メアリ・ヴェントゥーラと第九王国 シルヴィア・プラス短篇集

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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087735192

作品紹介・あらすじ

天才と謳われる早逝の詩人、シルヴィア・プラス。
作者のショッキングな自死から半世紀以上を経た2019年、未発表短篇「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」が新たに発見され、大きな話題となった。
プラスの短篇について「詩にも長篇にもない独自の魅力が、どの短篇にも見つかるのではないかと思う」と評する柴田元幸氏が、強く惹かれた作品を選んで訳した短篇集。

赤いネオンの点滅する停車場で、両親に促されるままに行先の分からない列車に一人乗り込んだ少女の不思議な体験を描く「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」、大きなハリケーンが来た日の病院の騒動を活写する「ブロッサム・ストリートの娘たち」、人々が眠っているときに見る“夢"を集めることに没頭する女性を描く「ジョニー・パニックと夢聖書」など、大人向け短篇7篇と子供に向けて書かれた「これでいいのだスーツ」を収録。

【収録作品】メアリ・ヴェントゥーラと第九王国/ミスター・プレスコットが死んだ日/十五ドルのイーグル/ブロッサム・ストリートの娘たち/これでいいのだスーツ/五十九番目の熊/ジョニー・パニックと夢聖書/みなこの世にない人たち

【著者略歴】
シルヴィア・プラス Sylvia Plath (1932-63)
アメリカの詩人、作家。ボストン生まれ。生前に刊行されたのは詩集『The Colossus(巨像)』(1960)と自伝的小説『ベル・ジャー』(1963 )のみ。死後1965年詩集『エアリアル』、1977年に短篇・エッセイ・日記の抜粋『ジョニー・パニックと夢聖書』、1981年『The Collected Poems(全詩集)』などが出版され、この『全詩集』でピュリッツアー賞を受賞。2019年、執筆から60年以上を経て『メアリ・ヴェントゥーラと第九王国』が刊行された。

【訳者略歴】
柴田元幸(しばた・もとゆき)
1954年東京都生まれ。翻訳家、東京大学名誉教授。著書に『生半可な學者』(講談社エッセイ賞受賞)、『アメリカン・ナルシス』(サントリー学芸賞受賞)など。現代アメリカ文学のみならず、古典も含めて多くの翻訳を発表。トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』の翻訳で日本翻訳文化賞受賞。編集代表を務める文芸誌「MONKEY」および英語文芸誌MONKEY New Writing from Japanでは鮮烈な企画を展開、日米の読者を魅了している。2017年、早稲田大学坪内逍遥大賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 起伏ある人生が心を捉える作家 その筆致はリズミカルだが―― | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/735359

    メアリ・ヴェントゥーラと第九王国 シルヴィア・プラス短篇集/シルヴィア・プラス/柴田 元幸 | 集英社 ― SHUEISHA ―
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-773519-2

  • 『「さあ、急ぐのよ」。ミセス・ヴェントゥーラがメアリの腕を掴み、ギラギラ光る大理石のホールを押していった。父親がスーツケースを持ってついて来た。ほかの人たちも、3と記されたゲートに早足で向かっている。黒い制服を着た、帽子のまびさしで顔が陰になった車掌が人の群れを率い、プラットホームに至る鉄のゲートの凝った黒い格子の中へ導いていった』―『メアリ・ヴェントゥーラと第九王国』

    「夜と霧」の著者ヴィクトール・フランクルに「意味への意思」という著作があったなと、表題作の「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」を読みながら思いが彷徨う。「王国」という言葉の響きが似たような別の言葉を連想させる。黒い制服、顔に影の射す制帽、列車に乗り込む人々、鉄のゲート。それらが連想させるものは明かだろう。とはいえ、それが本書を通底する符牒という訳ではない。この短い文章群の中に綴られているのは、運命論に対する違和感であり、そこから全体主義に抗う声が囁くように聞こえてくるように思えるとしても、それはごく弱いものに過ぎない。ただし、生き抜こうとする意志を示すことへの意味をシルヴィア・プラスが考え続けていただろうことは確かであって、その行為の切実さはこの不思議な物語の中で強く訴えかけられている。だが、訳者柴田元幸が記すように「個人的な体験を語るためにナチズム、ホロコーストのイメージを「借用」することの問題性」は、確かにあるのかも知れない。

    『あたしはさっとロビーの方を見る。ミセス・トモリーリョはいかにも物騒な感じに逞しそうな指を曲げたりのばしたりしてる。松葉杖をついた、ズボンの片方が空っぽで腰のところできれいに畳んだ男がぴょんぴょん跳ねて中に入ってくる。うしろから切断科の看護助手がピンクの義足と人体模型の半分を抱えてついて来る。ささやかな行進を目にしてミセス・トモリーリョが静かになる。両手が脇に垂れて、たっぷりした黒いスカートの中に消える』―『ブロッサム・ストリートの娘たち』

    描かれているのは恐らく社会的問題に対する違和感の表明というような大きな問題ではない。作家の視線が向かうのは自分自身。故にむしろ病院を舞台とした短篇二篇「ブロッサム・ストリートの娘たち」、「ジョニー・パニックと夢聖書」に見られる人間性の狂気の欠片にこそこの作家の本質的な志向が表れているような気がする。この二篇はどこかルシア・ベルリンの語りを連想させる。そしてどこまでも自省する作家の在りようはアンナ・カヴァンを思い起こさせもする。内省の過ぎた行為、自分の内側を凝視し続けた結果起きてしまうゲシュタルト崩壊、あるいは合わせ鏡に映る自身の鏡像の無限退行。これらの短い文章を読んでいると、そんな連想が次々と浮かび、自身の存在の意味を突き詰めて求め過ぎるあまり見失ってしまう人物が浮かび上がってくる。とはいえ、この作家を読むのはこれが初めてで、この作家の本文である詩を読んでいる訳ではないのだけれど。

    それにしても久しぶりに読んだ柴田元幸氏の翻訳は、流れるような日本語でするすると読み進められてしまうことを再確認する。時にそれが滑らか過ぎるような気にならないでもないのだけれど、それはまた別の話。

  • 別訳にて既読の五篇以外では表題作にもっとも惹かれた。
    目に見えない場所や時間に線を引かれ、そこから始まっているわたしたちの人生。サインして、調印して、決定済みでも、自らの意志で未来を選びとろうとするメアリの姿がまぶしかった。いき(す)るとはあらがうこと。過去を脱ぎ捨て、風のように軽くなった少女は誰の手も届かないところまで駆けてゆく。でもきっと神様の眼だけはそこにも届いてる。彼女が向かう先は否定の王国でも、凍りついた心の王国でもない。風の切っ先がひらいていくあかるい季節。生まれたばかりの光の瞼がまたたく春へと。

  • 早逝した詩人の短編集。
    短編小説7篇に加え、子ども向け作品も1篇収録。
    不思議な読み心地。

  • 表題作他「ミスター・プレスコットが死んだ日」「十五ドルのイーグル」「ブロッサム・ストリートの娘たち」「これでいいのだスーツ」「五十九番目の熊」「ジョニー・パニックと夢聖書」「みなこの世にない人たち」収録。「これでいいのだスーツ」は絵本のような優しい物語ですが、他の作品は生と死、夢現、狂気と正常のあわいを漂い、また縫ってゆくような雰囲気があります。とはいえ、文体のせいか、重苦しさや痛々しさはあまり感じられず、あっけらかんとした軽やかな印象です。お気に入りは「メアリー・ヴェントゥーラと第九王国」「ブロッサム・ストリートの娘たち」「これでいいのだスーツ」「ジョニー・パニックと夢聖書」。シルヴィア・プラスは詩人としての方が有名とのことなので、詩集も読んでみたいです。

  • シルヴィア・プラスいいな。
    この繊細さに慰められる。

  • ベルジャーの復刊を待っていたら、短編集が先に出た。病院や死が出てくる話が多いけど、そのなかにも不思議な親しみや温かさがある。ベルジャーはもっと悲痛なイメージだから意外だった。グレーとピンクを基調とした装丁+帯もすてき。

  • 1963年に亡くなったシルヴィア・プラスの短編集
    きっとこのシルヴィア・プラスのことは吉野朔実の漫画で知ったのではないかと思うけど、華々しい女子大生と精神的な葛藤、結婚とイギリス移住、そして別居、自殺… その人生が劇的で作品よりそっちの話の方が英語圏では有名だと…

    この表題作は大学の授業で書いた作品が60年後に発見されアメリカで2019年に出版され話題になり、日本でも2022年に出版

    話によってはちょっと精神的に…なころの話かと思えるものもありますが、児童文学も混ざっていてそれは可愛い話だし、他の話も短いけれど濃密で、いろんな話が混ざっていて充実した読書時間でした。

  • 名前だけはよく聞いていたが、実際手に取ることはなく、今回読んでみました。女子(可愛い子限定)の13歳位の、ちょうーど子供にも大人にもどっちにも染まってない貴重な時期って存在するような気がするのですが、その神聖性をたずさえた人だなー、と感じましたが、若くして自殺するような人だったのですねー。文章の雰囲気からして「リア充」っぽくて、むしろリア充ゆえ、衝動的なショックの処理がわからなかったのでししょうかね?隠キャは自分を守ることには結構熟知していて、自殺なんかしませんとも。

  • 表題作は銀河鉄道の夜的な。
    病院のスタッフたちの人間関係を描いた数編を含む。

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著者プロフィール

1932年、アメリカ生まれ。スミス女子大学を卒業後、ケンブリッジ大学に留学。1960年、詩集The Colossus を発表し詩人としての揺るぎない地位を獲得するが、1963年、30歳で自死。

「2022年 『ベル・ジャー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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