足の運びでセンスの良さかわかり、ユニフォームの着こなし、立ち姿の良さ、パッと見た印象、これが大事や」と語る。

    宝石・原石を獲得するための交渉力・人間力の源は「誠意」であった。強引さはなく、柔らかな関西弁に交じるユーモア、人情味に溢れ、誠実さをモットーに口説く。晴れて入団した選手にはプロで生きてゆく秘伝も授け、退団する選手にはセカンドキャリアの世話もした。

    95年、近鉄はドラフト1位で福留を指名するも入団を拒否。3年後日本生命を経て逆指名で中日で入団する際、福留は「日本生命の福留です!」と河西へきちんと詫びの電話をかけた心温まるエピソードも紹介されている。

    選手を見る目の確かさに加え、その人の長所・伸び代など細部にわたるまでを見抜き、プロ向きの性格かどうか内面まで判断する極意を持っていたからこそ、歴代の監督から絶大な信頼を置かれた。「スカウトは漁師。監督・コーチは料理人」。両方が上手く行かないと選手は育たない。このことこそが、「河西の行くところに優勝あり」と言われた所以である。

    かつてプロ野球のスカウトは「人買い」と揶揄された。熾烈なスカウト合戦を描いた「あなた買います」という映画が作られたほど、有望な選手を巡って裏て大金が動いた時代にも翻弄されることなく、あくまでもスカウトとして必要不可欠な「人を見抜き、口説き、活かす」能力を磨き、誠実な黒子に徹したプロフェッショナルの凄さを遺漏なく描いた快作。

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著者プロフィール

澤宮優(さわみや・ゆう) ノンフィクション作家。1964年、熊本県生まれ。青山学院大学文学部卒業、早稲田大学第二文学部卒業。2003年に『巨人軍最強の捕手』(晶文社)で第14回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。主な著書に、『バッティングピッチャー』、『炭鉱町に咲いた原貢野球』、『昭和十八年 幻の箱根駅伝』(以上、集英社文庫)、『世紀の落球』(中公新書ラクレ)、『イップス』(KADOKAWA)、『戦国廃城紀行』(河出文庫)、『暴れ川と生きる』(忘羊社)、『集団就職』(弦書房)など多数。

「2023年 『「二十四の瞳」からのメッセージ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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