- Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087710182
作品紹介・あらすじ
時は明治三十年代。移ろいゆく時代の只中で、迷える人々を導く書店「書楼弔堂」。田山花袋、福来友吉、平塚らいてう、乃木希典……彼らは手に取った本の中に何を見出すのか?待望のシリーズ第二弾。
感想・レビュー・書評
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明治30年、まち郊外、士族子女の塔子は陸燈台(おかとうだい)のような書舗(ほんや)を探している田山と松岡という2人組に出会う。私はそれだけで嬉しくなった。最初から松岡(当然、柳田國男のこと)が登場するのだ。それから松岡さんは、本書「炎昼」の中では出突っ張りになる。
「松岡様の仰る通りでございます。あらゆる語りは呪文。あらゆる文は呪符。あらゆる書物は断片的に、不完全な世界を封じ込めた呪具にございます。この不完全な呪術を完成させるためには、矢張り読むという呪法が不可欠なのでございます。足りぬ部分を埋めるのはそれを聞きそれを読むー」
人にございます。
「割り切れず、間違っていて、あやふやで正体のない、そうした人の内部に届いた時に、ようやっと、何も言い表せていない言葉は何かになるのでございます。そうでございましょう。」(77p)
呪文、呪符、呪具、呪術、呪法‥‥前書「破曉」に於いて「文字も言葉もまやかし(略)書物は、まやかしの現世、現世の屍なのでございますよ」と言っていた弔堂書舗主人なので、結局同じ事を言ってるのですが、まるで店主の若き日を彷彿させる松岡さんを迎えて、店主の台詞は比較的少なくなる。つくづく京極夏彦は柳田国男が好きなのだな、と思った。
だから、松岡に最初にフレイザーの「金枝篇」原本を手渡したのは弔堂になるし(つまりそれは民俗学の始まりを示唆する)、最愛の女性が病死した時に動揺する松岡に「幽霊とは何か」を語るのも弔堂店主なのである。
ほぼ全編にわたり松岡さんは出てくるのではあるが、唯一出てこないのは探書11「無常」である。たまたま塔子が弔堂に連れてきた源三じいさんは店主の知り合いだった。珍しく店主は言葉を荒げてじいさんを窘(たしな)める。
いかなる戦も愚策、とご主人は珍しく厳しい口調で仰いました。
「戦は愚策か」
「戦略とは、戦を略すと書くのです。戦わずに済ます方策を考えることこそが、人の上に立つ者の仕事ではないのですか。戦の道を選んだ段階で、もう国を護れていない」(414p)
源三じいさんは、乃木希典であった。弔堂は、この数年後に起きた悪夢のような203高地攻防戦を、予測していたのに違いない。 -
書楼弔堂シリーズ第二弾。
第一弾の「破暁」もあまり合わなかったが、図書館でつい見つけてしまって持ち帰った。
重い。重量も内容も。
時は明治三十年ごろ。
陸燈台のような奇妙な建物の本屋、書楼弔堂を後の名士たちが「自分の一冊」を求めて訪ねる。
「――此処は――既に罔くなってしまった過去を、数多の知見を、凡百執着を記した墓碑を納める霊廟でございますぞ」(本文抜粋)
いや、難しいわ!
私のPCでは「罔くなって」(なくなって)なんて漢字がなかなか出てこないで苦労するわ!!
登場人物はいずれも明治の偉人たち。
なにぶん歴史に疎いもので辛い。
勝海舟 知ってる
田山花袋(小説家) 知らない
添田唖蝉坊(演歌師) 知らない
福来友吉(超心理学者) 知ってる
平塚らいてう(思想家) 知らない
乃木希典(軍人) 知ってる
柳田國男(民俗学者) 知ってる
知ってる人もなんとなくだなぁ。
賢い人や、歴史を知ってる人が読むと楽しめるのかな。
京極夏彦さんの本は、あの文体が読みたくて手に取ってしまう。
訪れた人たちが店主との問答を経て、目を見開かれたり、悟ったりする物語ですが、このパターンならば「死ねばいいのに」の方がおもしろかった。-
土瓶さん、こちらにもこんばんは!
漢字の読み、難しいですよねー
私はまだ破暁しか読んでませんが、読めない漢字を調べるのって一苦労です。
手...土瓶さん、こちらにもこんばんは!
漢字の読み、難しいですよねー
私はまだ破暁しか読んでませんが、読めない漢字を調べるのって一苦労です。
手書きサイトもあるのですが、何故か上手く読み込んでくれなかったり…。
プラス、この人って何をした人だろう?と調べたりもするので、
時間が掛かる掛かる…。
でも今後「炎昼」を読むにあたり、「なくなって」は土瓶さんが調べてくださったので読めるぞ~♪
私は多分「死ねばいいのに」はダメだったのかも???
読んだような気がするのですが、手放してしまったようで本棚に無いんです。2023/08/15 -
2023/08/15
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ふふふ。
そーでしたか。
まぁ読みながら何度かルビのふられたページに戻るんでしょうけど 笑ふふふ。
そーでしたか。
まぁ読みながら何度かルビのふられたページに戻るんでしょうけど 笑2023/08/15
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その人が出会うべき本を紹介する書楼弔堂。おとづれた人達は、その主人との会話の中で、自分の求めているものと向き合う。
とまとめると、読んだ印象と違うことに気付かされる。弔堂主人の圧倒的な語りに、追い込まれていって気づくというところは、ミステリの解き方にも、説教にも感じられる。何よりも、同じ京極夏彦さんの京極堂の憑き物落としを文学なり政治なりの側面で食らわされるというところである。
このシリーズは一度電子書籍のお試しで少し読んで、ちょっと合わない感じがしていたが、やはりじっくり読むとどんどん語られていく話が、おもしろく引き込まれていった。
登場人物も福来友吉辺りが出てくるのが、捻られているし、時代的なところを踏まえて平塚らいてうの基礎的な話として出てくるのもおもしろい。乃木希典のところでは、戦争に対する筆者の思いが感じられる。
そういった著名人のところもよいが、本編に通じて登場する塔子さんの小説との出会い、本への渇望描写もよかった。この話を誰かとしたい、別の本も読みたいとお思う気持ちを家庭や時代に重ねて、描くことで、誰にもあるだろう本を読みたいと思う気持ちが写し出されている。
シリーズ一弾目も読みたくなった。 -
目からウロコでした。
てっきり、著者は厳格な現実主義者と思っていましたが、とっても温かみのある考えを持った方なんだなあとひっくり返されました。
幽霊の話は本当に本当に素敵で、大切な身内を亡くしている方には特に響いたり、同じ想いを登場人物が話してくれたりするのは大変に温かい想いになると思います。
著者の亡き歴史人物へのレクイエムのような、このシリーズ。
いつか、水木しげる先生とか書いて頂けると嬉しいと思うのは、少々烏滸がましいとは思いつつも、密かに願っています。
著者が[弔堂]の予感がしてなりません。 -
どうやったらこんなに深い内容を、平易な言葉で書けるのだろうかと感嘆しきり。
迷える人々を導く書楼弔堂シリーズ第二弾。
明治三十年代初頭、弔堂を訪れる田山花袋、平塚らいてう、乃木希典ら明治の偉人たち…。彼らは手に取った本の中に何を見出すのか?
語り手は塔子という女性にかわりますが、前作同様、端正な言葉で偉人たちと弔堂主人の、哲学問答のような対話が交わされます。
取り上げられる議論の深みといったら類例が思い当たらないほど。自然主義とは。普遍性と時代性。無いものを隠秘する理由。変節とは。義と戦。幽霊とは。
いずれもただ知るだけではなく、自分の頭で考えることを迫られるような問題ばかりでした。恐れ入りました。 -
普段はなるべく同じ著者の作品を続けないように心がけているが、今回はたまらず手に取った。相変わらずの京極節炸裂。この古本屋を探したい。
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書楼弔堂の主は、ここは本の墓場、墓標であり、求めた人への本当の一冊を探し出す、そしてその本が読まれれば本の弔いになる、という。所狭しと本が並んでいる。しかも整然となって。二階、三階にも本棚がある。ここに入った人はその雰囲気に圧倒されるだろう。天馬塔子は、家の近所の道端で二人つれの男性に道を尋ねられた。この辺に書舗はないかという。言われた書舗の姿形で、ようやく場所が分かり、二人を案内し、自分も一緒にそこに入った。それからこの書楼に出入りをしている。主とも馴染みとなったようだ。彼女と共に、これから本を求めた人への本当の一冊が示されるのを見ていこう。
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前回よりも時代が近づいたからか出てくる人が分かったということと、語り手の塔子のほんわりとしつつしかし芯のある思想が読んでいて気持ちいい。
男尊女卑をベースにしつつ、それだけに留まらずうつろうもの、変わらないものや、幽霊についての考察については成る程と目から鱗でした。
戦争についての店主のきつい一言もごもっとも。
柳田国男が出て来たあたりはさすが京極さんとニヤニヤしてしまいましたが、コラムでは柳田国男よりも添田唖蝉坊が好きだと仰っている。
素直なのかツンなのかわかりませんが、面白い。
こういう風に昔の文豪の片鱗を見せられると、たとえそれが史実通りでではなくとも読んで見たいなという気になります。
勝海舟の「若いうちだよお嬢さん」にはグッと来て来てしまった。
三作目も構想中の様で楽しみです。
前作よりも濃密に楽しめ、心に残る一冊になった気がする。
破暁、本作も再読したい。 -
読み耽り時間を忘れあっという間に読了。
時代は明治・・・その時代を代表する群像の心の暗の部分を吐露するあたりは、中々面白いと思う
ただ、明治という時代は、あの瓦解を機に日本人が国を世界レベルに押し上げた時代でもあるが故に、皮肉とも読める文章が見受けられた。
前作が面白いと思う反面、残念でならない。
これでは明治の時代の論争ではなく、飽くまで現代人京極夏彦流の論述書ともいえる作品で、偉人に対する個人(故人)攻撃です。賛美する必要もないが、反論できない個人に対する中傷ともとれる論調に閉口してしまった。 -
弔堂シリーズ第2弾。
前作より時がちょっと進み、語り手がとある令嬢に変わっているが、迷える人々が本屋の主人と語り合うことによって進むべき道を見いだすという構造は同じ。この店主はますます京極堂に似てきた気がする。
弔堂を訪れる人々は有名人や後に名をなす実在の人物だが、こちらの不勉強で名前しか知らない人も多く、明治史に詳しかったらもっと興味深く読めたのにと思う。
それでも、元薩摩武士である祖父に「女に学問はいらない」と本を読むことを禁じられている語り手の令嬢の目を通して見たこの時代の生活、文化は面白い。
義のために戦をすべきではない、と店主が力説した「無常」が印象的だった。
はわわわ…コレ、積んでますぅ(汗)
はわわわ…コレ、積んでますぅ(汗)
こんばんは。
この本は積んでおくより、枕にした方がいいかも。
冗談です。
こんばんは。
この本は積んでおくより、枕にした方がいいかも。
冗談です。