- Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087718645
感想・レビュー・書評
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2021年に「水を縫う」で河合隼雄賞 ー人の心を支えるような物語を作り出した文芸作品ー を受賞した寺地さん。なるほどと思う。
どこにでもありそうな街の どこにでもありそうな製菓会社。そこで生活する人達のお仕事と家庭の悩み。
主人公の女性は、人間関係で勤めていた会社を辞めて、親戚の製菓会社の事務へ転職。経験ない老舗で小規模な会社での働き方と人間関係に納得できない。
お仕事小説の側面はあるけれど、社内の人間関係や性格を幅広く描いて 全体を少しずつ良い方向へ向かわせていく。
数々の和菓子は、どれも美味しそうです。
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「水を縫う」、「川のほとりに立つものは」の著者、寺地はるなさんの最新作ということで、本作を手に取りましたが、すごく温かみのある作品であるとともに、昨今の働き方について考えさせられる作品で面白かったです。
本作のストーリーとしては、主人公がハトコである中小企業の社長からスカウトを受け、製菓会社に就職するところから始まります。その製菓会社は一族経営の影響もあって、今だにサービス残業やパワハラまがいの教育など古い会社体質が残っていた。果たして、主人公はこのあとどうなってしまうのか…というストーリー。
本作を読んで真っ先に頭に浮かんだのは、「働き方改革」ですね。私の勤める会社も割と古い体質で、サービス残業や体育会系的な指導がチラホラ見え隠れするような環境でしたので、すごく感情移入しやすいシチュエーションでした。だからこそ、本作を通して学ぶことが多かったのかなとも思います。
特に印象的だったのは第3章と第4章です。この3章と4章でピックアップされるのは自分と年齢が近いアルバイトさん、もしくは社員さんだったこともあって物語に入り込みやすかったというのもありますが、2人が辛く苦しい経験をした中で、自分の好きなこと、やりたいことを選択する姿にすごく励まされた気がしました。
無理に働き方を変えるというよりも、人に合った働き方を見つけ、時には人と助け合ったりすることが上手く生きていくコツなのかなとも思いました。 -
ブラックほどではない会社でも、当たり前のようにある好ましくない暗黙の了解事項。なくならないパワハラ・セクハラ。おかしいと声を上げても無視されたり報復されたりするダークな空気漂う職場。
それでも声を上げようと決めて臨んだ転職先の小さな製菓会社を舞台に、孤軍奮闘する1人の女性を描くヒューマンドラマ。
◇
小松茉子は、目の前に座る男を見た。
男は名を吉成伸吾といい、茉子のはとこに当たる。現在 27 歳の茉子より5つか 6つ年上だが、幼い頃からよく知る相手だけに、今日から「社長」と呼ぶことに違和感がある。
そんなことを考えつつぼんやりしていると、「話聞いてる?」と伸吾から声がかかった。ハッと我に返った茉子に「会社では小松さんと呼ぶから」と伸吾は言って、社内を案内するため立ち上がった。
茉子は今日から、伸吾が社長を務める吉成製菓という、社員 35 名の小さな会社で働くのである。
事務所内には机が5つあって、事務員用と営業員用が2つずつ、向かい合わせに並んでいる。入口にもっとも近いいわゆる下座が茉子の席だ。そして上座に当たるいちばん奥の入口に向いた机が伸吾の席のようだ。
茉子の向かいがベテラン事務員の亀田の席だと言ったあと伸吾は、「亀田さんはパートさんやから、話題は慎重に選ばなあかんで」と心配そうに付け加えたのだった。
(第1章「春の風」) 全6章。
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作品の魅力は主人公の茉子です。
前の職場での劣悪な人間関係に嫌気が差して退職した茉子は、はとこの伸吾が社長を務める製菓会社「吉成製菓」に就職しました。
茉子がこの会社に勤める気になった理由は2つあります。
1つ目は、伸吾に懇願されたことです。
急な心臓の病で引退した父親に替わり、いきなり社長に就任した伸吾は、ベテラン揃いの社員たちに言いたいことも言えません。折よく事務に1人欠員ができたので、気心の知れた茉子に来てもらうことにしたのでした。
2つ目は、「吉成製菓」に対する思い入れです。
茉子の保育園時代のこと。祖父の葬儀に参列した茉子は、焼かれて出てきたお骨を見て泣き出します。「死」というものを認識したからですが、祖父の死を悲しんでいると勘違いした1人のおじさんが、持っていた小鳥の形をしたお饅頭をくれました。
その美味しさに思わず泣き止んだ茉子にとって、おじさんがつぶやいた「涙はしょっぱい、お菓子は甘い」ということばと、そのとき食べた「こまどりのうた」は特別な存在になったのでした。
でも本作は、若社長の期待と和菓子への熱い想いに支えられて奮闘する若い女性を描いた爽やか系の物語ではありません。
社会や世間に根強く残っている理不尽な慣行や、パワハラ・セクハラ・モラハラ等の人権無視の言動に、いちいち異を唱えては跳ね返されイライラモヤモヤしつつも挫けずに行動する女性の姿を描く物語です。
そして、茉子が鉄の女のような闘士タイプでないところが物語のミソになっています。
小鳥にすぎないこまどりですが、その鳴き声はとても大きく、まるで自分の存在や主張をアピールするかのようです。
茉子の主張や抗議もこまどりのさえずりに似ています。これが設定としておもしろい。
社会に影響を及ぼすだけの力は若い茉子にはありませんが、言わなければ何も始まらない。
そんな茉子のさえずりもなかなか功を奏さず、中盤まではイライラモヤモヤし通しで少し疲れます。
でも、寺地はるなさんらしいカラッとした文章と展開のテンポのよさで気づけば終盤を迎えていました。
勧善懲悪・万事解決とならずに、少しずつ事態が好転していくところが却って心地よい。
前途はまだまだ多難ではあるのですが、それでも現状を改善していこうとする茉子のしぶとさに希望を感じる、とてもいいエンディングでした。 -
あれ?こんな感じだったっけ?
お久しぶりの寺地はるなさんは寺地はるなさん最新刊の『こまどりたちが歌うなら』です
連載時は『こまどり製菓』だったそう
『こまどりたちが歌うなら』のが二万倍くらいいい
で、まず冒頭の感想
あれこんな感じの文体だったっけ?と思ったんよね
そしたら頭の中でひまわりめろんBが「いや、寺地はるなって書いてあるやん!なに君疑ってるの?寺地はるなって書いてあるんやから、寺地はるなの文体なんやろ!」
いや別にそこを疑ってるわけじゃないんだが、ひまわりめろんBと揉めるとあとあと色々面倒なので「えへへ」とやり過ごしてしまった
あと「さん」を付けろ!とも思ったが、それも言わずにおいた
会社でよくある色々面倒なので「えへへ」問題についてのお話であったわけです
まぁ、自分はどうかとまず思うわな
で考えたんだが、どう考えても「えへへ」タイプではない
譲らない人である
そして譲らない根拠がいわゆる正論でなかったりする
つまりまぁ困った人に分類されるかもしれない
いや誰が困った人やねん
「正論」という刀をやたら振り回す人っているやん?まぁ、うちの奥さんがそうなんだが、めんどくさいな〜と思うのみである
良くない、とても良くない
ちゃんと正論に向き合おう
そして寺地はるなさん文体についてであるが、読み終わってみればはちゃめちゃに寺地はるなさんであった
要するに読み進める間にそうそう寺地はるなさんてこんな感じだった!と思い出しただけである
和菓子食べたい-
うちの奥様は一瞬で私を黙らせるオーラを放つことができます…
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルうちの奥様は一瞬で私を黙らせるオーラを放つことができます…
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル2024/04/20 -
2024/04/20
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2024/04/20
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自分に正直に 自分で自分を認めてあげる 他人に期待していても幸せにはならない
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はじめはブラック企業と主人公の行く末を見届けるつもりで読み始めたけれど、さすが寺地はるなさん、人それぞれの価値観や人の心のちいさな声に焦点が当てられていて、気づきの多い作品だった。
もちろんパワハラやブラックな労働環境に対して、主人公のように声をあげていくことについて、その必要性や効果なども描かれていた。
職場で正論を貫くことで、煙たがられたり陰口をたたかれたり。それでもめげない精神が必要で、そうした精神を持ち合わせている人はひと握りだろうなとも思う。
だからこそ、めげない主人公の周りにいる人たちの声が読者に聞こえるようになっている。
忙しくて声を上げるのをやめた人、人から嫌われたくなくて声をあげたくない人、思っていることがあっても言葉にできない人……。
実際、私たちの生活を振り返っても、言わない/言えないタイプの方が多いはず。読んでいて、あぁこの人私みたいだ、と感じる人が必ずいるのではないかと思う。
ちなみに私は茉子のような言えるタイプの人間なので、その価値観や世界観の違いには気をつけないといけないなと思いながら読んだ。
そして、やっぱり食べ物の出てくる作品はいい。
こまどりのうたはどこで買えますかね! -
とても良かったです。
表紙の絵が和菓子だったので、もしかしたら美味しい話?と思いましたが、やはり違いました。
製菓会社が舞台の話でした。
主人公、小松茉子をはじめ登場人物たちは職場環境や人間関係で様々な経験や辛い思い、悔しい思いを過去にしてきた。
だからこそ次は失敗しないように、期待を裏切らないようにと思うのだけれど、なかなか上手く出来ない。
それでも自分を大切にして、「今」出来ることを考えてやっていこう。
と、読み進めるうちにとても力強いエールが送られているように感じました。
残念なことに甘い和菓子の話ではなかったですが、主人公たちが一歩ずつ前に進んでいる様は、やる気と元気をもらいました。 -
図書館に早くから予約しておいたので、早目に借りられた。ありがたい。
私が読む寺地はるな氏作品の13冊目。
この方の作品と自分との相性の良し悪しは、作品毎にとても異なってしまう。
本書では、私は主人公の茉子のことだけ、全く好きになれず。
もちろん就業規則に関する茉子の主張は正しい。
先日読んだノンフィクションの「おっさんず六法」(松沢直樹著)と照らし合わせたって正しい。
しかし、就職2日目の朝にしてかなり失礼な言動が茉子の側にあり、それとこれとは違うんじゃないの?と思った。
同じように物事をハッキリと言うにしても、何故だろう、茉子のことは受け付けられないが、千葉さんには好感が持てる。
表紙カバーの和菓子の絵と色はとっても素敵。 -
いろいろあったけど、たぶんみんな、そんなに変わっていない。交差したり、ぶつかったり、寄り添ったりしながら、ほんのすこしだけそれぞれの背景を知ることになるけれど、考え方が大げさに変わったりはしないところがいい。
それと、寺地さんが描く人びとの、泣きそうになるツボが、わりと独特だけど共感ポイント。 -
地方都市に必ずあるようなお菓子の老舗、登場人物の一人ひとりが、どこかで見たことあるような人ばかり。
正論を声高に言える人、何となく流されていく人、誰か言ってくれないかと依存してる人、そして全く何も言えない人。
会社という組織は、いろんな人間が集まるからこそバランスがとれているのかも。みんなか有能なら問題解決と言うわけではない。
自分の会社の製品を愛している、案外これが一番大切なのかもしれない。
今月は、他にも買うんだけど、ついね。
今月は、他にも買うんだけど、ついね。