- Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087717860
作品紹介・あらすじ
【第45回すばる文学賞受賞作】
選考委員絶賛!
小説の魅力は「かたり」にあると、あらためて感得させられる傑作だ。――奥泉光氏
この物語が世に出る瞬間に立ち会えたことに、心から感謝している。――金原ひとみ氏
ただ素晴らしいものを読ませてもらったとだけ言いたい傑作である。――川上未映子氏
(選評より)
認知症を患うカケイは、「みっちゃん」たちから介護を受けて暮らしてきた。ある時、病院の帰りに「今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」と、みっちゃんの一人から尋ねられ、カケイは来し方を語り始める。
父から殴られ続け、カケイを産んですぐに死んだ母。お女郎だった継母からは毎日毎日薪で殴られた。兄の勧めで所帯を持つも、息子の健一郎が生まれてすぐに亭主は蒸発。カケイと健一郎、亭主の連れ子だったみのるは置き去りに。やがて、生活のために必死にミシンを踏み続けるカケイの腹が、だんだん膨らみだす。
そして、ある夜明け。カケイは便所で女の赤ん坊を産み落とす。その子、みっちゃんと過ごす日々は、しあわせそのものだった。それなのに――。
暴力と愛情、幸福と絶望、諦念と悔悟……絡まりあう記憶の中から語られる、凄絶な「女の一生」。
【著者略歴】
永井みみ ながい・みみ
1965年神奈川生まれ。ケアマネージャーとして働きながら執筆した本作で第45回すばる文学賞を受賞。
感想・レビュー・書評
-
どこまで実際の認知症のばあさんの心の中なんだろうか、時々彼女の頭ん中がクリアになるのは知ってる、でもこうものべつ幕無し喋ってるんはリアルじゃない気がする。いや、そうでもないか。原田さん(仮名)なんて、のべつ幕無し喋ってた言葉をそのまま記録すれば寄島町方言の字引きができるんじゃないかと常々思ってた。あのガラの悪い漁師言葉は独特だもの。でもこの10年で原田さんは全然喋らなくなった。一年一回以上入退院を繰り返していちゃそうなるわな。とんでもない歴史遺産の損失だけど、そんなことが日々起こっている。あ、なんの話だったけ。小説のことだった。カケイさんのこと書かなくちゃね。脈絡もなく過去の記憶が出てくるんはリアルだ。考えてることが、そのまま言葉になるんもリアルだ。けれども、ここまで、発音かなり悪いけど、意味ある言葉を喋る認知症ばあさんは滅多にいない。かもしれない。全ての認知症は千差万別だから絶対じゃないんだけどね。田中さん(仮名)はいつも突然10年ほど前の世間話を始めていたよな。目の前には誰がいたんだろ。ある時はとっても怖い、田中さんにとってはホントにあった話を始めたから、あゝ怪談話ってこうやってできるんだなと独りこちたよ。ホントは彼女らの脈絡のない記憶を全部繋いで本にしたら、昭和の真実の歴史書ができるんだと思うよ。あ、なんの話だったけ。なんやかんやで、数あるみっちゃんのうち、身体のガタイみっちゃんケアマネはかなりしっかりしていたし、デイサービスのやりとりは問題あるけど可愛いもんだったけど、なんと言っても身内の思惑は不穏だよね。私もももちゃん(仮名)に名前を無理矢理書かせたことがあったけ。あれがないと書類が揃えられないから仕方なかったんだけど、ももちゃんは平気な顔していたけど不穏になったりしなかったのかな。4文字の名前書くのに30分ぐらいかけたよね。ちゃんとケアマネにきいとけばよかったな、遅いけど。遅いといえば、嫁は何をしたかったんかな。もともとデイの生活保護受給率は結構高い。みんな図ったように三万五千円の賃貸に住んでいる。お金出るんはそこまでだから、全ての大家が多分そこに統一してんだと踏んでる。くたびれた借家に不満を持つような利用者はいない。広瀬のばあさんと仲直りは良かったと思う。ああいうことは人生たまにあるよね。でもね、カケイさん、なんかの拍子に冷たい所で動けなくなるなんてことはあるんだから、ホント気をつけなくちゃいけないよ。昨日なんて有田さん(仮名)が玄関の鍵を開けようとしただけで動けなくなってヘルパーさんくるまで1時間そのままだったって言ってた。1時間ならいいけど、ももちゃんなんかインスリン注射忘れて1日ぐったりしていて、ほとんど死にかけたんだから。カケイさん、カケイさんが結局どうなったんかはわからないけど、その前に書いた遺書、カケイさんは完璧だと自慢しているけど不備だらけの遺書、デイのみっちゃんたちが共有したらみんな号泣すると思うよ。私なんか昨日から今日にかけて、思い出しただけで5回泣いちゃったよ。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
一気読みでした。
認知症のカケイさんの言葉だけで、進んでいく物語。
『おらおらでひとりいぐも』も桃子さんの言葉だけのお話でした。
どちらも主人公が今までの人生を振り返っています。
桃子さんは学歴もあり、好きな人と結婚できました。
カケイさんは、桃子さんと正反対でした。
胸が痛くなるような目を覆いたくなるような描写もたくさんありました。
『ミシンと金魚』というタイトルの意味が分かった時、介護ヘルパーの人たちを全て“みっちゃん“と呼ぶ意味が分かった時、一人の女性の人生の重みを感じました。他人から見たらなんてことない人生なのかもしれないけれど、いや、本人でさえもそう感じていたかもしれないけれど、一人一人の人生はとても重く、そして素晴らしい。
自分の知らないところで、実はどれだけ自分を大切に思ってくれている人がいたのか、それも不器用過ぎる愛情で全く本人には届いていなくて、でもそれを老いてからそっと教えてくれたその人の優しさも。
本当に素晴らしい物語だった。★5では足りないかも。
-
shukawabestさん、おはようございます♪
コメントありがとうございます。
shukawabestさんは介護を経験なさったのですね。
...shukawabestさん、おはようございます♪
コメントありがとうございます。
shukawabestさんは介護を経験なさったのですね。
未経験の私とはきっと違う感想をお持ちになったのだと思います。
実際に経験なさった方にとって失礼なレビューをしてしまうこともたくさんあるのだろうな、と思いつつ『えいやっ!』と思い切ってレビューの送信ボタンを押すことが多々あります。
読書をしていてよく感じるのは『実際に経験してみないと絶対にわからないことがある』ということです。
でも、読書を通した間接経験であっても知ることができて良かった、とも心からいつも思います。
未経験者の拙い私のレビューにコメントをくださって心から感謝します。
これからもよろしくお願いします!2023/07/10 -
拙いことないですよ。レビューを拝見して読もうと思ったので。僕の介護経験と言っても母親1人の経験しかないですし、それがどれほどの経験値になるの...拙いことないですよ。レビューを拝見して読もうと思ったので。僕の介護経験と言っても母親1人の経験しかないですし、それがどれほどの経験値になるのか・・・?介護職の方や周りの経験者から教えてもらったことはたくさんありました。
これからも今まで通りレビューお願いします。ときどき、のぞいて、いいなと感じたらまた読みますのでよろしくお願いします。2023/07/13 -
shukawabestさん、おはようございます♪
いえいえ、経験値ゼロの私からしたら大先輩です。
年齢的にも介護経験のある友だちも増えてきま...shukawabestさん、おはようございます♪
いえいえ、経験値ゼロの私からしたら大先輩です。
年齢的にも介護経験のある友だちも増えてきました。
皆さんの話を聞いたり、本から知識を得て勉強してます。
shukawabestさんのレビューも楽しみにしています。
これからもよろしくお願いしますね!2023/07/15
-
-
最初は認知症の表現がなんだかリアルと感じる程度だったが、主人公とその周りの壮絶な人生がみえるにつれて、夢中になって読み進めた。
壮絶な人生も認知症になって振り返ると残っているものは少ない、そんなものかもしれない…
寂しいが孤独ではないだけいいのかもしれないよなぁとも思う。
1人語りの形だからこそ、本人の感情は語られるが、周りの人たちの感情などは自分で考えてしまい、考えるうちに入り込んでいった部分もあるのかなと思う。
周りにいる昭和を生き抜いた方の人生の話も聞いてみたくなった。
何年、何十年後かに再読したい作品。 -
これは画期的だ。
認知症高齢者の一人称小説。
主人公のカケイは死を目前に控えた認知症の老女だ。
記憶障害や見当識障害はあるが、ある種一貫した視点で自らの壮絶な人生を語る。
著者の永井みみさんはケアマネジャーなのだという。
もちろん、僕は認知症ではないので、想像でしかないのだが、認知症の人の内面をとてもリアルに描いている気がする。
とんでもないものを読んだ印象だ。
カケイの生き様は、客観的に見て幸せには見えない。でも、カケイの柔らかい語り口調は、人間愛に満ちた人のそれに感じる。
死は悲しいし、認知症にはなりたくないけれど、なぜか読み終えてあたたかい気持ちになった。
こういう小説と出会えるのはほんとう幸せだ。 -
胸が詰まるほどの傑作。
認知症のおばあちゃんの内面にここまで深く迫れたものはあるのだろうか。
過去の苦しみや哀しみをひとり背負いながら生きていたカケイさん。
その悲しさを分かち合えたことで救われる。
その事を心から良かったと思えた。
みっちゃんと今度こそ幸せになってほしいなぁ。 -
死んだじーちゃんのことを思った。
じーちゃんが倒れた当時、わたしは高3だった。大学受験だ。
じーちゃんの介護は、同居の伯母とばーちゃんがメインでやってた。
それまでじーちゃんに当たり散らしてた伯母が急に猫なで声になったのは、じーちゃんが倒れてからだった。
あの頃、受験生のわたしをどうするか、家族会議とか開かれてたんだろうか。
結局その年の受験はボロボロだった。だけどそれはじーちゃんのこととは関係ない。
わたしが塾の先生を好きになって、うつつを抜かしてただけ。ただの自己責任だ。
次の年、浪人してなんとか第一希望の大学には受かったものの、じーちゃんに合格した姿を見せることはできなかった。
わたしが浪人してる時、じーちゃんは死んだ。
ばーちゃんがわたしの合格に涙したと母から聞いて、わたしはばーちゃんがそんなに心配してるなんて思ってなかったからそれにびっくりで、だけど、その間にあったじーちゃんとのこととか、そういうの込みでの涙だったのかな、って。今はそう思う。
ばーちゃんは未だに健在で、デイサービスを「幼稚園と一緒だ」と毒づきながらも、自分の得意な分野(漬物作りとか梅干し作りとか、折り紙とかの工作)をそこで存分に活かしてる。
時々よく分からないことを言うけれど、それはあくまで呆けの範囲内で、認知症というものではなさそうだ。
読みながら、認知症の方の介護を経験したことがある方や現在認知症の方が身近にいる方には凄くしんどいのだろうな、と思った。けれどそれ以上にしんどい描写は、主人公カケイさんの壮絶な人生の自分語りだ。彼女がする独白を、冷静には受け止めきれない。
それほどの経験をされてきた方の話を、子どもに話しかけるような猫なで声で、つまりは上の人が下の人に話しかけるようなスタンスで聞き、話しかけていることがあるのだ。
これは人間関係全般に言えることだけれど、わたしたちは、自分より何かができない人を下に見がちで、だけど、歳を重ねたときの「できない」は、教えてできるようになる前の「できない」とは違う。
そして、これは社会福祉士の実習で実習先の人が言っていたのだけれど、「歳を重ねた時の境地は私達も経験したことがないからわからない」のだ。
だからこそ、その「わからなさ」を想像して相手を思いやれるかどうか、その「わからない」世界で生きていることを尊敬できるかどうか、だと思う。
でもわたしはたぶん、親族だったら冷たく当たってしまう気がする。親族だからこそ感情をぶつけやすいし、実際にぶつけてしまうと思う。
だから母に介護が必要になったら、わたしは介護の専門家にみてほしいと思ってる。
そしてそういう選択肢があることに、心から感謝をしたいと思ってる。
自分ができないことを、やってくれている人がいることに。
『ミシンと金魚』
このタイトルの意味がわかったとき、意味のわからなかったそれが、とても苦しい意味を持つものになる。
表紙の渦巻きも、非常に深い意味を持つ。
「そうせざるを得なかった」人達は昔も今もたくさん存在するわけで。
わたしたちが、どんどんどんどんこの作品を読み進めたように。つまりカケイさんの話に耳を傾けたように。
例えば、虐待とかを断罪する前に。
話を聴いてほしいんだ。想像してほしいんだ。「そうせざるを得なかった」ことを。
「間違ってしまった」ことを断罪する人がいるから、人はSOSを出せない。
それが、誰かを追い詰める。
けれど一方で、考える。
わたしはどうだろう。
わたしもよく、断罪する。正論をふりかざす。
けれど、同じ状況だった時に、もし自分に断罪されたら。
何も言えなくなる。
みんな、精一杯、一生懸命、その環境の中で生きているのだ。
でも、その中で起こってしまった「間違い」が断罪されないのなら、別の選択肢が生まれたのかもしれない。
他の選択肢を、もう少し気楽に選べるような、息苦しくない国になればいいな。
母が認知症になったとして、本人にとって痛烈な何かをずっと覚えていたとして、母にとってそれはどんな出来事なんだろう。
わたしが知らない父の姿が、そこにはあるんだろうか。 -
ずっとカケイさんの一人称の語り。
喋り方が独特であまり好きではなかった。
ラストは切ないけどあたたかい。
手のひらに花、かぁ。 -
薄い本にみっしり詰まっているカケイさんの一生。
認知症のカケイさんの一人語り、一人称でのお話
頭の中での語りなのか独り言なのか…
ヒロポン中毒の兄、女郎の継母、刺青の入った兄の女…幼い言葉で語るには凄まじい一生です。
義母は認知症で施設に入ってます。
とにかく健康、健脚な認知症…「捻挫しようが骨折しようが歩きますよ」「介護を軽く見ると共倒れします」「とりあえず入院してその間に施設を探してください」と先生とケアマネさんに淡々と言われ感情を殺しながらバタバタバタバタと流れるように施設入居。入院先に1日おきに行くと凄まじい勢いで記憶がなくなっていくのを目の当たりにして愕然となりました。「こんにちは」「はい、こんにちは」「どちらさん?」「◯◯さんわかります?」「わたしの息子だがね」「わたし◯◯の嫁ですがね」「あゝ結婚したんやね」「お父さん待ってるから帰らんといかん」鍵のかかったフロアをグルグルグルグル…50年連れ添い苦労かけられた旦那を忘れ、3人の息子を順番に忘れ、一番可愛がってた三男が死んだことを忘れ、父親と兄弟のことを話す義母。
嫌なことを忘れて子供のように話す義母はニコニコと毎日を繰り返す。自分の思い出の中で暮らす義母は幸せなんじゃないかと思えてきます。
カケイさんと義母が重なってしまいあっという間に読了。義父が亡くなり残るは後三人…笑
さぁ気合い入れてがんばろ〜(/ _ ; )
-
2023/09/14
-
共倒れしないように、そっちが心配ですね。
ご自分を褒めて、甘やかして、楽に、マイペースで、つきあってください^^
そう簡単にはい...共倒れしないように、そっちが心配ですね。
ご自分を褒めて、甘やかして、楽に、マイペースで、つきあってください^^
そう簡単にはいかないかもですが。2023/09/14 -
2023/09/14
-
-
こりゃまたすごいものを読んでしまった。同じ作者の「ジョニ黒」よりも数段すごい。最近の小説は読む本読む本どれもあたりが多くて、うれしいとともに、この豊穣な世界を今まで見てなかったなんて、もったいないことをしていたなあ。この人の他の本も読んでみたいけれど、まだ二冊しか刊行されていないみたい。
-
ん〜んっ、これはまたすごい衝撃を受ける作品
認知症を患う主人公のカケイさん
その「認知症のおばあちゃん」の語りがすごい
暴力、愛情、幸福、絶望、諦念、悔悟…、絡まりあう記憶の中から語られ壮絶な生き様が描かれている
誰にも知られず、消えてゆくはずだったカケイさんの記憶を、そしてかけがえのない人生を知ってもらいたい!