- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087717488
作品紹介・あらすじ
はじめて彼女を殺したのはーー母親だった。
小学2年生の彼女を絶望的にまで殺し尽くしたのはーー
教諭である鈴木による性的虐待だった。
鈴木先生は6人の彼女を生みだすきっかけとなった。
17歳のときに彼女を犯し、完全に殺したのはーー
水原君と10人の仲間たちだった。
そのとき新たに2人、あるいはさらに多数の彼女が生まれた。
冬の札幌で、小説家・菱沼が出会ったのは、心に50の人格を宿す女だった。DV被害にあう女に手を差し伸べた男は、信じられないほど壮絶な彼女の過去を知ることに……。柴田錬三郎賞を受賞した作家が満身創痍で放つ、迫真の長編サイコスリラー。
【著者略歴】
花村萬月(はなむら・まんげつ)1955年、東京都生まれ。89年『ゴッド・ブレイス物語』で第2回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。98年『皆月』で第19回吉川英治文学新人賞、「ゲルマニウムの夜」で第119回芥川賞、2017年『日蝕えつきる』で第30回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に『ブルース』『笑う山崎』『二進法の犬』「百万遍」シリーズ、「私の庭」シリーズ、『浄夜』『ワルツ』『裂』『弾正星』『信長私記』『太閤私記』『花折』など多数。
感想・レビュー・書評
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実に久しぶりに読む花村萬月作品。花村さんは、ぼくより一つ年上の作家で、ほぼ同世代。最初にお会いしたのは歌舞伎町の文壇バーみたいな店。こちらは文芸評論家・関口苑生氏他とカウンター。花村先生は集英社の方とテーブル席。ハードボイルド作品『眠り猫』が出たばかりだった。
それを機にぼくは花村作品の虜となり、長年ずっと愛読してきたのだが、時代小説一辺倒となってからの近年は正直離れてしまっていました。今回、久々の現代小説、しかも題材が多重人格とあって、ダニエル・キース著『五番目のサリー』『24人のビリー・ミリガン』以来のこの難テーマに挑む国産天才作家の手腕を久々に堪能させて頂いた次第。
花村兄とは、数回お会いしたりパソコン通信(古い(^^;))でのメッセージ交換などもさせて頂き、札幌にマンションを買って一年ほど住んでいたが
京都に移転してしまった当時の経緯、北海道の貧乏旅のよもやま話、ブルースギターの話(花村さんはブルースギターの名手です)などなど、わずかだが共通趣味も多くて、何となくご縁があった。
その花村さんが、本書では架空の作家とは言え、札幌のマンション生活を送る売れっ子作家という一人称等身大の語り手を通しての作品、しかもこの生活体験を通して出会った一人の女性との交情を描く意欲作を出してくれた。
しかも多重人格という思いもかけぬテーマであり、実際の症例に向かい合う取材活動を基に描きあげた力作なのである。
一つの肉体が50人もの人格を擁することになる原因は、心の容量をはるかに超える暴力や凌辱にある。一人の人間が人間であることをやめてしまい、他の人格として何事もなかったかのような別人生をリスタートする。そんな救済システムが働き始める現象なのだ。いわば多重人格という難しいテーマ、またその発症のめくるめく側面を具体的な小説という技法で叙述したものが、本書なのである。
一方で、ダニエル・キースが人間の心の深さや神秘的な自己救済システムとしての多重人格を世に広めてから早や半世紀が経とうとしている現在、花村萬月は、改めて日本の札幌という街を舞台に、作家自身と、一人の傷だらけの女性との交情を通し、この世で最も不思議な恋愛小説を謳いあげているかに見える。
花村萬月と言えば性と暴力の作家、と思わず装飾したくなるが、本書もまた性と暴力そのものに真向から取り組んだ力作だと思う。ただ心の深淵を旅することで途轍もなくオリジナリティは深いものとなっている。
一人の女性をばらばらにし、現実を乖離させる中で、主人公の作家・菱沼の人生もまた私小説的に語られ続く。彼もまた自分の実人生を私小説的に振り返ることで、ただの観察者ではなく、共にある時期を過ごす50人の人格を持つ女性との最も不思議な日々を人生の万華鏡のように見つめなおす。
不可思議な人間科学と、暴力やエゴにいとも簡単に破壊されてしまう心の耐性の実験道具として、弱くても繋がり、他と結ぼうとする情の熱さが、溶鉱炉のように物語を溶かし、冷やし、凍りつかせる。
花村萬月との再会果たしたり!
そんな念が読後に強く感じられた。嬉しく、有難く、そしてあまりにも心の痛い物語に、どうしようもなく揺さぶられる自分を、少なからず、ずしりと感じさせられた久々に味わうタイプの花村人間小説であった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「解離性同一性障害」に罹っている女性と、彼女と関係をもった初老の作家との経験談が中心のお話なのだが、浮世離れしたと云うのか、非現実とも云う世界なのか、とにかく常識では考えられない出来事を描いた一冊なのだ。
内容には、あのアインシュタインでさえも避けて通った「量子物理学」の世界が絡み、凡人には理解不能な「量子脳理論」が具体的に説明されたりもする。
ここ最近、花村氏は量子物理学の世界に興味津々のようなのだが、我々人の暮らしに量子の世界が現れる具体例として読み進むことも出来るのだ。
この点は非常に興味深いものがあった。 -
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花村萬月さん
対になる人
解離性同一性障害の女性 斎藤紫織
偶然出会った小説家 菱沼逸郎
解離性同一性障害になった
原因に関する話かと思えば、
それだけに止まらない。
とても長く、深い物語でした。 -
二段組で375ページ。なかなかの大作だと思います。にも拘わらず、ほぼ一気読みでした。初の花村萬月の作品。読み応えも大作のそれでした。
解離性同一性障害のヒロイン紫織と語り手である作家の菱沼逸郎。この逸郎にも「悪い逸郎」という別な自分がいる。
この逸郎は著者の花村萬月のことであろう、この作品じたい、「露見しなかった犯罪事実に基づいて執筆されている。」「丹念に足で稼いだ取材の結果」など、ノンフィクションであるかのような体裁。それが「後書き」でさらにダメ押しされた感。
素直にこの「事実に基づい」ていることが受け入れられないのは、なぜだろうか、と。
「事実」があまりにも悲惨、量子論に関する部分が理解できない、後書きに記されている、著者に起こった変化も俄かに信じがたい……、だが。
後書きまで含めて、スゴい小説読んだな、という感想。
うかつに他の作品には手を出せない、そんな印象です。 -
興味深い話だった。後書きでかなり驚いた。