舞姫 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 1362
感想 : 155
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087520101

作品紹介・あらすじ

ベルリン留学中の若いエリート・太田豊太郎は、街で出合った美しい踊り子・エリスの危機を救った。やがてふたりは魅かれ合い、豊太郎は友人の中傷により免官となる。いったんは栄誉を捨て、エリスとの愛を貫こうと決意するが…鴎外自身の体験をもとにした表題作ほか『普請中』、『妄想』、『雁』を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 太田豊太郎とエリスの出会いがとても優しくて綺麗で、印象に残っています。
    主人公の持っている信頼できる友との繋がりと、愛する人との繋がりが上手く噛み合わなかったがためにあのような結末になってしまったのだと思うと惜しい気持ちがします。
    どんなに良い歯車同士を組み合わせても、それらが上手く噛み合わなければ故障してしまうのだなと思いました。

    森鴎外の作品をしっかりと読んだのはおそらく初めてですが、とても印象に残る作品でした。
    他にも森鴎外の作品を読んでみようと思います。

  • 高校の時に授業で教科担任が熱く語っていた記憶があります
    娘の教科書に全文載っていたので読んでみたら当時の担任の気持ちがわかりました
    ただ異国で恋に落ちた大真面目青年の葛藤話ってだけなのになぜこんなに心打たれる作品なのか、、、

  • 若かりし主人公とエリスの運命的ともいえる切ない出会いに、胸が締め付けられる思いがこみ上げてきます。
     そして、ささやかな幸せをエリスと共に育み、清らかなる交際が始まるのです。
    朋友の忠告に心動かされつつも、寒風が肌身に沁みる・・・。
     この小説を読んで、ネタバレ覚悟で書きたい事は一杯ありますが、皆様の読書欲を阻害する危険性があるので控えさせて頂きますが、この小説のモデルになった女性が遥か彼方の独逸より船旅で来日したという後日談があるそうで、そしてその女性の写真も最近になって発見されたという事実は刺激的です。この小説の中の女性の純粋無垢な情念に心を打たれます。
     文語体で書かれている為、多少硬めな文章は否めませんが純粋な心は十二分に伝わってくる小説です。(もしかして、真実味を持たせるため敢えて文語体にしているのかもしれません。私見です)
     鴎外先生と呼ばせて頂きます。
    素晴らしい作品でした(失礼ですが・・・。)

  • いわずとしれた森鴎外の初期の代表作。学業優秀でドイツ留学中の主人公が、踊り子エリスと出会い、同棲し、妊娠させるが、最終的には自分の将来のためにエリスを捨てる物語。

     私自身が女性であることもあり、豊太郎に対して好意を持つことはできなかった。感情的に豊太郎に対する怒りが先立ってしまい、小説として客観的によむまでに少し時間を要した。
     しかし、少し時間をおいて、読み直してみると、短い文章の中で、人間の弱さが際立てられている。誰しもが抱えている人間の弱さが表現されているため、読者にいかんともしがたい感情がかきたてられる。読後感は「爽快」とは程遠い。自分の中の嫌な面に光を向けられるからである。とはいえ、その人間の弱さを小説として描き出す行為には、人間に対する深い愛情が感じられる。これが小説の醍醐味のひとつなのだろう。そこに描き出されている人間のもつ「弱さ」に対してかきたてられる感情の一方で文語体のもつリズミカルさが救いになっているようにも感じられる。
     特に、最後の松岡に対する主人公の感情の描き方は見事としか言いようがない。最後にいたるまで、小説中に松岡の言動が描かれていることはあれ、主人公の松岡に対して向けられる感情が描かれることはない。そして最後の最後に、「憎むこころ」という刺激的な単語をいきなり用い、読者のこころにずしんと重い一撃を加え、読者自身が各々抱えているときほぐれない気持ちを総体として感じさせる効果を及ぼしている。松岡に対する主人公の憎しみは、主人公自身がかかえているふがいなさに対する怒りの投影に他ならないのであるが、自分に対して怒りを向けることができず、松岡という対象に対して憎しみをなすりつけることしかできない主人公、彼の抱えているものが「憎むこころ」という一つの単語に凝縮されて、読者の心にのしかかってくるのである。

  • 現代文の授業で読みました。主人公の太田豊太郎のモデルは森鴎外自身だったのだとか。男女の仲などこんなものなのではないかなと思った。現実的でない部分はもちろんあるが、現実味があると思った。豊太郎の「信頼している人に言われたらすぐに“はい”と言ってしまう」というのにすごく共感できた。

  •  高校時代に使っていた教科書を読み返していたら目についたので読んでみた。
     地位・名誉と愛人の板挟みになっている主人公。彼がした決断は、はっきりした自分の意志というものが感じられない。そんな主人公が嫌でたまらなかったが、ある意味リアリティがあって、完全に否定する気にはなれない。そういう意志の弱さは誰しも少なからず持っているだろうし、私としてもわかるような気がする。しかし、最後の一文がひっかかる。相沢を憎んでいるみたいだが、もとはといえば自分のせいじゃないのか。相沢がエリスに本当のことを言わなかったとしても、後々同じことになっていたのでは。
     文語体の小説はこれが初めてだったが、流れるような文体でさらっと読めた。

  • 終わり方はモヤモヤ、。でも文章はすごく綺麗

  • 国語の教科書で読んで以来、再読。
    社会人になり、豊太郎の気持ちも少しはわかるかなと思ったが、、エリスが不憫でならない。

  • 仕事を取るか女を取るかの二者択一、自身の希望と世間や周囲の望む物との間で葛藤する太田。豊太郎の選択は非情に映ると同時に、綺麗事だけではやっていけない人間の弱さを映してだしている。

  • 「舞姫」「普請中」「妄想」「雁」の4編を収録。
    日常的に文京区に再び縁が深くなったため、無縁坂で思い出した「雁」を再読したくなった。それなら、「舞姫」も久しぶりに再読したいと思い、調べていたところ、集英社版には両者が含まれていたため、こちらを求めた。というのは嘘で、以前の「人間失格」と同様、集英社版の表紙に惹かれたためである。そのような、同じ作品で、どうしてもこの文庫で、というこだわりは、あまり理解されないこともたぶん多いと思う。
    「雁」を再読したかったというのは本当で、非常に面白く読んだ。それはただ単に、無縁坂から不忍池に至る界隈の、百年近く前?が小説の舞台だから、何年か振りで実生活でも再び身近になったことで、それが興味を引いただけではない。「舞姫」と比較すると、専門家の評価などは調べずに率直に言って、「雁」のほうがやはり面白かった。「舞姫」の豊太郎の心情は全く理解できなくはないのだが、雅文体の調子や、小説全体の短さからか、どうも作り物めいた、都合主義的にも感じてしまった。「雁」はその点、女性側が主になっているという相違はあるものの、お玉の境遇やそれによって成型された内面を丁寧に描いているし、かつ、あえて最終場面では岡田の側から書いている。ただいずれにしても、女性からすると、男性の勝手な女性像を押し付けられているようにも感じるのかもしれない。豊太郎は最後、折悪しく(都合よく?)病に倒れていてエリスに直接別れを告げる場に居合わせない。岡田もその日に限ってたまたま一人の時間がなかった。女性との対決の場面を、あえて避けているようにも思われる。ただ、後者では、邂逅しないことが一種小説の余韻を残すことに奏功しているようには感じる。
    つくづく、こんな古い小説を読んでいて面白いと思っていてよいのかとも考える。明治より令和の現代のほうが、私たちを取り巻く環境はもっと複雑化しているはずである。小説の主題とか、その表現するところの、人の葛藤とか苦悩とかいうものも、本来時代に合わせて変容すべきものではないか。そうでなければ、百年前に亡くなった鴎外の小説をなぜこんなに面白く思うのか。百年前にすでにこんなに面白い(巧みに人間を表現していると思える)小説があったのなら、小説という文学は、百年間どのような発展をしてきたのか。というようなことを考えてしまった。
    私は、世間知らずなのだろうか?SNSもほとんど関わらない。世間の最先端、表舞台にもいないし、反対に、最下層にもいない。小説のお玉のような苦悩は、現代では生じることがないものだ。しかし、現代の人の内面は、明治の小説の人物たちと比較して、もっと高度なのか、あるいはもっと複雑なのか。
    「雁」を読むときに、文庫巻末の解説にあるような、明治という文脈をもちろん考慮するにしても、また、運命論的な主題の小説という見方も安易に過ぎるという意見にも同意する。ただ、それらを抜きにしても、ひとの内面の有様とか、それが日常のほんのひと場面の中でどう動くかとか、端的にそうしたことを描いている、それが上手いので、面白いということなのかもしれない。

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著者プロフィール

森鷗外(1862~1922)
小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医。本名は森林太郎。明治中期から大正期にかけて活躍し、近代日本文学において、夏目漱石とともに双璧を成す。代表作は『舞姫』『雁』『阿部一族』など。『高瀬舟』は今も教科書で親しまれている後期の傑作で、そのテーマ性は現在に通じている。『最後の一句』『山椒大夫』も歴史に取材しながら、近代小説の相貌を持つ。

「2022年 『大活字本 高瀬舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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