星月夜

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717198

作品紹介・あらすじ

あらゆる縛りから逃れたいと願う二人の女性は、異国の地・日本で出会った――。

両親の反対を押し切り、日本の大学で日本語を教える台湾人の柳凝月(りゅうぎょうげつ)は、新疆ウイグル自治区出身で、日本の大学院を目指す生徒の玉麗吐孜(ユーリートゥーズー)に初めて会った時から魅了されていた。玉麗吐孜もまた、柳凝月に惹かれていた。ある日、玉麗吐孜の元恋人の同居人が部屋を出て行くと言い出し、家賃問題に悩んでいた彼女は付き合い始めの柳との同居を考えたが、今の距離感が心地よく、これ以上親密になるのを恐れていた。一方、柳は玉麗吐孜の受験が上手くいったら一緒に暮らし、いつか結婚しようという想いが募っていた。期待もあえなく、玉麗吐孜は不合格通知を受け、日本に残る理由を失っていた。生国の政治情勢、家族のこと、隠している自分のセクシュアリティー……。共通の言語を持ち、語り合い、玉麗吐孜のことを分かっていると思っていた柳だが、玉麗吐孜が背負う重りを知らずにいた自分に気付く……。

今、注目の新日本文学の旗手が描く、静かな祈りの物語。

【著者略歴】
李琴峰(り・ことみ)
1989年、台湾生まれ。作家・日中翻訳者。2013年来日。2015年、早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程修了。2017年「独舞」で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞。2019年「五つ数えれば三日月が」が第161回芥川賞、第41回野間文芸新人賞の候補に。著書に『独り舞』『五つ数えれば三日月が』『ポラリスが降り注ぐ夜』がある。

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わった後、私はこの一冊の本に対する言葉を自分の表面から出すことにものすごい抵抗を感じた。
    うわっつらの言葉で語ることができない大きな何かを自分の中から探したくて。

    自分が普段どんなにいい加減に「中国」という国をとらえていたか、にまず愕然とした。
    中国も台湾も香港も新彊ウイグル自治区も、まるっとまとめて「中国」と言ってきた。そこに住む人は「中国人」と。
    そこで国がどんな政治をしているか、人々がそんな生活をしているか、どんな言葉を話しているか、どんな文字を書いているか。何も知らない、知ろうともしてこなかった。すぐ隣に暮らす人たちなのに。

    例えば名前の読み方ひとつとってもそこにはそれぞれの読み方や発音や意味があったのだ、と今更ながら。
    「名前」それはヒトがほかの誰でもない自分であるというしるし。それをあまりにも軽視していた気がする。

    そして、最近自分の身の回りにもたくさんいる彼ら彼女たちが何のためにここにいるのか、何を求めてここにいるのか、も知ろうとしてこなかった。まるっとひとくくりに「中国から来た人たち」という名札を貼り付けてみていたのだ。

    日本の大学で留学生たちに日本語を教えている台湾人柳凝月、新彊ウイグル自治区から留学してきて大学院を目指す玉麗吐ズー(日本語に変換できない漢字をカタカナで表記されるのも多分ものすごく傷つくことなんじゃないかとも)、二人の女性が、日本で日本語を通して知り合い、お互いの関係が変化していく過程が本当はもっと言葉に、日本語に出来ない、だから私には理解できない動きがあったのだろう、と。それを読みきれないことに忸怩たる思いを感じる。

    ヒトとヒトが分かり合うために必要なもの。言葉がなくても分かり合える、というけれど、それもある意味真実ではあると思うけれど、それでも、やはり共通の言語というのは必要不可欠なもの。
    言葉を通してしか分かり合えない思い、気持ち、考え、について、ずっと考えている。

    私はこの小説から何を得たのだろう。混乱する頭で考える。何を自分の中に見つけ、何を自分の中から出していけばいいのだろう。自分の言葉で誰かに伝えたい、そう思う

  • 台湾出身で大学の非常勤講師の柳凝月と新疆ウイグル出身留学生の玉麗吐孜の二人が、自国や日本で直面する、性的、民族的マイノリティへの差別や恋愛が描かれた作品。異性愛の論理で構築されている社会で生きることの困難、徹底的に管理される少数民族の無力感が伝わってくる。レディガガの"Born this way"の歌声も虚しく響くようなストーリーでした。

  • 日本に住む外国籍の学生の思いに触れる。あぁ、そういうこともあるんだ、と素朴に思う。日本社会の中で起きていることでも本当に知らないことが多い。そう思わされるだけでも収穫だが、作品としてもとてもよくできている。人が共に生きるとはどういうことか。ラストが沁みる。

  • 台湾出身の日本語教師柳凝月と、その教え子で新疆出身の玉麗吐孜(ユルトゥズ)の交互の視点で語られる。
    日本では日本語を綺麗に発音しないと差別にあって生きづらいことから、柳先生は日本語の発音について研究している。新疆の言葉は漢語に圧倒され、中国語訛りの日本語は生きづらさにつながる、カテゴリーの違う他者への風当たり。それは同性愛者の生きづらさにも通じている。
    恋する他者を思う苦しさにも共感した。ユルトゥズからルームシェアを持ちかけられて喜んだ小谷絵美は、ユルトゥズと柳先生が会話する様子を見て、自分は言葉の壁でユルトゥズとちゃんと会話できてるか分からないしお互いのことを知らないと悟って身を引く。柳先生はユルトゥズに日本に残ってほしいけれど、そう口に出すことはしない。
    月がないのに星が月のように明るい夜を「星月夜(ほしづきよ)」というが、星という意味のユルトゥズと、月という名を持つ柳先生と、両方が空に輝いているのが「星月夜(ほしつきよる)」だ。連濁のルールに縛られるのではない読み方、それぞれが独立してそのままにあるということ。ルールに縛られていると見えなくなるものがある。星月夜とはこういうもの、というのに縛られていた柳先生が、ゴッホの星月夜の絵に月があることを見落としていたように。在留カードを忘れた外国人を執拗に取り締まる警察が口にする「ルールだから」や、子どもは家族を愛するべきという価値観(≒ルール)や、人間は異性を愛するものだという前提(≒ルール)に従うのではなく、その時その状況のその人に応じてそれぞれありのままにあることの美しさ、を「ほしつきよる」という言葉が表しているのだと思う。
    個人的には、ユルトゥズが距離感について考えているところが好き。柳先生のことは好きだけど、今の距離感だからよくて同棲するほど距離感を詰めるのはどうか、と考えて絵美にルームシェアを持ちかけるユルトゥズと、ユルトゥズと同棲して結婚することを考える柳先生のすれ違いがもどかしいような切ないような。

  • 長くないけど読み応えのある物語だった。
    初めはそれぞれの章がそれぞれ一人称で書かれているためこれはどっちだっけ、と迷いながだった。
    外国人が日本で生きていくことの苛酷さ、中国の現実、LGBT 等々、内容は盛り沢山。
    しかし、全体的に静かな物語に私は感じた。
    その静けさの中に色々な問題が内包されていて本当は怖いのかもしれないが。
    コンビニのバイトの絵美はこの物語にとって重要な存在なのかなあ、と思った。

    表紙の写真もとっても素敵だ。
    二人の姿、かな。
    このあと二人はどうなっていくのだろう。

  • CREA(2020.12.29):言語の壁に偏見の種……「外国人留学生」のリアルを描く2冊 留学生活を通して知る 自分の個性 #01 https://crea.bunshun.jp/articles/-/28968

  • 「外から見た日本」に気づかされる。
    外国人として日本で暮らすこと。
    政情が不安定、複雑な状況にある場所から来ている場合、どれほどの苦労があるか。
    安心していい暮らしができるのは、経済的に余裕がある欧米人くらいなのかもしれない。
    特に、警察の「取り調べ」のような対応は、
    人権問題のようにも感じる。

    語学の問題、アイデンティティの問題、外国で暮らすことの問題があって、主役の二人がゲイであることは、この小説では「あくまで二次的なこと」なような気がする。

    それでも、二人の関係の着地点が知りたかったという気がしないでもない。

  • 綺麗なお話だった。

  • 星月夜「ほしづきよ」は星が月のように輝いている夜のこと。

    でも星も月も両方出ている夜は何というのか、「ほしつきよる」という言葉があればいいのに。

    星と月、あなたとわたしが共にいられる瞬間は当たり前のものじゃない。

    中国の中でもウイグル出身者を取り巻く状況は厳しく、「やってみてだめなら戻ってくればいい」という生易しい気持ちで留学をしたわけではない。

    一度戻れば再び日本に来ることは困難で、
    学費は自分で稼がなければいけない。

    大学院進学に合格しなければ日本にいる意味はなくなると恐れながら、日々の会話に出てくる知らない単語に困惑する日々。

    他国で基盤を作ることは厳しく、
    それでもおいそれと引き返すことはできない。

  • タイトルは「ほしつきよる」であって「ほしづきよ」ではない。恥ずかしながら「ほしづきよ」の意味を初めて知った。
    台湾出身の日本語教師と中国ウイグルの大学生を主人公とする本作は、多様性の意義を考えさせてくれる。なかで「在留カード不所持」に際しての日本警察のあまりに非人間的な対応には背筋が寒くなった。作者の実体験だろうか。

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著者プロフィール

1989年生まれ。中国語を第一言語としながら、15歳より日本語を学習。また、その頃から中国語で小説創作を試みる。2013年、台湾大学卒業後に来日。15年に早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程を修了。17年、「独舞」にて第60回群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー(『独り舞』と改題し18年に刊行)。20年に刊行した『ポラリスが降り注ぐ夜』で第71回芸術選奨新人賞(文学部門)を受賞。21年、「彼岸花が咲く島」で第165回芥川賞を受賞。その他の作品に『五つ数えれば三日月が』『星月夜』『生を祝う』などがある。

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