- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087742626
感想・レビュー・書評
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一九八七(昭和62)年4月1日、日本国有鉄道は、分割民営化され北海道旅客鉃道㈱(JR北海道)となった。
北海道だけが、鉄道とは書かない。「鉄道」が「鉃道」なのです。何とも奇妙な名前です。
終着駅・幌舞は、日に三本しか走りません。
明治以来北海道でも有数の炭鉱の町として栄えた。全長二十一・六キロの沿線に六つの駅を持ち、本線に乗り入れるデゴイチが石炭を満載してひっきりなしに往還したものだった。それが今では、朝晩に高校生専用の単行気動車が往復するだけで途中駅はすべて無人になった。
物語は、主人公の佐藤乙松が今年で定年を迎え、過去の回想シーンの投影と現在の出来事が描かれているのです。家族はいない、いや、いなくなった。女房静枝が死んだとき、美寄の病院の霊安室でじっと俯いていた。仙次(乙松の一年後輩)の妻は、乙松は薄情者だという。危篤の報せは何回もしたのに最終の上りでやってきたのだった。結局最期を看取ってしまったのは仙次の妻だ。
(乙さんなして泣かんのね!)
(俺ァ、ポッポヤだから、身内のことで泣くわけいかんしょ)
乙松には子がいなかった。
幌舞駅の事務室の奥、六畳二間に台所のついたところが乙松の住まいだった。小さな仏壇には父親の写真とずいぶん若い時分の女房の写真が並んでいる。「乙さんの子、写真はないのかい」「ああふた月で死んじまったでなあ」「俺ァ、ユッコ(雪子)の齢をいまだ算えてるんだわ、生きてりゃ十七だべさ」
医者さえいないこの村に生まれて、すきま風の吹く事務室つづきの部屋に寝かせていたからだ。仕事が子どもを殺してしまったのだと思うと、乙松はやり切れない気持ちになった。十七年前の吹雪の朝に、女房の腕に抱かれたユッコをあのホームから送り出した。
そしてその晩の気動車で、ユッコは同じ毛布にくるまれ、ひゃっこくなって帰ってきたのだった。(あんた、死んだ子どもまで旗振って迎えるんかい)中略(ユッコが雪みたいにひゃっこくなって帰ってきたんだべさ)
妻が乙松に向かって声を荒げたのは、後にも先にもその一度きりだった。
ポッポヤはどんなときだって涙のかわりに笛を吹き、げんこのかわりに旗を振り、大声でわめくかわりに、喚呼の裏声をしぼらなければならないのだ。ポッポヤの苦労とはそういうものだった。
仙次は淋しい正月をともに過ごすため、酒とおせち料理を持ってやってきた。昔話に花が咲いた。仙次と乙松は、厳しい時代を生き抜いた戦友である。しこたま酒をかっ食らった仙次は寝てしまった。
その夜、不思議な出来事が起こったのだ。乙松は、おもわず天井を見上げたまま涙を流した。娘が亡くなった時も泣かなかった乙松が泣いた。
そのわけは何だったのか?
「出発、進行ォー」声をしぼって、仙次は喚呼した。
お薦め作品です。
読書は楽しい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
8作品全部良かったなー。「ぽっぽや」も良かったけど「うらぼんえ」も泣けた。そこでおじいちゃんが登場!ってビックリだったけど孫を想う人情のあるおじいちゃんだったな。
でも「ラブ・レター」が読後に一番心に残ったかな。留置場から釈放された吾郎は妻が亡くなったと聞かさせるが、実は偽装結婚であったため顔も知らない相手だった。しかし亡くなった妻、白蘭と言う女性からの手紙を吾郎が読み心が揺れ動いていく。
浅田次郎さんはまだ2作目だけど、登場人物がみんな粋だねぇ。読んでて気分がいい。 -
知ってはいたが、何となく読みたくなくて、手に取らずにいた作品。
期待値が高すぎたからか、それほどでもなかった。 -
浅田次郎といえば、鉄道員、と言える作品ということで手にとってみた。短編集ということで個人的にあまり乗り切れないのであるけど、そこは著者の作家としての実力が伺える。鉄道員の他におもしろい作品も入っており、読み応えは十分。ただ短編集はどうしても好きになれない。乗ってきたところで終わりを迎える悲しさ。時間がない人にはオススメなのかもしれない。
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浅田次郎さんの作品は、雑誌に掲載されたエッセイを読んだことはありましたが、小説を読むのはこれが初めてでした。
映画がヒットした「鉄道員」が短編小説であることも、読むまで知りませんでした。
8つの短編が収録されていますが、職人芸のような名短編ばかりでした。
話の落ちのつけ方が抜群に上手いことに、とても驚かされました。
個人的には「ラブ・レター」、「角筈にて」、「うらぼんえ」、「オリヲン座からの招待状」が特に良かったです。
第117回直木賞受賞作。 -
意外と泣けない
あまり共感が生まれないかも
まだ若いから? -
直木賞受賞作品。8つの短篇はどれも切なく、人の優しさを感じさせる作品でした。映画化もされた表題作よりも「ラブ・レター」「角筈にて」「オリヲン座からの招待状」が非常に良かった。浅田さん初読ですが他の作品も読んでみよう。
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平成の直木賞受賞作品のひとつとして読みました。
映画の原作でもあり、長編小説だと思って読み始めたので、短編集だったことに少し驚かされました。
家族(親子や夫婦)間の「愛」の形をテーマとした作品集だと思います。
作品としては、表題作の「鉄道員」のほかに、「ラブ・レター」、「角筈にて」「うらぼんえ」あたりの作品が読後感のよい心温まるストーリーでした。
「悪魔」「伽羅」といった、後味が悪めの作品も、不思議な世界観があって印象的ではありましたが、好みがわかれるかもしれません。
全体として、ストーリー展開に奇をてらった部分はなく、大きなどんでん返しなどで読ませる作品ではありませんが、「人のもつ優しさ」や「家族への愛」を鮮やかに描き出した作品だと感じました。 -
本著に収録されている「ラブ・レター」を父に勧められて読み始めた短編集だけど、特に気に入ったのは「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリオン座からの招待状」だった。
全体的に手触りの優しい話が多く、最後まで読んだ後にほんわりとできた。それだけに後味の悪い、もしくは結末を迎えた後に不安を覚えるような作品の微妙な匙加減には唸ったし、程よく印象にも残った…そういう話が好きか嫌いかは別として。
浅田次郎さんの少し不思議な奇跡の話はとても温かいし、主人公や脇役は基本的に気持ちの良い人が多い。それが魅力でもありますよね。